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15 激戦


 その部屋の中央に目的の人物が一人で立っていた。



「あらあら、本当にここまで来られるとは驚きです」


 特段驚いているようには見えないし、口調も淡々としたままでイーラは立っている。



 イーラは以前見かけた旅人のような服装から一変し、白を基調とした礼装のような装備に身を包んでいた。


 白く染められ細部に繊細な意匠の装飾がある革鎧、片手にはホームベースを歪曲させたような金属の盾を持っている。腰に差したレイピアも柄の部分には羽の装飾が施されており無駄に高級そうだ。


「本当に偉そうな格好しているな」


 上から下までを見た感想を率直に言うと同時に辺りの気配を探るがイーラ以外に人はいないようだった。


 見晴らしの良いホールなので罠があるとも思えない。


「私はこう見えて偉いんですよ? そう言うあなたは汚れたドブネズミのようですね」


 こちらに全く興味がないといった表情をしながらイーラは俺への辛口ファンションチェックを終える。



「悪いな、俺のいい男っぷりはいい女にしか分からないんだ」


「おかしなことを言いますね。私ほど素晴らしい女性も珍しいのに」



「珍しいのは確かだな。珍獣的な愛くるしさはあるぞ」


「どうやらその口は少し動きすぎるようですね。顎から切除してあげましょうか」


 イーラは笑顔で柄が羽のようになっているレイピアを抜いて構える。



「お前に会わせたい人たちがいるんだ。ちょっと遠出になるから俺が準備を手伝ってやるよ」


 俺もナイフと片手剣を抜いて構える。


 お互い構えたのが開始の合図となり共に床を蹴る。



「オラアッ!」


 俺は先手必勝とばかりに剣を振り下ろす。


「あらあら」


 しかし、剣で斬りかかるも舞うような動作のレイピアに絡めとられてしまう。


「フッ」


 だがそこで素早く【短刀術】に切り替えてさらに接近して斬りかかる。



「フンッ」


 しかしそれも盾で防がれてしまう。


「オラッ」


 それでも止まらずに腹部へ蹴りを入れる。


 蹴りはしっかりと命中し、イーラをくの字に折り曲げふらつかせる。


 俺はその隙を逃さず【剣術】に切り替え、レイピアを持っている腕目掛けて連撃を放った。


「クッ……」


 イーラはふらつきながらもそれをレイピアで凌ぐ。


 俺は片手剣に注意が向いたところで【短刀術】に切り替えて相手の懐に滑り込むようにして革鎧の隙間を斬りつけた。


「グッ」


 イーラはうめき声と共に盾を使って俺との距離を切り離す。


(これならいける)


 一連の立ち合いから相手の力量は俺より劣ると判断できる展開だった。


 その豪華な装備から相当強いと思っていただけに見掛け倒しといってもいい。


 油断は禁物だが、このまま攻撃を重ねていけば追い詰められるのはイーラだろう。



「あらあら、やりますねぇ」


 だがイーラの声と表情からは余裕を感じられる。


 俺はその表情が気になり、伏兵が潜伏している可能性を考えて改めて周囲を探ってみる。しかし、やはりここには俺とイーラの二人しかいないようだった。


「フフッ、心配しなくてもここには私一人しかいませんよ。何故か私は部下から余り人望がなくてこういうときはいつも一人なんですよ」


 自分から話すには余りにも悲しいことを言い出すイーラ。


「何故かも何も当然のことだろ?」


 でもそれも当然だと思う俺。



「あらあら、手厳しいですね。ですがそれもあってこういう状況はよく経験しているのですよ。だから、あなたには勝ち目はありません」


「その諦めない精神は評価できるが俺だってお前に負けてやる義理はない」


「それは私も同じです。ヒール!」


 イーラの言葉と共に今俺が傷つけた腹部が白い光に包まれ傷がみるみるうちに塞がってしまう。


「余裕の理由はそれか」


「そういうことです。あなたの攻撃は無駄に終わります」


 傷を治したイーラがこちらへ迫ってくる。


 俺もそれを迎え撃とうと剣を繰り出す。剣はレイピアと激しく打ち合い拮抗した状況を作り出す。そこで素早く【短刀術】に切り替えてナイフでの攻撃を行う。


 イーラはそれに反応が遅れ、慌てて盾で防ぎにかかる。



 俺はそれを見越してまた腹部に蹴りを入れる。


 ナイフで上段を意識させたため蹴りは腹部に突き刺さり、イーラを後退させる。


 俺はそのタイミングで【剣術】に切り替え、革鎧の隙間を狙って同じように腹部を切りつけた。


「グッ」


 かなりの深手になったのかイーラの声にも重みが増す。


 俺はそこで攻撃を止めずに【短刀術】に切り替えて防具をつけていない部分を狙ってさらに連撃を畳み掛ける。


「オラァッ」


 腕、腿、腰を斬りつけることに成功するも、そこでイーラの盾が間に入り込んで一旦仕切りなおしとなる。


「ヒール!」


 俺が呼吸を整えて構えなおすタイミングにあわせてイーラが盾で自分を庇いながら傷を治す。



「おいおい……」


 俺が呼吸を整え終わる頃にはイーラの傷は全快していた。


「さあ、続きをやりましょうか……」


 傷を治したイーラがニヤリと口角を上げてジリジリと歩を進めてくる。


 …………


 そこからの攻防はイタチごっことなった。


 俺が一撃を加えるとイーラは距離を離して回復魔法を唱える。


 勢いに乗った俺の攻勢が強まるにつれてイーラの動きは消極的なものになっていたが、致命傷になるような一撃は盾とレイピアを使って上手く凌がれてしまう。


 俺は攻撃の手を休めることなくイーラを斬り続けたが疲労が溜まるにつれて焦りが出てきた。


「あらあら、どうしました? はじめの勢いがなくなってきましたよ?」


「……お前がしぶと過ぎるんだよ。大体何で誰も来ないんだ、お前嫌われすぎだろ」


「フフッ、心外ですがよく言われます。さて、そろそろ終わりにしたい気分ですねッ!」


 イーラは言葉と同時にレイピアを突き出してくる。


(気分じゃなくて魔力が尽きたんだろうが)


 長時間粘られたがイーラは次第に回復魔法を使う間隔が開いていき、今は全く使っていない状態だ。


 切り札として温存している可能性もあるがそれも精々一〜二回が限度だろう。


 俺は突き出されるレイピアをナイフで凌ぐ。



「あらあら、お疲れでしたら私が楽にしてあげましょうか?」


「残念だったな、実働三百に比べたらこの程度何でもないぜ!」


「それは失礼」


 そう言いながらもイーラは素早くレイピアを突き出し続けてくる。



 途中から動きが消極的になっていたのは俺の攻めを凌ぎきれなかったのではなく、自身のスタミナを温存していたのだろう。その事を裏付けるほどイーラの突きは未だ素早くて正確だ。



 逆にこちらは短期に決着をつけようとラッシュを続けていた。


 ここにきてその体力の消耗差がはっきりと出てきている。


(クソッ)


 俺の動きに陰りが見えたのをイーラは見逃さず、レイピアが腹部を掠める。


「クッ」


 疲労と痛みでさらに動きが鈍ってしまう。



「ここまでのようですね」


 そこへイーラの連続突きが襲い掛かってきた。


 俺はなんとか両手に持ったナイフと片手剣を動かして連続突きをそらすが、次第に捌ききれなくなり、腕と腹部に深手を負ってしまう。


「グアッ」


 止めとばかりに腹部に刺されたレイピアに思わず声が漏れる。



 更にそこから盾での殴り付けを胸に貰ってしまい、地面を転がるようにして倒れてしまう。イーラはその隙を逃さず止めを刺そうと詰め寄ってくる。


 俺は転がりながら足首に忍ばせておいた鉄杭をナイフを握ったまま一本引き抜く。


 体勢が乱れたまま、抜き取った鉄杭をイーラ目掛けて【手裏剣術】を使って投げつけた。


「小癪なマネをしますね」


 鉄杭はあっさりレイピアに弾かれる。



 だが俺はその隙を利用して急いで立ち上がると武器を構えなおす。



「あらあら、もう立ち上がらなくてもいいんですよ?」


 イーラの鋭い突きが迫る。



「それは俺が決めることだッ!」


 俺はそれに合わせてナイフでレイピアを弾く。



 そこから【剣術】に切り替えて片手剣をイーラ目掛けて突き出した。


 が、イーラはそれをバックステップでかわし、俺の腕が伸びきったのを確認して盾で殴りかかってきた。


「グッ」


 盾はまたも俺の胸に打ち付けられる。俺はその衝撃により数歩後退してしまう。



「次で終わりです」


 イーラは勝利を確信したのか俺が怯んだところで畳み掛けずに一呼吸入れる。


 そしてレイピアをしっかりと構えなおし、じっくりと力を溜めて連続突きの体勢をとった。


(……盾かレイピアを何とかしないと負ける)


 俺はイーラに対抗するように片手剣に意識を集中し【決死斬り】を発動させようとする。


「あらあら、そのスキルなら私も使えますから知っていますよ。この状況で使うものでもないでしょうに」


「……うるせぇ」


「溜めきる前に終わりにしますよ」


 万全の構えでイーラは俺に突撃してくる。


「フッ」


 短く吐かれた息と共にイーラの苛烈な連続突きが迫る。


 俺はナイフでそれを凌ぐ。だが力と速度のこもった万全の突きを全て凌ぐことはできず脚や腕に細かい切り傷が増えていく。


 それでも起死回生の一撃を入れようと【決死斬り】を溜め続ける。



(よし、いける!)


 何とか【決死斬り】が発動可能になったのを確認し、イーラの突きにあわせてナイフで【剣戟】を使ってレイピアを弾く。



「オラァッ!」


 そこへ片手剣に切り替えた【決死斬り】を放った。


「あらあら」


 だがイーラはその動きを見ると、数瞬前と同じようにバックステップでそれをかわそうとする。



「逃がすか!」


 俺は【決死斬り】を発動しつつも思い切り大股で一歩踏み出してイーラの足を踏みつけた。


「クッ」


 踏みつけられたイーラはバックステップできず、ふらついてしまう。


「食らえぇッ!」


 俺はそこへ【決死斬り】を叩き込んだ。


 イーラは動きを制限されて動揺していたが盾を出して俺の斬りつけを防ごうとする。



 剣が盾に接触する。


 凄まじい力で打ちつけた俺の攻撃により、イーラの盾は下半分がスッパリと切れた。


 が、ここでスキルによる大きな隙が発生してしまう。



 イーラの方もレイピアは【剣戟】で弾いたため、まだ攻撃態勢に戻るまでに時間がある。


 俺の【決死斬り】の隙が終わるのとイーラがレイピアを構えなおすのはほぼ同時だった。


(突きが来る!)


 眼前には突きを放とうとするイーラが見える。


「ここまでです!」


 イーラの突きが迫る。



 俺は【決死斬り】を放った姿勢のまま【縮地】で距離を離そうとする。


【縮地】の発動までの隙をついてレイピアが腹部を何度か掠める。


「クッ」


 腹に傷を増やしながら【縮地】が発動し、盾を持っている腕の方へ移動すると【剣術】から【短刀術】に切り替えてナイフで連撃を放つ。


「オラァッ」


「見えていますよ!」


 しかし、俺の連撃はレイピアの蛇のような動きによって絡めとられ、ナイフを手から弾き飛ばされてしまう。


「フフッ、後がありませんよ!」


 そこからさらに連続突きが迫るのをなんとか手甲で防ぎつつ剣で弾けるように体を動かす。


(クソッ、ドスを抜く暇がない!)


 レイピアでの連続突きは苛烈を極め、腰のドスに手が届かない。



 ただ、速度を重視したためか一撃の威力はかなり低い。


 タイミングを見て剣での防御に成功し、互いに突きの応酬へと変化していく。



「騎士スキルである【突剣術】の突きに、戦士スキルの【剣術】での突きで適うわけないでしょう?」


 イーラの言葉が届いた次の瞬間、片手剣がレイピアに絡め取られて弾き飛ばされる。


(やばいっ!)


「終わりです!」


 終焉を告げる言葉と同時に俺の喉を狙って鋭い突きが繰り出される。



「うおおおおおおおおおおお!」


 俺は【白刃取り】を発動させ、レイピアを合掌した手の間に挟みこむ。


「なッ!?」


 驚くイーラを尻目に挟んだレイピアを両手で引き寄せる。


「オラァッ」


 イーラが姿勢を崩して前のめりになったところに迷わず頭突きを見舞う。


「あぁッ」


 頭突きはイーラの鼻を砕き、鼻腔から血が溢れ出る。


 俺はレイピアを手放すとスキルも発動せずに腰のドスをがむしゃらに抜いて体当たりをするようにしてイーラの腹に刺し込んだ。


「ガハッ!!」


 ドスが深々と突き刺さり、衝撃でレイピアを落とすイーラ。


 俺は夢中でそのまま体重をかけてドスを押し込んでいく。


 はじめは踏ん張っていたイーラだったがとうとう力尽きたのか、俺にもたれかかってくる状態になった。


「ハァハァ……、回復した方がいいんじゃないか?」


 両手を力なく落としたイーラに尋ねる。



「や……れるなら、やっ……ていますよ」


 声も絶え絶えにそう告げるイーラ。


 どうやら魔法はもう使えないようだ。



「いつか……飯を奢るって約束したよな?」


 いつかの約束を思い出す。


「確か……、高級料理のはず……でしたが? こんな安物でお腹を一杯にさ……れても困りますね」


「ちゃんと味わってみろよ。こう見えて……二百万するらしいぞ」


「あ……らあら、私はこう見えて……美食家なんです。もう少し……胃に優しい味付けが良かったですね」


「そいつは残念だったな」


 俺はそう言いながらドアノブを捻るようにドスをグルリと回して押し込み、抉る。


「グッ」


 たまらず声を漏らすイーラを気にせずドスを引き抜くと俺は顔を耳元に近づける。


「ゴミはゴミに処理させるのがお前流なんだろ?」


「あらあ……ら、それではまるであなたが……ゴミのようじゃないですか」


「お偉い騎士団に楯突くくらいにはゴミさ」



 イーラを突き放して倒すとふらつくように離れた。



 力なくうずくまるイーラを見下ろす。


 もう立ち上がってくることもないだろう。息絶えるのも時間の問題だ。


 俺はよろめきながらもイーラに背を向けて歩き出す。


「ハァハァ……」


 だが俺も傷を負い過ぎた。


「グッ」


 全身の傷が痛み、意識が朦朧としている。


 痛みのせいか手に力が入らず思わずドスを落としそうになってしまう。


 俺は慌ててドスをアイテムボックスにしまった。



 弾かれた片手剣とナイフは拾いに行くのもおっくうなのでそのままにしておく。


 代わりに近くにあったイーラが落としたレイピアを拾って杖にする。



 レイピアを床に突き刺しながら一歩一歩のろのろと進む。


(いくらなんでもそろそろ他の奴らがここに来るはず……)


 今回は全滅させたわけではないので、このままでは包囲されて詰みだ。


 さっさとここを出た方がいいだろう。


 そんな事を考えながらレイピアを杖代わりにして一歩一歩出入り口のある扉へ向かう。


(帰るか……)


 扉の前に立ち、差し込んでいた剣を抜いて取っ手に手を触れようとした次の瞬間、反対側から鍵が外され扉が開かれた。


 開かれた扉から逆光に照らされた一人の人物がホールへと入ってくる。


 光で反射して見づらかったがそれは見知った顔だった。


「……よお、久し……ぶりだな。仮装パーティーの……帰りか?」


 俺は見知った顔に気さくに話しかける。



「冒険者ケンタ、お前を襲撃容疑で拘束する」




 それは白く染められた革鎧を身にまとったルーフだった。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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