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1 到着

本作品は残酷なシーンが含まれます。そういった描写に不快感を感じられる方は読むのをお控えくださいますようお願いします。


あらすじにも書いてありますが本作品は残酷なシーン、登場人物の死亡、主人公が殺人を犯す描写が出てきます。なろう内の投稿作品を見ていると該当話の前書きに注意書きをするのをよく見受けますが、本作は該当シーンがネタバレになる部分もあるため前書きでの注意喚起は行わない予定です。また、そのシーンを読み飛ばして読んでも意味が分からなくなってしまうというのもあります。そのため冒頭に当たる第一話での注意喚起とさせていただきます。ご了承ください。





 


 厚い雲が覆う森で俺は両手にナイフと片手剣を構えて、モンスターと対峙していた。



 雨が降る直前のような独特の湿気が体に纏わり付いてくる。


 今、俺の目の前ではキラーウルフが唸り声を上げていた。


 目は血走り、口からは大量に涎が垂れている。



 今にもこちらへ襲い掛かってきそうだ。


 俺は両手にナイフと片手剣を持ち、相対する。


 じっとしていられなくなったのか、口を大きく開けたキラーウルフがこちらに飛び掛ってきた。



 それをしっかり目で追い、【縮地】ですれ違いながら【短刀術】で数回斬りつける。


 傷を負ったキラーウルフは着地に失敗し、ふらつく。


 その隙を逃さずスキルを【剣術】に切り替え、片手剣でキラーウルフの胸を貫くと剣を手放し、腰のドスに手をかけて【居合い術】を使って首をはねた。


 首をはねられドサリと倒れたキラーウルフは何度か痙攣したあと動かなくなった。



「ふぃ〜」


 構えを解いて息を吐く。



「あれがもう少し使えればなぁ……」


 眼前の結果に満足しながらも、ついぼやいてしまう。


 あれとはメイッキューの街で修得した腕と武器のみに【気配遮断】を発動させる方法だ。



 あの後試しに使ってみて分かったが一瞬で発動することはできず、少し溜めが必要だった。


 だからあの時、ボス格の男は長々と話していたのだろう。


 かなり威力の高い技だったが使える場所が限られている状態だ。



 そしてもう一つの不満が頭をよぎる。


「あれも中々使いにくいんだよなぁ」


 新しく習得した戦士スキル【剣戟】にも思わぬ問題があった。



 【剣戟】で相手の攻撃を弾くと、こちらもその後一瞬隙ができるのだ。



 両手に武器を持った状態なら【剣戟】を使ったあと、すぐにもう片方の武器に切り替えれば問題ないが、一つしか武器を持っていない状態だと単純に戦闘の仕切り直しかできない。


 二つとも強力そうなスキルだと思っていたが中々癖が強い。


 期待が大きかっただけについ愚痴っぽくなってしまう。



 そんな独り言を呟きながら片づけを済ませ、討伐部位を剥ぎ取る。


 普段なら【気配遮断】で背後から襲って即終了だが、背後から奇襲ばかりしていると腕がなまりそうだったので、今回は一匹の固体を見つけて正面から戦っていたのだ。


 ちょっとスキルも過剰気味に使って感覚を確かめてみたが、中々良好だったと思う。


 街道沿いを歩くとモンスターに出くわすことがないので、メイッキューの街にいたときの戦闘頻度が懐かしい。


 メニューを開いてステータスをチェックしてみる。


 ケンタ LV13 戦士 LV4


 力 67

 魔力 0

 体力 26

 すばやさ 79


 戦士スキル


 LV1 【剣術】

 LV2 【槍術】

 LV3 【剛力】

 LV4 【剣戟】


 狩人 (LV5MAX)

 暗殺者 (LV5MAX)

 サムライ (LV3)


「うおぅ! 上がった」


 このタイミングでレベルが上がるとは思ってもみなかったので驚く。


 移動中は案外戦闘が少ないのでレベルもスキルレベルも上がらないだろうと思っていた。



「ああ……、やっちまった……。やっぱり低いかぁ……」


 そしてやらかしてしまった。


 何をやらかしたかといえば、職業を戦士にした状態でのレベルアップ。



 俺は今、かなりの職業を収得している。だが、スキルレベルを上げる時以外はなるべく職業を暗殺者に固定してきた。その理由は、各職業に付く説明文を読んだためだ。



 説明文は最低限のことしか書かれていないが、どうも職業には上位のものと下位のものが存在するような雰囲気があった。


 そして、俺がなれる職業で上位のものの可能性があるのは暗殺者。そのため、なるべく暗殺者でレベルアップしようとしていたのだ。


 が、今回は勇者にパワーレベリングしてもらったり、ギャングにからまれたりしたせいで、レベルアップのタイミングが計り辛かった。


 結果、戦士の状態でレベルアップしてしまったのだ。


 そして、上昇した能力値が力4、体力4、すばやさ2だった。


 暗殺者は力6、体力2、すばやさ7。

 上昇した能力値の合計が戦士で10、暗殺者で15。


 (上位の職業と下位の職業で、能力値の上昇が違うということを身を以って知ってしまったわけだな……)



 比較できると、どうしてももったいないという気分になってしまう。


 しかし、ステータスの画面に次のレベルアップまでの経験値が表示されないので、こういった事故はいずれ起きただろう。


 まあ、勉強になった。確証が得られた、と諦めていくしかないだろう。


 それに無職でレベルアップした時に比べれば格段に増しな状況だ。



 次から気をつけていくしかない。


 スキルレベルを上げる時以外はなるべく暗殺者にしていった方がいいだろう。


 といっても、丁度今レベルアップしたばかりだし、しばらくはこのまま戦士でいることにする。レベルアップのタイミングは勘頼みなので、チキンレース感が半端ないが、当分は上がらないだろう。 


 「まあ、失敗しても何かしら上がるわけだし、マイナスになるわけじゃないんだから気楽にいくか~」


 あまり気にしすぎたら、失敗した時に余計にへこむだけ。うまくいったら良かったと喜ぶくらいで丁度いいだろう。



 それに、転生した当初と比べれば順調に成長したといえる。


 今の俺なら油断しなければなんとでもなる強さは十分にあると思う。



(んじゃ、切り替えて海に行くか)


 これ以上考えるのはストレスになるだけだと判断した俺は、モンスターを片付け、再び歩き出す。


 今回は少し休養もかねて夏の海を楽しむべくウーミンの街を目指している。


 すれ違う通行人に聞いたところ後一日もすれば到着できるそうだ。



「お?」


 額に何か冷たいものを感じたので上を見上げると雨が降ってきたようだった。


 ここ数日曇りの日が続いていたのでいつ降るかと思っていたが、とうとう降ってきてしまった。


 といってもまだ小雨なので、このまま突っ切って街を目指そうと思う。


 …………


 翌日の夕方、なんとかウーミンの街に着くことができた。


 しかし、昨日からの雨が凄いことになっていた。


 それもあって移動に時間がかかってしまい、着いた時には夕方になっていたのだ。空は厚い雲に覆われているため、夏の割には辺りは薄暗い。



 雨は台風でも来ているのか、凄まじい状態になっている。


 前日は小雨だったが今は体に当たる雨粒はビー玉サイズの大粒になっていた。


 容赦なく降り注いでくる雨粒が地味に痛い。



 さらに風が異常に強く、前に進むのが困難な状態だ。


 遠くから見ると、きっと酔っ払いがふらついているかのような足取りになってしまっているだろう。



 強風のせいで雨も空から降っているのか疑わしいほどに真横から飛んでくる。


 後一日で着くからと雨脚が強くなっても強行して進んできたが、失敗だったかもしれない。



(さっさと宿に入って休みてぇ)


 そう思いながら街の入り口を目指した。



「まじか……」



 なんとか街に着くことはできたが門は閉ざされていた。



 門を叩いたり大声で呼びかけたりしたが中から反応はなかった。


 俺が呆然と立ち尽くしている間もビー玉のような雨粒が俺の横っ面を叩き続ける。



 閉ざされた門を見上げてふと考える。


 俺がこの街に来た目的は何だったのだろうか……と。



(そうだ、海を見に来たんだった)


 そう、バカンスに来たはずだったのに初日からこの有様だ。


 ついてないと言えばそれまでだが、なんともやるせない気分になってしまう。



「クッソ! こうなったら意地でも行ってやる!」



 こうなったら状況がどうであれ、海くらいは見ておいた方がいいだろう。


 こんな状況では泳げないだろうが遠くから眺めるだけなら問題ない。



 近くに行けば波にさらわれる危険があるのでそこは気をつけておこう。


 どうせ街には入れないんだし、荒れる海でも眺めて心を落ち着けよう。


 そう決心した俺は腕で雨粒を防ぎながら荒れ狂う暴風に立ち向かいつつ、海へ歩を進めた。


 …………


「荒れまくってるな……」


 海に着くとまるで洗濯機の蓋を開けたかのように波が凄いことになっていた。


 泥汚れの激しい体操着でも真っ白になる勢いだ。



 とても近寄れないので少し離れた高台から辺りを眺めることにする。


 曇り空な上に雨が酷いのではっきりとはわからないが周囲に大小の島がいくつか見える。晴れればどこまでも広がる海に大小の島が絶妙のコントラストになって絶景になりそうだ。


(晴れたらここで絶対遊んでやるからな!)


 そう思いながら海岸の景色を目に焼き付けていると人影が見えた。


 人影は沖に近いところで波に揺られて上下している。



「溺れてるのか!?」


 周りに人はいないし、なぜこんな危険なときに一人で海に来ているのだろうか。


 まるで街に入れず苦し紛れに海を見に来たどこかの冒険者のようだ。



(助けたいけど、あれは巻き込まれる)


 あんな荒れ狂う波に飛び込んで助けるのは無理だ。


 かといって街に助けを呼びに行こうとしても中には入れない。


(見ている事しかできないのか……)


 俺が諦めかけたその瞬間、人影に異変が起こる。


「お?」


 なんとその人影が海面に立ち上がったのだ。


 そのまま人影は何事もなかったようにスィーっと移動しはじめる。



「サーフィン!?」


 遠くてはっきりわからなかったがどうやらサーフィンをしているようだった。


 なんと紛らわしいことだろうか。



 ほっと安堵の息を吐くと同時にあることを思いつく。



(あの人の家に泊めてもらえないかな)


 ここでサーフィンをしているのなら街に入れる方法を知っているだろうし、当然そのうち家に帰るはずだ。そのときに交渉して泊めてもらえないだろうか。


 このまま街を目の前にびしょ濡れで一晩過ごすのは辛い。


 気がつくと俺の足は自然とその人影へと小走りで向かっていた。



「おーーーーい!!」


 俺は両手を振ってその人影に近づきながら大声を出す。


 近づいていくとわかったがサーフィンをしているのはどうやらおっさんのようだった。


 その姿は遠くから見てもわかるほどムキムキな体型で濡れた髪がべったりと地肌に張り付いて頭頂部があらわになっていた。


 おっさんも俺の声に気づいたようで手を振り返してくれる。


 しばらくすると陸に上がってこちらへ来てくれた。


「こんにちは!」


 俺は台風の救世主に下心満載で挨拶する。


「よぅ、あんたもサーフィンか?」


 おっさんは気さくに返事を返してくれる。


 近くで見るとおっさんは頭髪は薄いが、顔は掘りが深く渋い顔立ちをしていた。


 ボクサーか格闘家を思わせるほど脂肪のない締まった筋肉をしていて、海の漢って感じだ。



(なんか、自分で決めたルールに厳しく、スーツ姿で運び屋とかしてそうな顔してんな)


 男の顔をまじまじと見つめながらそんなことを思う。ルールが三つくらいありそう。


「いえ、違うんですよ。この暴風雨で困っていて、良かったら一晩泊めて頂けませんか? お金なら払いますんで」


 頭を下げて心の底からお願いする。



「いいぜ、金はいらねぇよ。まあこの雨じゃ確かに難儀するよな」


 おっさんはニカッと歯を見せると快諾してくれた。


 これで今夜は何とかなりそうだと胸を撫で下ろす。


「助かります!」


 更に深く頭を下げる。


(助かったぁぁあああ!)


 俺は嬉しさのあまり顔が崩れる。



「いいってことよ。こっちだ、ついて来な」


 おっさんはサーフボードを脇に挟むとズンズンと大股で進み始めた。


「ありがとうございます!」


 俺はそれに遅れないように早足でついて行く。


「あんたどこから来たんだ?」


 おっさんは歩くスピードを落とさず、こちらにも振り向かずに聞いてくる。


「スーラムの方からですね。夏の海を見たくて来たんですがこの雨で……」


 俺は大粒の雨を腕で防ぎながら答える。



「そうか、大変だったな。俺はハーゲン、家はこの先だ」


「あ、俺はケンタって言います」


 俺はラムレーズンとか抹茶が恋しくなる名前のおっさんに挨拶する。


 そのまま歩きながら二言三言交わし、お互い自己紹介が終わる頃にそれは見えてきた。



「着いたぞ。ちょっと狭いかもしれんが、辛抱してくれや」


 そう言ってハーゲンが指差す方向には一人用テントがあった。



「え?」


「一人用のテントだが、詰めれば何とかなるだろう」


(まさか、テントとは……)


 予想外のハーゲン邸に戸惑い、しばし呆然としてしまう。


 その気持ちはすごく嬉しいがあんな狭いところにおっさんと二人きりは御免だ。



 だが自分から泊めてくれと言ったのに、やっぱりいいですとは言い辛い。


 何か言い訳を考えないといけないなと、目を伏せているとハーゲンの慌てる声が聞こえた。



「おわっ! おいっ待てっ!!」



 顔を上げるとテントが暴風で舞い上がり、糸の切れたタコのように上空に消えていくところだった。




 テントはまるで一秒でもこの場にいたくなかったかのような速度で空へと旅立った。




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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