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4 サイコロステーキ職人



「俺に何か用ですか?」


 何かトラブルだろうか? さすがにギルド関連のトラブルはもうご勘弁願いたい。



「いえ、個人的なことなんですけどね。私、街の外の話を聞くのが大好きでして、この街に来た人にはいつも夕飯をご馳走するかわりに外の話を聞かせてもらっているんですよ。ギルド勤務だと中々別の街に行く機会がなくて……。だから冒険者の皆さんから話を聞くのが私の唯一の楽しみなんですよ!」


 受付の男性は俺の席の正面に座ると一気にまくし立ててくる。



「なるほど、いいっすよ。何かここの名物ご馳走してくださいよ」


 俺はその迫力に負けつつ同意する。奢ってくれるなら奢ってもらおう。


「ありがとうございます! いやぁ、この季節は色んなところから冒険者の方が来られるので一番楽しい時期なんですよ」


 浮き浮き顔の受け付けの男性は饒舌にまくし立てる。他の街の話を聞くのが本当に好きらしい。



「俺もはじめて来ましたけど綺麗な景色ですもんね。それに魚介類も食えるし」


「皆さんそう仰ってくれますよ。まあ、私は見慣れて飽きちゃいましたけどね。ですがここの料理は飽きないですよ。私のお勧めはリゾットとパスタですね! どちらも絶品ですよ」


「いいですね。じゃあそれでお願いしますよ」


 注文していなかったメニューだったのでそれを頼むことにする。



 俺への追加注文を終えた男性職員はこちらへ向き直り、"さあ、どうぞ"という顔をを作った。そんな表情を見た俺はちょっと苦笑いを浮かべながら記憶をたどる。


 …………


 その後はギルドの受付担当さんと一緒に飯を食った。


 俺は行ったことのあるメイッキューとスーラムの話を披露しながらリゾットとパスタ、それに自分が注文した料理に舌鼓を打った。ギルド職員の人とこうやって話す機会もそうそうないだろうし、俺は前から気になっていたことを聞いてみる。


「そういえば聞きたいことがあるんですけど」


「なんですか? 私で分かることならお答えしますよ」


「ギルドのパーティー募集で戦士と魔法使いと僧侶位しか職業を見かけないのですがそれ以外の職業の人ってほとんどいないのですか?」


 メイッキュー程の街でもそれ以外の募集は見かけなかった。何かあるのだろうとちょっと気になっていたのだ。


「あ〜そういうことですか。そういえばあなたはまだギルドランクが低かったですし、あまりその手のことには詳しくないのですね」


「はい、お恥ずかしながら」


「ですがよくぞ私に聞いてくれました。私はこの街に来る色んな冒険者の方から話を聞いていますからね。多分この街で一番詳しいですよ!」


 受付担当さんはポンと張った胸を叩く。


「おお!」


「まず、戦士、魔法使い、僧侶が多いのは二つの可能性がありますね。一つは最上位職を目指している人と、今の稼ぎに満足している人です。まあ、魔法使いと僧侶の募集が多いのは単純に人が少ないからでしょうけどね」


 受付担当さんは腕組みしながら解説してくれる。


「お、最上位職って勇者になれるんですか?」


 勇者が最上位職というのは知っていたので聞いてみる。


「いえいえ、勇者は選ばれた人にしかなれないようですよ? 最上位職は勇者だけではなく戦士、魔法使い、僧侶にもそれぞれ存在するのですよ」


「ほほう、そんなに沢山あったんですね」


 今の説明だと下位職にある職業は全部最上位職がありそうな感じだ。


「ええ、ですが条件が厳しいようですね。はっきりとしたことはほとんど分かっていませんが下位職を一種類だけ選択した状態で経験を積むのが条件の一つのようです。他の下位職や上位職になってしまうと、なれないそうですよ。なので、上を目指す人はひたすら下位職で頑張る人が多いので、どうしても上位職の人はいなくなってしまいますね。それとは別に今の稼ぎで満足されてる方は無理に新しい職業になる必要を感じずに、そのままでいる人も少なからずいますね」


 得意気な顔をさいた受付担当さんは人差し指をピンと立てながら説明してくれる。



「なるほど〜」


 受付担当さんの話によると一つの下位職を極めると上位職を跳び越して最上位職になれるようだ。また、他の職業につくと最上位職にはなれない模様。


 つまり俺は最上位職にはなれないようだ。……残念すぎる。



 この後も受付担当さんの話は続き、色々なことが分かった。


 他の最上位職も勇者同様、最上位職になるとロックがかかり、他の職業になれなくなるそうだ。



 条件が厳しいし他の職業にもなれないから結構不便な感じもするが、冒険者の憧れであるらしい。


 最上位職になった人間は吟遊詩人に歌われるほど有名になることが多いらしく、成り上がろうとする冒険者は決まって最上位職を目指すそうだ。


 そういうこともあってか上位職の募集や冒険者は少ないらしい。


 ついでなので最上位職で有名な人を聞いてみる。


「そうですね〜この辺りで有名な人でしたら他の人も知っているでしょうし、私しか知らないようなのでいくなら、鞭聖アノンとか細切れのオリンでしょうね」



(何そのグラム単価が安そうなオリンは)


 ちょっとその物騒な通り名がついてるオリンが気になる。


 でもまあ……、きっとあれだろう。元の世界でいう佐藤とか鈴木みたいな感じでよくある名前ってだけだろう。


「そのオリンっていう名前ってよくある名前なの?」


「いえ彼女の名前は祖国でも珍しいようですね」


(違ったー! アウトー!)


 俺の心の中の審判が審議もビデオ判定もなしにアウトを叫ぶ声が聞こえる。


「へ、へぇ〜」


「あ、細切れのオリンに興味があるんですね。ケンタさんは中々渋いですね〜。彼女はサムライの最上位職ショーグンだったというのがもっぱらの噂ですね。なんでも街一つとか国一つを一人で潰したそうですよ。後でその地を訪れた人が見た話によると、その場の死体が全部細切れになっていたそうで、それが由来で細切れのオリンって呼ばれているそうです」


 物騒すぎる……。


 リアル暴れん坊ショーグンじゃねぇか、とは口に出して言えない。言った瞬間、何の前触れもなく背後に居そうな気がするのでね!


「そ、そうなんだ。ちなみに他に知ってる最上位職ってある?」


 これ以上詳しく聞くと再会したときにチビりそうなので話題をそらす。


「鞭聖アノンは謎なんですが、私が知っているのは剣聖、剛拳、ショーグンの三つですね。剣聖が戦士、剛拳が格闘家、ショーグンがサムライの最上位職らしいですよ」


「鞭聖って名前の最上位職じゃないの?」


「違うようですよ?」


「へぇ〜」


 どうせ俺はなれないと分かり、興味がなくなってしまったせいか軽く聞いてしまう。


 もともとなれただけで有名になれるみたいだし、相当希少な存在だから早々会うこともないだろう。


 職業のことは大体わかったので、ついでにもう一つ気になっていたことも聞いておく。



「話は全然変わるんですけど、海にモンスターって出ますか?」


「いえ、出ませんね。鮫のような凶暴な生き物はいますけど、モンスターは出ないですよ。海にはじめて来られる冒険者の方はみんな気にされるみたいですけど大丈夫ですよ」


 受付担当さんはにっこりと説明してくれる。よく聞かれる質問なのだろう。


「そうでしたか、ありがとうございます。はじめての海だったので気になって」


「そうでしょうね。こちらへ来られる冒険者の方の中には休みに海で魚をとって遊んだりする人もいるようですよ?」


「俺も興味があったので、それで気になってたんです」


「じゃあ、色々道具を売ってるお店をお教えしますよ」


「おお、助かります」


 ご馳走してくれたうえに道具屋まで教えてくれる受付担当さんに感謝だ。



 どうやら子供達の言っていたことは正しく、海でモンスターは出ないようだ。


 だが、鮫はいるそうなので不用意に沖に出るのは止めておいた方がいいだろう。



 俺はその後も楽しく食事をして適当なところで受付担当さんとわかれて宿に帰った。


 …………


 翌朝、受付担当さんに教えてもらった店に行き、小さめのモリを一本購入した。



 大物を狩るわけでもないので手ごろなサイズを選んだ。


 他にも色々面白そうなものはあったが、急ぐことでもないので必要性を感じれば買い足していけばいいだろう。


 準備も整ったので早速海へ向かう事にする。


 今日も天気が良く、朝から異常に暑い。水分補給はまめに行ったほうが良さそうだ。


 夏の日差しを満喫しながら歩を進めていると、ほどなくして海岸についたので海パン一丁になってモリを持つ。


「おっしゃーッ! 昼飯ゲットするぞー!」


 俺は気合を入れると意気揚々と海へ飛び込んだ。


(すげぇ……!)


 砂浜にいたときもどこまでも透き通る海水に驚いていたが海中に入るとそれは幻想的な景色へと変わっていた。


 海面から海中に差す日の光は雲間に差す陽光のように岩肌や海底を照らし、行き交う魚はどれも色鮮やかでまるでアクセサリーのようだった。


(あ、ワカメだ)


 そんな絶景を見ても俺の心は花より団子。



 食い物に釘付けになる。


 豆腐とワカメの味噌汁……、ありだと思います。


 ワカメを採取し次の獲物を探す。



 モリを持っているわけだから狙うのは魚なのだが、果たしてうまく獲れるのだろうか。


 比較的側を泳いでいた魚を見つけ【気配遮断】と【忍び足】で接近する。


 魚はこちらに気づくことなく散歩を楽しんでいるようだ。



 俺はモリを構えて一気に突き出した。


 勢い良く突き出したモリは魚をかすったが胴に命中させることはできなかった。


 モリがかすった魚はこちらに驚いて一目散に逃げていってしまう。


 次に行きたいところだが、ここで息が続かなくなり一旦海上に出る。



「ぱっあああっ」


 海中から顔を出して盛大に息を吸い込む。


(これは……難しいな)


 息を止めて、泳ぎつつ、魚を追いかけ、狙いを定めてモリを当てる。


 特に海は潮の流れがあるのでずっと体を動かさないと体が安定しないため、体力の消耗が思った以上に激しい。


 ……これは失敗だったかもしれない。


 釣りや貝拾いに変更した方が獲物をとれる可能性が高いような気がする。


(いや、今日はこれで行こう。ダメだったら酒場で食えばいいし)


 少し迷ったが今日はモリでの魚獲りを楽しむことにして坊主だったら次の手を考えることにする。

 俺はそう決めると再度海中へ潜った。



 …………数十分後。



 俺はまた海面から顔を出して考えていた。


 一応魚は何匹か獲れた。


 しかし、モリが当たらないことの方が多かったのだ。


 位置取りがうまくいっているのに当たらないのは凄くもどかしい。


 それが少しでも何とかならないものかと考え込んでいたのだ。



(いっそのこと片手剣出して【剣術】でいってみるか?)


 ナイフだとさすがに距離が近すぎて無理だが片手剣ならギリギリいけるような気もする。


 そんなことを思いながら手に持ったモリを見つめる。


(こいつがもう少しうまく使えたらなぁ)


 不安定な海中で慣れないモリを使っているのが、うまく当てられない原因なのだ。


 正直今の自分の能力ならもうちょっといけそうな気がしてしまうため、どうにも納得がいかないという状態である。


 そんな気分でモリを見つめていると、あることが思い浮かぶ。


(ん、モリって槍だよな? 【槍術】が使えないか!?)


 そう思い立ち、早速【槍術】を使おうと集中してみると独特の感覚が全身に行き渡るのを感じた。どうやらモリでもスキルは問題なく使えるようだ。


(いける!)


 俺は喜び勇んで海へ潜りなおした。



 魚を見つけると【気配遮断】と【忍び足】で側までより【槍術】を使ってモリを突き出すと今までとは明らかに違う手応えを感じた。


 突き出されたモリは簡単に魚の中心に深々と刺さる。


 あまりの簡単さに驚き、つい口を開けてしまい慌てて海上に顔を出す。


「ゴホッゴホッ! よっしゃー!」


 海水を吐き出し、急いで息を吸い、そして喜ぶ。ちょっとせわしない。


 今までにない手応えを感じて浮かれてしまったのだ。


 これは大量に獲れる予感がする。



 俺は魚を締めると再度海中へ潜った。


 しばらくして体力を消耗したので一旦切り上げて砂浜に上がる。


 漁の成果は満足いくもので大量だった。


 更に魚だけでなく海底に隠れていたイカも何杯か取ることに成功した。


 途中からは一々締めてアイテムボックスに入れるのが面倒になり、岸壁に縛り付けた皮袋に詰め込んでいった。



「とりあえず全部下処理を済ませるか……」


 膨大な量になった魚を海水で洗いながらはらわたと鱗を落とす。


 イカはよくわからないので内臓を全部捨ててしまうことにした。


 イカスミは惜しいが、どれがどれやら分からなかったので止むを得ない。



 下処理を終えると、今食べる分を以外をアイテムボックスにしまった。


「よし、焼くか」


 ずっと泳ぎ続けていたので腹ペコだ。


 砂浜にかまどを組むと渇いた流木を拾い集めて薪にする。


 下処理した魚を串に刺すと早速かまどに火をつけた。後はお手の物でじっくり魚を焼いていく。


 しばらくするといい焼き加減の魚ができた。


 腹が減っていたので何も考えずにかぶりつく。


「やっぱうめぇなぁ」


 安定した旨さに安堵する。俺の魚を焼く腕も大したものだ。



「う〜ん、でもちょっと小骨が多いな」


 今回獲った魚の種類がそうなのか妙に小骨が多く、勢いよく食べることができない。もぐもぐと咀嚼しているとどうしても小さな骨が混じっていて飲み込めないのだ。


 味はうまいのに食べにくいのでなんとも苛立たしい。



(あ、それなら揚げればいいんじゃないか?)


 ふとそんなことが思い浮かぶ。高温で揚げてしまえば、小骨も気にせずバリバリ食べれそうな気がする。次回はそうしてみるのもいいかもしれない。



 今回は腹が満たされたので試すなら次回だろう。



 食事を終えて片付けを済ませると、さすがに泳ぎ疲れたので宿に帰ることにした。




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