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8 うわぁ……


 ケンタ LV15 ニンジャ


 力 78

 魔力 0

 体力 32

 すばやさ 92


「おお! やったわ〜」


 今日までも結構モンスターは倒しまくっていたのでいつ上がってもおかしくなかったのだろう。


 レベルも15ともなればちょっと一人前感が出てきて嬉しい。




「ニンジャでレベルが上がっちゃったな」


 だがスキルレベル上げをしたときのまま職業は変更していなかったので、ニンジャの状態でレベルが一つ上がってしまった。


 職業によって能力の上昇値が違うようだったのでレベルアップ時はなるべく暗殺者にしていたが、今回はニンジャで上がってしまった形となる。


 ニンジャは力5、体力4、すばやさ6で合計の上昇値が15のようだ。


 暗殺者は力6、体力2、すばやさ7だったので、ニンジャの方が能力値が平均的に上昇するようだ。


(まあ上級職だしいいか)


 下位職で上げてしまったならかなり後悔したところだが、ニンジャも上位職なのでそれほどショックではない。


 剣闘士の下位にあたる戦士は力4、体力4、すばやさ2の合計値10。ニンジャと比べると数値上、5の開きがあることになる。それに比べれば全然OKだ。


 むしろ、少ない体力値を補えたので、暗殺者にしていなくて良かったかもしれない。



 レベルもこれでしばらく上がらないだろうし、職業は引き続きニンジャの状態にしておくことにする。


「さて、どうするかな」


 オーガと三連戦やったうえに、クールタイムの時間を潰したので辺りは暗くなりつつあった。


 スキル【暗視】があるので道に迷うことはないが安全といえるわけでもない。


(軽く仮眠とってから移動するか)


 オーガ戦の疲労もあるし少し休んでから村を目指すことにし、このまま木で寝ることにする。


「オーガの討伐報酬って俺のランクで貰えるのかな……」


 俺はそんなことを考えながら木の上で眠りに着いた。


 …………


 今俺は夢を見ている。



 これは何度か見たことがある夢だ。


 何度か見たことがあることを夢の中で思い出すタイプの夢だ。



 俺の目の前には亡者のような剣士が己の剣を杖代わりにして体を支えて立っていた。


「お前か!」


 思わず叫んでしまう。


(こいつ知ってる!)


 こいつは以前何度か夢に出てきた奴だ。


 その度に微妙に聞こえない言葉をしゃべり、気が済むと消えていく正直迷惑極まりない奴だ。


 ただ、目を覚ますたびに忘れるので起床後のストレスが少ないのが救いではある。


 ショウイチ君の話から推察するに、こいつが俺が異世界に転生召喚された原因で間違いないだろう。要はこいつが死んだのと同じタイミングで俺が元の世界で死んだため、入れ替わりで転生した、ということらしい。


 そして、夢に出てくるということはこいつが死んだ場所が近いという事。


 死んだ場所に近ければ近いほど鮮明な夢を見て会話が可能になる、ということだった。



 そんなことを思い出しながら剣士を見る。



「この先……迷宮がある。だが……こには来るな」


 男の口の動きははっきり動いて見えるのに、やはりところどころ声が聞き取れない。


 夢の中というのもあるが多分【聞き耳】を使っても完全に聞き取ることはできないだろう。


「おお! ちょっと聞こえた」


 だが今回は男の声がある程度聞き取れる。


 聞こえる部分から予想すると、どうもダンジョンに来るなと言っている臭い。


「何で行ったらいけないんだ?」


 俺が男にそう尋ねた次の瞬間、全体の空間が歪み、男の姿も薄くなって消えていく。


 夢の終わりが近いのだろう。


「結局よく分からないままだな」


 俺はがっかりしながら夢から覚めるのを待つしかなかった。


 …………


「あれ? 覚えてるぞ」



 木の上で目を覚ますと前回までは忘れていた夢の内容を覚えていることに気づく。



 前回は夢のことをどうやっても思い出せなかったのに、今回は覚えているのだ。


 もしかして死亡現場がかなり近いのだろうか。


 夢の内容を覚えていたこと、夢の中の男の言葉がある程度聞き取れたことからそう予想することができる。


 だが手がかりはゼロなので死亡現場を探すとなれば時間がかかりそうだ。


「ダンジョンに来るなって言ってたよな……」


 考えられるのは男が死んだ場所がダンジョンという可能性。


 それについてはショウイチ君も予想していた。


 つまり、この近くにダンジョンがあるかもしれないということだ。



(行く意味が見いだせないなぁ……。大体、死亡現場がダンジョンだった場合、下の階層で死んでいたらそこまで潜る必要とか出てくるのか?)


 ダンジョン自体にはあまり興味が湧かない。


 こんな補給もままならないところのダンジョンに潜るより設備の整ったメイッキューの街のダンジョンに潜る方が快適だからだ。


 どちらかというと気に掛かるのはダンジョンより、俺の転生召喚のきっかけになった男の方だ。夢を思い出した今だと、何を言っていたのかが気になってしまう。


 だが、本格的にダンジョンを探そうとするならかなりの日数を要するはず。


 しかも、夢の男に会うためにダンジョンに潜る必要が出てきた場合、週単位の滞在を考慮しなくてはならなくなってくる。そうなると日を改めるべき。


 ダンジョンは逃げないし、本来の目的を先に終わらせよう。


 このままダンジョンを探してみたい欲求にかられるが、一旦村に帰って報告すべきだ。オーガ討伐に行ったまま報告もせず、しばらく帰らないのはさすがにまずい。


 俺は木から下りると早朝の森をそのまま抜け、後ろ髪を引かれる思いで村を目指した。


 …………


 その後、村に帰ると簡単な報告を済ませ、数日出かけることを告げるとまた同じ場所に戻ってきた。ちょっと急な話だったので村長は驚いていたが気にせず強引に出てきた。



 もう村の周りのモンスターは狩り尽くしているし、脅威だったオーガもいない。


 多少無茶をしても大丈夫なはずだ。


 少し心配ではあるので夢の男に会えたらさっさと帰ることにしよう。



 そういえばオーガを退ければ例の地酒を報酬として貰うと村長と約束していたのを忘れていた。村に戻るころには全てスッキリしているだろうし、そいつで祝杯をあげたいところだ。


(ダンジョンを探して召喚した男に会ったらさっさと酒を飲みに帰りてえ)


 元々ダンジョンにはあまり興味がなかったので、俺の注意は村長の酒の方に向いていた。


 そんな気もそぞろの状態でダラダラとダンジョン捜索をはじめる。


 …………


「お、あったな」


 ダンジョンは山の麓にあるそれっぽい洞窟の奥にあった。


 夢を見た位置から逆算して山脈の方だろうと当たりをつけて、数日移動してやっとダンジョンを発見することに成功した。ダンジョンを探しながらの移動だったので時間はかかったが夢を見た位置からはさほど距離は離れていなかった。


 改めて位置を確認すると結構ゴブリンの森からも距離が近い。


 そして何より元ルーフの家が目と鼻の先だ。


 何気にあの家も絶妙に危険物件だ。大体なんであんな森の奥に家があるのだろう。



 ただ、ダンジョンとの距離は近いがゴブリンの森やルーフの家の方からは意外と死角になっていて、相当近づかないと見つけるのは難しかっただろう。ダンジョンの周囲が荒れているといった特徴も岩山がカモフラージュしていて目立っていない。


 今回の目的はダンジョンに潜る事ではなく、夢に出てくる男に会う事だ。


 というわけで、まずはダンジョンの外で寝てみる事にする。外で寝て会話が成立するなら、わざわざダンジョンの中に入る必要はない。何より、ダンジョン内で眠るのは、中々にリスキーだ。


「周りにモンスターはいないな……」


【気配察知】を使用してみるも何の気配もない。


「だけど、ここで寝るのは度胸がいるな……」


 眠らないと夢の男には会えないので、どこか眠れる場所を探さなくてはならない。モンスターがいないとはいえ、さすがにこんなところで無防備に寝る度胸はない。


(丁度良さそうな場所はないかなっと……)


 俺は周囲を見渡し、早速眠れそうなポイントがないかと辺りを探す。


 大きな石が大量にあるゴツゴツした地帯を歩いていると、岩が重なりあっている場所を発見した。ここなら隙間に入れば目視で発見されることはないだろう。


 キラーウルフのように匂いを辿るタイプのモンスターには気をつけねばならないが、街の常時討伐依頼を参考にするとそういったモンスターはこの辺りには出現しないはずだった。


(もうここでいいか)


 長時間熟睡するわけでもないし、岩の隙間で寝てしまうことにする。


 事前にしっかり仮眠を取っておいたので意図せず、深く寝入ってしまうこともないだろう。俺は隙間に入り込み、大きな布で全身を覆ってカモフラージュすると眠りについた。


 …………


 俺は夢を見ている。


 この夢は前任者である例の男が出てくる夢だ。


 周りの景色は相変わらずおぼろげだが、剣を杖代わりにした男は俺の目の前にいた。


 男が口を開く。


「随分と近くに来てしまったようだな。だがダンジョンには行くな。そのためにわざわざ限界まで離したんだ」


 男の声がはっきりと聞こえる。


 ここに辿り着くまで結構時間がかかったのでちょっと感動ものだ。


「おお! やっと会話が成立するな。あんたがモゴモゴやってると、こっちがどれだけイラついたか分かってないだろ?」


 ここぞとばかりに俺のフラストレーションをぶつける。モゴモゴ反対!


「知らんな。いいか? 俺が死んだダンジョンには近づくな。わかったらさっさと帰れ」


 男は愛想のない声でそう告げる。


 声がはっきり聞こえるようになったらなったで、どうにも命令口調が鼻につく。


「ふ〜ん。安心しろ、俺はそのダンジョンにさして興味はない。あんたには一応挨拶しておいた方がいいと思って来ただけだ。転生召喚してくれてありがとうよ」


 当初の目的どおり挨拶を済ませておく。


 どうにもこの男との相性は悪いようだし、聞きたいこともない。これで目覚めてしまってももう問題ないだろう。


「俺がお前を意図的に転生召喚したわけじゃない。そういう仕組みなだけだ。俺は単に自分の不注意で死んだだけ。お前に用は何もない」


 男は相変わらず俺を突き放すような物言いで話を進める。


「おい、もうちょっとオブラートに包んで言えよ! 傷つくだろ!」


 俺だってできるなら女神様にチートもらって転生したかったんだから、その辺りのデリケートゾーンにはクレーム対応のテレアポ位気を使って欲しい。


「残念だったな。この世界にオブラートは存在しない。何度も言うがダンジョンには入るな。じゃあ俺は消える」


「おいおいおい、言いたいことだけ言って消える気かよ。先輩として後輩に何かアドバイスの一つも残していけよ」


 折角の対面なのにあまりに態度が悪いので、ついそんなことを言ってしまう。


 しかしこの男に有用なアドバイスが期待できるだろうか。


 なんかパワハラ上司にいつも熱烈指導ありがとうございます、これからもご指導ご鞭撻の程よろしくお願いしますって言ってしまったくらい余計なことを言った気がする。



「ふん……。異世界に転生しようが、異能を手に入れようが、そこに人が居る限り何もかわらん。地獄が広がるだけだ……。人は痛みを知らなければ成熟しない。だが痛みを知った人は苦悩して早死する。残されるのは痛みを知らず悪意を悪意と認識できない未成熟で純粋な人だけだ。つまりこの世に生きる人全てが悪意の塊だ。それはこの世界でも変わらない」



 男はろくでもない長台詞を言うと足元から急に背後の景色が見えるほど薄くなって消えていく。



「最悪なアドバイスだな! 夢の一つも持たせろよ!」


「残念だったな。この世界で見れる夢は元の世界で見れる夢と何も変わらない。なぜなら世界が変わってもお前の自身が変わっていないからだ。どんなことをしようと己を変えることは容易くなく、そこに人がいる限り変わらぬ自身で友好な関係を保持し続けなければならない。力で変わるのはどこまで行っても上辺だけだ」


 いつもは消え入るような声だったのに、自身が消えるときははっきりとした声でろくでもないことを告げてくれる。


 ちょっと割と本気で止めて欲しい。



「お前も成熟して早死するか未熟なまま悪意を振りまくか、さっさと選択するんだな」


 男はそう言い残すと満足したかのように消えていった。


「うわぁ……」


 残された俺は最低の気分だった。


 …………


「うわぁ……」


 目を覚ましての第一声が夢での最後の一言と同じになる。



 ぐっすり寝ていたはずなのに、寝る前より疲れている気がする。


 こんなことは元の世界でこってり絞られたあとに寝たとき以来だ。



 しかし、消える寸前の男の満足げな顔を思い出すとどうにも腹が立ってくる。



 あの満足げな表情がカラオケで○―ド全章歌い上げた上司の顔とダブる。


 そういうのは友人同士で行ったときにして下さい、とは言えない哀しみ。


 いやぁ情感こもってて最高っす、染みました! って言っておいたよ。



「何かムカつくからちょっとダンジョン行ってみるか」



 それはほんの気まぐれだった。


 あまりに酷い物言いだったので、あの男に反発してみたかったのかもしれない。


 何よりダンジョンが目の前にあるのに中を確認せずに帰るのも何となく惜しい。


 俺は軽い気持ちでダンジョンへ足を踏み入れた。



「あれだよな、行くな行くなっていうのはフリなんだよな?」


 そんなことを呟きながらダンジョンに入り、通路を進む。


 少し進むと目の前に扉が見えてきた。早速扉を少し開けてみる。



「どうせ大したことないんだろ? きっとあいつが弱かっただけなんだって」


 あれだけ格好をつけて弱いなら笑える。


 俺がこのダンジョンのモンスターを全滅させれば、あいつもあの世で悔しがるだろうか。


 そんなことを考えながら俺は少し意地悪い顔をして部屋の中を覗く。



「えぇー……」



 すると中には巨大なドラゴンが鎮座していた。



 全身が燃えるように真っ赤な色をしている。


 色味からして名前がレッドドラゴンとかっぽい。


 すっごい炎とか吐きそう。


 火達磨待ったなし。消し炭一直線だ。


 ドラゴンの巨大さは生物に例えるより建物に例えた方がわかり易い大きさをしていた。


 ダンジョンに入って一発目の部屋でドラゴン。


(ないな……)


 俺はそっと扉を閉めると何も見なかったことにしてダンジョンを後にした。


 洒落にならないダンジョンだ。この辺の作物の生育が安定しないのもあのダンジョンのせいではないのだろうか。


 意外なところで物価が上がる原因が何となく分かった気がする。


 かといってあんなもの踏破不可能だろう。



 それにしても、あのダンジョンへ行こうと思った夢の男の思考がわからない。


 ソロでドラゴン退治が余裕なくらい強かったということなんだろうか……。


 といっても、死んでいるんだから意味が分からない。



(いや、普通あれを見たら一部屋目で引き帰すだろ……)


 とにかく、どう頑張ろうと俺には無理な話だ。


 俺は何も見なかったことにして村へ帰った。


 …………


「着いた〜」


 村が見えると安心したせいか、つい声が漏れてしまう。


 俺を召喚した男のせいでどっと疲れてしまった。



 さっさと村長から酒を貰って燻製で一杯やりたい。


 あの酒と燻製の組み合わせは素晴らしいものだった。


 俺はゴクリと唾を飲み込むと村へと早歩きで進む。


(ん?)


 村に入り、建物がはっきり見える距離まで近づくと人影が見えた。



 もう少し近づくと二人の男だと分かる。


 見たことない奴らだ。


 大体この村にあんな若い男はいない。


 里帰りだろうか。


 だが、どうにも様子がおかしい。


 遠くでよく見えないが、抜き身の剣を持っているように見えるうえに誰かが地面に倒れている。



(盗賊か!?)



 俺は自然と駆け出していた。


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