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4 フィーバー


 その時、無職の文字が点滅しているのが目に付く、無職のフィーバー状態だろうか?


 無職の文字に意識を集中してみると、メニューの初期画面に戻り、ステータスとアイテムボックスの下の欄に職業という新しい項目が現れていた。


 早速選択してみると二つの単語が表示されていた。


 その二つの単語とは狩人と暗殺者。


 それぞれの文字に意識を向けてみると簡単な説明がメニュー上に表示される。


(……ほうほう?)


 俺はその説明文をしげしげと見つめる。



 狩人:狩りに長けた者。


 短剣か弓を装備した状態で職業の項目を選ぶ、または狩人の経験を積むことにより選択可能。(暗殺者に就くことが可能になった場合も選択可能となる)


 暗殺者:暗殺に長けた者。


 狩人スキルがLV5に到達した状態で職業の項目に出現する。または暗殺者の経験(敵に気付かれず一定数倒す)を積むことにより選択可能となる。



 どうやら説明を読む限り、武器を装備した状態でステータスを開くと条件を満たした職業が選択可能になるらしい。


 更に、職業のランクを上げるか一定条件を満たすことでも職業が選択可能になるようだ。


 多分、括弧の中の説明は条件を満たすと表示されるのだろう。


 なんとなくシークレットな感じがする。


 つまり…………。


 ナイフを装備した時、ステータスを開いていれば狩人になれたということなんだろう。


 もしくは宿屋に居た時、片手剣を装備した状態でメニューを開いていれば何かの職業が選択できた可能性が高い。


 ……何も知らなかった俺は無職の状態で1レベル上げてしまったということになるわけだ。


 残念ながら石を装備して就ける職業はなかったということになる。


 過ぎたことは仕方ないので、暗殺者の項目に意識を集中し、強く念じる。


 しばらく念じるとステータスの画面に切り替わり、無職と表示されていた欄が暗殺者に変わっていた。


 説明文を読む限り、狩人の上位互換が暗殺者っぽいので選んでみたがどうだろう。


 判断材料が何もないので、ひとまずこのままで行ってみようと思う。


 能力値は変化なく低いままだったが、数値の下にスキルが表示されていることに気付く。


 ケンタ LV2 暗殺者


 力 3

 魔力 0

 体力 2

 すばやさ 2


 暗殺者スキル

 LV1 【暗殺術】 (敵に気付かれずに攻撃が成功した場合威力が上がる)



(なんかそれっぽくなったな)


 暗殺者になったが、やることは無職の頃と変わらず背後から石で殴ることになりそうだなとスキルを見ながら思う。


 職業を選択した状態でレベルアップすると能力上昇値にボーナスが入ったりするのだろうか? そう考えると狩人の上位にあたる暗殺者でレベルアップした方が恩恵がありそうだ。


(とりあえず、次のレベルアップまで暗殺者でいってみるか。響きもかっこいいしな)


 無職を脱したことに安堵した俺は休憩を切り上げ、次にどうするか考える。


 そう、街に戻るか戻らないかだ。


 今から戻れば少し遅くなるが夜には街に着く。


 問題はギルドが開いているかどうか、そして泊まれる場所と飯だ。



 ギルドで手続きが全てうまくいって報酬がもらえた場合、それを何に使うか……。


 飯を食った場合、残金で宿を取るのは難しいだろう。


 飯を食わずに宿だけを取った場合、報酬全額使っても今日泊まった宿よりもランクがかなり落ちてしまう。


 果たしてその宿は安全だろうか……。


 宿を出る時に追加請求されたりしたら詰んでしまう。


 ゲーム感覚なら街に入ってしまえば安全と言えるが、チンピラが跋扈するあの街の中で宿を取らずに野宿とかしても大丈夫だろうか……。


 ――ふと、元の世界で知り合いが海外旅行に行った時の話をしていた時の事を思い出す。


 そいつはお土産の高級そうな菓子をみんなに振舞いながら海外での出来事をこう話していた。


 人は順番を守らず電車に押し寄せ、地面はゴミと吸殻だらけ。


 店員は愛想の欠片もないがチップが必要。


 トイレの個室は防犯のため扉の下半分がなく、中が見えるようになっている。


 夜は安全と言われている街でも出歩いてはいけない。


 強盗に会ったときのためにお金は分散して持つ。


 荷物は何があっても手放してはいけない。


 などと延々と自慢げに愚痴り続けた。


 そして最後にそれは特定の国をさした話ではなく、どこへ行っても大体同じで、やっぱり日本が一番安心できるといった内容だった。


 その後もそいつの自慢は続き、国内旅行が一番だと言いつつも、自分は慣れているから次はどこそこの国へ行く、あそこのホテルは素晴らしいだの、どこそこの料理が忘れられないだの散々言ったあげく、"まぁ君は一生行かないだろうから僕の話でも聞いて満足してくれたまえよ" みたいなことを言って締めくくっていた。


 その時俺は土産の菓子を頬張りながら、銃で撃たれて死んでしまえばいいのにと思っていたが、今も死んでしまえばいいのにと思っている。


 俺も一回死んだし。


 まあそれはともかく、今いる場所は海外ではなく異世界だが、そういう目で見て行動した方がよさそうな気がする。


 日本にいた時の感覚で何も持たずに街をウロウロするのは危険だ。


 街へ戻るのはやめた方がいい気がする。


 今から夜までの間に森の中でも安全そうな場所を探してそこで一晩明かし、街へは明日の朝一番に向かうことにする。


 街ではギルドの報酬を貰って朝飯を食うだけにして最低限の滞在時間でまた森に戻る。


 今日一日歩き回って地形をある程度把握した森と狡猾な人間が闊歩する街なら森の方がまだ増しだ。


 そう判断した俺はゴブリンの行動範囲や発見場所を思い出しながら安全そうな場所を探して動き出した。


 ゴブリンはきっと巣を拠点にして活動しているはず。


 つまり巣から離れていて、目視で発見されにくい場所が比較的安全だろう。


 そう考え、そんな条件に当てはまりそうな場所を探す。


 巣は発見できていないが活動範囲は大体わかっていたのでそこから遠ざかる形をとる。


 身を隠せそうな場所はないかと探し回り、ある場所を見つける。


 そこは崖に大きめの倒木が折り重なっている場所で枝葉をかき集めれば身を隠せそうな感じだった。


 正直言ってあまりいい選択肢とも思えないがこれ以上歩き続けると体力も消耗してしまう。


 今夜はここでやりすごすことにして、カモフラージュになりそうな枝葉を適当にかき集めた。


 後は倒木と崖の間に無理やり体を押し込め、遠くから見えないように枝葉を被る。


(これで一晩やりすごす……)


 崖の間にうずくまってしばらくすると完全に日が落ち、周りが見えなくなる。


 一応身は隠せているが、匂いを辿るような獣が来たら大丈夫だろうか。


 何かに見つかった時、逃げ道はない。


 こんな場所では襲われたらひとたまりもないだろう。


 夜になったからといって静かになるわけでもなく、よくわからない鳴き声が辺りから聞こえてくる。


 気が立っているせいか普段なら気にならないような虫の鳴き声さえも妙に耳に残る。


 動いて音をたてれば何かに気付かれるのではという不安と、絶え間なく聞こえる鳴き声、ゴブリンを何匹も殺したという非日常。それらがじっとうずくまる俺の筋肉の繊維一本一本に染み込んで体を強張らせる。


 まるで自分の体がどんどん硬くなっていくようだ。


 瞼を閉じても眠ることはできず、時間は中々進んでくれない。


 今の季節は多分初夏なのだろう。


 日が落ちても寒さを感じず、じっとりと暖かい。


 そういえば森に入ってから何も飲み食いしていないことに今さら気付く。


 思い起こせば、今日一日必死だった。


 その成果もあり、明日になれば金が手に入る。


 とにかく眠ろうと目を閉じるも、結局眠れずしばらくして目を開ける。


 ……そんな事を繰り返すうちに夜が明けた。



 倒木と崖の間から這い出し、体を伸ばす。


 冴えない頭と体を引きずって川へと向かう。



 川辺につくとアイテムボックスからゴブリンの死体を並べて出していく。


 そして最後にナイフの刃を取り出す。


 ゴブリンの討伐部位は耳なので刃を耳に当て、のこぎりのようにゴリゴリとこすりつけながらそぎ落とす。そんな作業を朝一番にこなした。


 できれば朝っぱらにこんなことをやらず、眠れなかった夜のうちに済ませたかった。


 だが照明のない森の中では日が暮れると何も見えないほどに真っ暗だったので仕方ない。


 剥ぎ取ったら死体と耳をまたアイテムボックスに戻す。


 川でゴブリンの体液でベトベトになった手を洗いながらぼんやりと水面を見たとき、あることに気付いた。


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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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