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15 テラペタエクサゼタ


 翌日になり、予定通りお隣のダンジョンへ行ってみることにする。


 この立地条件のダンジョンなら他にもやっておきたいこともあるし、本当にありがたい。ショウイチ君はパソコン作りに忙しいのでダンジョンへは俺一人で行くことになった。



(まあ、一人の方がありがたいな)


 今回はダンジョンで済ます用事のこともあるので一人で行く方が助かる。


 装備を整え、職業を暗殺者にしておく。


(ん〜剣闘士も上位職なんだし、そっちにしてみるべきか?)


 少し迷うが、こういうとき惰性でついいつも通りにしてしまう自分がいる。


 レベルは上がりにくい上に、能力値の振り直しは出来ないのであまり冒険をしたくないのも事実だ。


 …………


 俺はダンジョンに着くと隠蔽系スキルを全開にして少し奥まで進んだ。


 このダンジョンもメイッキューにあったダンジョンと外見は変わらないが少し通路が大きい。場所を広くとって戦えるのはありがたい話だ。


「この辺でいいか……」


 入り口からも見えず、少し広けた空間で立ち止まる。



 まだモンスターを発見していないが、先にやっておくことがあったのだ。


 俺はアイテムボックスからメイッキューの街で殺したギャングの死体を取り出していく。



(これでやっと処理ができるな)


 それなりに時間は掛かったが、結構な数があったため中々処理できずにいたギャングの死体を全て床に敷き詰め終わる。後は放置しておけばダンジョンが死体を喰ってくれる筈だ。


 このままダンジョンに喰われるのをじっと見守っているのも時間が惜しいのでそのまま奥へ進み、モンスターを討伐しに行くことにする。



「あばよ……」


 俺は死体に別れを告げると奥へと進みはじめた。


 …………


 慎重に奥へ進むと【気配察知】がモンスターの気配を感じ取る。


 だが、今までに感じたことのない気配でどんなモンスターかは分からない。


 俺はモンスターの気配を頼りにゆっくりと対象へ近づいた。


「おお……? おおおお……!?」


 気配のする方へ近づき、壁際から頭だけ出して様子を窺うとそれはいた。


 人型の骨だ。


 骨だけなのに直立して動き回っている。


 スケルトンって奴だろう。


 だが問題はそこではなかった。


(ちょっとデカ過ぎませんかね?)


 ざっと見て四〜五メートルはありそうだ。


 トロールよりもデカい。


 片手にはその大きな図体に見合う大斧を持っている。


 大斧といっても錆び付いてボロボロになっているため鈍器に近い状態だ。


 あれが錆び一つない状態だったとしても大き過ぎて俺には扱えないだろう。


 注意深く見ると肋骨の中と頭蓋骨の中にスライムの核のような黒く濁った玉が見える。


 あれが急所なのだろうか。


(……倒せるのか、あれ)


 急所は頭と胸なのだろうけど、骨々しい他の部分に攻撃が通るか疑わしい。


 今までの生き物系のモンスターなら脚を斬れば殺さなくても動きを制限できたりしたが、あの骨の脚を斬って効果があるのだろうか。



 あれだけ大きな骨の切断は難しそうだし、かなり危険な感じがする。


 接近しても急所の核が上方にあるため、剣やナイフでは届かない。


【跳躍】を使えばいけるが、そこまで接触してしまうと逃げることは難しくなるので倒しきらないとまずい。逃げられる状態を確保しながら戦うのであれば接近は避けて弓のみでいくべきだろう。


(弓で様子をみて駄目そうならショウイチ君に聞いてみるか)


 俺は弓を構えるとデカいスケルトンの前に移動した。多少距離が離れているので【気配遮断】の効果もあり、向こうには気づかれていない。


 本当は背後に回りたかったが背骨が邪魔をして核を狙いにくいので正面からの攻撃となった。


【弓術】を使用してスキルに身を任せる。


 僅かな冷気を感じつつ弓を射る経験が全身を満たす。


 弓を構えた俺は矢の先から出現する赤いラインを肋骨の隙間から見える核に合わせる。


 スケルトンは巨大なだけあって肋骨の隙間も大きくなっている。


 また、肋骨の内側にある核もかなりの大きさで隙間から矢を侵入させれば必ず当たる大きさだ。


 そのためスキルの力を借りればさほど難しさを感じずに当てられるだろう。



 スケルトンがゆっくりと歩き回るので、しばらく弓を構えて様子を見ながらタイミングを見極める。


「フッ」


 俺はスケルトンが立ち止まった瞬間を見逃さずに、短く息を吐くと同時に矢を放つ。放たれた矢は凄まじい勢いで肋骨の合間を縫って核を貫いた。



 すぐさま次の矢を弓に番える。


 スケルトンは少し仰け反ったあと辺りを見回して俺を見つけた。


 攻撃が当たった影響で【気配遮断】の効果が切れたのだろう。



 スケルトンは骨しかないためか鳴き声のようなものを発することはなく、顎の骨をカチャカチャと鳴らしながら上下させると大斧を構えてこちらへ向かってきた。


 こちらへ直進してきてくれるので狙いはつけ易い。


「フッ」


 再度同じ要領で弓を射る。



 矢は問題なく核を貫く。


 さっきより近距離で当たったためか矢は核に深々と突き刺さった。


 矢を受けてより大きく仰け反るスケルトン。


 俺はさらに矢を番えて構える。構えた姿勢のまま【縮地】を五連続発動して距離を稼ぐ。


 弓の構えが万全になるころにスケルトンが姿勢を直してこちらへ来ようとしたので、すかさず矢を放つ。


「フッ」


 矢は吸い込まれるように核を穿つ。



 三発目の矢が止めとなったようでスケルトンはその場で骨をバラバラに散らばらして崩れ落ちた。


 近寄って様子を見ると頭蓋の中にあった核も朽ちていた。


 どうやら二つの核は連動しているようだ。



 スケルトンがダンジョンに喰われるのを見届けて矢と魔石を回収する。


「ん〜、一応無傷で倒せたけど、事故率高そうだな」


 一戦を終えての感想としてはそんなところだった。


 矢を三発外さずに当てなければならず、他の攻撃手段は急所の位置関係から当て辛い。他の部位に攻撃を当てても効果が薄い上にこちらの武器が傷みかねない。


 位置取りに失敗したら目も当てられない状況になりそうな予感がひしひしとする。



(深追いするのはやめてショウイチ君の話を聞いてからにしよう)


 ここは無理をせず、アドバイスを求めるべきだろう。


 そう判断した俺は一旦ダンジョンを出て、ショウイチ君の部屋へ向かった。



「ショウイチ君、ちょっといい?」


 コタツのある部屋で作業するショウイチ君に声をかける。


「どうしました?」


 執筆作業の手を止めて顔を上げるショウイチ君。


「いや、ダンジョンに行ったんだけどモンスターが倒しにくくてさ。ショウイチ君はどうやって倒してたの?」



「ビッグスケルトンですよね? あいつなら魔法でドーン! って感じっすね」


「ドーンかぁ……」


 どうやらあのモンスターはビッグスケルトンと言うらしい。


 そして倒し方はドーンらしい。だが俺はドーンができない。



 何か解決策が見つかるかと思ったが、これは俺には相性の悪いダンジョンかもしれない。


 せめてスケルトンの身長が低ければなんとかなったかもしれないが、あの大きさだとやりにく過ぎる……。


(あ、ショウイチ君に錬金術で何か作ってもらえないかな)


 錬金術で便利アイテムを作ってもらって、ダンジョンを攻略するのはどうだろうか。


 ふとそんなアイデアが浮かぶ。


 早速できないか聞いてみる。



「そういや、錬金術って何でも作れるの?」


「一応できますけど複雑な物になればなるほど魔力消費が激しいのでパーツごとに作っていかないと無理ですね」


「へぇ〜、じゃあ銃とか作れる?」


 色々制限がありそうだが、どの程度の物が作れるか分からないので試しに聞いてみる。


「多分作れますけど、弾丸が切れたら使い物になりませんよ?」


 一番安直に思いついたのが銃だったが確かに弾丸が切れればただの鈍器に早代わりだ。


 肝心の弾丸も一々作ってもらわねばならないので、大変な作業になってしまう。


 そう考えると現実的ではないだろう。



 何を作ってもらうにしても消耗品だと結局ショウイチ君の負担が増えるだけだし、やはり良い考えではない。でも魅力的な能力なので何かできないものか。



「剣とかは?」


「作れますけど性能は売ってるのと変わらないですね」


「なるほど」


 武器の類は作ってもらってもあまり意味がなさそうだ。ちょっと飛躍したものはどうだろうか。


「じゃあバイクとか作れる?」


 戦闘とは関係ないが徒歩での移動だと長距離は大変なので聞いてみる。



「できますけど、パソコン作りに魔力使うんで無理ですよ?」


「まじか〜」


 残念ながら無理なようだ。でも今の口ぶりだとやろうと思えばできそうな感じだったのが怖い。



「もっと簡単なのとかないですか?」


「簡単なものねぇ……そうだ!」


「何かありました?」


「爆弾とか作れる?」


 構造が単純そうで高威力。魔法が使えない俺には頼りになりそうなアイテムだ。


 これしかない。


「あ〜、それなら作らなくてもありますよ」


 そう言ってショウイチ君は部屋の隅をゴソゴソと探し回ると、十センチ四方の黒い立方体を出してきた。


「え、それって爆弾なの?」


 すごいぞんざいに置かれてた気がするが、大丈夫なのだろうか。


 ショウイチ君がゴソゴソしていた辺りにはまだ数個同じ物が無造作に置かれている。


 ……誤爆とか誘爆とかしないのだろうか?


「もともとは一エクサのハードディスク作ろうとしたんですけど、ちょっと小型化しすぎちゃって爆発するんですよね」


(一エクサって何だよ! 聞いたことない単位だよ! どんだけエロ画像収集する気だよ!)


 口に出して突っ込みたいのをグッと堪えて話を進める。


「どうやって起爆するの?」


「すごい不安定なんで、あと少しでも魔力を入れると大爆発を起こしますよ。僕もはじめはびっくりしましたよ」


 そりゃハードディスクが爆発したらびっくりするわ。



「俺魔力ないけど起爆できる?」


「あ〜、ちょっと待ってくださいね」


 ショウイチ君は片手を目の前で広げて何やら集中しはじめる。


 しばらくすると掌の上で青い光が収束し、レバーのようなものが現れた。



「今、即席でリモコン作ったんでこれでいけますよ。六個ボタンがあってそれぞれが番号をふった爆弾に連動している形にしてみました」


「って、六個もあるんだ……」


 注意深く見ればまるで汚部屋に散らかる空の弁当箱のようにその辺にゴロンと黒い立方体がある。


 ちょっと……この部屋大丈夫なの?


「ハードディスクへの道は遠いです……」


 そう呟いたショウイチ君はどこか黄昏た表情を見せる。



 容量落とせばいけそうな気がするんだが言わないでおこう。


 そしたらまた爆弾できそうだし。


 しかしこの爆弾、どの程度の威力なのだろうか。


「ちょっと試し撃ちしていい?」


「いいっすよ。じゃあ外出ましょうか」


 というわけで二人で一旦外に出る。


 早速外に出て適当な岩に爆弾を置こうとしてみるも岩の表面が歪んでいるので安定しておくのに苦労してしまう。


 早く起爆したいのにその前でモタモタしてしまい、ちょっとイライラしてしまう。


「ん〜、ガムテ使います?」


 それを見かねたショウイチ君は掌を光らせるとガムテープを出した。


 ちょっと反則臭いぞこいつ。


「お、おう、助かるわ」


 俺は動揺しながらもガムテープを受け取り、岩に爆弾を貼り付けて離れる。



「どれくらい離れたらいい?」


「そうっすね。あ〜それぐらい離れたら大丈夫っすよ」


「おし、んじゃ起爆するぞ」


 俺はレバーの蓋を開けて爆弾に対応したボタンを押し込んだ。


 その途端、ドオオオオオオオンッ! と洒落にならない爆音が轟く。



 それと共に軽い衝撃波が俺を襲った。


 あまりに激しい土煙に顔を背けてしまう。


 静かになったので恐る恐る顔を上げると爆弾をセットした岩がなくなっていた。


「おお……」


「ね、爆発しちゃうでしょ?」


 そういやハードディスクだった。



「いや、でもこれは使えそうだわ。貰っていいの?」


「いいっすよ。ご馳走してもらったし、僕には魔法があるんで爆発物なんて必要ないですからね」


「じゃあ、貰っておくわ。ありがとうな」


 ショウイチ君にお礼を言いながら改めて消し飛んだ岩を見てみる。


 岩は当然のように綺麗になくなっていて、周囲の地面はごっそりと抉れてクレーター状になっていた……。


 ……恐ろしい威力だ。


 こんな物があと五個もあるとは心強い。


 そしてそんな物がゴロゴロしてた部屋が恐ろしい。


 ショウイチ君のハートが意外にアイアン。


 岩があった崖は障害物がなくなったせいで見晴らしが良くなり、海が一望できるようになってしまった。


 ここから眺めると少し高台にあるせいか、辺りがよく見渡せる。


 この周囲では今いる島が一番大きいようだが、大小様々な島が点々と海面を彩っているのがよくわかる。


 なんともいい眺めだ。


「なんか見晴らしが良くなっちゃいましたね」


「悪い。ショウイチ君の家からもう少し離れたところでやればよかったな」


 などと会話しながら二人で景色を眺めていると一隻の船が目に入った。


「こんな所でもあんなでっかい船が通るんだな」


 小さな無人島がいくつもあるので、あの大きさの船だと操縦が大変そうだ。


「いや、どうでしょう? はじめて見ましたけど迷ってるんじゃないですか?」


 ショウイチ君にそう言われて様子を見てみるも、特に慌てているようには見えない。



 目を凝らしてみると、どうも船に違和感を覚える。


 漁船にしては巨大すぎるし、見た目がボロボロで廃船寸前といった感じだ。


 船上を巡回している人物を見ると堅気の感じがしない。



「あれって海賊船じゃね?」



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