5 あくまでニンジャ
その後はどこにも立ち寄らずに街を抜けて、その村を目指すことにした。
…………
「廃村じゃねぇか……」
村に到着してその有様を見て発した第一声がこれだ。
依頼書に村と書かれていた場所は荒れ放題だった。
道々には雑草が生え放題で全ての建物が老朽化のせいで至るところが崩れている。まるでハリケーンの直撃でも受けたかのような惨状だ。
「これって人が住んでるのか……?」
辺りを見回して見るも住人が視界に入ることはなく、その光景は人の棲家という言葉を通り越して遺跡や自然と一体化した何かに見えてしまう。
俺は呆然としながら村の入り口から中に入り、全体の様子を把握しようと中心を目指す。
「そこのお人よぉ、なぁにか用かのぅ?」
ふいに音声再生が壊れたおもちゃのように間延びした声が横からかけられる。
「お?」
声がした方を向くと、少し離れたところに杖をついたおじいさんが立っていた。
「ギルドの依頼を見て様子を見に来たんだけど、代表の人はいるか?」
ここまで村を見た感じだと身を隠すには丁度いい感じだし、本格的に交渉してみるかと声をかける。
「あぁあ、ワシじゃぁ。ワシがこぉの村の村長じゃあぁ」
どうやらこのおじいさんが村長らしい。
そう言われてみると確かにそんな風格があるかもしれない。
「どぉしたんじゃぁ?」
「村長ぉ、お客さぁんかいぃ?」
俺が村長に近づこうとすると物陰からどこからともなく杖をついたおじいさんが二人追加された。ゾンビが出てくるガンシューティングでもやっている気分だ。
「お、おう」
不意に出てきたのでつい驚いて声が漏れてしまう。
新しく来た二人も村長と同じような服で同じような杖をついているので三つ子のように見えてしまう。
「なぁんじゃあ?」
「どおぉしたんじゃあ?」
今度は杖をついていないおじいさんが二人追加された。
「どうも、こんにちは」
とりあえず目の前のおじいちゃんズに挨拶をしてみる。
「「「「こんんにちわぁあ」」」」
すると全員ぴったり同時に挨拶を返してくれた。
ちょっと怖い。
とりあえず村長と呼ばれていたおじいさんに話しかけてみる。
「ギルドを通さずにここの依頼を受けたいんだが、いいか?」
怪しまれるかもしれないがダイレクトに要望を伝える。
ダメなら諦めればいい位のことだし、気楽にいくことにする。
「構わんぞぃ」
村長は考える間もなく即答してくる。いいのか? それで。
「あっさりだな、理由とか聞かないのか」
こっちが逆に心配になって聞いてしまう。
「もう無理だと思ってぇいたしぃ、構わんぞぉ」
確かにギルドの依頼は日数が経っていたし、諦め半分だったということなんだろう。
「分かった。じゃあ契約の詳細を決めよう」
了承してもらえたので詳細を決めていくことにする。
「なら、畑や家を荒らすモンスターの全滅が絶対条件じゃぁ。報酬はギルドに提示してあったぁ金額と同じ。待遇も同様でどぅじゃぁ?」
村長からギルドの依頼と同じ内容での契約を持ちかけられる。
「問題ない。よろしく頼む。あと、金を払ってもいいから冬近くまではここにいさせてくれ」
なんかいい加減だな。
大丈夫かこれ。などと思いながらも話を進めていく。
孫を装って俺々ってやったらお小遣い貰えそうな勢いだ。
俺としては報酬目的ではないし、特に粘って交渉する必要もないのでありがたいことはありがたい。
「了承した。こちらこそ頼むぞぃ。さっそく家に案内するぞぉ」
村長は軽く了承すると家へ案内すると言ってゆっくり歩きはじめた。
「わかった。モンスター討伐は翌日からでいいか?」
俺はそれに着いて行きながら確認をとる。
昼過ぎの今からやるより翌朝から一日かけてじっくりやる方がいいと思ったからだ。
「構わんぞぃ。今更一日二日遅れてぇも問題ないわぁ」
「お、おう」
村長の返事を聞くともう本当に投げやりでどうでもいいって感じがするのだが気のせいだろうか。なんていうか元の世界で夜八時くらいに新しい仕事が発生したときの俺みたいだ。
「家はぁこの先じゃぁ」
村長が杖で指す方向にそれっぽいものが見える。
「ギルドの依頼は更新しないでくれよ」
俺は家の方に歩きながら村長に念を押しておく。
ギルドが絡むと厄介なことになりそうだし、強調しておくべきだろう。
「街には行かないからぁ問題ないわいぃ」
村長は俺が家に向かうのを確認するとそう言って帰っていった。
…………
村長が指した方角へしばらく歩いて俺が使わせてもらえる家の前に辿り着く。
「これは……」
あてがわれた住居はボロボロだった。雨風は凌げそうだがボロボロだった。
家の中は多少小奇麗にはなっていたが、ずっと使っていない感じがしたので掃除をはじめる。なんとか部屋の中が綺麗になるころには日も暮れていた。
椅子に腰掛けて少し休憩していると村の人が夕食を持って訪ねて来てくれた。
礼を言って夕食がのった盆を受け取る。
受け取った盆の上には二つの小さい鍋が乗っていた。
鍋はほのかに温かく、蓋の隙間からほんのり湯気が立ち上っている。
「うまそうな雰囲気だけど、なぜか全く匂いがしないな……」
鍋から全く匂いがしない。
ドライアイスで煙を炊いているだけなのではないだろうかと疑うレベルだ。
中身が気になったので早速蓋を開けてみる。
「これは……」
契約通り確かに食事は来た。
だが鍋の中身は塩水に豆が少し入ったスープと少しだけ米がはいった重湯だった。
「まじか……」
こんな食生活では激痩せ待ったなしだ。
結果にコミットするジムでもここまでの食事制限はしないだろう。
俺だって金のないときは米を諦めて三食パスタで凌いだことはあるが、ここまではない。
「これもあるんじゃ〜」
俺が玄関で鍋の蓋を開けたまま固まっていると村長が鍋を持ってこちらへやってくるのが見えた。
村長は俺の目の前に辿り着くと鍋の蓋を開けて中身を見せてくれる。
「おお!」
それは何かの肉の煮込み料理だった。
スパイスがしっかり効いているらしく、肉の香りと絡み合って何とも言えない食欲をそそる香りを放っている。
「これもあるんじゃ〜」
村長はさっきと同じ台詞を言いながら焼き物の容器を俺に見せる。
「それは?」
「酒じゃ」
「おお、いいね!」
俺は酒の入った容器を受け取る。デザートゲットだ。
「それじゃあのぅ」
村長は料理と酒を渡し終えると帰っていった。
「じゃあ食うか」
俺はテーブルに届けられた料理を運ぶと早速口にしてみる。
「……うん、味とかないな」
重湯とスープは一瞬で無くなった。
食べるというより飲んだ感じだ。
カレーは飲み物とか言う台詞を聞いたことがあるが、まさしくそんな感じだった。気がついたらなくなっていた。
「まあ、本命はこっちだしな」
最後に村長が持ってきた肉料理を食べてみる。
「ん、うまいな」
じっくりと煮込まれ、スパイスが効いている。
肉は温かくて柔らかい、かめばかむほど旨味を感じる。
肉独特の臭みは少し強めに効かせてあるスパイスが綺麗に打ち消してくれていた。
重湯と塩スープとは正反対の味の濃さと重さだ。
お腹にしっかり溜まり、そして酒に合う。
村長が持ってきてくれた酒はスーラムで売っているものだろう。
さして特徴のない味の酒だったが肉の味付けが強めなので、その存在感の薄さが逆に相性が良い。
「こいつはいいな……」
俺は重湯と塩スープの百倍時間をかけて肉と酒を楽しんだ後、倒れこむように横になった。
…………翌朝。
とりあえず依頼をこなしていくことにする。
畑や家を荒らすモンスターの全滅が依頼内容となる。
村長の話ではモンスターの数がかなり多いらしい。
俺一人で全ての家や畑を護衛できるわけもないので、守るというよりはこちらから退治しにいく形にしなければならない。
そのため、いきなり被害がなくなるというよりは徐々に少なくなるといった感じになってしまうだろう。
そのあたりに関しては村長にも了承してもらっている。
まずは畑の様子を見ようと移動する。
「これが畑……?」
畑に着いてみるとそれはどうみても雑草が生い茂る草原だった。
(自然農法的な?)
この村の人数が少ないうえに平均年齢が高いため、畑仕事にも影響が出ているのだろう。通りで夕食が質素なわけだ。
というかここを村と表現していいのだろうか、もはや人口的にも限界集落を超えている感じがする。
むしろじいさんが数人でサバイバル生活しているようなものだ。
「んじゃ、早速探していくか」
俺は気持ちを切り替え、モンスターを探そうと畑(仮)で【気配察知】を使用してみる。
聞いていた通り【気配察知】には多数のモンスターの気配が引っかかった。
感じ取った気配から判断すると先日までいたゴブリンの森よりモンスターの密度が高いかもしれない。
(こいつは骨が折れそうだな……)
多数感じられるモンスターの気配はほとんどが戦ったことがあるものばかりだ。
一番多く感じられる気配がホーンラビット、次にスライム、そしてキラーウルフといった感じだった。
(まあスキル上げと割り切ってやれば問題ないか)
気配を探った限りは強いモンスターがいるわけでもなさそうなので時間さえかければ全滅も可能だろう。
俺は職業がニンジャになっていることを確認してから装備を整える。
(ここは弓メインでいくか)
今回は数が多いうえにホーンラビットやキラーウルフといった移動速度が速いタイプのモンスターが多い。逃げられる可能性も考えて弓をメインで使うことにする。
俺は畑から離れると気配を頼りに近くの森の中へと歩を進めた。
…………
それから数日経過した。
狩りは順調に進んでいる。全体の四分の一位のモンスターを倒せたのではないだろうか。
行きにホーンラビットとキラーウルフを弓で狩り、帰りにスライムを倒して帰るのを繰り返して随分と村の周りのモンスターを減らすことに成功した。
まだまだモンスターは残っているが、スキル上げとしての討伐数にはかなりの手応えを感じていたのでステータスをチェックしてみる。
ニンジャ LV4
LV1 【手裏剣術】
LV2 【火遁の術】
LV3 【水遁の術】
LV4 【鍵開け】 (指定した鍵を開けることができる。開けた鍵は閉めることも可能)
「おお!」
やはりスキルレベルが上昇していた。
LV4は【鍵開け】らしい。
火遁、水遁ときたから風遁とか土遁とか雷遁を想像していたが、これまた変化球がきた。
スキル名を見る限りダンジョンで宝箱が出たときに使うようなスキルなのだろうか。日常で使うと犯罪行為認定されて逮捕待ったなしのような気がするスキルだ。
「とにかく試してみるか……」
どんなものか試してみないことには分からないのでその日は狩りを切り上げて家に帰ることにした。
借りている家に辿り着くと早速玄関でスキルを試してみることにする。
使い方が分からないので、とりあえず扉のノブを握って【鍵開け】を使用してみる。
するとガチャリと音がして鍵が開いた。超イージーな仕様だった。
どうやら針金のような物も必要なく、対象に触れてスキルを使用すれば開くようだ。
(確かスキルで開けたものを閉めることもできるって説明にあったよな)
俺はドアノブを握ったまま鍵が閉まるイメージをしてみる。
するとガチャリと音がして鍵が閉まった。
(なるほど、こんな感じなんだな)
感覚は掴めたので次は再利用までどの程度時間がかかるか測ってみると大体三時間ほどだった。結構長めのクールタイムがあるようなので連発は不可能なようだ。
「何かに使えそうなスキルではあるな」
すぐに使用用途が思い浮かぶわけではないが便利そうなスキルだ。
というかここまでのニンジャスキルがどうにも不穏なものしかない。
ニンジャというより盗賊とか泥棒に近い気がするのは気のせいだろうか。
「でもまあ、もう少しでスキルがコンプできるのは嬉しいな」
LV5に到達していないのは残すところ剣闘士スキルとニンジャスキルのみだ。
残り二つとはいえ、先にどちらをLV5に上げてしまうか迷うところではある。
剣闘士スキルは攻撃に絡むスキルが結構出ているので最後は違う気がする。
逆にニンジャスキルは補助的なものが多かったので、最後は必殺技的なものが来る気がする。
(よし、このままニンジャスキルを上げていくか)
最後にドデカイ忍術が来ることを期待しつつ、スキルレベルは引き続きニンジャスキルを上げていくことにした。
…………
翌日からも狩りは順調に進んでいた。
だが一人での作業なのではじめに考えていた通り一気に全て片付くこともなく、もうしばらくはかかりそうだ。
「んむ〜、矢の消耗が激しいな……」
そして狩りが進むにつれて一つの問題が起きてきた。
それは手持ちの矢が減ってきたことだ。
今回は弓をメインで使っているため、随分とストックが減ってきているのだ。
一応再利用はしているがそれでも当たり所が悪いと使い物にならなくなってしまう。
狩っている数が尋常ではないので、どうしても矢の総数が減ってきている状況だ。他の武器での討伐も無理が出ない程度には増やしているが、そろそろ矢の補充が必要になってくるだろう。
「どうしたんじゃぁ?」
俺がそんなことを考えながら歩いていると正面からやってきたおじいさんが話しかけてきた。
どうにも困っているのが表情に出てしまっていたようだ。
ババ抜きが弱い俺にありがちな展開だ。あと仕事のミスも誤魔化せずに顔に出ちゃう。
こんなとき賢者モードでやりすごせるサナダ君が羨ましい。
「いや〜、矢が減ってきちゃってどうしようかなと思って」
「そうかぃ、なぁらわしのをやるぞぉ」
じいさんは俺にそう提案してくれる。これはありがたい。
「お、いいの?」
「ついてきんしゃぁい」
じいさんは俺に着いてくる様に言うと家のある方へ向かって歩きはじめた。
「助かるよ」
俺はじいさんの持っていた荷物を預かるとのんびり後に着いて行く。
じいさんの家に着き、中に入れてもらうと部屋のそこかしこに狩りで獲った獲物から作ったであろう飾りや置物が並べてあった。
「ほっほ〜、じいちゃんは狩りをよくしてるのか?」
鹿の角っぽい置物を触りながら聞いてみる。
こういう置物ってテレビで見たことあるが実際に見るのははじめてだ。
どうにもサスペンスドラマで犯人が凶器に使うイメージしかない。
「毎日やっとるぞぃ。お前さんが毎日食べてる肉はわしがぁとってきたもんじゃ」
そんな回答が矢を取ってくると言って奥に行ったままなので声だけ聞こえてくる。
「おお、いつもご馳走様です」
あのうまい肉はこのじいさんが獲ってきていたものだったようだ。
肉が無いとわびしい食事だったので素直にお礼を言っておく。
「狩りは得意じゃからなぁ。ほぉれ、この矢を持っていきなさいぃ」
そう言ってじいさんは二宮金次郎ばりの薪束のようになった矢を二セットくれた。
これだけあればしばらくなんとかなりそうだ。
「おお! ありがとう。どうしようかと困ってたんだよ」
これで心置きなく弓が撃てそうだ。
俺は矢を受け取ると礼を言いつつ家を出た。
「モンスターがぁ減って皆も助かっとる。この調子で頼むぞぃ。矢が減ってきたらまぁた来なさいぃ」
玄関まで見送ってくれるじいさん。
「おう、こちらこそ助かるよ。ところでアレって何?」
俺は返事をしつつ家の外に見えた木箱のような物が気になって聞いてみる。
養蜂的なものだろうか。ハチミツ下さい! 緊急手伝って! とかが蜂蜜が欲しいときの正式な頼み方だった気がする。
「あれは燻製機じゃぁ」
じいさんから意外な回答が返ってくる。
「おお、頼む! 作り方教えてくれ!」
それを聞いた俺は興奮し、じいさんの肩を掴んで思い切りゆすってしまった。




