表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/401

8 盗ちょ……もとい情報収集


 そろそろ店を出ようと腰を上げたとき、一際大声で話す三人組が入店してきた。


 三人組の会話を聞いてみると冒険者になりたての新人二人組と先輩冒険者が一人という組み合わせのようだった。


 会話の内容から先輩にあたる人物が後輩新人に色々教えるために酒場に連れてきたことが分かる。


 先輩冒険者は頬に傷があったり、着ている鎧が使い込まれていたりして、見るからにベテランといった感じだ。


 新人の俺としてはこの三人の会話は是非聞いておきたい。


 俺は椅子に座りなおすと三人組のテーブルに聴覚を集中させる。



「わからないことがあれば何でも聞きな。俺様が教えてやるよ」


 そう言いながら酒をあおる先輩冒険者。


「あざっす! 兄貴」


「冒険者ギルドのランクが0のうちはやっぱりゴブリン狩りっすか?」


 身を乗り出し興奮気味に聞く後輩達。


「バッカヤロウ! はじめはオークだ」


「兄貴、オークはランク1の依頼っすよ? 俺たちランクが足りねぇっす」


「一個上のランクまでは討伐対象なんだよ」


「そ、そうなんすか?」


「おうよ、だからオークを複数で囲んでボコればすぐLV2だ。今度森に入るときは俺も着いて行ってやっから楽勝よ」


「「まじっすか! あざっす」」


 声を揃えて礼を言う新人二人。


「ゴブリンなんてよぅ、報酬低いわ、いくら倒してもレベル上がらないわで不味い獲物の代表みたいなもんだぜ」


「なるほどっす、じゃあホーンラビットはどうなんすか?」


「あれは皮が使えるし肉が食えるから肉屋とか皮職人のとこに持ってくといい値段で買い取ってくれるぜ。ギルドに持っていくのはお勧めしねぇな」


 酒を飲みながらも聞かれたことにはしっかり答えていく兄貴。


「勉強になるっす! じゃあ、はじめは西の森でオーク退治っすね」


「そうだな。ただ、今は西の森は怪我人がよく出てるからよぅ、念の為あまり奥に入らず街の近くで狩るようにしないとダメだ」


「やっぱり兄貴は頼りになるっす」


「だなっ」


 レベルアップして強くなった自分の姿を想像したのか盛り上がる新人二人。


「おう、任せとけ、授業料のこと忘れるなよ?」


「「は、はい!」」


 どうやら兄貴のご指導は有料のようだった。



 そして会話を聞いた俺は、衝撃の事実を知ってしまう。


(ゴブリンって倒す意味ないのかよ! 倒しまくってたよ!)


 心の中で両手と両膝を地に着き、うなだれる俺。


 毎回かなり大量にゴブリンを倒してギルドに持っていってたのに誰からも注目されないのはおかしいとは思っていた。どうやらこの世界でゴブリンは倒す意味のない、まずいモンスターという認識みたいだ。


 ちょっと前に、俺がゴブリン狩りまくったから噂が広まり、誰も来なくなったとか考察してたが、はじめからゴブリンなんて誰からも相手にされてなかっただけだった。


 自意識過剰な自分が恥ずかしい。


 今思い返すと、初めて街を出た時、人を避けるように出たから自然と人の寄り付かない南の森に行き着いていたのだろう。


 だがそれは幸運だったかもしれない。


 経験値が稼げないゴブリンだからこそ無職の状態でのレベルアップを1で抑えられた上、大量に不意打ちしたから暗殺者に転職できた。


 もし、西の森に行っていればオークとソロで戦わなければならない状況になっていただろう。


 話を聞く限り、オーク戦は数で押して倒す戦法をとるようだし、一人の俺には敵わない相手だったはずだ。


 ゴブリン狩りも競合相手がいなかったから独占状態だった。


 そういった全ての事を加味するとむしろ幸運といえるだろう。


 まだまだスキルレベル上げをしていたいし、これからも南の森でゴブリンを独占させてもらうことにする。


 だが、一度狩りが頻繁に行われていそうな西の森に行ってモンスターの死体処理風景を見ておきたい。


 今、俺のアイテムボックスはゴブリンボックスと化している状態だ。


 いつアイテムボックスがパンクして、眼前に大量のゴブリンの死体が噴き出してもおかしくない量が詰まっている。そういった事情から処理方法を探るのは急務なのである。


 西の森で他の冒険者がモンスターを狩るところを見れば、死体処理方法もわかるはず。


 一番てっとり早いのは今会話を聞かせてもらっている三人組を着けることだ。


 うまくいけば、ついでに新人冒険者に役立つ情報を色々ゲットできそうなのも美味しい。


 そうなってくると彼らがいつ森へ行くのか気になる。


 南の森へ帰るのは延期して、しばらく西の森の入り口で張り込みでもしてみるべきだろうか……。


 気づかれないように同行して、あの新人二人組に俺の授業料も払ってもらいたい。


 そんなことを考えながら三人組の会話を聞き続ける。


「兄貴明日はよろしくお願いしますっす!」


「おう任しとけ、明日は朝一で森に行くから遅れるなよ?」


「「もちろんっす」」


 兄貴の発言に力強く頷く新人二人。


(もちろんっす、明日の朝っすね)


 同行することを決めた俺も心の中で兄貴に返事をしておく。


 どうやら明日森へ行くらしい。これは張り込む手間が省けてありがたい。



 明日は新人講習見学ツアーになりそうだ。


 俺は三人組の会話を最後まで聞き終えると店を後にした。


 その後、街で夜は明かしたくなかったので早々に西の森へ移動する。


 森にある程度入ったところで手頃な木を見つけ【跳躍】で登り、木と体をロープで縛りつけて就寝準備を完了する。慣れたものだ。


(これで明日の朝を待つだけだな……)


 俺は明日の見学に期待を膨らませつつ、まぶたを閉じた。


 …………


 翌朝、早めに起きた俺は街の入り口が視界に入るところで隠れ、【気配遮断】と【聞き耳】を使って張り込む。


 あんパンと牛乳はないのでリンゴをかじり水を飲む。


 しばらくすると相変わらずの声量で話す三人組が現れた。


 そんな大声で話して大丈夫なのか? とは思うがこちらとしては距離をとりやすいのでありがたい。気づかれないように距離を開けながら様子を窺う。



「兄貴! 今日はよろしくおねがいしますっす!」


「よろしくおねがいしまっす!」


「おう任せておけ! 今日は初日だし初歩的なことを主軸に教えていくぞ。そして最後の締めにオークを見つけて狩るからな。じゃあ着いて来い!」


「あざっす!」


 予定の確認を終えた三人は悠々と森の中へ入っていく。


 その後、三人組は森の中をゆっくり進みながら色々な事を話していた。


 兄貴が色々教えながら新人二人が質問するといった感じだ。



「いいか、腹が減っても森の中の物はなるべく食うな。後、川の水とかも飲むなよ?」


「え、でも森で獲れたキノコとか市場で売ってるっすよ?」


「バカヤロウ! キノコは絶対ダメだ。毒キノコと食べれるキノコを区別するのはすっげえ難しいんだよ。間違っても食おうとするなよ?」


「はいっす」


 兄貴の怒声に驚きつつも頷く新人。


 (俺、腹減った時にキノコ食おうか迷ってたよ兄貴。川の水もダメなのか、心の中にメモしとかないとな)


 などと兄貴の言葉に感心しながら後をつける。


「川の水もダメなんすか? 森の川って見る限り綺麗な水っすけど」


「そうだ、運が悪いと腹をこわす。動物が上流で糞とかしてたら一発だ」


「勉強になるっす」


(俺も俺も〜)


 といった感じでレクチャーは進んで行く。


 そんな中俺の一番聞きたかった話題になる。


「お前らからなんか聞いておきたいことはあるか?」


「あ、兄貴! 討伐部位をとった後のモンスターの死体ってどうするんっすか?」


(ナイス新人! もっと聞け!)


「おう、モンスターによるな。昨日話したホーンラビットみたいに素材が売れる奴は持って帰る。大きくて重いような奴は持って帰れるようにその場で捌いたりもするな。今日の相手になるオークの肉は食えるから買い取ってもらえるので捌いて持って帰る奴もいる。俺は捌くのに時間がかかるからやらないけどな。全く使い物にならないモンスターはそのまま放置する。」


「え、その場に捨てていくんすか?」


 首をかしげる新人。


 俺もその解答にはびっくりだ。


 ポイ捨ていくない。


 俺のゴブリンボックスの中身を全て捨てたら、その一帯が大量惨殺事件の現場みたいになっちゃうんですけど。


「モンスターの死体はモンスターや精霊が食う。だから放っておけば無くなる。死体が街に近い場合はモンスターを寄せ付けてしまうから街から離すように移動させるか、街へ持って帰って焼却処分だな。だが焼却は金がかかるから誰もやらん」


「じゃあ、別に俺らがモンスター退治なんかしなくても、放っておいたら勝手にモンスター同士で殺し合っていなくなるんじゃないすか?」


「いや、殺し合いは相当飢えていないとしないな。殺して食うのではなく、死体を食うんだ。生きている時は案外仲間意識が強いぞ。」


 三人の会話を聞いていると、精霊とか直接聞きたいワードがチラホラ出てくる。


 モンスターの死体の処理に関しては街から離れた場所に放置するのが基本みたいだ。


 今回の勉強会が終わったら、早速小出しに捨てて様子を見てみよう。


 三人組はそんな会話を続けながらしばらく進んだところで立ち止まった。


「おい、これが何かわかるか?」


「ウンコっすね」


「そうだ、何の糞かわかるか?」


「い、いやわかんねっす」


「これはホーンラビットの糞だ。獣系のモンスターは糞の痕跡で追跡することもできる。柔らかければ近くにいる可能性が高く、乾燥していれば縄張りの中にいる可能性はあるが近くにはいないって感じだ。モンスターによって形が特徴的なのもあるから覚えておくといいぞ。」


「はいっす」


(なるほどなぁ、糞なんか見ても元の世界のマナーの悪い犬の飼い主のことしか思い出さなかったよ、俺)


 などと感心しきりで三人の会話に耳を傾ける。


「オイラ達も兄貴みたいに早く立派な冒険者になりたいっす」


「へへっ、まだまだお前たちには無理だな。俺様はこう見えてレベル8だからな!」


「まじっすか!」


「すっげぇ!」


 おっと、ここで重要な情報ゲットだ。兄貴はレベル8らしい。


 メニューでは相手の情報がわからないのでこれまで周りの人間のレベルがわからなかった。


 今回はじめて人のレベルを知ることが出来た。


 嘘でなければだが。


 しかしそれが冒険者のレベルとして高いのか低いのかは分からない。


 街から冒険者が出て行っていることを考えると少し低いと考えるべきだろうか。


 俺がそんな事を考えている間も三人組の会話は続く。



「後は亜人型のモンスターの痕跡だが……おいっ構えろっ!」



「え? は、はいぃっ」


 兄貴はいきなり会話を打ち切り、急に臨戦態勢になる。新人達もモタモタしながらなんとか身構える。


(やべ、見つかっちゃったかな? 謝って金払ったら許してもらえるだろうか……。いや、顔バレしてないし、逃げた方がいいか)


 などと考えていたがどうもこっちを見ていない。



 兄貴の視線の方に顔を向けると遠方に赤い影が見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

   

間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ