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16 快適ライフ


「冒険者ケンタ、お前を襲撃容疑で拘束する」


 それは白く染められた革鎧を身にまとったルーフだった。


「な……りきりぱねぇ……」


 ルーフが何か言っていたようだったが、ボロボロの俺にはよく聞こえなかった。


 俺は意識が朦朧として力が入らず、杖代わりにしていたレイピアが手から離れてしまい、バランスを失って倒れた。


 ……意識はそこで途絶えた。





 ルーフは倒れたケンタを見下ろした後、辺りを見回してうずくまるイーラを発見する。


 危険な状態と判断したルーフは素早くイーラに駆け寄り、回復魔法をかけた。


「ヒール」


 ルーフが傷口に手をかざして呪文を唱えると白い光に包まれて傷口が次々と塞がっていく。



 回復魔法がかけられたことでイーラは意識を取り戻す。


 イーラはふらつきながらも立ち上がり、ルーフに向かい合う。



 そして完全に傷が治るとイーラの口は軽快に動き出した。


「あらあら、この場で殺してもいいのですよ? 相変わらず甘いですね」


 イーラはケンタの方を見ながら挑発的な言葉を吐く。


「私はお前とは違う」


 ルーフは不快感を露わにした表情を隠さない。



「拠点を襲った大罪人ですよ? 私でなくても殺します」


「どうせ貴様のことだ、罠にはめてここへ来るように仕立て上げたんだろう? お前の汚いやり口は散々見てきて知っている」


 苦虫を噛み潰したような顔でルーフはイーラを睨みつける。



「あらあら、それは失礼な物言いですね。私はいつも効率的に最善の結果を出しているというのに」


「なら次はもっと上手くやるんだな」


 ルーフは吐き捨てるように言った。



「あらあら、手厳しいですね」


 イーラは手をヒラヒラさせながら意に介さない様子。



「今回のギャングの一件、私ではなくお前に指名が入っていた時点で大事になるのは分かっていた」


 自分ではなくイーラに指示が出た時点で手段を選ばず結果を出せということなのはルーフも重々承知していた。


 実際ギャングの案件は武器と麻薬の流通が加速度的に増えていたため、迅速な処置が必要だった。ここ最近は多少落ち着いたように見えていたが、それでも早急な解決を求められていたものには違いない。だがルーフはそれにケンタが巻き込まれるとは思ってもみなかった。


「大事? 円満解決の間違いですよね?」


「お前は汚いやり口だが即座に結果を出す。だが今回は失敗のようだな」



「いえ? マフィアは全滅一歩手前、武器と麻薬の流通はほぼ停止。多少の犠牲は出ましたが素晴らしい結果です。最もどこの誰だか知らない人たちが支部を潰してまわったお陰ですけどね」


「お前の差し金じゃないのか?」


 支部を潰しまわっている人物達もイーラの罠にはめられたのだと思っていただけに軽い驚きを覚えるルーフ。


「残念ですが違いますね。むしろ教えて欲しいくらいですよ。是非部下に欲しい」


 当のイーラは支部を潰しまわった人物達を戦力として迎え入れたいようだった。


「準備整いましたっ!」


 二人の会話を遮るようにしてルーフの部下が報告に訪れる。


「そいつを連れて行け」


 ルーフは背を向けたままケンタの護送を指示する。


「はっ」


 それに従いケンタを担いで連れて行く部下達。


「何なら私が殺してあげましょうか?」


 イーラは淡々をした口調でそう告げる。



「しゃべられるとまずいことでもあるのか?」


 ルーフは一睨み効かせてその言葉を遮ろうとする。


「あらあら、余程お気に入りのようですね。ですがここで殺さなくても王都で公開処刑になるのが落ちですよ?」


「……帰還する」


 ルーフはイーラに背を向けると出入り口へと向かった。





「ん?」


 俺が目を覚ましたのは牢の中だった。


 石の床の上に転がされていたらしく、寝心地が悪くて目が覚めたようだ。



 牢の中は簡単なベッドとトイレがあり、そこそこの広さがあった。


 独房らしく他に人はいない。


 明かりは鉄格子のはめられた小さな窓から差し込む光だけで薄暗い。



 換気もまともにされていないのか、妙な湿気を感じる。


 漂う空気にもかび臭さがを感じ、鼻がムズムズする。


「いってぇ」


 体に痛みを感じて目を落とすと、イーラに斬られた傷が軽く開いたようだった。


 傷を確認してみるも最低限の治療がしてあるだけのようで、体の節々が痛む。


 どうやら回復魔法はかけてもらえなかったようだ。



 通路側を見てみると壁が全て鉄格子になっていて外から部屋の中は丸見えの状態だ。


 丁度向かいにも牢があり、囚人が一人いるのがわかる。



 向かいの囚人は寝ているのかピクリとも動かない。


 死体じゃないよね?



 鉄格子に近寄って辺りを見回して見るも監視がいる気配はない。


 俺が言うのも何だが無用心だ。



 鉄格子に顔をピッタリとつける勢いで通路の奥を見てみると厳重に施錠された分厚い扉が見える。あれを抜けることが不可能と判断して扉の入り口の方にだけ監視がいて中にはいないのかもしれない。


 この感じだと騒がしくしなければ人が来ることはなさそうだ。


 俺は周囲を確認し終えると改めて自分の服装を見てみる。



 服装は白と紺の太めのボーダーの上下になっていた。


 いわゆる囚人服ってやつだ。


 どうやら寝ている間に強制的に着せられたらしい。



「おおっ! それっぽいな」


 なんかコスプレみたいでちょっと感動する。


 人生初のコスプレがリアル囚人服。


 これはちょっとやそっとでは誰にも真似出来ないレベルだろう。


 まあ、本物の囚人なので、これがコスプレかといわれるとかなり疑わしいが……。


「いてて……」


 調子に乗って服を見ていると傷が痛み出す。



(とりあえずは傷の治療だな)


 俺は服を脱ぐとアイテムボックスからすり潰した薬草と清潔な布を取り出し、体に巻いていく。もう何度もやった作業なので手馴れたものだ。


「こんなもんかね」


 俺は薬草を塗り終えると横になった。



 こういうときはじっとしているのが一番だ。


 投獄状態ではあるが、休めるだけでも素晴らしいことだ。



 元の世界なら病気だろうがなんだろうが意識を失うまで出社しないといけない雰囲気だった。何なのあれ?


 インフルやノロでもそれを口外せずに出勤しないといけない二次感染を助長する空気って恐ろしいわ。


 俺は体を休めようとかび臭いベッドに寝そべる。


 さっきまで寝ていたせいか眠ることもできずに手持ち無沙汰になってしまう。やることがなくなった俺は何となくステータスをチェックしてみる。


 ケンタ LV15 ニンジャ


 力 80

 魔力 0

 体力 30

 すばやさ 91


 LV1 【手裏剣術】

 LV2 【火遁の術】

 LV3 【水遁の術】

 LV4 【鍵開け】

 LV5 【変装】 (一度会ったことがある人物に変身できる。服ごと変身するか選択可能)



「上がってたか〜」


 ここしばらくバタバタして確認していなかったが、何かのタイミングでスキルレベルが上がっていたらしい。ギャングの本部に行ったときだろうか。



 LV5は【変装】というらしい。


 だがスキルの説明を見る限り変身だ。


 傷は痛むが好奇心が勝ってしまい、誘惑に負けて早速使ってみることにする。



(ん〜、誰がいいかな)



 折角だし何か面白いのに変身してみたい。


(そうだ、ウーミンの女性僧侶になってみるか)


 あの女性僧侶はすっごいナイスバディだったのでよく覚えている。


(よし、いくぞ〜)


 俺はベッドから起き上がると女性僧侶の姿を思い描きながら【変装】を使用してみた。


 使用するとメニューを開いたときのように視界に文字が出現し、服ごと変身するか聞いてくるので“はい”を選択する。



 するとボフンを軽い音と共に煙が発生して全身を覆う。


 しばらくして煙が晴れると女性僧侶の姿になっていた。


 服も縞々囚人服からピッチリムチムチナース服にかわっている。


「こ、これは……」


 確かに変身できている。できてはいるが……。


(もどかしいな!)


 どうにも自分が想像していたのと微妙に違う。


 自分の視点からナイスバディを見ても全て超至近距離から俯瞰で見るようなもので顔も見えない。もっと興奮するかと思ったが意外と微妙だった。


 そのまましばらくしていると全身を煙と稲妻が包みこむ。


「うおっ!」


 不意の出来事に軽く焦るがあっという間に煙は晴れ、変身が解けて元の姿に戻った。



 この感じだと変身していられる時間はざっと十五分ほどだろうか。


 後でわかったがクールタイムは丸一日必要だった。


 ということは変身できるのは一日一回だ。



 かなり面白いスキルだが変身していられる時間も短いので使いどころが難しそうである。



 スキルの確認を終えて再びベッドに横になり、アイテムボックスからリンゴを取り出してかじる。


(これからどうするかな)


 全てを終えて空虚な気持ちが心を満たす。


 一生牢屋暮らしは御免なのでここから脱出するのは確定として、その後はどうしたものか。



 やはり国外に逃げるしかないだろう。


 この国での生活にも慣れてきたところだっただけに残念ではある。



「傷が治るまではここでゆっくりしていくか」


 そんな事を呟きながらリンゴを咀嚼する。


 シャリシャリと小気味いい音が気持ちいい。


 焦って負傷したままウロウロしても危険なだけなので傷がある程度回復するまではここに留まることにする。



 だが今の俺は一体どういう扱いなのだろうか。


 やはり懲役刑なのか、それともどこかの鉱山とかに送られるのだろうか。


 大穴で死刑ってこともありえる。



 その内誰かが話してくれるだろうが刑が軽いことを祈るばかりだ。


 まあ脱獄する気満々ではあるが。


 そんなことを考えながらもう一口リンゴをかじる。



「う〜ん」


 シャリシャリと音を立てつつリンゴをかじりながら、いつまでここにいるかを考え込んでいると向かいの牢から物音がした。


「おい」


 声のする方を見ると向かいの牢にいた男が起き上がってこちらを見ていた。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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