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13 別れ


 俺がそんな作業を続けていると、勢いよく扉が開かれた。


「ケンちゃん……」


 扉を開けて入ってきたのはよっしーだった。



 よっしーは部屋全体を一望して現状を把握したようだ。


 全てを理解したよっしーは部屋の有様を見て固まっている。



「おう、よっしーか。ゴリラの姉さんは元気か?」


 俺は軽く声をかける。


 四階で内部を調べたとき、幹部が一人減っていると聞いたが部屋には全て人がいた。


 多分ハーゲンの部屋にはよっしー達がいたのだろう。



「姉さんは見つからなかったよ……。ボスまでやっちまうとか何考えてんだよ……」


 眼前の光景に呆然として声が途切れがちになるよっしー。



「悪い。久しぶりに会えたけど、ちょっと野暮用ができて、すぐ行かなきゃならないんだ」


「用ってなんだよ! 幹部を片っ端から殺して他に何の用があるんだ!」


 よっしーは張り裂けるような声で叫び、槍を構えた。


「ちょっと会いたい奴がもう一人増えたんだ。すぐにでもそいつに会いに行かなきゃならなくなってな」



 俺はそいつに会って聞かなければならないことがある。


 ここにはもう用もないし、さっさと移動したいところだ。


「もう俺らの組織の誰もやらせねぇ!」


 よっしーは会いたい奴がギャングの誰かだと勘違いして激高する。



「あ〜、違うから。でももうボスもいないわけだし、俺を殺す必要ないんじゃね?」


 できれば戦いたくなかったので無意味じゃないかと聞いてみる。


「筋ってもんがあるだろうが! ここで見逃すわけにはいかないんだよ!」


「別にそんなもん通す必要ないだろ」


「ここでケンちゃんを逃したのがバレれて一生追われるのと、ここでケンちゃん殺すのだったらどっちが楽か分かるだろ?」


 ジリジリと近寄ってくるよっしー。



「そりゃ逃げる方だろ? 俺は強いぜ、よっしー」


 俺はアイテムボックスから死体を出すのを終え、武器を構える。


「ケンちゃんこそ一人でなんとかなると思ってるのか?」


 槍を構えたよっしーの表情に油断はない。



「どうした、よっしー!」


「誰かいたのか!? ボスは?」


 俺達が睨みあっているともっすんとゴマダレが駆けつけてきた。



「ダメだった。……やったのはケンちゃんだ」


 よっしーは俺と向き合い、二人に背を向けたまま状況を話す。



「ウソだろ?」


「ここに来るまでにロバートさん達もやられていたけどまさか……」


 二人は信じられないといった表情で俺を見ている。


「まあ、こっちにも色々あったわけよ」


 俺は構えを解かずにもっすん達の方を見る。


「お前ら! ケンちゃんを殺るぞ!」


 そんな二人に喝を入れつつ指示を出すよっしー。


「「おう!」」


 二人はその声を合図に武器を構えた。


「そこはウェーイだろ」


 そう言いながら三人へ一気に駆け寄る。



 まだ態勢が整っていない三人の手前で止まり【縮地】を発動させて間を抜ける。


 もっすんとゴマダレの間を抜けつつナイフと片手剣で斬りつけた。


 もっすんは対応が遅れて腹を斬られ、ゴマダレは咄嗟に盾で俺の攻撃を防いだ。


 通過した後は素早く振り返り、一気に駆け寄る。


「盾で防ぐんだ!」


 よっしーの指示が飛ぶ。


「「おう!」」


 二人は短く返事をすると盾を構えて前に出る。


 俺はすばやさを犠牲に力を上昇させる【剛力】と体力を犠牲に力を上昇させる【膂力】を順に発動させる。更に落ちたすばやさを補うために【疾駆】を発動させた。


「オラアッ!」


 俺はそのまま盾に向かって体当たりを仕掛ける。


 渾身の力で思い切りぶつかると二人は数歩よろめいた。


「うおっ」


「なっ」


 堪えきれると思っていたもっすんとゴマダレの二人は驚いて声を漏らした。



 そのまま密着した状態でもっすんの盾に向かって片手剣を思い切り突き刺す。


 力を限界まで引き上げた俺の突きはもっすんが構える革の盾を突き破って胸を深々と貫いた。


「ゴハッ」


 血を吐いてふらつくもっすん。


「くそっ!」


 それを側で目撃したゴマダレは素早く距離をとる。


 俺は片手剣を引き抜こうと盾越しにもっすんを思い切り蹴り飛ばした。



 力の能力値が上昇しているせいか、俺の放った蹴りはもっすんを後方に吹き飛ばしつつ片手剣が引き抜ける。


 吹き飛ばされたもっすんはそのまま床から立ち上がることはなかった。


 だが次の瞬間、よっしーの槍が迫る。


「がら空きだぜ!」


 それに反応して体を動かすも、よっしーの槍は俺のナイフを捉えて弾き飛ばした。


 そこへゴマダレが短槍を構えて突っ込んでくる。


 俺は落ち着いてよっしーを通り過ぎるように【縮地】を発動させる。


 よっしーは槍を引き戻そうとしていたが【縮地】の速度に間に合わない。


 俺はナイフを飛ばされた手でドスを握り、【縮地】で通り過ぎ様に【居合い術】を発動させた。



 抜かれた刃は白銀の剣閃を残して鞘に収まる。


【縮地】で通り過ぎ、お互い背を向ける形となる。


 ……チン。


 俺が鞘を治めると同時によっしーの腹がぱっくり裂けた。


「……まじ、勘……弁」


 よっしーは腹から盛大に出血しつつ膝から崩れ落ちて動かなくなった。


「クソがっ! うおおおおお!」


 そんなよっしーを見て激高し忘我したゴマダレが短槍を構えて直線的に突っ込んでくる。


「オラァッ!」


 ゴマダレはそのまま感情に任せて短槍を突き出してきた。


 俺は繰り出された突きを片手剣で力任せに弾くと【剣術】から【居合い術】に切り替えドスでゴマダレの首を裂いた。


 ……チン。


 流れるような動作でドスを鞘にしまう。



 ゴマダレは突進の勢いが切れずにそのまま床に転倒して動かなくなった。




 ……よっしー達は誰一人立ち上がってこなかった。



「悪いな……」


 三人とはひどい結末を迎えてしまった。

 だが感傷に浸っている暇などない。

 すぐにここを離れるべきだろう。



 最後に斬ったゴマダレを見下ろしながらふと思い出す。

「そういや……結局ゴマダレって何のペット飼ってたんだ」

 緊張の糸が切れたのかそんなことが頭をよぎり、ぽつりと呟いてしまう。


「ん?」

 すると俺の呟きが合図となって豪華な机の隅から小さな黒い塊がゆっくり出てきた。


「なーん」

 鳴き声のする黒い塊をよく見れば、それは小さな黒猫だった。

 歩き方がとても上品で身のこなしからも気品が窺える。

 俺より育ちが良さそうだ。


「残りの気配はこいつか……」

 黒猫は俺に無警戒に近づくと足元まで移動して座り、また一鳴きした。


「どうした?」

 俺は屈みこんで手を出してみる。

 すると黒猫はピョンと掌の上に飛び乗った。

 とても小さな猫なので掌にすっぽりおさまってしまう。


「もしかしてお前がゴマダレなのか?」

 こちらへ出てきたタイミングからふと思い当たり、そう聞いてみる。


「なーん」

 黒猫は掌から腕を伝って俺の肩に昇るとちょこんと座った。


 どうやらそうらしい。


 そうなってくるとウィリアムはボスの血縁者だったのだろうか。

 だが今となっては分からない。


「一緒に来るか?」

「なーん」

 ゴマダレは俺の問いにすぐ相づちを打ってくる。


「なら行くか」

 俺はゴマダレを肩に乗せたまま移動をはじめた。


 ボスの部屋を出て通路に出ると人の声が多数聞こえてくる。


 すぐさま五階から飛び降りて脱出したいところだが、ついさっき掃除屋が飛び降りたので一つ下の階からの方がいいだろうと判断して四階に下りる。


 四階に下りると人が入り乱れて慌しくなっていた。

 扉越しに【聞き耳】で飛び交う会話を聞いてみるとよっしー達が様子を見てくる間は待機するといった内容が聞き取れた。


 俺は側近の部屋を抜けて通路に出る。


(じゃあ帰るとするか)


 俺は見つからないように身を屈めたまま移動して適当な物陰に隠れると、懐からレバーを取り出しカバーを開けて中のボタンを押し込んだ。


 ボタンを押すと同時に階下に仕掛けておいた爆弾が大爆発を起こす。


 それを境に人の動きは爆発のあった方へ誘導されていくのが分かる。

 俺は爆発があった反対方向の窓を開けて外に出ると【張り付く】と【跳躍】を使って一気に地上に降りた。


 その後は混乱の中を抜けて屋敷を後にした。

 陽動に使った爆弾がうまく機能してくれたようで、帰りはとてもスムーズに移動できた。


 そして難なく街まで戻ると窓から宿の部屋に戻って大人しく朝を待った。


 …………


 翌朝何食わぬ顔で宿を出て治療院に行き、傷を治療してもらう。

 武器屋と道具屋にも寄って装備を補充しておく。


(さて、どうしたものか……)

 補充を終えてこれからどうするか腕組みして考える。

 肩の上のゴマダレも心なしか真剣な表情になっている。


 とりあえずイーラと会って話をしないといけない。

 だが、まだあの廃村にいるとは思えない。

 そうなるとどこにいるのか見当もつかない。


「情報屋なら……」

 俺は一縷の望みに期待して夕闇亭へ向かった。

 すると店の前に見覚えのある男が立っているのが見えた。


 立っているその男は以前海賊のアジトで人質にされていたのを助けた奴だった。

 夕闇亭を情報屋として使える証しであるカジノチップをくれたのもあいつだ。

 だが、あの時俺は顔を隠していたので多分向こうはこちらに気づいていないだろう。


 俺が無視して通り過ぎようとすると、男がいきなり屈みこんだ。


「すまん!」


 そう言うと男は額を地面につけて土下座した。


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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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