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11 スイカ割り


 …………


 ――翌日。


「なんか色々あった気もするけど、スキル上げだ!」


 俺は森に入って気合を入れなおす。


 なんかトゥルントゥルンした邪魔が入ったが俺の本来の目的は弱いモンスターを狩りまくってスキルレベルを上げることだ。


 かなり前から職業を戦士に固定してあるので、そろそろ上がりそうな気配はある。ここで一気に止めを刺しておきたい。


「一狩り行くぞ!」


 俺は【気配察知】を使ってモンスターを探しはじめた。


 この森の初級モンスターが多く生息する地帯に多数生息するモンスターは、スライムとホーンラビットだ。ホーンラビットは戦闘経験があるので、ここはスライムとも戦っておきたいところ。


 しばらくするとモンスターの気配を捉えた。


 【気配察知】で感じたことのあるモンスターなら判別が付くが今回はそれがなかった。


 そのため、スライムの可能性が高い。俺は慎重に気配を辿って獲物を探す。


「お、スライムだわ」


 発見したモンスターは希望通りのスライムだった。


 外見が半透明でゼリー状だし、スライムで間違いないだろう。大きさは座布団三枚分位だろうか、中心には黒い玉のようなものが見える。この核のようなものが急所なのだろうか?


 俺は早速その黒い玉目掛けて剣を振り下ろした。


 黒い玉を覆っている半透明状のものは大した抵抗もなく切れてしまい、中へ攻撃が届く。


 俺の一撃を受け、黒い玉あっさり壊れた。するとスライムは完全に動かなくなってしまう。


「あっさりだなぁ」


 さすが元の世界でも最弱の名を欲しいままにしていただけのことはある。



 どうやらこの世界でもスライムは弱いようだ。


 これならスキルレベル上げには持って来いの獲物かもしれない。


 俺は意気揚々と討伐部位を回収すると次の獲物を求めてさ迷いはじめた。


 …………


 ――数時間後。


「これは……腰にくるな……」


 俺はスライムを狩り続けてあることに気づいた。


 そう、腰に負担がかかるのだ。


 スライムは簡単に倒せるのだが、足元をうろうろしているため剣を中腰で地面に叩きつけなければならない。これでは足場の悪い場所で畑を耕しているようなものだ。


 こんなことを毎日やっていたらギックリ腰になりそうである。


(あれはやばい……)


 元の世界でギックリ腰になったことを思い出す。


 まともに立ち上がることができず、ほふく前進でトイレに行った記憶が甦ってくる。あんな思いは二度と御免だ。


 しかし、スキルレベルは上げたいところ。



 とりあえず今日の狩りはここで切り上げ、報酬を貰いにギルドへ向かうことにした。


 この森を数時間周ってみて分かったが、スライムとの遭遇率は普通だった。


 異常に多いというわけではない。ゴブリンの森と比較するとむしろ低いくらいだ。


 もう一種のホーンラビットは良質な獲物のため、競合相手も出てくるだろうし、スライムより遭遇率は落ちてしまうはずだ。そうなってくると、ここでスキルレベルを上げるのは中々骨の折れる作業になりそうだ。


 そんなことを考えながら受付で報酬を貰う。


 やはり、低級モンスターだけあって報酬金額も低い。


 お金のことを考えるなら間に中級モンスターを狩る機会を作るのがいいかもしれない。


 だが、中級モンスターを狩るのであればパーティーを組んだ方がいいわけだが、よっしー達とは別れてしまったので新しいパーティーを探さなければならない。


 そうなってくると中々難しい問題になる。


 ギルドを出て腕組みしながらそんな事を考えて海岸沿いを歩いていると、砂浜に交信君が一人で黄昏ているのが見えた。気になった俺は近くに寄って声をかけてみる。


「よっ、どうした?」


「あっ」


俺の声にビクッと身を震わせてこちらへ振り向く交信君。


「少しは元気になったか?」


「あのときはごめんなさい」


「いいよ。俺もあんなことになると思ってなかったし」


 交信君は見てられないほど落ち込んでいた。どうやら今まで自宅謹慎をくらっていたらしく、久々に散歩が許されたそうだ。


「……ありがとう。ねえ、なんで転生のこと知ってたの?」


「あ〜、あれな」


 俺はメイッキューの街で勇者と知り合いになったこと、自分も勇者になれるかどうか聞いた際に勇者になれる条件を聞いたことを話した。そして森で交信君が話していた独り言やスライムを倒していたことから、そうじゃないかと判断したことも話しておいた。



「……それで知ってたんだ。それにしても勇者って他にもいるんだね。僕だけかと思っていたよ」


「そいつの話だと結構いるみたいよ? まあ、そいつはもう行方不明になっちゃったけどな」


「え?」


 交信君が興味を持ったところで俺が聞いた赤の勇者の成り上がり話と、その後行方不明になった話を聞かせる。


「……とまぁ、あんま権力とか金と縁遠いところで力つけると、ろくでもないことになるっぽいよ? だからお前のこともちょっと気になったわけ」


「なんすかそれ、激重じゃないすか」


「そうなのよ。だからってレベル上げるなとかは言わないけどさ、相当注意深くやった方がいいっぽいよ?」


「参考になります」


 交信君の話し方に段々子供っぽさがなくなってくる。


 もう偽装する意味もないから素が出てきているのだろうか。


 砂浜で深夜のコンビニ前のように二人してウンコ座りしながらそんな会話をする。


「まだメイッキューの街には緑の勇者がいるから、もし何かあったら頼ってみるのもいいかも、赤の勇者いわくウザイけどいい人らしいから」


「色々すんません」


「いいって、俺もその人のことあんまり知らないから何とも言えないけどね。……ところであれってこの街の名物だったりする?」


 会話中、俺はふと視線を向けた海面に緑の玉がいくつもプカプカ浮かんでいるのを見つけて、交信君に聞いてみる。


「何すかあれ? はじめて見ましたよ。瓜とかですかね?」


 地元の交信君も何かわからないようだ。



 それらは夕日が反射して細部がわからないが、どんどんこちらへ来ている。


 緑の玉はスイカくらいの大きさで海面のそこかしこに浮かんでいた。


 かなりの数だ。


 その内の一つが波打ち際近くまで来たので目を凝らして見てみると……。


「……ゴブリンじゃねーか!」



 スイカかと思ったらゴブリンだった。


「しかしすごい数だな」


 ゴブリンとわかったそれは海一面に浮かんでいた。尋常じゃない数だ。


「ちょっ、逃げましょうよ! 余裕こいてる場合じゃないっすよ」


 あまりの数のゴブリンに交信君が怯え出す。


「あー、俺残るわ。君は先に帰りなよ。この数じゃ一緒にレベル上げってわけにもいかないし、守りきれないわ」


 俺は自分が残ることを伝えて帰るように促す。


「すごい数っすよ! 絶対やばいですって」


「ん〜やばくなったら逃げるよ。どうせギルドで依頼も出るだろうし、倒すのが後か先かの話になるだけだしね」


「一緒に逃げましょう!」


「ごめん、ちょっとやってくわ。そろそろ上陸してくるし、邪魔になるから逃げてね」


 俺は交信君にそう言いながら準備を粛々と整える。剣類を装備し、弓を取り出す。


「じゃ、じゃあ、行きますね!」


 交信君はそう言いながらも、こちらを気にして振り返りながら逃げていってくれた。これで自由に動き回れそうだ。


「おう、またな〜。ついでにギルドに報告できたらしといて〜」


 俺は交信君に手を振って別れを告げると弓に三本の矢を番えた。


「お前らのこと探してたんだよ。会いたかったぜ」


 これほど再会が嬉しい相手も珍しい。


 弓を横に構え、三本の矢からでる赤いラインをゴブリンの頭部に合わせる。


 大量にいるので狙い放題だ。



「フッ」


【弓術】に身を任せて矢を放つ。


 そしてすぐに新しい矢を番える。


 それを少しずつ後退しながらただひたすらに繰り返す。



 波打ち際で上陸した瞬間に俺の矢を受けて倒れていくゴブリン達。


 海面がゴブリンの死体と血で濁り、薄汚れていく。


 だが上陸してくる数が増えてくると矢の隙間を縫ってこちらへ向かって来る個体が増えてきた。


(そろそろダメかな)


 俺は弓をアイテムボックスにしまうと、ナイフと片手剣を抜いて構える。



 以前スーラムの森で囲まれたときは重症を負ったが、今回は状況が違う。


 まず、レベルとスキルが充実していること。


 そして装備が充実していること。


 さらにオリン婆さんのスパルタ指導を生き延びた後だということ。



 これらを加味して背後に逃げ道がある状態ということを考えると、例えるなら以前のは十人前百倍カレーを一時間以内に完食で今回がせいぜい激辛カレー二人前位だ。


 額に汗して水飲みながらなら余裕で食えるレベルだ。


 辛いけど。


 なんか段々カレーが食いたくなってきた。半熟卵とか落として食いたい。



 そんなことを考えながらゴブリンへ接近し、頭へ片手剣を振り下ろす。


 きっちり頭を割ったところで【短刀術】に切り替えながら側にいるゴブリンの喉を裂く。


 そこから【縮地】で位置を調節し、次のゴブリンを迎え撃つ。



 ゴブリンが振るってくる棍棒をかわしながら【剣術】に切り替え脇腹を切り、蹴り飛ばす。


 そのまま体を回転させつつ【短刀術】に切り替え、周囲に群がるゴブリンを連撃で切り裂く。



 まるでつぼみが花開くように俺を中心にバタバタとゴブリンが地に倒れる。


 そんなゴブリンの死体をまたいで、自らゴブリンの群れへと攻め込んでいく。


(なんか思ったより楽だな……)


 オリン婆さんの剣を見た後だと無秩序で本能任せの攻撃は案外かわしやすい。


 そんな事を考える余裕を残しながらも【短刀術】を主軸にナイフを振るい続ける。



 周囲のゴブリンが倒れたら次の集団へ駆けるのを繰り返す。


 ずっと戦い続けているが相手のスピードが遅く感じるためか、反撃をもらう気がしない。



 剣を振るうのに没頭し、気がつくとゴブリンの数はかなり減っていた。


 残っているのは距離を置いてぽつぽつと単体で行動する固体がいる程度だ。俺はナイフと片手剣を鞘にしまうと、再度弓を取り出して残ったゴブリンを狩り尽くす。


 風の影響があるも、周りに何もない場所なので弓も狙い易い。


 矢は面白いほど命中してくれた。


「うし、全滅だな」


 最後の一匹に矢を射って止めをさすと、再び波の音だけがする静かな砂浜になった。



 が、辺りは酷い惨状だった。



 周囲は上陸作戦のあった海岸のように辺り一面にゴブリンの死体が散らばっていた。更に海面に沈みつつある夕日と波の音が悲壮感を演出する。


 海に近いと漂ってくる独特の濃い潮の香りとゴブリンの血と体液の匂いが混じり合い、むせるような強い臭気となって俺の鼻腔に侵入してくる。


 白くて綺麗な砂浜だった場所は死体に埋め尽くされ、滲み出る血液が砂を赤黒く染め上げていく。


 そんな光景も意に介さず、耳を剥ぐのが面倒だなと思いつつゴブリンをカウントしているとこちらへ駆けてくる足音が聞こえた。


 俺はそれに構わず、メニューからステータスを確認する。


 ずっと上がっていなかったのでそろそろではないかという予感とともにスキルの項目を見てみると……。


 戦士スキル(MAX)


 LV1 【剣術】

 LV2 【槍術】

 LV3 【剛力】

 LV4 【剣戟】

 LV5 【決死斬り】  (技前後に大きなスキのある威力の高い一撃を放つ)



 ――スキルレベルが上がっていた。


 新しいスキルは【決死斬り】と言うらしい。


 これはもしかするとスーラムの街でごついおっさんがオーガを斬っていた攻撃かもしれない。


 またメニューをチェックするとスキルレベルが上限の5に達したため、上位職にもなれることが分かった。上位職は剣闘士というらしい。


 早速セットしてみる。


 剣闘士スキル


 LV1 【斧術】 (斧の扱いがうまくなる)


 どうやらLV1は【斧術】というらしい。


 斧は持っていないのでこれはしばらく使えそうにない。


 だが、一気に二つのスキルが使えるようになったのは嬉しい。


 この調子でドンドンスキルを上げていきたい。


「ふふふ……」


 嬉しくなってつい笑みがこぼれてしまう。




「うーわ…………、きっつ」



 声がする方を向けば、どうやら交信君がギルドの職員と冒険者を連れてきてくれたようだった。


 だが、この惨状の中ニヤニヤしている俺を見てドン引き状態になってしまった様子。




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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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