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3 「リボ払い」で検索 詳しくはウェブで!


「サンドアートでもやってみるか!」


 要は砂の彫刻だ。砂浜でそんなことは一度もしたことがないし面白そうだ。


 ちゃんとした建築物などを凝って作れば大人がやっても恥ずかしくないはず。



(……いくか、サクラダファミリア)


 俺はそう心に決めると高いステータスを活かして砂を掘り出した。




「まずはデカイ山を荒く作って、それを水で固めてから削り出せばいいんだろうな」


 やったことなんてないので適当だ。


 俺はとにかくデカイ砂山を作って固める作業を繰り返した。


 …………


 しかし、それ以上はうまくいかなかった。


 目の前には二メートル級の砂山がそびえ立っているだけだった。


 何度か削ってみたりもしたが、その都度砂が崩れてボロボロになるだけだった。



「……トンネルでも掘るか」


 諦めた俺はデカイ砂山にトンネルを掘ることにした。


 はじめはサンドアートがうまくいかず意気消沈して気晴らしにちょろちょろと掘っていただけだったが、トンネルを両サイドから堀り、後少しで開通するという段になるとノリノリになっていた。



「いいぞ、後少しだ……、後少しでトンネルが……」


 デカイ砂山なので掘ったトンネルも四つん這いになった自身がすっぽり入る。


 砂を掻き出す度に反対側から掘った穴と繋がり、壁のようになっている砂が崩れ、向こうの景色が少しずつ見えてくる。反対側の景色が見えるにつれて俺の気分も高揚していく。



 ……後少しで開通だ。





「ドーーーーーーン!!」



 そう、あと一掻きでトンネルが開通するという瞬間に遠方で遊んでいたはずの子供が勇ましいかけ声と共に俺の砂山にダイブしてきた。


 俺の目の前で反対側のトンネルが砂に埋もれ視界が真っ暗になる。


「あーーーーーーーーーー!!!」


 俺はあまりの出来事にショックで大声を上げてしまう。


 砂山は崩れてしまったのでトンネルから這い出さずにそのまま立ち上がる。


 髪の毛が砂にまみれた。


 頭を振って砂を払う。


「いい歳して砂浜で山とか作ってる〜」


 目の前には子供が三人いて大笑いしていた。



 まあ、珍しい光景だし、笑うのも仕方がないだろう。


 だがこれだけは言っておかないといけないことがある。


 俺は子供たちの前に一歩進み出る。


「俺だってはじめはサクラダファミリア再現しようとしたんだよ! でもそんな能力俺にはなかったんだよ! 大人になるっていうのは妥協するってことなんだよ! 分かるか?」


 一番近くにいた子供の両肩を掴み、顔を近づけて力説する。


「う、うん」


 子供は小首を傾げていた。



 上司が飲みに連れて行ってくれたときによく力説していたのを思い出す。


諦めるんだ、それができてはじめて一人前になれると、そんな上司の口癖は家族がいるから辞められないだった。


 全てを諦めていても仕事を辞めれないことと頭髪の薄さには諦めがついていなかったようだ。今も元気でやっているのだろうか。


 思考を戻して子供の説得を続ける。



「サービスランチはできるのが遅いから牛丼! 別に安いから牛丼を選んでいるわけじゃないんだ! 一年牛丼を食い続けたり、昼飯がバナナのゲーム開発者だっているんだ!」


「う、うん」


「車を買うなら軽! むしろ維持費が高いから買わない! 俺だって本気出してリボ払いで火達磨になれば買えるけど大人だから買わないんだ! 分かるだろ?」


「な、何言ってるかわかんないけど、すごい頑張ってるのは伝わってくるよ」


「だろ? だから、俺が妥協して砂山でトンネルを掘ってるのは、俺がまぎれもない大人の証拠なんだ、わかるか?」


「う、うん」


 ちゃんと説明したら子供たちも理解してくれたようだ。




 やはりちゃんと想いを伝えるのは重要なことだ。


 俺の説得も終わり、一段落ついて子供たちを見渡すと一人いないことに気がつく。



 子供たちが元々遊んでいた場所を見るとその場に一人だけ残っているようだった。その子供はこちらには参加せず、ぼんやり海を眺めている様子。俺はそれが気になり肩を掴んだ子供に聞いてみる。



「ところであそこで黄昏てる奴はどうしたんだ? 海と交信でもしてるのか?」


「あいつちょっと変わっててさ。みんなと遊びたがらないんだよね。目を離すとすぐ一人でどっか行っちゃうんだけど、そうすると俺たちが母ちゃんに怒られるからいつも困ってるんだ」


 子供は不満たらたらのご様子。。


「一人遊びが大好きなのか」


 一人で砂山作ってトンネル掘っちゃう冒険者と仲良くなれそうな奴だ。


 俺は子供たちを引き連れて海と交信している子供の下へ移動した。



「よっ、一緒に遊ぼうぜ」


 気さくに声をかけてみる。


「いい」


 交信中の子供は蔑んだ目をこちらにむけて断りを入れてきた。


「そうか」


 俺は心が折れてその場を離れた。



「もっと頑張れよ!」



 それを見ていた子供たちに励まされる。



「でも断られたし、もうダメだよ」


「根性ないなぁ、そんなんじゃ立派な海の男になれないぜ」


「そうだそうだ、海賊にやられちゃうよ」


 などと子供たちと会話をしていると後ろから女性に声をかけられた。



「あらあら、子供がお好きなんですね」


 振り返ると、ついさっき土産物屋に案内した女性がにっこりとほほ笑んでいた。


「いや、成り行きでこうなっただけで、別にそういうわけじゃないんだけどね」


 子供が好きというより子供にからかわれているといった方が正しいかもしれない。


「私は子供好きの人が好きですね」


 美人特有の流し目でそんなことを言ってくる。


「あ、俺子供超好きです! なー?」


 そういって俺は側の子供と肩を組む。ものすごい迷惑そうな顔をする子供の隣で俺はニッコリ笑顔。


「あらあら、それなら私たち相性ピッタリですね。私は子供が大嫌いなので結婚した後で全て面倒みてもらえそうな人を探していたんです。そういう人ってなんでもやってくれそうだし」


 顔は笑顔だが眼が全く笑っていない。


「あ、よく考えたら子供そんなに好きじゃなかったわ」


 そう言って組んでいた子供の肩を解き、ちょっと放す。放り投げられて軽くキレる子供。


 こっちに砂を蹴ってきた。俺も蹴り返す。


「あらあら、やっぱり仲がいいんですね」


 それを微笑ましい光景でも見るかのように笑顔を振りまく女性。


「いや、全然! 全然仲とか良くないから!」


「うふふ、じゃあ私はこれで失礼しますね。今度案内のお礼に食事でもご馳走させてください」


 女性は軽く頭を下げるとその場から立ち去っていった。


 飯を奢ってくれるというのなら、ちゃんと日時を決めてから帰って欲しいものだ。


 次は俺がご馳走しますよ! とか言われたことあるけど、ああいう時って絶対奢らないんだよな。などと思いながら女性の背中を見送った。


 そんな俺に子供が未だに砂を蹴ってくる。俺はそんな子供の両脇に腕を入れて持ち上げた。


「なぁなぁ、海にモンスターって出るの?」


 この辺で遊んでいるのなら知っているかもしれないと思い、聞いてみる。



「何言ってるのー? 出るわけないじゃん。そんなことも知らないの?」


 どうやら出ないらしい。子供の言葉だし浅瀬のことだけを言っているのかもしれない。


 ちゃんと詳細を確認する必要があるが、これなら明日は海水浴が楽しめそうだ。



「「バーカ、バーカ」」


 この辺ではそれが常識らしく子供たちはやたら挑発してくる。


「んだと! コラ!」


 俺は持ち上げた子供を海に放り投げた。



 放り投げられた子供は笑顔で海から這い出すとダッシュでこちらに戻ってきた。


「もう一回! もう一回やって!」


 海に投げられるのがツボに入ったのか、やたらせがんでくる。


 それを見た他の子供たちもそわそわしはじめた。


 その後は昼飯抜きで子供たちを順番に海へ投げ入れ続けた。



 そのまま子供たちと遊んでいたがしばらくすると夕食の時間だからと皆帰っていった。


 昼抜きで全身運動しまくったので俺も腹の減りが限界に達している事に気づく。



「ちょっと早いけど俺も飯にすっか」


 体についた砂を払うと丘の上にあるという料理屋を目指すことにした。


 …………


「ぬ、閉まってるな」


 店に到着すると扉が閉まっていて入れなかった。


 看板を確認すると、どうやらまだ営業時間外で店は開いていないようだ。ここで店が開くのを待つには少し時間があるし、ちょっと微妙な時間ができてしまう。


(そうだ、武器の手入れをしてもらおうか)


 ふと、そんな事を思い立つ。



 使っていて分かったが、この世界の武器は妙に傷みにくい。


 それでも今使っている武器たちは買ってから随分経つ。自分で手入れをしているが、一度武器屋などで本格的にやってもらいたい。明日も遊んで回るつもりなので今やってもらうのが丁度いいだろうと考えたのだ。


 そう決めた俺は丘を降りて武器屋を目指した。


 …………


「すいません」


 店に入り、店員に話しかける。


「いらっしゃい、何の用だい?」


「武器の手入れをお願いしたいんですが、できますか?」


「物によるな。見せてくれ」


 言われた通りに今使っているナイフと片手剣、そしてドスを出した。



「ふんふん、これなら問題ねぇな。……って、これは!!」


 ナイフと片手剣を見た後、ドスを手に取った店員は目を剥いて固まってしまう。


「どうしました?」


 驚き方が異常だったので盗品とかじゃないだろうなと不安になる。


「こいつはすげえ業物だ。こういうドスは武器職人じゃない包丁なんかを作る大工道具専門の鍛冶職人が打った場合と、刀匠が刃を保存するときに作る二パターンあるが、多分これは刀匠が打った物だな……」


 店員は声を震わせながらそんなことを言い出す。


 ドスを持つ手もすごいプルプルしている。



「しかもこいつは魔力コーティングしてある! 多少の刃こぼれなら自己修復するし研ぐ必要もない。軽く拭いてりゃそれでいいという優れもんだ。二百万くらいするんじゃないか?」


 プルプルしながらも分かり易い解説を行ってくれる。



「えええ! そんなにすごいんですか!?」


 どうやら俺はすごい掘り出し物を買っていたようだ。


「ああ、あんた良い買い物したんだな。こいつは手入れする必要はないな。ナイフと片手剣の方はかなり使い込んでるみたいだし、一度やっておくことをお勧めするよ」


「じゃあそれでお願いします」


「まいど! できあがりは明日の昼ごろだな。受け取りはそれ以降で頼む」


「わかりました。よろしくお願いします」


 俺は武器を預けて店を出た。


(しかしこいつがそんなにすごい代物だとは思わなかったな)


 そう驚きながらドスを見る。


 はじめて見た時、あまりの刃の美しさに吸い込まれるように見入ってしまったが、それだけすごい逸品だったようだ。こんな買い物そうそうできないだろうし、大事に使っていきたい。


 武器屋を後にし、丘の上の店に戻るころには海に夕日が沈みかけ、海面がオレンジに染まってきていた。


 店も開店しているようで今度は問題なく入店できた。


 開店して間もないので席はどこでも選び放題だ。



 普段ならカウンターへ行くところだがこの店の売りは街や海を一望できることなのでオープンテラスの席へ移動した。


 高台にあるせいか少し潮の匂いを含んだ風が吹き付けてきて涼しさを感じる。


 朝方海に行ったときは一面青一色だったが今は夕日と海が接触する部分から空に向けて朱色のグラデーションがかかっている。


「いいねぇ……」


 街に目を向ければ白一色だった街並みも今はオレンジ色に染まり、昼間の清涼感とは違う落ち着いた雰囲気を感じる。


 俺はそんな景色を見ながら酒を楽しみ、料理が到着するのを待った。


 そこへ店員とは違う声が俺を呼ぶのが聞こえた。 


「やっぱりここにいましたね!」


 声がする方へ振り向くと、朝に更新手続きをしてもらったギルドの男性職員がこちらへ近づいてくるところだった。



「あ、どうも。夕食ですか?」


「ええ、それもあるんですけど、あなたを探していたんですよ。はじめてこの街に来る人は高確率でこの店で食事をするので、あなたがここに来るかもしれないと思って来たんですよ」


「俺に何か用ですか?」



 何かトラブルだろうか? さすがにギルド関連のトラブルはもうご勘弁願いたい。




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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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