11 標的排除
(扉の反対側にもいるのかね)
扉を開けた途端襲われたらたまったものじゃないので【気配察知】で反対側の様子を探るも扉の向こうに気配はなかった。
(ここからは迅速に動かないとまずいな)
さすがに見張りが四人もいなくなったら、その内気づかれてしまうだろう。
俺は少しだけ扉を開けて身を滑り込ませると屈み込むようにして階段を上る。
素早く階段を上りきり、壁に背を預けて通路の奥を覗き込む。
通路は突き当たりまで一直線になっていて扉は一つだけだ。
外の窓から見た情報と中から見た情報を繋ぎ合わせると、どうやら四階の通路は正方形の外周を回るようにあり、正方形の一辺に扉が一つだけある形のようだった。
その正方形が短い渡り廊下を挟んで向かい合うように二つあり、計八部屋ある様子。
見張りは外周の通路を周回する者が間隔を空けて二人と、それぞれの部屋の前に立つ者が二人ずついる状態だ。
下の階に比べると極端に人の数が減っている。
スパイや裏切りを気にして信頼できる者のみを残しているのだろうか。
(しっかし凄いな……)
覗き込んだ通路の豪華な内装を見て、思わずため息が漏れる。
三階までも柱や壁の装飾が凄かったが四階はさらに豪華になっていた。
また、広い通路には何やら高そうな壷や彫像などが短い間隔で大量に展示してある。
お陰で俺は身を隠しながら進めるが絶対高いであろう壷の台座に隠れつつ進むのは何とも言えないものだ。
ついつい何点か持って帰りたい衝動に駆られてしまう。
俺は身を屈めて慎重に進み、部屋の近くにある彫像の陰に隠れて様子を窺う。
通路巡回の見張りが通過していくのを見守りながらアイテムボックスから鉄杭を取り出す。
そして巡回の見張りが角を曲がったのを確認して扉の前に立つ二人の見張りの内の一人に目掛けて鉄杭を【手裏剣術】を使って投げつけた。
鉄杭は鋭い勢いで相手の頭部に命中する。
命中して倒れる見張りを無視し、更にもう一本の鉄杭を残された見張り目掛けて投げつける。
これも見事に頭部へ命中した。
鉄杭を使った【手裏剣術】は【弓術】より射程や威力で劣るが、弓のように弦を引く必要がないので、体を大きく動かさずにすぐ投げられるのが強みだ。
うまくやれば短い間隔で連投もできる。
こういう物影からの攻撃には【手裏剣術】の方が向いているのかもしれない。
俺は素早く扉の前に移動し、見張りの死体をアイテムボックスにしまうと巡回している見張りとは逆方向の通路の角へ移動した。
巡回している見張りは正方形毎に二人いて、それぞれが一定距離を離して周回している。そのため壁際で待っていれば、もう一人の巡回がこちらへ迫ってくる寸法だ。
床には毛足の長い高級な絨毯が敷かれていて、足音が聞こえ辛いが【聞き耳】と【気配察知】を使って精度を上げて見張りを待ち構える。
巡回の見張りが何も知らずにこちらへ近づいてくるのがわかる。
俺はナイフを抜いて見張りが近づくのをじっと待ち、角を曲がって来る瞬間を狙って口元を塞ぎつつこちらへ引き込むようにしながら喉を裂いた。
絶命させないとアイテムボックスに入らないので弱ってきたところで更に頭部を割る。アイテムボックスにしまい終わると今度は残った巡回の後を着けるようにして反対方向へと移動する。
角を曲がるとやはり部屋の扉の前には二人の見張りが立っていた。
これも【手裏剣術】を使って同じ要領で殲滅すると素早く移動する。
この方法を二度繰り返し、残すところは巡回一人となった。
残された巡回が異常に気がついたのは俺が最初に殲滅した部屋の前に移動したときだった。
扉の前にいるはずの見張りがいないので驚いて立ち止まっているのが見える。
俺は立ち止まって狙い易くなった見張り目掛けて【弓術】で弓を射った。
矢は綺麗に頭部に命中し、見張りを絶命させる。
そして死体に近寄ると淡々とアイテムボックスへの回収を済ませた。
(次もこの要領でいくか)
正方形は二つあるのでもう片方も同じ要領で片付けてしまうことにする。
…………
作戦はうまくいき、無事全ての見張りを除去することに成功した。
その後、それぞれの扉の前に立ち【気配察知】で中の様子を探ってみると部屋の中の人数は様々だった。
一人のところもいれば六人ほどいるところもある。
(中の奴が外に出てきたら一気に騒ぎになるだろうし、このまま迅速に行こう)
俺はそう決めると中の気配が一人の部屋から順に入っていくことにする。
アイテムボックスから仕留めたギャングの死体を一つ出してスーツを奪うと服を着たままそれを上から着て変装する。ちょっとパンパンに全体が膨れてしまったが止むを得ないだろう。
死体をしまうと扉をノックし、慌てた風を装い扉を開けて中に入る。
鍵はかかっておらず、扉はあっさり開いた。
「どうした?」
中へ入ると部屋でくつろいでいた男が立ち上がってこちらへ向かって来る。
部屋の中は一人でいるには異常な広さだった。
通路も豪華な装飾だったが部屋の内装も俺の感覚からすると相当おかしいことになっていた。
ここまでの通路と同じく彫像や壺がある上に壁には大きな絵画が幾つも飾ってあったりする。
内装の事は気になったが、とにかく目の前の男との会話に集中する。
「失礼……します。こち……らはライオネル様のお部屋で間違いないですか?」
俺は扉を閉めつつ息を切らせた演技をしながら部屋の中にいた男に話しかける。
「ライオネルはこの裏だ。その程度のことは他のやつに確認してからこい」
「も、申し訳ございません。四階に来るのがはじめてな上に急用でしたので」
「用がないならさっさと出て行け」
立ち上がった幹部は苛立ちながら俺に背を向けて椅子に座りなおそうとする。
「はい、失礼します」
俺は頭を下げながら背に手を回してベルトに挟んでおいた鉄杭を一本抜き取る。そして幹部が背を向けた瞬間を狙って鉄杭を投げつけた。
「グッ」
投げた鉄杭は狙い通りに男の太股に突き刺さる。
すかさず再度投擲し、反対側の太股にも鉄杭を突き刺す。
背にさしておいたナイフを抜きつつ、崩れ落ちる幹部へ一気に接近し、羽交い絞めにする。
俺はナイフを男の喉に軽く刺して顔を近づける。
「どの部屋にどの幹部がいるか言え」
「グッ……誰が……言うか!」
幹部は口を割らなかったが俺はそれに構わず太股に刺した鉄杭を膝で押し込む。
「死にたくなければ言え」
「クソッ……幹部は六部屋にしかいない。一人死んだからな! それぞれ……」
鉄杭が余程痛かったのか幹部はペラペラと話しはじめた。
「よし」
必要な情報を得られたので俺は幹部の喉を裂き、頭部を割った。
得られた情報によると八部屋の内、六部屋にそれぞれ幹部がおり、一部屋はハーゲンのものらしく不在。
幹部のいない一部屋に側近二人が詰めており五階への階段もその部屋にあるらしい。
見張りを倒しながら【気配察知】を使って内部の人数を調べたのとも一致するので間違いないだろう。
俺は得た情報を元に、どの部屋へ行くかの優先順位を決めていく。
まず、第一目標はライオネル。
次に素行が悪い幹部二人。
次にボス。
そして側近の二人。
後は掃除屋。
といったところだろうか。
ここへ来た理由はライオネルなので最初にやることは確定だ。
次にボスがどの程度の指示を出しているのか判断できないので、支持を曲解するような素行の悪いタイプの幹部を優先する。
その次にボスを仕留める。
ただ、ボスを相手にするためには進路上にいる側近を倒さなくてはならないので自動的に最低でも三人やることになる。
また、情報屋の話では単独で動き回る殺し専門の掃除屋というのもいるらしいので、できればこいつも始末しておきたいところだ。
とりあえず見張りに気づかれるまでは上記の順番で行動していくことにする。
見張りに気づかれて騒ぎが大きくなったら、切り上げて脱出するのがいいだろう。
第一目標以外はおまけなのでそれで問題ない。
他にも幹部はいるが情報屋の話を元に暴力沙汰を好まない幹部は残しておくことにする。そいつには混乱したあとの組織を立て直してもらう腹積もりだ。
これからの行動を決めた俺は優先順位一位であるライオネルの部屋の前に移動した。
扉越しに気配を探ってみたがどうやら一人のようだ。村で俺が部下を倒したからだろうか。
俺はアイテムボックスから死体を一つ取り出し、そいつの血をすくって適当に自分の顔へ塗りつける。死体をまたアイテムボックスへしまうと扉を思い切りよく開けた。
扉は鍵かかかっていなかったので簡単に開いた。
さすがに閉まっているだろうと思っていたが、今回も鍵はかかっていなかった。
非常事態のため連絡をとれるように開けてあるのだろうか。
何にせよ俺にとっては都合がいい。
「襲撃者です! 他の幹部の方は避難されました! 早く逃げてください!」
「あ? 見張りはどうした?」
俺の言葉に固まるも部屋の奥からこちらへ移動してくるライオネル。
「他の方を先導と応戦に向かわれました!」
「そんな声も音もしなかったが……」
ライオネルが状況を確認しようと通路へと顔を出したところで俺は背後に回って喉を裂く。
「会いたかったぜ」
俺はライオネルの口を塞ぎつつ部屋へ引き入れ扉を閉めた。
その後ライオネルをしっかり絶命させアイテムボックスへしまう。
(これで最大の目的は達成されたな)
一番大事なことは無事終わらせたので、あとはいつ脱出しても問題ない。
(ん?)
俺が部屋の中をなんとなく見渡しているとこんな豪華な部屋に不釣り合いな焼き物の容器が視界に入った。
それは村長が見せてくれた自作の酒だった。
どうやらこいつが持ち帰っていたようだ。
俺は酒を手に取るとアイテムボックスへしまう。
(最強コンビが本部に来るのがいつになるか分からんし、やれるだけやっておくか)
ここまで無傷なので当初の計画通りもう少し粘っていくことにする。
次は素行の悪い幹部二人だ。
俺は部屋を出ると一番近い幹部の部屋を目指した。
…………
(ここは三人か……)
気配を探ると今回は三人いるようだ。
人数が少し多いが同じ要領でいくことにする。
俺は勢いよく扉を開けた。
「襲撃者です! 逃げてください!」
必死な顔を作り、襲撃者が来たことを告げる。
「エイブラムさん噂の奴が来たみたいです! 一旦出ましょう!」
「わかった」
「おい、襲撃者はどっちから来てるんだ?」
俺の言葉を聞いてにわかに色めき立つ三人。
「正面からです! ですので裏から逃げてください。自分は増援に向かいます」
適当なことを言って不安を煽っておく。
「必ず倒せ」
「やけに静かだな」
「本当に来ているのか?」
手下と幹部がそれぞれ独り言のように呟きつつ通路を目指す。
「ええ、来ていますよ……」
俺は三人が通路を覗きやすいように道を開けて横にそれたように見せかけつつ背後に回る。
そして鞘から抜いたナイフと片手剣で二人の胸を貫いた。
「ガッ」
「アアッ」
短い悲鳴を上げて事切れる手下二人。
「は?」
残された幹部は何が起こったのか分からずに妙な声を漏らす。
「正面から来てるって言っただろ?」
俺は刺した刃物を抜くと残りの幹部に素早く肉薄して斬り殺した。
三人をアイテムボックスに回収すると最後に狙う幹部のいる部屋へ向かった。
(んん〜六人か……)
今までが少なかったと思うべきだろうが、この部屋には幹部を含めて六人いる。
どうしても扉を開けて正面から侵入しなければならないので、不意打ちで数を減らすこともできない。
(しょうがないな)
俺はアイテムボックスから死体を一つ出して持ち上げると肩に手を回して抱え込むようにして支えた。
ドアを強めにノックしてから扉を開ける。
「襲撃者です! 一人やられました! 早く逃げてください!」
まずは定番の台詞で様子を窺う。
「何だと!」
「くそっ、とうとうここまで来たのか!」
「おいっ準備しろ!」
「ベンジャミンさんをお守りするぞ」
俺の報告を受けて騒ぎ出す手下達。
手下達は移動準備に忙しいようでこちらへの注意が散漫になっている。
俺はその隙を逃さず、支えていた死体を慌てふためく六人目掛けて投げつけた。
死体は放物線を描いて飛んでいき、三人を巻き込んで倒す。
「おい!」
「どういうつもりだ!」
残された者が困惑した声を上げる。
俺はそれに構わず懐にしまっていた鉄杭を素早く取り出して立っている三人へ順に投げつける。
鉄杭はそれぞれの頭部や胸に突き刺さり一人を絶命させた。
俺はそれを確認しつつ、ナイフを抜いて接近する。
立っている残りの二人に連撃を見舞う。
相手は咄嗟のことでスキルがうまく機能しなかったのか精細を欠いた動きだった。
俺はそんな二人の隙をついてあっさりと屠る。
そこから素早く死体の下敷きになっていた幹部と部下二人に近寄って忘れずにとどめを刺す。
(なんとかうまくいったな……)
少し緊張を解き、死体を全てアイテムボックスに回収する。
(次は側近を倒して五階のボスだな)
もはや通路に見張りはいないので俺は側近のいる部屋まで走って向かった。
(ここは二人だけか)
扉の前に立って【気配察知】で中を確認すると二人の気配を感じ取る。
どうやらこの部屋は側近二人が上階へ上がる階段を守っている以外は誰もいないようだ。
(こいつらには襲撃者のことを言っても動かないだろうな)
側近はボスの護衛が最重要になるはずなので、その場から動かすのは難しいだろう。
俺は意を決すると扉を開けて中に入る。
「誰だ?」
「ここには入るな。出て行け」
五階へ通じる扉の両端には椅子があり、そこに腰かける形で二人の側近がいた。
それぞれ片手に大斧と金属の大槌を持っている。
二人は俺を見るなり出て行けと言ってきた。
「す、すいません」
俺は頭を下げながら握りこんでいた鉄杭を投げつける。
だが投げつけた鉄杭は側近が軽く動かして盾代わりにした大斧によって綺麗に防がれてしまった。
「どういうつもりだ?」
「いや、そんなことはどうでもいい」
「そうだな」
俺を問い詰めるより殺せば解決すると判断したのか二人は言葉少なく椅子から立ち上がり、それぞれ大斧と大槌を構えてこちらへ向かってきた。
俺は二人を迎え撃つように【火遁の術】を発動し、全身から煙を吐き出す。
凄まじい勢いで部屋の四分の一を覆い尽くすほどの煙が一気に噴出した。
「なっ!?」
「油断するな!」
慌ててそれぞれの武器で防御姿勢をとる二人。
俺はそこから一気に【縮地】で接近する。
一瞬で動いたため煙が追いつかずに途切れたがすぐにまた俺の周りを煙が覆う。
はじめの位置と移動した後の煙が繋がり部屋全体が煙で埋め尽くされる。
「クソっ」
側近二人はあせって武器を振り回しているがこちらからは丸見えだ。
俺は【気配遮断】と【忍び足】でそっと近寄ると一人ずつ喉を裂いた。
絶命したのを確認すると俺はカモフラージュに着ていたギャングの服を脱ぎ捨て、ドスと片手剣を腰に差す。
(掃除屋は諦めてボスをやったら撤収するか……)
ここまでかなりの速度で片付けてきたが、さすがに派手にやりすぎた。
バレてから逃げるよりバレる前に逃げたいし、この辺りが引き際だろう。
そろそろ潮時と判断し、最後にボスを狩ってからここを出ることにする。
俺は倒れた側近達の間を抜けて階段を上った。
階段を上ると直線の通路の先に一際大きな扉が見える。
多分、あの扉の先がボスの部屋になっているのだろう。
だが、その扉を遮るようにして一人の男が立っていた。
「シシッ。おい、ここは立ち入り禁止だ」




