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10 前進


「そうだ。何でも刀を持った老婆と赤毛で長身猫背の男のコンビらしい」


「はああああああああ!?」



 何その会ったことありそうな特徴。やめてほしいんですけど。



 俺が知る限りギャングが可哀想になるくらい人類最強コンビだわ。


 だがここまでで俺のことが一向に出てこない。


 一体どうなっているんだ。



「じゃあ、残されたギャングはその二人組を追っているのか?」


「ああ、そいつらには内部で懸賞金が出て手配されているらしい。それともう一人懸賞金がかかっている奴がいるらしいがな」



「うん?」


「その一件とは全く無関係の人物を一人探しているようだ」



「そいつは誰だ? 何故そいつを探しているか分かるか?」


「誰かは分からん。ただ、そいつを探しているのは金のためらしい。少し前まで潜伏場所も分かっていたようだが、今は行方不明になっているようで捜索中らしい」



「金?」


「そいつを捕まえて誰かに差し出すと、資金援助して貰えるんだとよ」


「援助ねぇ」



 益々わからない。


 最後に話に出てきた別件の一人が俺自身かと思ったが、それだと資金援助うんぬんが皆目見当がつかない。



 さっきの村では待ち伏せをしていたようだし、イーラの話でもライオネルという奴が俺を探していた様子。懸賞金とは別件なのだろうか。



 手に入った情報だけでは、どうにもちぐはぐな感じがしてスッキリしない。


 色々と情報が手に入るも益々わけが分からなくなってしまった。


「公式見解は以上だ。他に知りたいことはあるか?」


「いや、いい」


 俺は情報屋に料金を払うと店を出た。



 分からないことだらけだが、イーラの話と情報屋での情報で分かることもあった。



 まず、俺の探している奴はフィアマの街にある本部にいること。


 そしてギャングが壊滅状態であること。



 つまり、本部を襲撃してもリスクは低いということだ。



 狙われた理由はあるがどうやって場所を突き止められたか分からない以上、壊滅状態のギャングに止めを刺しておけば根本的に解決できる。


 俺も会いたい奴がいることだし、ついでにやってしまえばいいだろう。



 だが、急がないといけない。


 支部が全滅しているということは本部を目指す奴らが俺以外にいることになる。


 悠長にしていると最強コンビに本部丸ごと処理され、ライオネルに会えなくなってしまう。



「さっさと行かないと先を越されちまうってわけだな」


 移動の準備を整えた俺ははやる気持ちを抑えつつフィアマの街を目指した。


 …………


 それから数日かけてフィイマの街へ到着した。


 街への道中、何度も夜中に目が覚めた。



 村でのことが頭をよぎるとどうすればよかったのか分からなくなる。


 ああしていれば良かった、こうするべきじゃなかった、自分のせいだという思考が頭の中で延々湧き出てくる。


 だが時間を巻き戻すことはできない。



 全ては事実であり、済んでしまったことだ。


 これ以上自分を責めるのは許されたいだけだ。



 だが許される必要はないし、これからもこの迷いと共に生きていくしかない。


 今から俺にできることは数少ない。


 まずは眼前のことに集中するべきだろう。



(一応ギャングの本部があるわけだし、街には忍び込むか……)


 街に正面から入ると身分証を提示しないといけなくなるので、ここはスーラムの街と同様、外塀を【跳躍】で越えて侵入する形をとることにする。


 俺は【気配察知】で人気のないところを探して適当に侵入した。



 街に入って辺りを見回してみるとフィアマの街はかなりの大きさで人が絶え間なく行き交い、活気もある。


 入り口から辺りを見渡すと最奥に宮殿のような建物が見えるのが特徴的な街だ。


 とても賑やかでギャングの本部がある街とは思えない。



(まずは情報が欲しいな)


 とりあえず詳しいことが知りたいので通行人に酒場のある区画を聞き、この街の夕闇亭を探すことにする。


 酒場が建ち並ぶ一帯に着き、それらしい建物を探すと大きな建物の影に隠れるようにそれはあった。


「ここも小さいな」


 見つけた夕闇亭は注意深く見ないと隣に立つ大きな酒場のせいでその店の倉庫のように見えてしまう。


 俺は扉を開けて中に入り、カウンターにカジノチップを見せる。


「何が知りたい?」


 店主が証しのカジノチップを確認し、何を知りたいか聞いてくる。



「この街にギャングの本部があると聞いたんだが、それについて頼む」


「分かった。本部は街の端にあるデカイお屋敷さ、一目でわかる。支部が潰れたせいか以前より人が多いな。あの辺りの住居も関係者が住んでいるから屋敷にいるのがギャングというより、辺り一帯に住んでいるのがギャングといった感じだ。今は支部が襲撃を受けまくったせいでピリピリしていて、近隣はほとんど立ち入り禁止状態だ」


「屋敷の中に幹部は全員いるのか?」


「いるな。外に出るのが怖いのか知らんがずっと中にいる」


「中にいる幹部全員の名前と特徴を教えてくれ」


「わかった。まず一人目は……」


 俺は情報屋から幹部全員の特徴と名前を聞く。


 ついでに屋敷の間取りとか分からないだろうか。



「あと、本部の見取り図のようなものはあるか?」


「それはないな。他に何かあるか?」


「いや、いい。助かった」


 残念ながら見取り図はないようだ。


 そうなってくるとぶっつけ本番で忍び込むしかない。



「あんた、まさか中に忍び込むつもりか?」


 情報屋の瞳が怪しく光り、こちらを見据えてくる。



「そんなわけないだろ? 興味本位で聞いただけだ」


「ならいい。今はあそこに幹部連中が全員滞在している。つまり、あの中には腕の立つ奴が五万といるってわけさ。悪いことは言わねぇ、あそこには近寄るな」


「ああ、忠告ありがとうよ」


 俺は訝しむ視線を送ってくる店主に金を払って店を出た。



 情報を整理すると街の奥にある屋敷に幹部は全員いる。


 だが、屋敷周辺にも関係者が密集していて辺りは立ち入り禁止状態らしい。


 はじめは全滅させるつもりでいたが、これではさすがに人数が多すぎる。



 周囲を相手にしていれば最優先目標のライオネルに気づかれて逃げられる可能性が出てきてしまう。



(全滅は諦めるか……)


 とりあえず幹部とボスを倒しておけば混乱して一時的に機能停止になるだろう。


 ただ、幹部を全員倒してしまうと統率するものがいなくなり、組織が散り散りになってしまう可能性がある。


 ならばどうでもいい幹部は少し残しておいた方がいいかもしれない。


 今回優先させるのは武闘派幹部とボスだろう。


 この辺りを仕留めておけば活動が鈍化するはず。



 後は逃走経路上や幹部と戦うのに邪魔なところだけ処理する感じでいいだろう。


 首の皮一枚で繋げておけば、そのうち老婆と長身猫背のコンビが更地に変えてくれるはずだ。


 俺は計画をギャングの全滅から過激な行動を抑制するように動くことに方向を修正する。



(武器をもう少し買い足しておくか)


 かなりの多数を相手にすることになると思うので壊れたときのことも考えて武器のスペアを揃えておいた方がいいだろう。それに事が済めば逃走しなければならないので、消耗品や食料も買い足しておいた方がいい。


「まずは武器屋だな」


 俺は装備を整えるべく武器屋へ向かった。



 武器屋に着くと俺はまずナイフと片手剣を二セット購入した。


 スーラムでは高かったが、ここでは手頃な価格だったので助かる。



「お、こいつも買っておくか」


 目に入ったのは以前エルザが投げていた鉛筆のような細さの鉄杭だ。


 今の俺なら【手裏剣術】があるので上手く扱えそうだ。



 形状からして道具屋とかに売っているものかと思ったが投擲武器としてもポピュラーな物のようだ。


 鉄杭を五十本ほど購入し、手甲の裏とベルトを巻いた足首にそれぞれ五本ずつ、計二十本忍ばせる。


 残りはアイテムボックスにしまっておいた。



 その後、道具屋に寄って念のためポーションも一つ買っておく。



(こいつは高いうえに効果が今一つ分からんからなぁ……)


 ポーションは高いので大量に使って検証するようなことができない。


 そのため、どの程度のケガまで効果があるのか分からない状態だ。


 とりあえず気休めのつもりで一つ購入しておくことにする。



「後は食料も調達しておくか」


 逃亡生活になったときに困らないよう、食料をしこたま買い込んでおくことにする。


(ん〜、油を買ったりして火炎瓶なんかも作ってみるか?)


 食料を調達しながらそんなことを考える。


 火を着ければかく乱できるかもしれない。



 だが今回は全滅が目的ではない。


 そうなると屋敷全体に燃え広がるような効果が出たり、あまり目立つような方法は止めておいた方がいいだろう。屋敷を燃やしてしまうと別の拠点へ移動される可能性もあるし、火を着けるのは止めておくべきだ。


(これだけで行くか)


 正直いくら準備してもしたりない感じがするが、多分これ以上は大きな迷いを産むだけだろう。


 それなら後は覚悟を決めて突入するしかない。


 そう決めた俺は街で宿をとると仮眠をとりながら日が沈むのを待った。


 …………


 しばらくして時間が経過し、夜も更けたので行動を開始する。


 俺は準備を整え、窓から宿を出ると宮殿のような屋敷を目指した。


 屋敷に向かう途中で検問のような場所をいくつか見つける。


(なるほどな)


 立ち入り禁止状態になっているというのはこういうことだったようだ。


 俺は【跳躍】と【張り付く】を上手く使って民家の屋根に上ると検問を無視して屋根伝いに進む。


 ほどなくするとデカイ屋敷が眼前に迫ってきた。



 屋敷の周りには他の建物がなく、周囲に広い空間をとってあり、どこからが敷地なのか判別するかのように高い外塀が延々と伸びている。


 そして高い外塀の向こうは車がないと屋敷まで辿り着けないような広大な庭園が広がっていた。



 門周辺には見張りが常駐しているが、外塀周りは敷地が広すぎるためか見回りが巡回しているようで固定で誰かがいる様子はない。


 庭園の中にはその見事な庭を台無しにする物見やぐらが何箇所かにそびえ立っている。やぐらの上には明かりを持った見張りが周囲を照らして警戒しているようだった。


 ミスマッチさがすごいので最近急造したものなのだろう。



 俺は適当なところから【跳躍】で外塀を乗り越え、【気配遮断】と【忍び足】を使って庭園を突っ切る。



 スキルのお陰でうまく見張りをやり過ごして問題なく屋敷の側まで辿り着いた。


 遠くから見てもその大きさがはっきり分かったが近づくと本当に屋敷というより宮殿だ。



 茂みから屋敷全体の様子を窺ってみると過剰な見張りの量に驚く。


 今が昼間だと思い違うほど人が行き交っている。


 屋敷にいるギャング達は皆スーツ姿でそれがまるで制服のようだった。



(どこかの二人組のせいで警備が厳重になり過ぎてるんですけど)



 どうみても襲撃を恐れて警備を増員しているように見える。



 見た限りあの人数では一階から侵入するのは難しそうなので上階からの侵入を試みる。


 建物は五階建てで外から見ても豪華な造りだ。


 多分最上階にボスがいるのではないだろうか。


(一気に五階に行くか?)


 壁伝いに一気に最上階まで上がってしまうか少し迷うところだが逃走経路も確保しておきたいので、中をある程度見て周っておいた方がいいだろう。


(なら二階から侵入して上を目指していくか)


 もし途中で進行が難しくなれば引き返して外から上を目指せば問題ない。


 まずは中の様子をある程度見ておくことにする。


 俺は侵入するポイントに目星をつけると、【跳躍】と【張り付く】を使って二階の窓から侵入した。


 …………


 窓ガラスがついていない窓から侵入するとそこは大きな通路だった。


 通路は地平線の彼方まで伸びているように真っ直ぐで通路沿いにいくつもの扉がある。



 そして大きな通路上には巡回する見張りがひっきりなしにウロウロしていた。


 俺は素早く【跳躍】し、天井に【張り付く】を使ってぴったりと張り付いて見張りをやりすごす。見張りが離れたのを確認するとスキルを解除して地面へ降りた。【忍び足】の効果で高所からでも音もなく静かに着地に成功する。


(広すぎるな……)


 改めて周囲を見渡すと屋敷内部はまるでレジャー施設を取り込んだ大型ショッピングモールのようなデカさだ。


 さすがにこの広さではこのまま全部の部屋を調べていると夜が明けてしまうだろう。


 かといってあてもなく進んでも同じ結果になってしまう気がする。



(とにかく前に進むか)


 途方にくれて歩いていると前方から話し声が聞こえてくる。


 俺はそれをやり過ごそうと再び天井に張りついた。



 どうやら近づいてくるのは二人のようだ。


 俺は【聞き耳】で会話を拾う。



「あの、俺はどうしたらいいでしょうか?」


 通路を進む片方の男が緊張しているのか挙動不審気味に隣の男に尋ねる。



「適当に見回りをしてろ。何か見つけたら大声で叫べ」


 隣の男はよく聞かれる質問なのか慣れた感じでそれに答える。



「分かりました。回るのはここだけでいいんですか?」


「この辺り一帯を回れ。交代の時間になったら呼びに来る」



「色々ありがとうございます。急にこっちに来ることになったので何も分からなて……」


「心配するな皆大体そうだ。俺ら下っ端は三階までの見回りが基本だ。四階以上は幹部直属の部下の方がやるので俺らに重要な仕事は回ってこない。気楽にやれ」


「あ、ありがとうございます。ということは四階に幹部の方がいるのですか? できれば目をつけられたりしたくないので関わりたくないのですが……」


「おいおい、今のは聞かなかったことにしてやる。幹部の方は全員四階にいらっしゃる。そんなに気にしなくても、すれ違うような時は部下の人が周りにいるから俺らなんて目も合わされねぇよ」


「そうですか、ホッとしました」


「おう、サボるんじゃねえぞ」


「はい!」


 二人は会話を終えると別れてそれぞれ遠ざかっていった。



(なるほど四階か)



 今の二人の話では幹部は四階にいるらしい。


 ならそこまではなるべく事を起こさないようにして進んだほうがいいだろう。


 騒ぎになればややこしくなる。


 俺は通路沿いにある部屋を無視して進み、階段を見つけるとそのまま三階へ上がる。三階にたどり着くも、階段はそこで途切れていた。どうやら四階へ上がる階段は別の場所にあるようだ。その後、三階を探索し、四階へ通じる階段の側まで到着する。


(ぬぅ、これまた厄介な)


 しかしスムーズに進めたのはそこまでだった。


 二階と三階の間は問題なかったのだが、三階から四階へ上がる階段の前には扉があった。


 扉の前にはおあつらえ向きに見張りが四人いる。



 近場の窓から外に出て四階へ行けるか試してみたが侵入できる窓がなかった。


 四階の窓は全て閉まっていて【気配察知】を使ってみると、見張りがポツポツといるのが分かった。


 こうなると窓を壊して入ることはできるが、そうすると気づかれれてしまう。


(階段か窓か……)


 入るだけなら窓だが、入った後のことを考えると階段の見張りを潰しておいた方がいいような気もする。


(階段だな)


 迷った結果、階段の見張りを倒すことにする。


 もう一度階段前の扉に移動するとギリギリまで接近したあと【跳躍】と【張り付く】を使って天井に立つ。


【気配遮断】と【忍び足】の効果で残り数歩で近寄れる距離までなんとか接近できた。


 そしてアテイムボックスから弓を取り出すと矢を二本番えて構える。


「フッ」


 俺は逆さまの状態で天井に直立し、見張りの二人に照準を合わせて【弓術】スキルに身を任せて矢を放つ。


 放たれた矢は相手の眉間に突き刺さった。



 俺は矢が突き刺さるのを確認するのと同時に天井から残された二人に向かって飛び降りた。


 落下の勢いに任せて両手の武器で斬りかかり、二人の頭を上から割って沈黙させる。



「ふぅ」


 ……何とか四人全てを声を出させる暇を与えず倒すことに成功した。



 俺は素早く四人の死体をアイテムボックスにしまい、飛び散った血を拭う。


 血は完全に拭き取ることはできなかったが、ある程度目立たないようにはできた。


(扉の反対側にもいるのかね)


 扉を開けた途端襲われたらたまったものじゃないので【気配察知】で反対側の様子を探るも扉の向こうに気配はなかった。




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