6 レベルアップ
あれから数日後の朝、朝食代わりのリンゴをかじりながら何の気なしにステータスを確認する。
ケンタ LV3 暗殺者
力 9
魔力 0
体力 4
すばやさ 9
暗殺者スキル
LV1【暗殺術】
LV2【忍び足】(足音を消して移動することが可能)
――ブフォッ!
驚いた俺はリンゴを噴きだしてしまう。
合計上昇値が15……。魔力は相変わらず0だが。
「上がりすぎだろ!」
更にスキルも新しいものが手に入った。
その名も【忍び足】というらしい。
ものは試しと、スキルを使ってみようと意識する。すると、体の中のスイッチを入れたようにはっきりと明確な感覚でスキルがONになったことが伝わってきた。
俺は早速【忍び足】を使用した状態で歩いてみる。
すると足音が全くしない。
なんというかDVDを見ようとしたら壊れて音声が再生されないような感じで気持ち悪い。
地団太を踏むようにストンピングしてみるも全く音がしない。
スキルというから必殺技みたいなものを覚えるのかと思っていたので少し残念だったが、使えるのは間違いない。以前覚えた【暗殺術】に活かせそうだ。この調子で生活を軌道にのせていきたい。
…………
あれから数週間が経った。
以前狩場にしていた所ではゴブリンの数がめっきり減ってしまったので今は新しい場所でゴブリンを狩っている。
寝る場所は相変わらず倒木と崖の隙間だ。
着替えや食料など、生活必需品を揃えていくとどうしても宿屋で暮らすほど稼げない。
こまごまとしたものを揃える事には成功したが、森暮らしから抜け出すのは案外難しかった。といっても、それほど不便な状況というわけでもない。
川で体も洗えるし、洗濯もできる。なんやかんやで生活が結構快適になってきているのだ。
そういったこともあり、もう森でいいか、と思いはじめている自分がいたりする。
ただ、あれ以降レベルが上がっていない。
累計経験値や次回レベルアップまでの必要経験値とか表示されないので先が見えない状態だ。
だがスキルレベルは一上昇しLV3になった。
手に入ったスキルは【気配遮断】(使用すると見つかりにくくなる)といったものだった。
この【気配遮断】を使用しながら寝るという技を身につけ、さらに森暮らしが充実してきている。
最近は森での活動範囲も大分広くなり、迷うこともなくなった。
というわけで、今日も今日とて日課となったゴブリン狩りに繰り出す。
最近は随分と戦闘に慣れたせいもあって討伐方法が大雑把になってきた。
今回やるのは断崖を利用した方法だ。
断崖ギリギリに、ゴブリンの死体を数匹置く。そして崖から死角になる岩陰に隠れ【気配遮断】を使用し、じっと待つ。
しばらくするとゴブリンの集団が死体に寄ってくるので、目一杯引き付けた後、岩陰から飛び出す。
そして両腕を広げた状態でタックルし、何匹かを崖から突き落とす。余ったゴブリンはスピードを活かして回り込みつつ、石で頭部を凹ませる。
全て動かなくなったのを確認してから崖下のゴブリンに止めを刺しに行く。
初めてこの方法を試したときは、相手が複数ということもあって不安だった。だが、やってみると特に問題もなく、うまくいった。
折角暗殺者になったというのにやっていることは相変わらずサスペンスドラマの犯人と変わらない。
そのうち使う武器がネクタイか電源コードに代わってもおかしくないレベルである。
…………
あれから何事もなく随分日が経った。カレンダーもなく、人との接触も最低限なので、最近はどのくらい日数が経過しているかわからなくなってきている。今考えると木に印でもつけていけばよかった。
といっても、特に日数を数える必要もない生活なので、ものぐさな俺がそんなことをわざわざやるはずもない。
今更感もあるし、このままやらないだろう。
ゴブリン突き落とし作戦は断崖の側に徘徊ルートがあることとその側に自分が隠れられる場所がないと実行できない。そのためいつでもできる作戦でもなく、断崖周辺のゴブリンを狩り尽くした今はいつもの背後から襲いかかる方法に戻している。
この生活になってかなり日数が経過したせいか、最近はとても生活のリズムが安定してきた。
まず、朝起きると休憩場所となった川辺に移動し、ゴブリンの耳を剥ぐ。
それが終わると街へ行ってギルドで換金し、カツアゲを観戦しながら屋台で朝飯を食う。
そして市場で買い物を済ませたら森へ帰る。
その後は日が暮れるまでゴブリンを狩る。
これを毎日繰り返している。
最近の楽しみは毎朝耳を剥ぐ前にステータスを確認することだ。
夜に確認作業をするとレベルが上がっていた場合、興奮して眠れなくなっちゃいそうなので朝にしている。朝にレベルが上がっていることがわかればその日一日気分良く行動できそうだし。といっても今のところレベルに変化はない。
そろそろ上がって欲しいところだが、今朝はどうだろうかと確認してみる。
ケンタ LV4 暗殺者
力 15
魔力 0
体力 6
すばやさ 16
暗殺者スキル
LV1【暗殺術】
LV2【忍び足】
LV3【気配遮断】
LV4【跳躍】 (跳躍力が飛躍的に上がる)
念願のレベルアップだ!
そしてスキルレベルも同時に上がっていた。
全開のレベルアップからかなり待たされたので非常に嬉しい。
ステータスの能力値も初日に見たどうしょうもなさから比べると、随分と見れるようになったと思う。
スキルも充実し中々面白くなってきた。
早速新スキルの【跳躍】を試そう軽くジャンプしてみる。
するとまるで羽でも生えているかのようにふわっと軽く跳べてしまう。
だが、高く飛べているような気もするがはっきりわからない程度だ。
飛躍的ってほどじゃない。
力のこめ方が弱かったのだろうかと今度は全力で垂直に飛んでみる。
すると逆バンジーよろしく頭からゴムで引っ張られたかのように、見る見る足が地面から離れていく。
「のわっ!」
あっという間にジャンプの頂点に到達し、予想外の高さに思わず声が漏れる。
そしてビビったせいで着地に失敗し、盛大に尻もちをつく。
ざっくり言って三メートル以上程飛べました……。
スキルさん、疑ってすみませんでした。
いつもの川辺で飛んだからよかったが、森の中でやってたら枝に頭ぶつけていただろう。
俺は尻に付いた土を払いながら立ち上がる。
(しかし時間がかかったなぁ……)
LV3からLV4になるまでに倒したゴブリンの数を振り返ると、相当レベルが上がりにくくなってきた感じがする。
なんていうか次のLVまでに必要な経験値が五倍とか十倍とかに膨れ上がってる可能性がある。
ゲーム感覚でいえば、そろそろ一段階強いモンスターと戦わないと経験値が稼げないといった感じだ。だが、正直、強くなった気がしない。
(力15ってどんなもんなのだろう)
LV1のころ、力は2だった。現状、数字の上では七倍以上の力があるということになるが到底そうは思えない。
丁度良いものがないか周囲を見渡し、太めの枝を拾う。
元の世界にいたころの貧弱筋力では折れない太さだ。
腕試しに力をこめ、枝を折ろうとしてみる。
「お? いけるいける」
大した力を必要とせず、枝はポッキリ折れてしまった。
今度は拾った枝と同じ位の太さのものを三本用意してみる。
三本同時に折ってみようと、力をこめるが中々折れない。
腰を丸め、息を荒げ、膝を使い、なんとか折れた。
以上の結果を踏まえると、はじめに比べれば力が増しているように思えるが、それでも毛が生えた程度といったところか。
モンスターと組み合って力比べとかしたら余裕で負けそうな気配がビンビンとしてくる。
なんともいえない微成長だ。小国を滅ぼせるビームとか平気で撃てるような主人公がうらやましくて仕方がない。
(……この状態なら逆にレベルが上がりにくいのを利用した方がいいかもしれないな)
レベルは上がったが強くなったという実感を得るには程遠い。
そしてゴブリンを狩ってもレベルは上がらなくなってきた。
なら、ゴブリンを狩ってもレベルが上がりにくいことを利用し、暗殺者の下位職にあたる狩人のスキルレベルを上げてみるのもいいかもしれない。
下位職の狩人になった状態で、もしレベルアップしてしまうと能力の上昇値が暗殺者より低い可能性がある。それならいっそのことレベルアップしない今の状況を利用して、狩人のスキルだけ得てしまえばいい。そういう意味では丁度いい気がする。
体感だが、スキルレベルはレベルとは違ってゴブリンを倒し続けていても上がる感じがするのだ。
多分、レベルより必要経験値が少ないか、別の条件でレベルが上がるのだろう。
単純に回数だけがカウントされるとか、一定の条件を満たすとか、そういった類の可能性も考えられる。
とにかく、色々なスキルを身に付ければレベルが低くても光明のひとつも見えてくるだろう。
などと考えつつアイテムボックスの収納しておいたリンゴをかじる。
買ってから日が経っているが果肉がしっかりしている。どうやらアイテムボックス内は時間が停止している可能性が高い……。
今、考察してる俺かっこいい! とか思ったのと同時にある事に気づいてしまう。
ギルドでゴブリンの討伐報酬を貰う際、耳しか提出していないことを。
耳を剥いだ際、死体もアイテムボックスに回収していたことを。
アイテムボックス内にはゴブリンの死体が山ほどあることを……。
(時間停止してなかったら死体が腐ってるよな)
わざわざリンゴで検証する必要はなかった。ゴブリンの死体で十分だったのだ。
早速死体を出して確認してみるも特に腐っている様子はなかった。恥ずかしい。
そして死体の処理をどうすればいいかが分からない。
一体や二体なら穴掘って埋めればいいだろう。だが、俺が倒したゴブリンの数はそんなものじゃない。もはや収拾がつかない数なってしまっている。その辺に捨てたらアンデットにならなかったとしても、伝染病の危険とかありそうで洒落にならない。
(俺のアイテムボックスは優秀。間違いない。うん、忘れよう)
と思いたいところだが、このまま収納し続けてアイテムボックスが限界を越え、壊れて使用できなくなったりするとかなり不便になる。そういったトラブルを回避するためにもなんとかしたいところだ。
そういえば他の冒険者はモンスターの死体の処理をどうしているのだろうか。
多分、解決手段はその辺りにありそうだ。
しかし、森での活動範囲が広くなったのに未だに他の冒険者と遭遇していない。
他の冒険者の戦闘を覗くことができれば、死体の処理風景も見ることができるのに残念だ。全く見かけないが、この辺りで活動していないのだろうか。
このままの状態が続くようであれば、気は進まないが街で情報収集をしなければならないだろう。
大分思考が飛んでしまったが、レベルが上がらないのを利用し、スキルレベルだけを上げるため狩人に転職する。
そして狩人のスキルとステータスをチェックする。
ケンタ LV4 狩人
力 15
魔力 0
体力 6
すばやさ 16
狩人スキル
LV1【短刀術】 (短刀の扱いが上手くなる)
暗殺者スキル(LV4)
転職しても能力値の増減はなかった。
どうやら職業によって能力の補正がかかるわけではないようだ。
また、転職しても習得したスキルはそのまま使えるようで、暗殺者スキルが一番最後に省略されて表示されている。
狩人スキルのLV1は【短刀術】らしい。
(うーん、短刀かぁ)
そう思いながら眼前のゴブリンに石を振り下ろす。
【気配遮断】や【忍び足】を利用すれば考え事をしながらぶらついてもゴブリン程度ならこの通りだ。
ゴブリン相手なら石で事足りるので、短刀を買う意味が今のところない。
刃物を扱うとなれば、手入れも大変そうだし、このままでいいかもしれない。
短刀を装備しないとスキルランクが上がらないのなら購入を考えないといけないが、しばらく様子を見ることにする。
(しばらくは森にこもってスキル上げをしてみるか……)
荷物を確認すると少し余分にあった手持ちの食料で三日はまかなえそうだったので、しばらく街には戻らずゴブリンを狩り続けてみる事にする。
スキルレベルはレベルに比べると上がり易い印象があったので三日も缶詰になればレベル2になってくれそうな気がする。
…………
そして、三日間朝から晩までゴブリンをひたすら狩り続け、ステータスをチェックする。
狩人スキル
LV1【短刀術】
LV2【???】
狩人スキルがレベル2になったようだ。
スキル名は……