1 再会
本作品は残酷なシーンが含まれます。そういった描写に不快感を感じられる方は読むのをお控えくださいますようお願いします。
あらすじにも書いてありますが本作品は残酷なシーン、登場人物の死亡、主人公が殺人を犯す描写が出てきます。なろう内の投稿作品を見ていると該当話の前書きに注意書きをするのをよく見受けますが、本作は該当シーンがネタバレになる部分もあるため前書きでの注意喚起は行わない予定です。また、そのシーンを読み飛ばして読んでも意味が分からなくなってしまうというのもあります。そのため冒頭に当たる第一話での注意喚起とさせていただきます。ご了承ください。
本章はいわゆる胸くそ展開があります。ご注意下さい。
夏の日差しが森の木々に反射し、深緑がきらきらと白く輝いている。
まだまだ夏真っ盛りのせいか雲ひとつない晴天だ。
じっと立っているだけでも汗がじわりと滲んでくる。
だが眼前の景色を眺めているとその暑さも和らいでくる。
今、俺の目の前にはスーラムの大滝がある。
数日前からウーミンの街を離れ、ゴブリンの森を目指している途中で折角だからと、ついでに立ち寄ったのだ。視界一杯に広がる大滝はなんとも涼しげで見ているだけで癒される。
ここまで来ればあと少しで目的地に到着できるだろう。
ウーミンではトラブルに巻き込まれてしまったので、しばらくゴブリンの森で身を隠すつもりだ。
「あいかわらずデカいなぁ」
大滝を前にそんな言葉が自然と漏れる。
滝から舞い上がる細かくなった水飛沫が辺り一面にたちこめ、巨大な雲の上にいるような錯覚を味わう。
そんな大滝を眺めながら酒の入った木のコップを傾ける。
(大自然を肴に一杯とか贅沢だよなー)
俺はそんなことを思いながらステータスを開く。
ケンタ LV14 暗殺者
力 73
魔力 0
体力 28
すばやさ 86
暗殺者スキル (LV5MAX)
狩人スキル (LV5MAX)
戦士スキル (LV5MAX)
剣闘士スキル (LV4)
サムライスキル (LV4)
(スキルも大分揃ってきたなぁ)
MAX表示が並ぶ様を見ていると頬も緩んでくる。
この世界に転生したときはどうなることかと思ったが、なんとか今日まで生きている。
正直何度か危険な状態になったが、この世界なら普通の範疇のことだ、と思う……。これから先も危険はあるだろうし気をつけて行動していきたい。
今後の予定はゴブリンの森についたら数ヶ月そこで生活し、その後はメイッキューの街で冬を越えるつもりだ。
折角ゴブリンの森で長期間生活するのだし、ここはスキルレベルをしこたま上げていきたい。ウーミンの街に行って分かったがゴブリンの森ほどスキル上げに適している場所は中々ない。今の自分にとっては非常にありがたい場所である。
「そろそろ行くか」
俺はコップに入った酒を飲み干すと大滝に背を向けてゴブリンの森を目指して歩きはじめた。
…………
しばらく歩いたところで正面から人がやってくるのが見えた。
本来森を一人で歩くなんて異世界から転生したボッチ冒険者くらいだがここは観光スポットで比較的安全が確保されているため、一人でここまで来るのも一応おかしくはない。
俺がすれ違えるように少し道の端に寄ったところで相手が急に勢いを増してこちらに走ってくるのが見えた。
(なんだ? もしかして強盗か?)
そう思い、腰の剣に手をかけて目を凝らすとそれは見知った顔だった。
「おーーーーーい! ケンちゃーーーん!」
手を振りつつ大声を出してこちらへ勢い良く駆けてくるのはウーミンの街で臨時パーティを何度も組んだよっしーことヨハンだった。
いつも一緒にいた、もっすんとゴマダレは側にいないようで一人の様子。
あの三人組には命を助けられたこともある。
「おーー! 久しぶりーー!」
ウーミンでの狩りに懐かしさを覚えた俺も大手を振って返す。
よっしーは息を切らせつつこちらまで走ってきてくれた。
「いや〜、ダッシュとかかなりきついわ〜。歳かも」
「おう、元気そうだな。今日は一人なのか?」
いつも三人一緒に行動していたところしか見ていないので一人でいるところを見るのは何とも新鮮だ。
俺の中では三人で一人の人間くらいの認識だった。
「ああ、今は別行動中なのよ」
「なるほど。で、姉さんってのは結局見つかったのか?」
三人がウーミンの街を出る理由になったのが待ち合わせていた姉さんなる人物が来ないから捜しに行くというものだったので、その事が少し気になり聞いてみる。
「あ〜、それな。見つかったぜ」
「おお、良かったな」
どうやら捜していた人には無事会えたようだ。
「まあな、でも面倒なことにもなっちまってな」
「面倒? また行方不明にでもなったのか?」
もしくは単独で行動していたようだし、ケガでもしていたのだろうか。
「いや、今日は一緒にいるぜ」
余り浮かない顔のままよっしーはそう告げる。
「ん? どこに?」
俺が辺りを見回すのと同時に茂みを踏みしめる足音が聞こえてくる。
「テメェがケンタか?」
声のする方を向けば木陰から死人のように青白い肌をした女が出てきた。
青い目と金髪は色素が抜けたように薄い色をしている。
だが、口元は獰猛さを隠せないほど歪に湾曲していた。
服装は軽装のため肌の露出度は高いがそこから見える手足は女の体とは思えないほど鍛え抜かれた筋肉をまとっていた。なんか凄く強そうではある。
「あんたがドンナ姉さん?」
ゴリラと聞いていたのでもっと動物臭がする外見かと思ったがどちらかというと洋人形を思わせる。服装はちょっと露出が多い感じで刺激的だ。
「テメェに姉さん呼ばわりされるいわれはないがな」
ドンナ姉さんはそう言いながらギロリと視線をこちらへ向けてくる。
幽鬼のようにおぼろげで薄い色の目なのに見つめられると威嚇されているようで体が固くなる。
「あ、はい。どうもはじめましてドンナさん」
どうも外見とはちぐはぐな口調に違和感を覚えつつも改めて挨拶する。
「挨拶は抜きだ。テメェに聞きたいことがある」
「はぁ、何でしょう?」
「海賊のアジトでオヤジを殺ったのはテメェか?」
ドンナさんは睨んでいるわけでもないのに目が合うと自然と体に緊張が走る。
「オヤジ?」
何か話の内容からデンジャースメルが漂い始める。
オヤジと呼べる年齢の男なら何人か殺ってしまっている気もするので即否定もできない。
「ああ、そうか。名前はハーゲンだ」
ドンナさんは俺に伝わらないのを察して名前を教えてくれる。
しかしその名前は俺が今、身を隠そうとしている理由に大きく関わる奴だった。
「……いえ」
意図せず回答がワンテンポ遅れてしまう。怪しまれただろうか。
「そうか、ならいい。もう行っていいぞ」
どうやら特に問題はないと判断されたようで帰らせてもらえるようだ。超怖い。
「ケンちゃんまじゴメンな。姉さんがどうしてもって言うからさ」
よっしーは片手を顔の前でエアチョップするような仕草をしつつウィンクする。
「いいって。俺は海賊のことも良く知らなかったし、分かってもらえたならそれでいいよ」
俺はドンナの追求が弱くて助かったと心の中で安堵する。
あまりこの場に居たくないのでさっさと立ち去ろうと足を速めた。
「また、飲みに行こうぜ!」
「おう、二人にもよろしくな!」
俺はよっしーに軽く手を振ると二人の側を通り過ぎようとする。
まさかよっしー達がハーゲンと関わりがあるとは思ってもみなかった。
というか知り合いってことはギャングなのだろうか。
俺がそんな事を考えながら二人の横を通り抜けた瞬間、斜め後ろから殺気を感じとる。
通り過ぎ様に盗み聞きしようと発動させていた【聞き耳】も不穏な物音を察知し、その気配が正解だと告げる。
俺は身を翻しつつ、その気配をかわして片手剣を抜いた。
体勢を整え、もう片方の手でナイフも抜いて構えをとる。
殺気を感じた方を見るとドンナが殴った腕を戻して構えなおすところだった。
「チッ、かわすんじゃねぇよ」
舌打ちをしながらこちらへ視線を向けるドンナと目が合う。
全身を見るも武器は持っておらず、単に殴りかかってきたようだった。
「よっしー! これはどういうことだ!?」
話の通じなさそうなドンナは無視してよっしーに問いかける。
「ケンちゃん悪いな〜。まじすまんわ」
そう言いながら槍を構えるよっしー。
よっしーと相対していると背後から茂みを踏み分ける足音が聞こえてくる。
「おいおい、聞かれたら説明してやれよ」
「よっしー、まじ自分勝手」
聞き慣れた声が背後からするので顔だけ動かしてみれば木陰からもっすんとゴマダレが出てくるところだった。
(囲まれたか……)
この状態は洒落になっていない。
ドンナの強さは未知数だが、よっしー達の連携は手ごわい。
このままでは数秒で追い詰められるだろう。
「説明するも何もお前がオヤジを殺ったんだろ? さっきドモったよな?」
ドンナが俺の知りたいことに答えてくれる。
(バレてたか……)
言葉より質問したときの表情でバレたのかもしれない。
ドンナの顔を見る限り俺が殺ったと確信を持っている様子だ。
「あんたの顔が怖いからビビッただけだよ。そんな奴は知らないな」
すり足で間合いを調整しながら全員を見回す。
……こうなってくると戦闘は避けられないだろう。
「いいさ、後でじっくり聞いてやる。だから今は大人しく殴られろ」
そんな台詞と共にドンナの構えた両腕がまるで内出血したように赤黒く染まる。
常人にはありえないその腕の変化には見覚えがあった。
(……あれはハーゲンと同じ能力だな。けど肘くらいまでしか変色してないな)
海賊のアジトで戦ったハーゲンは自身の腕を変色させ金属の様に固くしていた。
きっとドンナの腕も同じ状態なのだろう。
だがハーゲンと同じように腕が染まるも肘辺りでファイヤーパターンのようになって途切れている。
ハーゲンのときは肩近くまで変化していたがドンナは肘辺りまでだ。何か違いがあるのだろうか。
とにかくあの拳に当たるとまずい。あれで最近死にかけた。
自然と剣を握る手に力がこもる。
「悪いな、オヤジに残った傷跡がケンちゃんの戦い方に似てるって言ったら姉さんが食いついちゃってさ。まあ、犬に噛まれたと思って諦めてよ」
いつもの軽い調子で言いながら間合いを調節するよっしー。
「まあ、狂犬だけどな」
盾を構えて攻撃を受ける姿勢になるもっすん。
「自分のこと狂犬とか言っちゃうもっすんに痺れるわ~」
短槍を構えてジリジリと走る姿勢へ移るゴマダレ。
三人は以前と同じ調子で楽しげに話しているがその内容が凶悪なものに変わっていた。表情や口調はヘラヘラしたものだが武器の構えに隙は見られない。
全員俺にジリジリとにじり寄って来ている。
(よっしー達は連携がうまい。逆にドンナって奴は話し方からして暴走気味な感じがするし、切り崩すならそこだろうな)
この人数相手に向こうの出方を待ってから行動していては危険だ。
俺はドンナを狙うことにして地を蹴る。
「はんッ! いい度胸じゃねぇか!」
俺を迎え撃つようにドンナもこちらへ駆けてくる。
多分拳を打ってくるつもりだろうが向こうは素手なのでリーチが短い。
俺は剣を突き出して相手の攻撃範囲外から攻撃しようと試みる。
「ほれっ」
ドンナは突き出した俺の剣を赤黒く染まった拳で軽く弾いてそらすと、そこから体を捻って上段回し蹴りを放ってきた。その蹴りは速度や鋭角さからスキルの影響を受けているのではと予測させるものだ。
俺はそれを屈みこむようにしてかわし、姿勢を戻して立ち上がる勢いを利用しナイフで斬りつける。
ナイフは【短刀術】の影響で流麗な軌跡を描いて戻る脚を浅く二回斬りつけた。
俺はそこで手を休めずに一気に肉薄する。
スキルの勢いに任せてそのままナイフで連撃を放つ。
「おーおー、やるじゃねぇか」
そんな俺の連撃をドンナは赤黒い拳で軽く弾く。
連撃が防ぎきられると今度はドンナが殴りかかってきた。
「オラッいくぞ! ほらほら!」
ドンナの攻撃はハーゲンのように拳一辺倒ではなく、拳と蹴りが入り混じったもので遠くから見ればまるでダンスでも踊っているように見えただろう。
俺はその連続攻撃をかわし続ける。攻撃のスピードが速いうえにすぐ次の攻撃がくるので防戦一方になってしまう。
「グッ」
俺がドンナの攻撃を必死で避けていると横っ腹を激しい痛みが襲う。
「隙ありだぜケンちゃん」
よっしーの声が側面から届く。
俺はドンナの攻撃を片手剣で弾いて距離をとる。痛みを感じた部分を見れば腹の側面が切れていた。この傷はよっしーの槍によるものだろう。
俺が荒い息を吐きながらドンナとよっしーの二人に気をとられた次の瞬間、反対側面から強い衝撃を受けて激しく突き飛ばされた。
地面を転がりながらそちらを見ればもっすんとゴマダレに盾を活かした体当たりをされたのが分かった。
「そっちばかり見ていていいのか?」
声のする方からはドンナが駆けて来るのが見える。
「行くぜケンちゃん!」
槍を持ったよっしーもこちらへ走ってくる。
「オラァッ」
俺がふらつきながら立ち上がろうとする瞬間を狙ってドンナの蹴り上げがまともに腹部に入り、仰向け気味に吹き飛ばされる。
「ウッ」
強い衝撃を受けて一瞬宙に浮き、強烈に背中を地面に叩きつけてしまう。
俺が仰向けに倒れて動けなくなったところによっしーの槍が喉元に突きつけられた。
「ケンちゃん、これで終わりだわ」
そう言うよっしーの顔は以前と変わらず軽い感じだ。
確かに俺に突きつけられた槍を避けるのは難しく、完全に詰みの状態だ。
今までの激しさがウソのように全員の動きがピタリと止まる。
「姉さん、どうしますか?」
槍を構えたままよっしーが後ろにいるドンナへそう質問する。
「もういい。殺せ」
俺に興味を失ったのか、ドンナが物騒なことを言いはじめる。
ドンナは俺に背を向けて歩き出す。
それを合図に俺とよっしーの目が合う。
「おいおい、この間助けてもらった借りも返せていないのに勘弁してくれよ」
「ケンちゃん。この間のと今日のでプラマイゼロってことでいいじゃん? 言うなれば貸し借りゼロってわけよ」
そう言い終わると槍を振りかぶるよっしー。
その行動に溜めはなく一気に槍がこちらへ迫ってくる。
「冗談きついわ」
そうよっしーに返しながら必死で考える。
槍が俺の体へ届くまであとわずかの時間しかない。
【剣戟】で弾けないこともないが、そのあと確実にもっすんとゴマダレの追撃が来るだろう。
だが他にできることもなく、とにかく槍をしのごうと【剣戟】を発動させてよっしーの槍を弾く。
俺はそのまま後転するようにして距離を離しながら起き上がる。
「こういう借りの返し方には納得できないな……」
俺は傷を押さえながら四人との距離を確認する。
丁度今の起き上がりで全員が前方にまとまった形にはなった。
だが予想通りもっすんとゴマダレが前衛にシフトし、俺へと体当たりを仕掛けてくる。
(二人一辺とか無理だろ……)
二人とも盾で身を隠しながら体当たりを仕掛けてきているので剣で攻撃してもあまり効果が期待できない。
(このまま逃げるか)
全力で逃げたとしても四人相手に振り切れるか疑問だ。
逃げ切れなかったら後がなくなってしまう。
「クソッ」
俺がそんなことを考えている間に二人は眼前に迫っていた。
結局何も考えが浮かばず反射的に構えをとって攻撃に備える。
「おいおい、俺の借りを返す前にそいつを殺されちゃあ困るんだよなぁ!」
「グアッ」
が、次の瞬間、どこか聞き覚えのある声がしたと思ったら、よっしーが背中を斬られて声を上げるのが見えた。
だが斬った男はここからではよっしーの体が邪魔でよく見えない。
「よっしー!」
「てめぇ!」
もっすんとゴマダレが俺への体当たりを止めてよっしーの方へ振り返る。
よっしーの背を斬った男にもっすんとゴマダレが睨みを利かせて接近する。
「「すっ!」」
よっしーを斬った男の方へもっすんとゴマダレが向かった瞬間に背後から二人の人影が掛け声と共に茂みから飛び出し、もっすん達に体当たりしているのが見えた。
俺はこの混乱を利用して一気にバックステップで距離を離して状況の把握につとめた。
全体を見渡したことにより、よっしーを斬った人物が視界に入る。
それは懐かしい顔だった。
「兄貴!」
そこにはスーラムの街で新人達を指導していた兄貴がいた。
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