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「……おい、どういうつもりだ。大体なんで殺しの依頼なんか持って来る奴がいるんだよ!」
俺は静かになった店内でミックを睨みつけた。
「俺の宣伝活動の賜物だな」
ふぅ、と息を吐きつつ、やりとげた顔を見せるミック。
「お前のせいかよ! 俺は迷子のペット捜しとか浮気調査とか、そういう何でも屋をやりたいんだよ! 血生臭い依頼はもうこりごりなの!」
割と何度も死にかけた俺としては、やばい臭いがする仕事はもう引き受けたくなかった。
それこそ店番のピンチヒッターや、家事手伝いでいいんだ。依頼のない時はモンスターを狩ればそれで問題ない。これからは身の丈にあった仕事をやっていきたいのだ。
ついこの間だって、崩壊する巨大空中要塞の落下に巻き込まれて死にそうになったばかりだというのに、どういうつもりなのだろうか。
ちょっとトラウマになって、今思い出すだけでも、震えがくる。
――本当にあの時は死ぬと思った……。
脱出艇が使えないと分かった時はパニックになった。
それに追い打ちをかけるように天井が崩落してくる始末。
落下してきた天井は居合いで切り裂き、なんとか格納庫からの脱出には成功した。だが、他の脱出手段をギリギリまで探し続けたが、結局見つからなかった。
その後、脱出を諦めて小部屋にクッションでも敷き詰めようかと本気で悩んだ時に、エルザから奪い取った黒甲冑のことを思い出したのだ。
最後のあの時、ギリギリまで追い詰められていた俺はエルザが脱出艇を破壊していたことに何の疑問も抱かなかった。
だが、少し考えればおかしいことに気付く。
最後の一つの脱出艇を壊してしまえば、エルザ自身が脱出できないのだ。
つまり、脱出艇を壊しても問題ないという事。
他に脱出手段を用意していたということだ。それが黒甲冑。
半死に近い状態の俺はそんな簡単な事に気づくまで限界まで時間を費やし、危うく死んでしまうところだった。
だが、気付いた後は外に出られる場所まで走り、黒甲冑に乗り込んで難を逃れた、というわけである。
黒甲冑の操作は不可能だったが、エネルギー切れになるまで緩やかに降下してくれたのでなんとか事なきを得た。
持ち帰った黒甲冑を調べてもらおうとショウイチ君に見せたら、えらく気に入られ、そのまま進呈することになってしまった。だが、誰が愛用していたものかを思い出すと側に置いておきたくないし、それでよかったと思っている。
……あんな思いは二度と御免である。
なのにミックときたら、どう吹聴したかは知らないが、とんでもない依頼を持って来る客を引き寄せるようにしてくれたものである。
「大丈夫だ。だからちゃんと追っ払ってやっただろ? しかも話し合いだけで穏便に、だ。これで殺しの依頼を持って来る奴もいなくなるって」
などとミックがドヤ顔で語ってみせる。
だが、今の断り方では少々どころか大いに問題がある。大ありなのだ。
「それ以外の依頼もな! 誰も来なくなるって言った方が正しいだろうが! なんだよ、この俺、殺し屋ケンタウロスは人の肉を食うって! 食ったことなんかないわ!」
人を追い払うという目的だけでよくもまあ、あれだけ言いたい放題言ってくれたものだと憤慨する。あれではもはや誰も俺に依頼など持って来ないだろう。
「え、意外だな。飢えに耐えかねて一度くらいはいったことがあるかと思ったぞ?」
ミックは素の表情でそんなことを言う。
「………………ないわ! ちょっと考えて思い返してみたけどなかったわ! ちょっとホッとしたわ!」
あまりに真顔で言われたため、もしかしたらあったかも、としばらく考え込んでしまってから、そんなことあるはずないと大声で否定する。……いや、なかったよ? ほんとに。
「大体、あの客に出した料理は何なんだ!? まさか本当に人肉料理じゃないだろうな!」
「なわけないだろ? ただのまかないだって」
と、ミックが肩をすくめて苦笑する。だが、苦笑したいのはこっちの方である。
「まあまあ、そう怒るなって、ミックも悪気があったわけじゃないみたいだし、いいじゃねえか。お前に代わって殺しの依頼も角が立たないように断ってくれたんだ。許してやれよ」
と、俺とミックの口論を見るに見かねたレガシーが仲裁に入ってくる。
だが、どう考えても許せるものではない。
「いや、あれはおかしいだろ! やたらケンタウロスって殺し屋は異常者だって印象付けようとしてたじゃん! どう考えても狙ってやってただろうが! 何度も何度もケンタウロスってこれみよがしに連呼しやがって!」
レガシーはミックが、“この俺、殺し屋ケンタウロスは――”という台詞を一体何回言ったと思っているのだろうか。
現在、ケンタウロスという偽名を使用して生活中の俺にとっては看過できない発言なのだ。風評被害も甚だしい。……いや、まあ殺しまくってはいますけど。
しかし、俺の怒りの発言を聞いたミックとレガシーの二人は口元を押さえて肩をプルプルと震わせていた。こいつら、共犯だな……。
「おい! 二人とも笑ってんじゃねえ! 人ごとだと思ってやりたい放題しすぎだろうが!」
俺はこれからどうするべきだろうか……。
とりあえず、新しい偽名を用意するところから考えなくてはならないかもしれない。
「……あの、そろそろよろしいですか?」
と、背後から女の声が聞こえてくる。
彼女の名前はナンシー、通称真面目眼鏡である。
「よろしくねえよ!」
全くよろしくなかった俺は素直にそう叫んだ。そろそろも何も、今、非常に厄介な状態なのである。
「ああ、そいつは放っておいて構わない。話を聞こうか」
が、ミックが俺を遮り、女に先を促す。……ちょっと酷すぎやしませんかね。
「――それでは。少し前に貴方がたはサイルミ発射場へ赴き、SHBの発射を阻止しようとしましたね?」
「ああ、そんなこともあったな」
ナンシーの確認に、ミックが頷く。
「その際、ケンタさんがSHBを解体し、起爆を阻止する事に成功した。と、いうことで間違いありませんね?」
と、ナンシーが俺の方を指しながらSHBの解体について質問してきた。
「確かそうだったと思う」
彼女の問いにミックが顎に手を当てながら思い出すように肯定する。
「解体した時、炉は回収されましたか?」
「おい、炉を回収したかどうかを聞いてるぞ」
さすがに現場に居合わせていなかったことには答えられなかったのか、ミックが俺に問いかける。
だが俺はぷいとそっぽを向き、だんまりを決め込んだ。
「むくれてないで答えてやれよ」
レガシーが子供をなだめるような口調で俺に言う。
なんか、俺が駄々っ子みたいな扱いになっているようで非常に納得できない。
だが、これ以上黙り込んでも意味がないと悟った俺は素直に答えることにする。
「なんで俺がすねてるみたいな扱いになってるんだよ……。で、炉だったな? SHBは空中で解体するはめになったから、炉は引き抜いた際に地上に落下した。だから、回収はしていない」
あの時、全身を負傷した状態で背後からドンナが迫っていた。
残念ながらそんな細やかな配慮がきく状態ではなかったのだ。
炉は回収し損ねて、そのまま地上に落下してしまった。
そのことをナンシーに告げる。
「どうやらその炉がハイデラの残党に回収されて、再利用されようとしているようです」
ナンシーは指先で眼鏡の位置を調整しながら、ろくでもないことを言い出した。
「おいおい……、冗談だろ?」
まさか、といった気持ちの方が勝った俺はつい聞き返してしまう。
「冗談ではありません。入手した情報から判断すると、ほぼ確実といって間違いないでしょう」
「厄介な物を見つけ出しやがったもんだぜ」
ナンシーの断言に、ミックが苦々しげに呟く。
「というわけで、今回の依頼は新しく建造中のSHBの破壊。それと炉の奪還、もしくは破壊。更にその場にいる者全員の殲滅となります。よろしいでしょうか?」
ナンシーは深くスリットの入ったタイトスカートから伸びた細い脚を組み替えながらそんなことを淡々と言う。出来て当然みたいな空気で言ってくるのが色々おかしい気がしてならない。
「まあ、後始末はちゃんとしとかないとまずいよな」
ナンシーの言葉にレガシーが頷く。
「ほんと、誰かさんの杜撰な仕事のせいで、面倒なことになったもんだぜ」
ミックがやれやれと肩をすくめる。
「俺はあの状況でベストを尽くした。俺の仕事に文句があるなら、今度はお前がSHBにへばりつけ」
俺はやれることを全力でやった。
何かの奇跡が起きて、あの瞬間に時を遡ることができたとしても、あれ以上の結果は出せないだろう。俺は最善を尽くした。そう断言できる。
なので、文句があるならお前がやれ、とミックに言い返す。
「報酬はいつもどおり前払いで三、成功後に七ということでお願いします。それでは吉報をお待ちしています」
ナンシーは俺たちの会話を聞き流してそう言うと、テーブルの上に金の入った封筒を置き、店を出て行った。
「じゃあ、行きますか」
手早く店の片づけを終えたミックがクローズと書かれた札を持って店の入り口へと向かう。
「営業時間が不安定な店だな」
どうでもいいことではあったが、こんな時間から店を閉めて大丈夫なのだろうか……、などと思ってしまう。
「しょうがないだろ? 運転資金を稼ぐためには必要なことだ」
「……赤字ならやめろよ」
どうやらこの店はそれほど儲かっていないようだった。
俺が来るたびに他に客がいないので大丈夫かと思っていたら、案の定といった感じである。
「その前に人件費の削減だな。給料下げていいか?」
と、笑顔のミックがレガシーの方を向く。
「ケンタ、俺も何でも屋に転職するわ」
「悪いな。ついさっき営業妨害が入って開店休業状態に突入だ。大体、地味な仕事ばかりで飽きたって、少し前に自分から辞めたのはお前だろうが」
残念ながら俺の何でも屋はもはや潰れたも同然。
これからは冒険者一本で頑張っていくことになるかもしれない。
「お互い臨時収入のためにひと頑張りといこうぜ」
俺たちの背後でミックがそんなことを言いながら店に鍵をかける。
「まあ、金は大事だな」
「全くだ」
俺とレガシーは頷き合うと、ミックと共に街の外へと向かう。
横並びとなった俺達三人は目的地を目指して歩きはじめた。
向かうは爆弾作りが三度の飯より好きという連中が集う、大人の秘密基地。
今日も今日とて美味しいご飯とお酒のために、軽くひと稼ぎと洒落込む次第だ。
というわけで、完結です。
一応、三月位には完成していたのですが、最終章だし投稿してからの修正はなるべくしたくなかったので何度か推敲したり、一章から十二章を調整していたら八月になってしまいました。
タイトルとあらすじ通り、ヒロインもなく、ハーレムにもならず、B級アクションてんこ盛りで余韻の残るラストを心がけて書いてきましたが、いかがだったでしょうか?
それほど大きな変更もなく、はじめに考えた通りに物語を進めることが出来ました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
そして、ここまで執筆を続けられたのも、本作にブックマーク、評価、レビュー、感想をしていただいた方々のお陰です。長期間モチベーションを維持し、ここまで書き続けることができました。
特にブックマーク、評価、レビューは、新規の読者を獲得するためにも非常にありがたく、とても助かりました。改めて御礼申し上げます。
本作を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!




