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28 うおおおおおおおおおお


 俺は再度ギャングの死体をアイテムボックスに収納すると、ルーフの家を目指した。


 ルーフの家はゴブリンの森からは微妙に距離が離れているので着くころには夕方になっていた。家の前に着くも久しぶりに会う事に緊張し、ノックする腕が力んでしまう。


「誰だ?」


 ノックすると懐かしい声が返ってくる。


「久しぶりだな。俺だ、ケンタだ」


 あいからず扉を開けずに相手を確認してくるので名前を名乗る。


 誰だお前? などと言われないだろうかと緊張で声が軽くうわずってしまう。



「ケンタか!?」


 俺の言葉が終わると同時にかなりの勢いで扉が開き、危うく接触しそうになる。


「お、おう!」


「久しぶりじゃないか! 元気だったか?」


 満面の笑みで迎えてくれるルーフを見ているとこっちも笑顔になってくる。



「ああ、無事冬を越えられたよ。次の街へ移動するついでに顔を出しておこうと思ってな」


「そうか。さあ、あがってくれ」


「ああ、邪魔するぞ」


 中へ入ると俺を覚えてくれていたのかアレックスからも熱烈な歓迎を受けた。


 その日はそのままルーフの家に厄介になることになり、夕食のときを迎えた。



 冬の間、メイッキューの街で過ごした話を肴に酒は進む。話せないこともあるがそれを除いても中々の分量のある話になり酒の量は増えていった。ルーフから最近のスーラム近辺の話題も聞け、一息つくころにあのことを思い出す。


「そういえば、ルーフはスーラムの大滝って知ってるか?」


「ああ。この辺りでは有名な場所だな」


「そうなんだ。俺はメイッキューの街で知ったんだが、場所を知らないか?」


「行くのか?」


「ああ。スーラムを出た後で聞いたときに知らなかったことが悔しくて、次来たら絶対行こうと思っていたんだ」


「なら私も同行していいか? 場所は知っているが行ったことはないんだ。私も一度見てみたいとは思っていたんだが、中々機会に恵まれなくてな」


「おう! じゃあ行くか!」


 ルーフが大滝の場所を知っていてくれたお陰で問題なく行けそうだ。どんな滝なのか明日が楽しみである。



 翌朝、アレックスには留守番をしてもらい。二人で大滝へ向かった。


 観光名所になるような場所なのでモンスターに遭遇しないように道には所々に結界石が置いてあり、きっちり整備されていた。


 モンスターの生息地からも距離が離れているので、滅多なことでは出くわすことはないだろう。



 安心しきった俺たちは酒を飲みながら滝を目指す。


 …………


「で、ションベンしてたら後ろから声をかけられてさ」


「ふむ」


「びっくりして全裸で逃げたんだよ」


「そうか、それは確かに驚くな」


 酒が進み、酔った俺は十八番になったションベン話をついルーフにしてしまった。だが、ルーフは笑うどころか真剣に聞き入って、仕舞いには腕組みして考え込みはじめた。



「お、面白くなかったか?」


 つい感想を聞いてしまう。


「いや、興味深い話だった」


「興味深い?」


「ああ、裸で叫びながら排泄行為をするとそんなに開放感があるものなのだろうか?」


「あ、うん。そんな真面目に考えることじゃないと思うけど」


「是非試してみたいな」


「え?」


「疑問に感じたことは実際に試してみるに限る」


「いやいやいや。お前酔ってるだろ?」


 どうもルーフの目が据わっているような気がする。



「大丈夫だ。私は酔ってなどいない」


 それは酔っている奴がよく言う台詞だと俺は思う。


 こんなイケメンにそんな行為をやらせるわけにはいかない。このまま押し問答が続くかと思ったそのとき、遠くから大量の水が落下する音が聞こえてきた。


 まるで巨大なダムが放水しているような音だ。


「着いたのか?」


 俺は自然と歩くスピードが速くなってしまう。


「音がするな。行ってみよう」


 ルーフが俺を追い抜こうと小走りになる。俺もそれに対抗して早歩きから軽いランニングへと変化し、さらにそこから全力疾走へと変わっていく。


 この勝負、負けられない。


「ハァハァ……」


「ケンタは速いな……」


 結局滝までガチの短距離走をやるはめになってしまった。


 今はお互い疲れてしまい、膝の上に手を置いて息を切らしている状態だ。



 勝ったのは俺だがルーフは粘り強く、気の抜けない勝負だった。


 途中から滝のことも忘れて夢中で張り合っていたのは秘密だ。



 そして目の前には巨大な断崖絶壁があった。その崖下へ向かって吸い込まれるように大量の水が落下していく。ルーフとは距離が近いからなんとか声が聞こえているが、周りの音は全て水が落下する音にかき消されてしまっている。


「すげぇ……」


「ああ、これ程とはな」


 眼前の光景に目を奪われる。大滝と聞いていたが滝と表現するには規模が大きすぎる。


 スーラムの大滝は断崖絶壁を水のカーテンで覆ったように広範囲に広がっていて、さながら水の城壁といったところだ。


 大量の水が落下し、それによってとても細かい水飛沫が辺り一面に舞い上がっている。


 それは霧や煙のようで滝の下降付近をすっぽり覆っているのだ。


 その景色はまるで自分たちが雲の上にいるように錯覚してしまうほどだった。



 ここまでの景色を目の前にすると何も言葉が出てこない。ただただ自然の雄大さに飲み込まれるばかりだ。


 元の世界では自宅と会社を往復するだけだった俺にはこちらに来なければ一生目にすることがなかった光景だろう。俺は山や海を見て感動したと言った話を聞くたびに大げさだなと思っていたが、それは俺が今まで見てきた景色が大したものを見てこなかっただけだと痛感する。


「来てよかった」


 そんな俺の呟きも滝の音でかき消されてしまいそうだ。


「一杯やるか?」


 これを見ながら飲む酒はうまいだろうと思い、そう声をかけてルーフの方を見た。






「よし!」




 そこにはなぜか全裸のルーフが気合を入れていた。



「おい! なにやってんだよ!?」


「見てわからないのか? 今から実践するんだ。街を見下ろす丘ではないがこれだけの景色なら問題ないだろう。そう思わないか?」


 すごく爽やかに清々しく応えるルーフ。



「そう思わないか? じゃねえよ! 酔ってるのか?」



「そうだ。ケンタも一緒にどうだ? 二人でやってみるのは新しいんじゃないか?」


「何すごい新発明しましたみたいな顔で言ってるんだよ! わかったよ、やるよ!」


「話が早くて助かる」



 ちょっとアルコールが足りないので補充したあと、俺もさっさと全裸になった。


 このツッコミ不在感が逆にいい。


 ここでゴネるより勢いに乗っかる方が正しいと俺の守護霊が言ってくれた気がした。


 元の世界にいたときに酔った勢いに任せて集団で占いに行ったことがある。



 店の中に入ると名前にデラックスが付きそうなくらい横にデカイおばさんが俺をじっと見て、溜めに溜めたあと"…………そうめんね"と言ったとき、なんだ腹が減ったのか? わんこそばの方がいいんじゃないのか? と思ったがそれが俺の守護霊と告げられ、俺以外の全員が爆笑していたのを思い出す。



 ありがとう、そうめん。


 生物ですらないのに的確なアドバイスだ。


 そう、ここはダブルで行くところだ。



 間違いない。


 ちょっとアルコールが足りない気がしたので補充しておく。



「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 二人そろって声を張り上げる。


 大滝をバックに絶景のロケーションで放尿をする。


 大滝から発生する特大の虹の下に小さな虹が二つできた。


「なるほど、これは……!」


「いや、風邪引くから考える前に服着ようぜ」


 全裸で真剣な顔をして考え込むルーフをたしなめ、服を着る。



「素晴らしい経験だった」


「そ、そうか?」


 ルーフを変なものへ目覚めさせてしまったのかもしれないという不安と罪悪感が俺の額に冷や汗をかかせる。


「私はずっと堅苦しい生活を強いられてきたせいか、今の行為で表現し難い爽快さを感じた。多分、色々なものが鬱積していたんだろうな。根本的な解決にはならないが一時的にはスッキッリしたよ」


「クセになったりするなよ?」


 ちょっと心配になる。


「はは、約束はできないな」


 などと言っているが表情から冗談だとわかる。多分しないだろう。しないよな?



「俺はこのまま次の街へ行くことにするよ」


 ここからルーフの家まで戻ると結構な距離になるし、このままウーミンを目指したほうがいいだろうと判断してルーフにそう告げた。



「そうか、次はどこへ向かうんだ?」


「ウーミンの街だ。海を見てみたくてな。後、海鮮料理も食ってみたい」


「海か、いいな。スーラムやメイッキューでは魚介類は高いからな」


「ああ、今から楽しみだ」


「ケンタ、私もしばらくしたら、あの家を離れることになりそうだ」


 ルーフもどうやらあの街を出るようだ。あそこは物価が高いし仕方ないことかもしれない。



「そうか、だけど家を出る前に会えてよかったよ」


「といっても、まだ先の話だがな。次に訪ねて来てくれたときにいなかったら悪いので一応言っておこうと思ってな」


「分かった。次に訪ねるときは気をつけておくよ。ちなみにどこへ行くかは決めているのか?」


「多分王都になると思うが、まだ未定だな」


 家を出るまでにまだ期間があるためか、はっきりとは決めていない様子だ。



「へぇ〜、王都か。俺は行ったことがないな」


「大きいだけが取り得のような場所さ」


「俺が王都に行くようなことがあれば観光案内してくれよな」


「任せておけ」


「じゃあ行くとするよ。元気でな!」


 そう言いながらメイッキューで買った酒をルーフに投げる。



「また会おう!」



 酒を受け取ったルーフはニヤリと笑いながら大声で返してくれる。


 お互い大きく手を上げるとそれぞれの目的の方角へ向かって歩き出した。




 俺は次の目的地、ウーミンの街を目指して歩き始めた。




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