14 サナダ君の知り合い
とりあえずコミュニケーションを図ってみる。
「煙突掃除とかで掃うのは?」
「すす」
「イエーーイっ!」
大 成 功 ☆
意志の疎通がとれた気がしたので、俺はハイタッチの構えをとる。
すると青年もすっごい躊躇して照れながらもハイタッチを返してくれた。
なんかこういうことをやってると、よっしー達の悪癖が移った気がして時間差で妙にへこむ。
そういえば俺には【聞き耳】があったのを思い出す。
早速使用して相手の小声を聞き取ろうと試みる。
「俺に何か用?」
「あの、少しそれをわけて欲しいっす」
青年は俺の料理を指差してそう言った。
やはり、ただ声が小さかっただけのようで、スキルの効果で問題なく聞き取れた。
「いいよ〜。こっちで一緒に食おうぜ」
そう言って俺の隣の地面をバンバン叩く。
「ありがとうございます」
青年は恐る恐るといった感じで俺の隣に座る。
「未成年? お酒も大丈夫?」
「あ、大丈夫です。いけます」
大丈夫らしいのでビールの入った木のコップを渡す。
恐縮しながらコップを受け取る青年を見ながら俺は考え込む。
青年に対して気になることが山ほどある。
山ほどありすぎて何から聞いたらいいのか分からない。
(面倒だから全部聞こう)
こういうのは全部聞くに限る。
「え〜っと、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はい」
「なんでこの島にいるの? あと、この島ゴブリンだらけだったと思うけど、どうやって生活してたの? あと、その服どこで手に入れたの? あと、君の名前なんていうの? ちなみに俺はケンタね」
俺が一気にまくし立てるように聞いたので青年は最初、面食らっていたが、しばらくすると落ち着いて答えてくれた。
「えっと、この島で生活しています。家にいたのでゴブリンが外にいても平気でした。服は自分で作りました。名前はショウイチって言います。よろしくお願いします」
ショウイチという名前でTシャツにジーパン。
転生者で間違いないと思う。
さらに緊張しやすく人見知りな感じで妙に丁寧な言葉遣いがその予想を確信にさせる。
「ショウイチって名前でその服ってことは、もしかして転生者だったりする?」
「あ、はい。ケンタさんももしかしてそうですか?」
「俺も俺も〜。一年前に転生して色んなところを回ってるとこ」
大して話していないがショウイチ君なら自分のことを話してもよさそうな気がしたので打ち明けてみる。仕草や話し方が本当に元の世界の内気な青年といった感じだったのだ。
俺もこの世界に来て色んな目にあったので人を見る目はかなり養われたと思うし、大丈夫だろうと判断した。大丈夫だよね?
「そうでしたか。僕は四年程前になりますね」
「え、四年で転生ってことは成長した状態で転生したの!?」
「あ、はい。ケンタさんもそうですよね?」
「そうそう。だから勇者と違うからどうやって転生したのか分からなくて気になってたのよ。ショウイチ君は何かその辺のこと知らない?」
どうやら俺と同じ条件で転生したっぽいので聞いてみる。
「あれ? 夢で前任の人と会いませんでしたか?」
「夢?」
「はい。勇者の方は僕も詳しく知りませんが。僕達の場合は異世界に転生した人が亡くなるのと同じタイミングで元の世界で死んだ人が入れ替わりで転生召喚されるそうです。前任の人も何代目かなので、一番最初の人がどうやってこの世界転生したのかまでは知らなかったですけど……」
「へぇ〜、そういう仕組みで転生しちゃうんだ」
「そうみたいですね。僕もはじめはびっくりしましたよ。いきなりこんな所に来て戸惑っていたんですけど、前任の人が夢に現れて、その辺りの事を教えてもらいました」
「そうなんだ。しかし、夢ねぇ……。俺、見た記憶がないんだよなぁ。夢だから忘れちゃったとかなのか?」
「それは……、どうでしょう。僕は凄くはっきりと覚えてますよ? もしかしたらまだ会えていないんじゃないですか? 」
「う~ん……。何とも言えないなぁ」
「もしかするとケンタさんが転生した場所が前任の人が亡くなった場所から離れていたのかもしれません。そういえば、僕の前任の人が死んだ場所との距離が近いほど鮮明な夢になるって言ってました」
「なるほど、前任者に会うには、そいつが死んだ場所を探さないと駄目なんだな」
「あまり離れた場所には転生召喚されないそうなので、近くにあると思いますよ。と言っても、ずっと夢で会えるわけでもないんです。僕たちの夢の中に出ると力を消耗するらしくて、この世界について色々と教えてもらった頃には限界が来て消えてしまわれました。もし、まだ会っていないのなら、きっとその人も力を消費していないので、場所さえ突き止めれば夢で会えると思いますよ」
「ありがとう、今度探してみるわ」
思わぬところで有力な情報が手に入った。
ただ、その内容を聞く限り、無理に入れ替わった前の転生者と会う必要もない気がする。
要は前世の記憶のある人物が死んだだけなので、何やら使命を与えたり能力をくれるわけでもなさそうだ。
挨拶には行った方がいいかもしれないが、後回しでいいだろう。
「でも、おかしいな……」
「ん、何か気になることでもあった?」
俺はいぶかしんだ表情をするショウイチ君に尋ねる。
「前任の人は後任の人が転生する場所をある程度指定できるんです。それにさっきも言いましたが、死んだ場所からあまり遠くには転生召喚できないはずなんです。それなのに夢に出てこないってことはかなり離れた場所に転生召喚されたんだと思うんですよね……。普通なら前任の人が夢で話し易いように近場に転生させません?」
「そう言われればそうだな……。ああ~、冒険者ギルドの前に転生したのはそういう訳か。偉く都合よくいい場所で目覚めたなと思ったんだよなぁ」
と、ショウイチ君の話を聞いた俺は納得する。
俺が冒険者ギルドの前に都合よく転生したのは、前任の人がそこへ場所を指定したからだったのだ。
「説明なしでいきなりギルド前に送るなんて結構スパルタっすね」
「全くだ。会ったら文句の一つも言ってやろうかな」
俺の前任者もショウイチ君の前任者くらい優しい人が良かった。
だが、ある程度配慮があったのも事実。メイッキューの街のギルドを利用した後だと、そのことがよく分かる。色々と研修で教えてもらえたし、この世界で生きる術を学ぶには良い場所だと思う。
ただ、スーラムの街のギルドが酷かっただけなのだ……。
「街の中で亡くなられたんですかね」
「う~ん……。違う気がする」
俺はあの街の宿で寝たことがあるが、そんな夢は見なかった。
「となると、街の外ですか……。近くに強力なモンスターが出るダンジョンでもあれば、そこで亡くなった可能性が高そうですけどね」
「ダンジョンはあの辺りにないと思うなぁ……。かといって、森の中でもそんな夢は見なかったしなぁ……。まあ、いいや。その内時間を見つけて探してみるよ」
ショウイチ君と二人で色々考えて見るも、どれもピンとこない。行き詰まりを感じた俺はそこで思考を中断する。あとは現地で手がかりを探してみるしかないだろう。
「ちなみにショウイチ君は職業何なの? 勇者じゃないよね?」
四年もいるなら何かの職業になっていそうだなと聞いてみる。
「僕、こう見えて錬金術師なんですよ!」
そう言ってずずいと胸を張るショウイチ君。
「え、もしかしてサナダ君の知り合い?」
俺は知り合いの錬金術師の名前を出す。顔見知りなのだろうか。
「誰ですかサナダ君って?」
どうやら違ったようだ。
ショウイチ君が誰だソレ? って顔をするので丁寧に説明することにする。
「サナダ君は俺の学生時代のクラスメイトで自分のことをアルミの錬金術師って言ってたんだ。いっつも右腕に切ったアルミ缶を何個も巻きつけてて、何か問題が起こると両手を合掌みたいに合わせてパンッて鳴らすのよ。それでその手を地面につけて“練成”って大きな声で叫んだ後、マイクなしでプロ顔負けのボイパで効果音出すと立ち上がって教室から出て行こうとするのね。でも問題が解決してないからみんなが呼び止めるんだけど、そうするとサナダ君は“人体練成は禁忌に触れるからできないんだ! ううっ! この右腕も……”って腕にはめたアルミ缶触るわけよ。どうしたの? 金属アレルギーか? ってこっちが思っている間に教室から出て行って、しばらくしたら悟り開いたみたいな顔して教室に戻ってきて自分の席に座るのよ。で、痺れ切らした奴がおい! サナダ! どうするんだよ! って言うんだけど、賢者モードになってるサナダ君には何も聞こえないっていうのが一連の流れなわけよ」
「は、はあ……」
「サナダ君ははじめライターとヘアスプレー持ち歩いてて、炎の魔導士って名乗ってたんだけど、教室のカーテン燃やしてボヤ起こしてからアルミの錬金術師にジョブチェンジしたんだ」
かくいう俺も最近剣闘士からサムライにジョブチェンジしたばかり、ちなみにメインは暗殺者です。
(サナダ君、元気にしてるかなぁ)
ちょっと昔の事を思い出して懐かしくなる。
今ならサナダ君と話が合いそうだ。
「は、はぁ……」
だがショウイチ君は説明を聞いても反応が薄い。
もう少しサナダヒストリーを披露した方がいいのだろうか。
「ショウイチ君もそれ系?」
「違います!」
「またまた〜、やっちゃうんでしょ? “練成!”とか」
「いや……、まあしますけど」
「やっぱり? 何系? 何の錬金術師なの?」
「ちょ、止めてくださいよ。普通ですって、こんな感じなんすよ」
そう言ってショウイチ君は手を出すと掌の上が青く光り出し、光球ができる。
しばらくすると光が消えて掌の上にはアルミの空き缶が載っていた。
「おお、すっげ! 何ソレ、イリュージョン?」
「違いますよ、錬金術です。魔力を消費して物を創り出せるんす」
「へぇ〜、超便利そう」
「魔力のコントロールが激ムズなんで、何でもホイホイできるってわけでもないですけどね」
「なるほどね~」
二人でホタテのバター醤油焼きをつついたり酒を飲みつつそんな会話をしていると、辺りは真っ暗になっていた。食べるものもなくなったので、これで一旦お開きにする。
「そろそろ片付けるか。ショウイチ君は家に帰る?」
「よかったら家に来ませんか? 大して広くないですけど、お礼に泊まっていって下さいよ」
「お、じゃあ行っちゃおうかな」
「どうぞどうぞ」
というわけでその夜はショウイチ君の家に厄介になることになった。
…………
「ここです」
ショウイチ君に案内されて来た場所は高台にある洞窟だった。
中に入ると道が大きく二つに分かれている。
「あ、そっちはダンジョンなので入らないで下さいね」
と指差しながら反対の方へ進んで行く。
ダンジョンがお隣さんとかすごい物件だな、と感心しながら歩く。
ショウイチ君の後に続いてしばらく進むと分厚い金属の扉が見えてきた。
「どうぞ、上がってくださいっす」
「お邪魔しま〜す」
金属の扉を開けるとそこには玄関があり、靴を脱ぐようになっていた。
ショウイチ君が壁際のボタンに触れると天井に蛍光灯のような明かりが灯る。
靴を脱いで上がるとフローリングの通路になっていて、両脇と突き当たりに扉が何個かある。まるでマンションの一室のようだ。
「こっちへどうぞ、今お茶いれてきますんで」
そう言って通された部屋は畳が敷かれた八畳間だった。
真ん中にコタツがあり、壁際に素朴な木の机が一つある。
畳の上にはゴチャゴチャと色んなものが雑多に置かれていて妙に生活臭が漂う。
どうやらショウイチ君は人を呼ぶときだけ部屋を片付けるタイプのようだ。
今回は突然の訪問だったので片付いていない様子。
かく言う俺もそのタイプ。片付けってつい後回しになってしまう。
「なんかファンタジーの世界観ぶち壊しの部屋だな」
部屋の風景に呆然としながらそんな感想を漏らす。
「前の人が残してくれた部屋なんですけど、居心地いいっすよ」
ショウイチ君はコタツの上に湯飲みを置きながらそう言ってくる。
「まあ、確かになぁ」
俺は部屋の中をキョロキョロと見回しながらコタツに足をつっこむ。
真夏だがこの部屋は冷房がキンキンに効いていて、コタツに入ると丁度いい。
「ここで何やってるの?」
しかし、ショウイチ君はこんな島に一人で何をやっているのだろうか。正直気になる。
「パソコン作ってるっす」
「は?」
予想外の回答にフリーズする俺。
「僕、元の世界で自作小説を投稿しようとした瞬間に死んだっす。だからこっちでパソコン作って投稿したいんです! リベンジっす!」
「え? 元の世界に帰るとかじゃなくて?」
「はい。元の世界よりこっちの方が居心地いいんで、ここで執筆していきたいっす」
「あ、そうなんだ」
人それぞれだし、それもいいんじゃないだろうか。
そう思いながら湯飲みに入ったお茶を啜る。
ふと机に目をやると紙束が見えた。
「パソコンはまだできてないんで、忘れないようにメモしてあるんですよ」
「なるほどね。読んでみてもいい?」
「いいっすよ。超絶人気間違いなしの作品っす」
「どれどれ……」
俺は紙束に目を落とす。
◇
億龍院朧碗はカレー屋に入った。
このカレー屋はうまいと全米で評判らしい。
億龍院朧碗はカレーを頼んでカレーを食べた。
「カレーがうまい!」
カレーはうまかった。億龍院朧碗が昨日食べたカレーより三倍位うまかった。
「これはかなりうまい!」
カレー好きの億龍院をうならせるカレーだ。
一番好きなカレーより若干劣る味だ。
◇
(ざっと九カレーといったところか……)
まずはじめに気になった部分はそこだった。
「どうっすか!?」
俺に顔をがっつり近づけてくるショウイチ君。
「カレーがうまいのはよく伝わったよ」
「でしょ? そこが重要なんすよ!」
ショウイチ君はグッと拳を握り締めて力説する。
「へぇ〜、これって全体的にはどんな話なの?」
「えっとですね、冴えない普通の高校生の平山平太が宇宙船に乗っているときに隕石に衝突して死んでしまって女神と魔王の息子、億龍院朧碗として転生してなんやかんやあった後、デイトレダーになって頭角を現していって好みの美少女を借金地獄に追い込んでハーレムを作っていくんですが途中で破産して、拾った小銭でカレーを食いにいく話です」
カレーが割と終盤だった。
「これなら日ラン一位で商業化も間違いなかったのに……。クッソ!!!」
悲痛な表情で悔しがるショウイチ君。
「あ、うん。頑張れ!」
よく分からないが応援しておこうと思う。
「そういえば隣にダンジョンあるけど。そこでレベル上げとかしてるの?」
小説の話題は闇が深そうだったのでこれ以上聞かず、ここに来る途中にあったダンジョンが気になったので聞いてみる。
「そうっす。あそこで魔石を取って売りに行ってるんすよ。ここでモンスターを倒しまくって気がついたら最上位職の錬金術師になれるようになってたって感じっす」
昔のことを思い出しているのか、腕組みしながら目を閉じて話すショウイチ君。
「おお、下位職何だったの?」
錬金術師は受付の男性職員も知らない最上位職だったので聞いてみる。
「魔法使いっすね。便利だったんでずっとやってました」
どうやら魔法使いの最上位職は錬金術師のようだ。魔力さえあれば何でもできそうなので羨ましい限りだ。
「いいなぁ。俺魔力0だから魔法使えないんだよね」
「ああ~、魔力0だと魔法を使う職業にはなれないですもんね」
「そうそう、ショウイチ君が羨ましいわ」
「でも、魔法使い系は魔力以外の能力値の上昇が低いんで、力は貧弱でスピードは遅いし紙装甲っすよ」
「それはそれで不便だなぁ」
「そうなんすよ」
ショウイチ君の話を聞くと、どちらも一長一短のようだ。
でも錬金術は反則臭い匂いがプンプンする。
それにしても、あのダンジョンはそんなに稼ぎ易いのだろうか。
経験値が美味しいなら俺も挑戦してみたい。
「俺もあのダンジョン入ってみていい?」
「全然構わないっすよ。でもダンジョンコアは破壊しないで下さいね。壊すとダンジョンが死んじゃうんで」
「了解。俺もレベル上げがしたかったから助かるよ。その間は外で寝泊りするんで迷惑はかけないよ」
あまり世話になりすぎるのも悪いし、基本は外で宿泊コースでいいだろう。
「部屋なら余ってるんで、掃除してもらえるなら使ってもらっていいっすよ」
「いいの? じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ。宿泊料ってわけじゃないけどこれあげるわ」
ショウイチ君の厚意に甘える形になるのでお土産の一つでも渡しておく。
俺はショウイチ君に醤油とバターを渡す。
「いいんすか!? 醤油ってこの辺じゃ手に入らなくてすごい欲しかったんですよ!」
どうやらショウイチ君は醤油の匂いに釣られてあの場に現れたようだ。
「こっちにはまだ一杯あるし、大丈夫だよ」
「ありがとうございますっ!」
ショウイチ君は両手でバターと醤油を抱えてご満悦の様子だった。喜んでもらえて俺も嬉しい。
ゴブリンを全滅させてこれからどうするか迷っていたが、これからしばらくはダンジョン攻略ができそうだ。
その後ショウイチ君に空き部屋に案内してもらい、そこで一晩寝ることとなった。




