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7 不味いぞ!ごまだれ!


 ちょっと逃避気味になっているのだろうか。




 そんな俺を尻目に三人はあだ名を決める作業に突入していた。



「じゃあ、ケンちゃんでどうよ?」


「普通だわー、ないわー。センス疑うわー。ちょっと正気を疑うレベルだわー」


 よっしーの提案に否定的な態度を示すもっすん。



「俺も普通だと思ってたんだわー。やっぱここは超絶センスのもっすん決めてよ」


「ケンタッキーだろ」


 よっしーの振りに即答するもっすん。


「長いわー。姉さんの説教ばりに長いわー。ないわー」


 肩をすくめるゴマダレ。


「俺も長いと思ったんだよなー。やっぱここは最後にゴマダレがビシッと決めてくれよ」


「毛」


 もっすんの振りに即答するゴマダレ。



「「みじか!」」


「「「ウェーーーーーイ!」」」


 ハイタッチする三人。


 憎めない。


 あだ名はまだ決まっていなかったが、三人がこちらへ寄ってくる。



「悪いけどケンタがこの三つの中から決めてくれよ。俺っちのオススメはケンかな」


「三つの中にないわー。正気疑うわー」


「よっしーマジ重症!」


 よっしーの発言にもっすんとゴマダレがテンポよく追随する。


「おいおい! そんなに褒めても何も出ないぞ!」


「「「ウェーーーーイ!」」」


 ハイタッチする三人。


 この感じ、いつまで続くのだろうか。



「制限時間十秒以内に選んでくれっ! カウントしまーっす! 十・五・四………」


 十から一気に五に行く辺り、よっしーまじ外道。



 三人はエ○ザイルみたいな動きをしながらカウントをはじめた。


 何気に動きがキレッキレで上手い。


 上手くなるほど何度もやっているってことだろうか。


(あだ名か……)


 ちなみにケンちゃんもケンタッキーも学生時代に呼ばれたことがあるあだ名だ。



 特にケンタッキーはなぞだ。なぜアメリカの州の名前で呼ばれなければならない。


 後、なぜかカーネルとかサンダースとかアメリカ人男性にありがちな名前があだ名になったこともあった。滝川ケンタに米国を匂わせる要素なんて何もないのになぜそうなったのか未だに謎ではある。きっと何かの陰謀だろう。



「じゃあ、普通にケンちゃんでよろしく」


 こういうのはシンプルイズベストだ。


 呼び易いのが一番いいと考え、そう答えた。



「「「おーけー!」」」


 息ぴったりに声と動きを合わせる三人。


「んじゃ、ケン! 行こうぜ!」


「だな、獲物はビッグボアだぜ。ケンタッキー!」


「遅れるんじゃないぞ、毛!」


 よっしーから順に俺へ手招きしながらギルドの外へと出ていく三人。



「毛はまじでやめて」


 俺はそんな三人を追うようにしてギルドを出た。



 結局道すがらケンちゃんと呼ばれることは一度もなく、目的地の森を目指す。


 終始このテンションで行くつもりなのだろうか。正直それがだんだん恐怖になってきている。



 俺は三人から半歩遅れながらも後を追った。


 …………


「まずい! ゴマダレ!」


「そっちだ! ゴマダレ!」


「うまいぞ! ゴマダレ!」





「「「 「ナイスゴマダレ!」」」」





 戦闘での連携のために声出しは欠かせない。


 俺の目の前で三人の一糸乱れぬコンビネーションによりビッグボアを問題なく仕留めることに成功した。


 ビッグボアの外見は名前から想像した通り大きな猪だった。攻撃方法は突進がメインで直線的。打たれ強いが集団で相手をするなら対応しやすい部類に入るだろう。


 俺は初戦なので三人の邪魔にならないように弓での援護に徹した。



 三人の戦いを見ていると動きはしっかりしている。


 慣れているのかコンビネーションも抜群だ。


 見た目がチャラい感じだったので意外だった。



「ふぃ〜おつかれ〜」


「いやぁ、ケンちゃん弓上手いね」


「すっげぇ狩り易かったわ」


「俺も今それを言おうとしてたわけよ」


「だよな。まじすごいわ」


「目とか狙っちゃうのマジ痺れたわ」


 三人がよっしー、もっすん、ゴマダレと順番に話してくる。


 発言の順番でも決まっているのだろうか。



 何にせよ三人がかりで褒められるとさすがに照れてしまう。


 だが弓が狙い易かったのは三人のコンビネーションの賜物だ。


「いや、三人が上手く動きを止めてくれたから狙い易かったよ」


「「「マジで?」」」


 息ぴったりでリアクションする三人。


「やっぱ俺らって才能あるよな〜?」


「だな、俺ら天下獲れそう」


「そう言ってましたって俺が姉さんに言っといてやるよ」


「「マジ勘弁!」」


 決めポーズを決める二人。


「「「FOOOOOOO!」」」


 やり遂げた顔でハイタッチする三人。


 ウェーイとは別パータンを視認。何パターンあるんだ。



「さっきからちょいちょい言ってる姉さんって誰なんだ?」


 ちょっと気になったので聞いてみる。


「あ、それ聞いちゃう?」


「別に実の姉じゃないんだけどね。どっちかっていうと母ちゃん的な?」


「そう言ってましたって俺が姉さんに言っといてやるよ」


「「マジ勘弁!」」


「「「FOOOOOOOO!」」」


 ハイタッチする三人。



 そろそろ我慢できなくなってきた。


「まぁあれよ、俺らの師匠的な人なわけ」


「めちゃ怖いよな。前に立つだけで縮み上がるぜ」


「ゴリラだぜ、アレ」


 どうやらこの三人を育てた人のようだ。



 ということはウェーーイとか言いながらハイタッチもするんだろうか? この三人が濃すぎてそういう絵面しか想像できない。


 なんかそれはそれでアットホームな感じではある。


「一緒に行動してないんだ?」


 話を聞く限り、普段はその人を入れて四人で行動しているのだろう。


「ん〜俺らが先に着いちゃってさ」


「そうそう、一応この街で待ち合わせなんだけどね」


「あの人来るの遅いんだよな〜」


「そっか、早く合流できるといいな」


 つまりその人と合流するまでは臨時パーティを募集し続ける予定なのだろう。


 そんな会話をしながらビッグボアの討伐部位回収も終わり、次の獲物を探す準備に入る。


「次はケンちゃんの剣捌きも見たいね」


「いいね〜じゃあ俺が盾やるわ」


「なら、俺も盾でいくわ」


 もっすんとゴマダレがビッグボアを引きつけてくれるようだ。



「OK,じゃあよろしく頼む」


 俺はその提案に同意し、弓を背負って剣を抜けるようにしておく。




 ここからが四人での連携の本番だ。


 三人の連携に邪魔にならないよう、うまく動きたいところ。


 二人が盾をやってくれるようなので俺は押さえ込まれた獲物を仕留める役だ。


 あまり時間がかかると押さえ込んでくれる二人に負担がかかるので手早く済ませたい。


 …………


 しばらく奥へ進んだ後、よっしーがビッグボアを発見し全員へ指示を出す。


「いたぞ! 丁度一匹だ。もっすんとゴマダレは突進を受け止めてくれ。ケンちゃんは二人が止めてる間に攻撃だ。俺はあいつが逃げそうになったときに備える。いいか?」



「「「「ウェーーーイ!」」」」


 つい俺もウェーーイと同じ返事をしてしまう。


 でもこういうのってコミュニーケーション上とても大事。



 全員で気合を入れた後、盾役の二人がビッグボアの前に立って盾を叩いて挑発する。



 ビッグボアは好戦的な性格で人を見るとほぼ突進してくる。


 その突進先をコントロールするために音を出して注意をひきつける作戦だ。


 こちらの音に気がついたビッグボアは鼻息荒く地面を蹴り、突進の構えをとる。


「ヴォオッ!」


 ビックボアは短い咆哮と共に俺たちを跳ね飛ばそうとこちらへ突進してくる。


「おし! こっち来たぞ! あんまり長く持たないから早めでよろしく!」


「もっすんはそんなこと言ってるけどできる子だから一時間ぐらいいけるし」


「無理無理無理!」


 盾役が騒がしくしているとビッグボアが釣られて方向転換してきた。



 二人は盾を構えてそれを受け止める。


 激しい接触音の後、ビッグボアと二人はピタリと止まった。


 力が拮抗しているせいか、お互い一歩も動かない。



「頼む! なるべく早くしてくれ!」


「一時間以内に頼む!」


「だから無理だって!」


 軽口は叩いているが結構辛そうだ。



 俺は両手にナイフと片手剣を持つとビッグボアへの攻撃を開始した。


【短刀術】の流れるような動作で首、肺、腹部をナイフで刺す。そこから【剣術】に切り替えて後ろ足を一本斬り飛ばした。


 ビッグボアは姿勢を維持できなくなり、大きな音を立ててその場に倒れる。しかし、倒れてはいるがまだ生きているため、もがいて暴れまわっている。


 この状態では剣やナイフでは近づいて攻撃し辛い。


「ナイス! ケンちゃん」


 俺が躊躇っていると、そこによっしーがビッグボアの暴れる圏外から槍で頭部を突き刺す。ビッグボアは数瞬痙攣したあと、静かに息絶えた。


「いい感じじゃね?」


「早くね?」


「これはいけるっしょ」


 三人はビッグボアの討伐が思いのほか早く済んだので興奮気味だ。


 確かに今のはいいコンビネーションになっていた。



「連携がうまくいったな」


 誰かが活躍したというよりは全員の動きがうまくはまった感じだ。


 討伐部位を剥ぎながらも、その盛り上がりは冷めない。


「ケンちゃんまじ何でもできるのな」


「弓の次は剣とナイフも使えるとかないわー」


「引くわー」


 相変わらずよっしーから順にもっすん、ゴマダレと規則正しく発言する三人。



「そうか? でも全部下位職のスキルだぞ?」


 三人の反応を見る限り、【居合い術】は使わないでおいた方が良さそうだ。


 あんまり目立っても仕方がない。



「普通は一職のスキルしか使わないもんだって」


「だよな、んな面倒なことしないって」


「だな、俺らだって戦士しかなれないしな」


「そういうもんかね」


 三人の言葉からこの世界での職業に対する感覚が分かってくる。


 俺は武器に触れるだけで職業を選べるが、普通の人はそれが出来ない。


 そう考えると俺は異質な存在になってしまっているのかもしれない。


「まあ、それは置いておいて時間が惜しいし、どんどんいくべ〜」


「爆狩りだな!」


「今日の酒はうまいぞー!」


「「「ウェーーーーイ!」」」


 意気揚々とハイタッチする三人。


 それを見た俺も剣を掲げて気合いを入れる。


 …………


 その後も三人との連携はうまくいき、大量のビッグボアを狩ることに成功した。


 適当なところで狩りを切り上げ、ギルドで報酬も受け取り、分配も終了した。


 モンスター討伐は非常にうまくいったが、なぜか必要以上に疲れた。



 俺が原因不明の疲労感から背を丸めていると背後で“FOOOO”とハモっている声が聞こえてくる。


 ……一体なぜなんだ。


「「「おつかれー!」」」


「おつかれ」


 声をそろえてくる三人に俺も返す。本当に仲がいい三人だ。


「これから打ち上げ行かね?」


「いいね〜。よっしーゴチっす!」


「いつもありがとう! よっしー」


「奢らねぇから! ケンちゃんも行こうぜ?」


 三人での会話が一周し、よっしーがこちらへ会話を振ってくる。



「いや、俺はいいわ。ちょっと用事もあるし三人で行ってくれ」


 さすがに疲れたので適当なことを言って遠慮しておく。


「ケンちゃんまじ付き合い悪い〜」


「次は行こうぜ?」


「俺待ってるから!」


 三人は順に俺に声をかけると手をブンブン振りながら酒場がある方へ消えていった。


「気疲れだろうか……」


 少し宿で横になりたい気分だ。


 そんな事を考えながらギルド前で呆然と立っていると、遠くから子供が走ってくるのが見えた。距離が近づくにつれ、この間海で遊んだ子供たちだと分かる。


 俺は息を切らせてこちらへ向かってくる子供たちに声をかけた。



「おい、どうした? おしっこか?」


 子供が走る=おしっこ、間違いない。


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