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3 ニンニン


 俺、頭隠して尻隠さず。


 やっちまった感が半端ない。


 これで顔バレしないだろうとか思って駆け回っていたが、見る人によっては皮袋を被ったただの変態にしか見えなかったようだ。



「まあ、これで借りは一つ返したからな。俺は細かいから後一つも必ず返す」


「わ……、わかったよ兄貴」


 隠れて行動していたはずなのに全部バレていたショックから立ち直れずに中々言葉が出てこない。相当動揺しているようだ。


「お前に兄貴呼ばわりされる筋合いはねぇ。俺はマーカス、お前に借りを返す男だ」


 そう言いながらマーカスは手を差し出してくる。ちょっとかっこいいから止めて欲しい。



「ケンタだ。今回はありがとう、助かったよ」


 差し出された手を握り、握手を交わす。



「俺もお前には助けられた、お互い様さ。これからどうするんだ?」


 がっちり手を握った兄貴ことマーカスはニヤリと笑うと俺に今後のことを聞いてくる。


 さてどう答えたものか。



「このままのんびりメイッキューを目指す途中だ。冬には少し早いが知り合いもいるんでな」


 詮索されない回答としてはこんなところだろうか。


 これ以上マーカス達をギャングに関わらせるのも忍びない。


 俺との接点は少ない方がいいだろう。



「そうか、俺たちはウーミンへ行く途中だ。お前に着いて行きたいところだが向こうで落ち合う約束があるんでな。残念だが、また縁があったら会おう」


「「っす!」」


「おう、またな」


 俺はそこで兄貴達、もといマーカス達とわかれた。


 一波乱あったが何とか生き残れた。あんなのが俺を探しているのならやはりしばらく身を隠すべきなのだろう。


 俺は気持ちを新たにゴブリンの森を目指した。





 スーラムの大滝へと続く道。


 そこで今しがた、複数の男たちの間でいざこざが発生し、刃傷沙汰までに発展した。争いは決着し、男たちはその場を去った。人気の無くなった観光地へと続く道は以前の静寂を取り戻す。


 すると、茂みから一人の男が、向かいの木陰から一人の女が示し合わせたように姿を現した。


「いやぁ、参りましたね。ドンナが落ちちゃいましたよ」


 男はオーバーアクションに両手でゼスチャーしながら女に近寄る。



「あらあら、あなたが後を追うのにつれないですね」


 女は淡々と後を着ける人物の交代を言いつけた。



「はぁ!? 俺はケンタを着けるんですよね?」


「あらあら、それは今までの話ですよ。聞いてなかったのですか? 今からあなたはドンナ担当ですよ」


 女は面倒な捜索は男に任せて簡単な方へ移る気満々のようだ。



「……はいはい、わかりましたよ。代わればいいんでしょ」


 男は諦め気味に同意する。


「結構。それではまた後ほど」


 女は淡々と事務的な挨拶を済ますと何事もなかったように歩きはじめた。



「行きますよ、行けばいいんでしょ!」


「あらあら、何か不満でも?」


 女は歩みを止めて振り返る。


 振り返る姿が美麗で様になっていたが、男を見る目からは冷酷さが滲み出ていた。


「ありませんよ!」


 男は軽く声を荒らげると滝の方を向いてため息を一つ吐いた。


 ――二人は再び茂みと木陰へ消えていく。





「なんだろう、実家に戻ったかのような安心感があるな……」


 俺はゴブリンの森を前にして、しみじみと呟いた。



 大滝前でちょっとゴタゴタしたがその後は順調に進み、無事ゴブリンの森に到着した。


「まずは、ルーフの家に挨拶でも行くか」


 しばらく滞在するつもりだし、先に行っておいた方が偶然会ったとき気まずくないだろう。


 そう考えた俺はゴブリンの森を抜けてルーフの家を目指す。


「ここに来るのも久しぶりだよな」


 眼前の立派な家を見て呟く。



(さて、中にいるかな)


 扉へと続く石段を上りながらそんな事を思うと、どうにも緊張してくる。


「おーい、ケンタだ。いるか?」


 軽く声を張りながらドアを強めにノックする。


 しばらくするとガチャリと音がしてドアが少しだけ開いた。



「誰だ?」


 顔を覗かせたのは知らない男だった。


 男は妙にごついがたいをしていて、まるで彫像のようだ。



「あ、ルーフいるか? 知り合いなんだ」


 まさか知らない人物が出てくるとは思ってもみなかったので、ちょっと声が上ずってしまう。


 俺のチキンハートは今日も通常運行中だ。


「いや、いない。この家は俺一人で住んでいる」


「え?」


 男の返答に言葉が詰まる。


 だがそこでルーフと最後に会った時に、あいつが言っていたことを思い出す。


(……そういやここを出るって言ってたな)


 確か、しばらくすればスーラムを立って王都へ移動すると言っていた。


「どうかしたか?」


 男が無表情に聞いてくる。



「あ、いや、すまん。この家の前の住人と知り合いだったんだ。引っ越すとは聞いていたが、まだいると思っていたので面食らっただけだ。いつごろ出て行ったか知らないか?」


 聞いても仕方のないことだが気になったので聞いてみる。


「俺がこの家に住むようになったのが二週間程前だ。この家も地主と名乗る男から買ったもので前の住人とは会っていないな」


「そうか、ありがとう。邪魔したな」


「いや、いい」


 男は短く返事をすると扉を閉めた。


 俺は閉まった扉に背を向けると元ルーフの家を後にして来た道を戻る。


「またあいつと酒が飲みてぇな……」


 ちょっと寂しくなるも、こればっかりはどうしょうもないことだ。


「しょうがないか……」


 俺は気持ちを切り替えるとゴブリンの森へ向かった。


 …………


「よーし、こうなったらスキルレベルを上げまくってやる!」


 どの道しばらくここから動けないのでそれなら限界まで上げてやる。


 ルーフもいないし、ずっと森に引きこもり決定だ。


 ……森で生活するのを引きこもりと表現するのか疑問が残るが。



(そうなってくると、まずはどのスキルを上げるかだが……)


 現状上げられるのは剣闘士のLV4とサムライのLV3だ。



 それ以外は最大値のLV5に到達しているのでそれ以上上げることはできない。


 ここは最後の下位職のサムライをLV5にするべきだろう。


 そうすれば上位職が一つ増えて選択肢も増える。



「よし」


 俺は早速職業をサムライに変更する。


「武器はどうするかな」


 今の俺なら剣、短刀、弓と扱える武器も豊富になった。


 選択肢があるのは素晴らしい。


 しかし、ここに来たばかりの頃を思い出すと、この森で武器を選べる日がくるとは思ってもみなかった。


 だが選ぶのはやっぱり……。


「石だな」


 当時よりレベルも上がっているし、わざわざ武器を使って倒す必要はないだろう。無人島で行った一対多数の戦いでも石で乗り切れたし問題ないはずだ。


「よーし、狩るぞ〜」


 俺は首や肩を回して体をほぐす。



 ここでの生活は慣れたものなので思い切りやれる。


 生活拠点を探す必要もないし水場も確保済みだ。


 後はアイテムボックスの食料が尽きにくいように魚などを現地調達しつつ限界まで長居し続けるだけだ。


 食料が減ってきたら最悪スーラムの街で調達しなければならないが、それもしばらく先の話になる。


 どう行動するかも決まったし後はひたすら狩るだけだ。


 これで目の前のことだけに集中できる。



「おっしゃーー! 行くぞーー!」


 俺は雄叫びを上げると木が生い茂る森の中へ飛び込んでいった。


 …………


 それから数週間後。


 川辺で朝食をとりながらステータスをチェックする。


 ケンタ LV14 ニンジャ


 力 73

 魔力 0

 体力 28

 すばやさ 86


 ニンジャスキル LV3


 LV1 【手裏剣術】

 LV2 【火遁の術】

 LV3 【水遁の術】


 狩人スキル(LV5MAX)

 暗殺者スキル(LV5MAX)

 戦士スキル(LV5MAX)

 剣闘士スキル(LV4)

 サムライスキル(LV5MAX)


 無心になってゴブリンを狩り続けた結果、かなりスキルレベルを上げることに成功した。


 サムライも無事LV5に到達し上位職が選択可能になった。


 そして、サムライの上位職はニンジャだった。


 サムライがLV5になったあとはその上位職のニンジャを上げることにして今に至る。

 しかしなぜニンジャ……。


 新しく手に入れたスキルは、サムライスキルLV5の【かまいたち】、ニンジャスキルLV1の【手裏剣術】、LV2の【火遁の術】、LV3の【水遁の術】だ。


【かまいたち】は刀に触れた状態で一定時間の溜めを行うことにより、見えない真空の刃を作り出すというものだ。


 他の攻撃系スキルと同じで発動前後に大きな隙があり、一度使うと十分以上クールタイムが必要になる。真空の刃はそれほどリーチは長くなく、また飛び道具のように飛ばせるわけでもなかった。


 ちょっと長くなる程度だ。


 だが、刃の部分にも真空波がコーティングされるようで刃にかかる負担が減る様子。


 威力の上昇は今一つ分からなかった。


 ニンジャスキルに関してはまだ試していない。


 何とも期待させるスキル名だったので、まとめて検証しようと楽しみにとっておいたのだ。


 それぞれの解説は以下の通りだった。


 LV1 【手裏剣術】 (手裏剣の扱いがうまくなる)

 LV2 【火遁の術】 (火遁の術が使用可能)

 LV3 【水遁の術】 (水遁の術が使用可能)


【張り付く】の時ばりにヴェールに包まれた不親切説明である。



 やっと三つ習得できたのでそろそろ試してみることにする。


 まずは想像しやすい【手裏剣術】を使ってみる。



「あ、手裏剣持ってないわ」


 試してみようと思ったが、よく考えると手裏剣なんて持っていなかった。


 投擲武器はコストが高くなるし、俺には弓があったので武器屋でも気にしていなかった。


 ……それ以前に武器屋に手裏剣なんて売っているのだろうか。


「ナイフとかで代用できるか?」


 俺はそう思ってナイフを投げる仕草をしてみると刃の先から赤いラインが弧を描くように出現した。


「おお! いけるいける!」


 早速適当な木目掛けてナイフを投げてみる。


 その時スキルの感覚に全身を委ねるのも忘れない。



 放たれたナイフは気持ちいい音を立てて木に突き刺さった。


 刃の部分が見えなくなるほど深く突き刺さったわけではないが正確に狙いを定めて投げることが出来るので、これは使えそうなスキルだ。


「片手剣とかでもいけるのかね?」


 俺は次に片手剣を投げるように構えてみる。


「お?」


 しかし、赤いラインは出現しなかった。


 どうやらスキル対応外のようだ。


 その後、石や矢も試してみたがスキル対応外のようで、スキルを使って投擲することはできなかった。


 どうやら【手裏剣術】のスキルは投擲する物の金属の割合が多く、ある程度小さくて鋭利な物でないと対応しない感じだ。


 現状手持ちの武器でスキルに対応できるのは短めのナイフのみだ。使い勝手は良さそうなので、その内武器屋で投擲に使えそうな武器も買いそろえたいところだ。



「まあ、【手裏剣術】はある程度予想できてたし、オードブルみたいなもんだ。ここからがメインディッシュなわけよ」


 残る二つのスキルは【火遁の術】と【水遁の術】だ。


 名前からして期待してしまう。


「まずは【火遁の術】からいきますかね」


 特に期待していたのがこの【火遁の術】だ。


 俺の予想としては火の玉を敵にぶつけるような術ではないかと思っている。


 もしくは口から火を吐くタイプの可能性もある。


 どちらにしてもようやくファンタジーらしい攻撃スキルの入手だ。


 ワクワクが止まらない。


「よし、いくか……」


 俺は意を決して【火遁の術】を発動させようとスキルを意識して流れ出てくる感覚に身を任せる。


 今までも散々感じた不思議な感覚が体を巡るのを感じる。


(うし、これはうまく発動するパターンだ)


 俺もスキルを何度も使ってきたせいか何となく上手くいくか失敗に終わるかが分かるようになってきた。スキルが発動する数瞬の間に気持ちが高ぶる。


(来たッ!)



 ――ボフッ。


 スキルが発動すると座布団ごしに大音量の屁をしたかのような音と同時に自身の周りに大量の煙が発生した。


 煙の勢いは凄まじく、八畳間で煙タイプの殺虫剤を使用したかのような有様だ。



「うおっ」


 予想外のことに驚いて声が漏れる。


 俺は慌てて煙から離れようスキルを発動した地点から移動するも、自分自身から煙が発生しているらしく煙もついてくる。


(煙はやばい! 一酸化炭素中毒になるって!)


 火事でのポピュラーな死因の一つに煙に巻かれてぽっくりというのがある。


 超ヤバイんだってばよ!


「むおおおお!」


 パニックになりながら火事のときは身を屈めて口をハンカチで覆うのが正解だったと思い出し、身を屈めるも煙が自身から発生しているため意味がなかった。


(くそっやばい! 息が……ってあれ?)


 これだけ煙を吸い込めば息苦しくなるはずなのに体に異常はなかった。


 そして段々冷静さを取り戻してくると煙が発生しているのに周りがよく見えることに気づく。


 どうやら煙が透けていて周囲の様子が問題なく見えるようだ。


「お?」


 しばらくすると煙が消えて元の状態に戻った。


 今起こったことを分析してみるとどうやら【火遁の術】は…………。




「煙幕かよ!」



 煙幕だった。





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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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