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とある無人島の砂浜に四名の男女がいた。
四人の名は、レガシー、ミック、ショウイチ、ローズ。
四人はある事が原因で口論となっていた。
その中の一人であるレガシーが三人の制止を振り切って動き出す。
「おい、落ち着け。どこに行くつもりだ?」
歩くのが覚束ないミックがいかり肩で歩を進めるレガシーを呼び止めた。
行き先は理解していたが無謀な行動と理解していたため、声をかけたのだ。
「決まってるだろ、イゴスが沈んだ場所だ」
レガシーは振り向きもせずに答えた。
向かおうとする先はイゴスが墜落した海上。
そこへ一刻も早く向かいたいのだ。
「行ってどうする。どうしようもないだろ」
ミックは簡潔に返す。
イゴスは墜落し、今はその全てが深い海の底。
その場に辿り着いても、出来ることなど何もない。
「ならここでじっとしてろっていうのか!?」
感情のコントロールが利かないのか、レガシーが振り向きざまに叫ぶ。
そして、叫んだことに後から気づき、ばつの悪そうな顔をする。
――それほどまでに焦っていた。
現在、空中要塞イゴスが墜落し、数日が経過していた。
レガシーたちの活躍により、ハイデラが率いる組織が企てた世界征服の陰謀は潰えた。
まだまだ世の中の混乱は継続しているが、組織は壊滅し、一番の不安材料は取り除かれた状態となっている。
墜落する空中要塞から脱出したレガシーとミックは、予め決めていた合流場所である無人島で無事落ち合うことができた。
だが、事態が収束に向かうほど日数が経過したというのに、未だ合流できていない者がいた。
その者の名はケンタ。タキガワ・ケンタだ。
空中要塞が墜落して数日が経過した今も合流場所に現れず、音信不通。
完全な行方不明状態となっていた。
待つことに痺れを切らしたレガシーは傷が癒えたことも後押しし、手がかりを探そうと単独で空中要塞の墜落現場へ向かおうとしていたのだ。
「何か当てはあるのか?」
ミックは冷静な目でレガシーに問いかける。
何の目星も無く探すには海上は広すぎる。行って着いたからどうこうできるというものではない。
「もしかしたら、イゴスが沈んだ辺りを泳いでるかもしれないだろうが……」
あり得ない話ではない。
だが、可能性としてはほぼゼロに近い。
話すうちに余りにも無茶なことを言っていると自覚したのか、レガシーは途中で言葉を詰まらせる。
「落ち着けよ。大体、そんな船じゃあ辿り着くのに時間がかかり過ぎちまうぜ?」
ミックはレガシーが乗ろうとしていた舟を見て首を振る。
それはミックがこの無人島に移動する際に使った手漕ぎの小舟だった。
そんな船で沖に出ようとすれば相当の時間を要してしまう。
大体、船に乗って沖に着くことが目的ではない。
大した装備も無い小船では到着後の捜索も捗らないだろう。
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
「僕の船を使いましょう。停めてある場所に案内するっす!」
再び叫ぶレガシーの言葉を遮るようにショウイチが前に出る。
ショウイチがレガシーに見えるように突き出した手には高速船のキーがあった。
「ショウイチ君……」
「いや、行っても何か見つかる保証はない。ここは俺とレガシーで行く。あんたたちはアイツが訪ねて来た時に備えて、治療の準備をしておいてくれ」
レガシーとショウイチの二人で海に出る話がまとまりつつあったところにミックが異議を唱える。
捜索には自分とレガシーの二人で行く。
ミックからすればサポートが出来るショウイチとローズには残ってもらい、万が一に備えてもらった方がいいと考えたのだ。入れ違いになった時のタイムロスを考えるとその方が妥当だろう。
「……分かったっす。気をつけて下さい」
ミックの言葉に納得したショウイチが渋々といった体で待機を了承する。
と、ここで隣に立つローズがショウイチの袖を引いた。
その視線は遠く空の上を凝視している。
「……ねえ、あれって何かしら」
そう呟きながらローズが上方を指差す。
指さした方向は先程から見つめていた視線の彼方。
砂浜を越え、海と空が交わる地平の先。
未だ薄暗い早朝の中、海と空の境界を分けるようにゆっくりと陽が登りはじめていた。
海面から朝陽が顔を出し、水面がきらきらと輝く。
全員がローズの差す一点を見つめ、口を開く者が居なくなり、静寂が訪れる。
朝の冷たい空気の中、潮の香りが鼻先を掠め、穏やかな波の音が絶え間なく聞こえる。
太陽の赤みが空に広がり、時刻が分からなければ夕刻と間違ってしまうほど空が朱色に染まっていく。
そんな空に一つの黒点が見えた。
黒点はこちらへ向かって近づいてくるにつれ、その姿がはっきりと分かるようになる。
――それは鳥だった。
小さな小鳥がこちらへ向かって羽ばたいていたのだ。
目を凝らせば、それがただの鳥でない事がわかる。
機械仕掛けの小鳥。
日の光を反射し、逆光を帯びて輝く小鳥が四人の元へ辿り着こうと飛翔する。
機械仕掛けの小鳥は脚にある筒に文を携え、真っ直ぐに四人の元へ向かっていた。
文の内容はもちろん――。




