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27 職業 暗殺者


 そこには丁度、玄関から応接室に向かって来るボス格の男がいた。


 男と目が合う。



「誰だお前」



 俺が頭巾で顔を隠しているので誰か分からない様子だ。このままこちらがしゃべらなければ正体がバレることはないだろう。


 男は懐からナイフを抜きつつ、こちらへ迫ってくる。


「俺らにケンカ売ってタダで済むと思っているのか?」


 男は店に来たときとは一人称が変わっていた。今は凄むためか、私から俺になっている。


「相手が悪かったことを地獄で後悔するんだな!」


 男はナイフを構え、こちらへ斬りかかってきた。


 俺はそれをかわす。



 かわしたと思ったが軽く服の上腕部が切れた。


 男のナイフが一瞬消えたように見えて距離感が狂ったようだ。



「おーおー。戦士の割には中々いいすばやさしてるじゃねぇか」


 どうやら俺を戦士と勘違いしているようだ。冒険者のほとんどが戦士だし無理もない。



「万年戦士で一生を終えるようなお前には分からないだろうから説明してやる」


 男は口元を歪ませ、余裕たっぷりの様子で語りはじめる。



「俺は職業暗殺者だ。これがどういう意味かわかるか?」


 自分の勝利が揺るがない自信があるのだろう。男は自分の優位を得意気に説明する。



「暗殺者はとても希少な職業だ、戦士より力とすばやさの上昇値が高い。そして俺はLV10だ! それがどういうことか頭の悪いお前でも理解できるだろう?」


 得意気な表情の男はそう言いながらナイフを構えて俺の周りをゆっくり歩きはじめた。



「いくらお前が戦士でレベルが高かったとしても、すばやい俺には攻撃は当たらん」


 饒舌に語る男は俺を中心に円を描くように移動しながら段々距離を縮めてくる。


「さらに俺は暗殺者のスキルレベルが4だ! これを見てみろ」


 男は声を張り、ナイフを突き出すように構えた。



「暗殺者のスキルには【暗殺術】という相手に気づかれないと攻撃の威力が上がるスキルがある。そして【気配遮断】という気配を遮断するスキルもある。それを同時に使うとこうなる!」



 前へと突き出したナイフとそれを握る腕が肘辺りまでじわじわと半透明になっていく。



「ある部分に集中して【気配遮断】を使うことにより、正面からでも気づかれない攻撃ができる。つまり【暗殺術】のスキルが適用されるのだ!」


 なるほど、あれでおやっさんの手を切り落としたのか、非常にわかり易い説明だなと心の中で感心する。


「ははは! どうだ? お前の攻撃は当たらず、俺の攻撃は当たれば致命傷だ。お前は絶対に勝てないんだ! 残念だったな! ははは! 今の気分はどうだ? んん?」


 俺は無言で男と同じようにナイフを持った腕を突き出す。


 とても丁寧に教えてもらったことを再現するため、構えたナイフと腕に集中し【気配遮断】を使用してみる。


 すると、すうっと肘辺りまでが半透明になる。



「何だと!?」


 俺は驚く男を尻目にそのまま一気に接近して【短刀術】を発動し、相手の右手を斬り飛ばした。



「てめぇやりやがったな!」


 斬られた腕を押さえ、うずくまる男。


「失礼、切りかかってくるとはなんて乱暴な人だ」


「お前はあの時の……ッ!」


 自分の台詞を真似られて俺が誰だかわかったのか一瞬固まる男。


 俺はその隙を逃さず、もう片方の腕で【居合い術】を発動し、腰のドスを抜いた。


 ぽーん。


 まるでバネ仕掛けのおもちゃのように緊張感のない音を出しながらボス格の男の首が飛んだ。


「悪いな、俺も同業だ」


 俺は人から物に変わったそれに呟くと刃を鞘に収めた。


「これで全員か……」


 得られた情報から判断すると、この街のギャングはこれで一掃したことになる。


 これで詳しい情報を知る者はいなくなった。



 とりあえず死体を全てアイテムボックスにしまうと、全ての血を拭き取る作業を開始する。


 血を全て拭き終わると何の痕跡も残っていないただの廃墟がそこにあった。



 一応俺や店の手がかりになるような物はないか廃墟をくまなく探したが、直接名前を書いたような物はなかったので書類などはそのままにしておく。


 物を盗られたり、人が殺された痕跡がないようにして、人だけがいなくなったように演出する。


 元が廃墟なので多少の違和感があったとしても分からないだろう。



 痕跡を消したのは、人為的なものを感じれば原因を探そうとするだろうが何も起こった形跡がなく、人だけいなくなったようにしておけば人を探すだろうと思ったためだ。


「帰るか」


 俺は注意深く屋敷を出て、人目につかないところで村人ルックに着替えた。


 外に出てみると冬場のせいか日が暮れるのが早く、辺りは闇色に染まっていた。


 街灯も灯っていない闇の底のような再開発地区を抜け、俺は迷いのない足取りで店を目指した。


 …………


「もう大丈夫ですよ。お金を払って向こうも納得してくれました。金を払ったときにまだちょっかいを出してきそうだったから軽く脅したので、もうこの店には来ないと思います」


 店に戻った俺はおやっさんと娘ちゃんの二人にそう報告した。



「それが本当ならありがたい話だが、簡単には信じられねぇな」


「まあそうですよね。しばらくは念のために毎日来るんで安心して下さい」


「あ、ああ」


 おやっさんは全く信用していない様子だったが、ごり押しで通した。



 それから数日が経過した。


 はじめこそ何度も聞かれたが、実際にギャングが来ないと分かると、その追及も日増しに和らいできた。


 多分、これ以上問題が起きないなら詮索しなくてもいいかという思考にシフトしてきているのだろう。


 それから更に数日経っても店にギャングが来ることもなく、酒場での情報収集にもそれらの話題が出てくることはなかった。


 あれだけ熱心に色々なところを周っていたのが全く見かけなくなったので、いぶかしむ声も聞こえたが、実害がないと分かるとその声も聞こえなくなっていった。


 この街に自ら厄介ごとに首を突っ込む物好きはいないのだろう。


 問題ないと判断して少しずつ俺の勤務も元通りに戻していき、以前の状態に戻った頃に奥さんが帰ってきた。



 一応これで店との契約期間も終わりだ。


 期間を延長してこの街にいる間は手伝ってくれないかと言われたが断った。


 最近はダンジョン探索一本に絞っている。危険がないかしばらくおやっさん達を見守りたいところだが、あまり店のまわりをうろちょろして怪しまれてはギャングを一掃した意味がない。


 おやっさんの話だと、ここは支部で本部は別にあると言っていたし、新しい人員が来る前に俺はこの街を一旦出たほうがいいかもしれない。



 それにもうすぐ春が終わる。


 春になった時点で一旦ダンジョンの大半は順次閉鎖されていく。


 ずっと魔石をとっていると質が低下するためだそうだ。



 そのため人気のダンジョンから順に閉鎖され、冬が来るまで立ち入り禁止になり不人気だったダンジョンだけが年中開放される形になる。ダンジョンが次々閉鎖されるのにしたがって冒険者も出稼ぎを終え、それぞれのホームへ帰っていく。


 実際、夏の気配が近づく今では冒険者の数は激減している。


 人気のダンジョンは全て閉鎖されてしまっているのでそれも当然だろう。


 やはり街を出るいい機会だ。


 蓄えもあるし、行き先は街を出てから移動中にでも考えればいいだろう。



 元の世界にいたときなら仕事で何日も前から計画を立て分刻みのスケジュールを組んだりしていたが、ここでそれをやる必要はない。大体そのときも綿密なスケジュールを組んでも直前に予定変更の報告が来たり、上司の一声で全てがなくなったりするのが日常だったので計画をたてる行為に意味があるのか悩むことの方が多かったものだ。



 とにかく自分のタイミングで好きに行動できるのは素晴らしいことだ。


(そうと決まれば街を出ることを報告に行くか)


 そう思った俺の足は自然と店の方へ向かっていた。


 …………


「こんにちは!」


 準備中の店に元気よく入る。


「おう、久しぶりだな。元気にしていたか?」


「ええ、お陰さまで。今日この街を発つことにしたので挨拶にきました。色々お世話になりました」


 俺はおやっさんにビシッとおじぎする。



「そうか、もうすぐ夏だしな。元気でな! また冬になったら来いよ!」


「ありがとうございます。実はここで簡単な自炊が出来る程度にはなろうと色々見ていたのですが、あんまり物にならなかったので、また雇ってもらえるならお願いします」


「なんだ、そういうことだったのか。冒険者なのに変だとは思っていたんだ。その程度なら言ってくれりゃ教えてやったのによ」


「ええ〜……」


 おやっさんの言葉を聞いて言えばよかったと後悔する。


 街を出る今頃になって知りたくなかった。ちょっとショックだ。



「また来い。今度はみっちり教えてやる」


 そう言いながら背中をバンバン叩くおやっさん。



「店が出せる位にしてあげる!」


 そう言いながら背中をパンパン叩く娘ちゃん。


「今回はお世話になりました。主人も助かったとよく言っていました」


 笑顔でお礼を言ってくれる奥さん。


「こちらこそありがとうございました! それじゃあ、また!」


 俺は頭を深く下げると店を後にした。



 店を出た俺はその足で冒険者ギルドへ向かう。


 ギルドへ到着し、中へ入る。ギルド内は午前中というのもあるが閑散としていた。やはり冒険者の数が減っているのが一目でわかる。人もいないので並ぶこともなく受付に行けてしまう。


「こんにちは、魔石の換金ですか?」


 普段と変わらず受付のお姉さんは笑顔で対応してくれた。



「いえ、大分ダンジョンも閉鎖されたので、今日でこの街を出ることにしました。それで挨拶にと思って」


「そうですか。ケンタさんにはこちらの不手際のせいで大変申し訳ないことをしてしましました。そのせいもあって、はじめはどうなるかと思いましたが、ここでの経験でとても立派に成長されたと思います。これからも頑張ってください。またこの街に寄ることがあれば当ギルドをよろしくお願いします」


「いえ、こちらこそとてもお世話になりました。ここで面倒をみてもらえて本当によかったと思っています。特に貴方には沢山のことを教わりました。ここでの知識を活かしてこれからも頑張っていきます。ありがとうございました」


「それではお気をつけて」


「はい! あ、次この街に来たときにはまた担当をお願いしてもいいですか?」


「喜んで」


 笑顔で返してくれる受付のお姉さんに背を向けると俺はギルドを出て、そのまま街の出口を目指した。


 急ぐこともないのでのんびり歩き、出入り口で手続きを済ませると街を出た。




 メイッキューの街を振り返り、遠ざかる街を見ながら後ろ歩きで進む。


 この街でも色々なことがあった。



 ありすぎた。


 次に行く街ではのんびり過ごしたい。


 どこがいいだろうか。


 これから夏になるし、以前聞いていたウーミンの街にいでも行ってみるか。


 夏の海ならいいバカンスになるかもしれない。



「海か。いいな!」


 思えば最後に海に行ったのはいつだろうか。


 こっちの海はどんな感じなのだろうか。


 元の世界のような海水浴場なのか、それともトロピカルなリゾートビーチ風なのだろうか。ビーチパラソルの側に立てた簡易ベッドに寝そべってトロピカルな飲み物でもチューチューしたい。そんなことを考えると自然と気持ちが弾んでくる。


 ウーミンの街を目指すのであれば一旦スーラムの街まで戻らなければならない。


 上空から見るとメイッキュー、スーラム、ウーミンのルートはV字状になっている。



 メイッキューとウーミンがV字の上端になる。その二つの街の間には高い山脈があるため、最短距離を突っ切ろうとすると逆に時間がかかってしまうのだ。というか山越えは危険だ。



 そのため遠回りになるがV字の下端に当たるスーラムの街まで一旦戻る必要がある。


 といってもスーラムの街に入るつもりはない。食料の備蓄は問題ないのでゴブリンの森で休憩するつもりだ。あの街に入ってわざわざトラブルに巻き込まれるのは御免だ。


 あちらに戻るのならルーフにも会いに行きたい。


 この街で買った食い物でも土産にすれば喜んでもらえるだろうか。


 そういえばスーラムの街にはスーラムの大滝という観光スポットがあるらしいので、ついでにそこも見にいってみたいところだ。ルーフなら知っているだろうか。


 これからの行き先も決まり、軽い足取りで俺は街道を進んだ。


 …………


 それから数日かけて無事ゴブリンの森に到着した。


 俺はルーフの家に行く前にあることを試すために森の奥へ進んだ。


(死体を処理したいんだよなぁ)


 今俺のアイテムボックスには殺したギャングの死体が収納されている。


 メイッキューの街でダンジョンに喰わせることも考えたが、人間はモンスターに比べて完食までに時間がかかる。そのため喰わせている途中で別の探索者に遭遇する可能性を考えて処理しなかったのだ。


 そしてこの森の奥深くに入ったのは精霊に喰わせようと考えたためだ。いつも光の柱を作っていた辺りでまずはゴブリンの死体を置き、精霊が来るのを待った。しばらくすると死体に火花が出てきたのでギャングの死体を放りこんでみる。


「……ダメか」


 試してみた結果、ゴブリンの死体は消えてギャングの死体だけ残った。


 精霊はモンスターの死体は喰っても人間の死体は喰わないことがわかった。




「しょうがないな」


 俺は再度ギャングの死体をアイテムボックスに収納するとルーフの家を目指した。


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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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