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24 腕試し


 最近、平日にスキル連携の練習をすることが増えてきた。


 大分スムーズに切り替えられるようになったので、上達を実感できて楽しいのだ。



 ただ、この方法がどの程度実戦で通用するものなのかはまだ未知数だ。


 ゴブリンのような格下相手なら問題ないが、実力が拮抗した相手や自分より強い者を相手にした時に使えないのであれば、これ以上練習する意味もないだろう。



 やはりここは実戦に近い環境で試してみる必要がある。


 それなら滅茶苦茶強いオリン婆さんが相手ならいい判断材料になりそうだ。


 休日、オリン婆さんとフライフィッシュ狩りを終え街に戻るときに模擬戦を申し込んでみる。



「今度スキル有りで模擬戦やってくれないか?」


「まだボコボコにされ足りないのかい? 気持ち悪いね」


「いや、ちょっと試してみたいことがあってさ。どうかな?」


「構わないよ」


「おお! 助かるよ」


 頼んでみたら割とあっさり了承してもらえた。しかも翌朝相手になってくれるそうだ。


 いつもながらありがたい話だ。



 翌朝、俺は短刀サイズの木刀と普通の木刀の二刀流でオリン婆さんの前に立った。


「なんだいその格好は?」


「まあまあ。ここは説明するより実践してみせた方が早いと思うんだ」


「なら来な」


「おう!」


 オリン婆さんはいつも通り片手で木刀を持ち、構えることもなく立っている。



 俺は両手の木刀を構えてじわじわと距離を詰める。


 そして有効距離に入ったのを確認して【縮地】を使った。


 【縮地】の効果で体を動かさずとも飛ぶように前に進みはじめる。ナイフの間合いに入ったところで短い木刀で【短刀術】を発動し、連撃を放つ。



 オリン婆さんは【縮地】に驚いたのか一瞬反応が遅れる。


 そこにすばやさを活かした【短刀術】の連撃が繰り出されたので、こちらの攻撃を弾きながらも一歩後退する。


 俺はそれを逃さず更に【縮地】で肉薄し、流れるように【短刀術】を使う。


 ここでオリン婆さんは短い木刀での攻撃を嫌って大きく後ろへ跳んだ。


「逃すか!」


 俺は【縮地】の連発で距離を稼いだ後【短刀術】から【剣術】に切り替え、木刀を振るった。


(これは当たる!)


 オリン婆さんの注意は短い木刀に向いていたので、そのリーチ外から来る【剣術】を使用した木刀への対応が一瞬遅れたのだ。



「もらった!」


 だが勝利を確信した一撃は空を切った。


 そこで止まることなく素早く【短刀術】に切り替え、オリン婆さんの反撃を【剣戟】で弾く。木刀を弾かれたオリン婆さんの腕は伸びきっている。そこに今度は【剣術】に切り替えた木刀を突き入れようとしたところで、完全に無防備な方向からの一撃を受け、俺は意識を失った。


 目を覚ますと木刀を二本持ったオリン婆さんが見下ろしていた。



「今度こそ当てれたと思ったのにな」


「残念だったね。だが確かにいい連携だったよ」


「ていうか木刀二つで二刀流をやったの?」


「二本持って一本が飾りなわけないだろ」


 俺が意識を失ったのはオリン婆さんがとっさに二刀流になり、もう片方の腕で死角から打たれてしまったからのようだった。



「え、でもどうやって? 同じ武器ならそう簡単にスキルの切り替えってできないだろ」


「しゅ、修行の成果さ」


 怪しい。


 今まであんなにうろたえるところを見たことがない。



「俺もナイフで二刀流やろうとして、上手くできなかったんだけど、何かコツでもあるのか?」


「あ、あれだよ。片方はスキルを使わないのさ」


「ああ! それなら確かにできそうだ。だから、稽古でスキルを使わないようにしてたんだな!」


「い、いや、あれは動揺してスキルが途切れても動けるようにするためのもので……」


 なんだろういつにも増して歯切れが悪い。



「ん、違うのか?」


「そ、そんなことより【縮地】を使ってきたのには驚かされたよ。アンタもサムライのスキルが使えるとはね」


「だろ? こいつでびっくりさせれば隙ができると思ってたんだ。まあ、そうでもしないと婆さんのスピードには追いつけそうになかったからな」


「まあ、あれだけ動けるなら無茶しない限りどこでも通用するさ。これからもせいぜい精進しな」


「おう。絶対一発当てれるようになってやるからまた稽古つけてくれよな」


「残念だけど稽古はこれでしばらく無理だね」


「まさか長期間ダンジョンに潜るのか?」


「違うよ。アタシゃ明後日にはこの街を発つことにしたよ」


「え?」


「ここは冬場しか稼ぎが美味くないからね。稼げるギリギリまでここにいると、他の街でのいい仕事が取られてなくなっちまうから、そろそろ移動することにしたのさ」


「そうか、いきなりで驚いたけど移動なら仕方ないな。今までありがとうございました。婆さんのお陰で米に出会えました。本当にありがとう」


 寂しくなるが引き止めるわけにもいかない。



 俺は今までお世話になったことを思い出しながら、キッチリ頭を下げてお礼を言った。


「なんでそこで米の話になるんだい! わけのわからない子だよ」


「いや、米は大事だろう。何言ってるんだ?」


 米ほど大事なものが他にあるのだろうか。


 一体このお婆さんは何を言っているのだろうか、やはり寄る年波には勝てないのだろうか。



 そこから米が大事かどうかについて押し問答になったが、よく考えればパーティーを組んだり稽古をつけてもらったりしたこともとても大事なことだと思い出し納得した。



 どう考えてもオリン婆さんの方が正しかった。


「悪い。米のことになるとどうしても見境がなくなるようだ」


「確かに。アンタ店で叫んでたしね」


「それは言わないでくれ。そういえばどこに行くのか決めているのか?」


「いや、アタシゃ目的地を決めずに移動してるから特に決まってないよ」


「そっか、またいつか会いたいな」


「縁があれば会えるさ。それまで死ぬんじゃないよ」


「婆さんもな」


「誰に言ってるんだい! それよりアンタ……」


「なんだ?」


「死にたくなけりゃ躊躇うんじゃないよ」


「ああ」


 俺は静かに頷く。



 そして会話を終えるとオリン婆さんはそのまま帰っていった。出立する当日に見送ると言ったが物凄い嫌がられたので今日でお別れだ。


 俺は感謝の念をこめながら遠ざかるオリン婆さんの背中を見送った。



(婆さんは街を出たけど、俺はもうしばらく留まりたいな)


 俺はオリン婆さんとは違って、ここでギリギリまで貯蓄してから移動するつもりだ。


 この街は物資の流通も盛んで人も多いので色々な情報が聞ける。何よりギルドの受付担当がとてもいい人に会えたので居心地がいいのだ。


 気温が高くなってくればここでの貯蓄に自給自足をプラスすれば野外で長期間生活できるだろうし、なんとかなるだろうという算段だ。


「街を出るまでに料理の腕も上がればなぁ……」


 この街に来てレベルも上がり、スキルレベルも上がった。


 実戦経験も積み、冒険者としての最低限の知識も得た。所持金にも余裕ができ、装備も整った。



 米も手に入れて当初の目標はある一つを残して達成されたといっていい。


 その最後の一つが料理の腕だ。


 おやっさんの調理風景の覗き、時間を見つけては宿で色々やってみるも中々上達していないのが実情だ。


 職人は見て盗めとか言われるが、四六時中ぴったり張り付けるわけではないので、知りたいところを都合良く見ることができなくて苦戦している。



 それでも以前と比べれば多少できるようにはなってきている。


「でも折角料理人が側にいるんだから、もうちょっとうまくなりたいよなぁ」


 そんなことを呟きながら今日も店の手伝いに向かった。



 そろそろ店との契約期限の四ヶ月になろうとしている。寒さもすこし和らぎ、春が近づいてきているのを感じる。


 娘ちゃんも母の帰りを待ちわび、そわそわする日が増えてきた。



 そんな中、いつも通り手伝いに行くと店の中に見覚えのある男がいた。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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