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66



 戦闘開始だ。



 …………



「全く、爺といい、お前といい、なんでそう腕を一杯生やしたがるんだ……。相手される俺の身にもなってみろよ……」


 俺は愚痴りながら駆け出す。


 あの黒甲冑、未知数過ぎる。飛んでるわ、腕は四本あるわで強そう感が半端ない。



 武装は見た限り刀が二本。元々エルザが使っていたのと、黒甲冑に装備されていたものだ。


 特に黒甲冑が元から装備していた刀はサイズが一回り以上大きく、人間が扱える大きさを超えている。


 刀というより大太刀だ。



 と、俺が黒甲冑の武装を観察しながら走っていると、エルザが飛行状態で追随してきた。


「アーーーッハッハッハッ!! その嫌そうな顔、堪りませんねぇッ!」


 エルザはあっという間に俺に追いつき、併走状態になってしまう。


 俺は相手を振り切ろうと鉄杭の投擲体勢に入る。


 すると、エルザが右手をこちらへかざす。あいつの右手は鉄杭が連射できる義手。きっと、俺と同様に鉄杭を発射するつもりなのだ。現在は甲冑で覆われ義手が見えないが、多分、装甲越しに発射することが出来るのだろう。



「はっ!」

「アッハ!」


 お互いの声が被る。ほぼ同時のタイミングで鉄杭を投擲。



 それぞれが放った鉄杭はお互いの中間地点で衝突。


 火花を散らし、軌道が逸れ、明後日の方向へと飛んでいく。



(チッ、連射が来る!)



 俺が放った鉄杭はエルザの発射した鉄杭により防がれた。


 こちらは二投目を投げようとすれば準備が必要になる。



 だが、エルザの方は義手に仕込まれた機構で連射が可能。


 一発撃ったら終わりではないのだ。放たれる次弾を予想し、身構える俺。



「アーーーッハッハッハ!!!」


 そして、予想通りに黒甲冑の右手から大量の鉄杭がばら撒かれる。


「勘弁しろ!」


 鉄杭に当たりたくなかった俺は身を屈めて全力疾走する。



 そして、素早く手近な柱の影に身を隠す。


 そこで柱に留まらず、そのまま【張り付く】を使って柱の壁面を走行。一気に駆け上がる。



 必死で走る俺の背後ではエルザの放った鉄杭がこちらを追うようにしてバスバスと柱に突き刺さっていく。



 鉄杭をなんとかやり過ごしつつ天井まで辿り着くと、下にいるエルザ目がけて鉄杭を投擲。けん制は成功し、一瞬鉄杭の雨が止む。


 鉄杭を投げた後は振り返らずに天井を走り、次に隠れられそうな柱を目指した。


(あれだ!)


 俺は新たな遮蔽物を見つけると同時にスキルを解除し、落下。


 空中に身を投げた俺目がけて更に鉄杭がばら撒かれるも、【縮地】で移動して回避する。



 俺は【縮地】中に鉄杭を投擲しつつ、素早く次の柱へ飛び移った。



 そして再度【張り付く】を使って柱を下り、床へと着地する。


 そのまま慌てるようにして立ち上がり、柱に背を預けた。柱に身を隠し、エルザから次弾が放たれるのを待つ。それを見て、放たれた方向の逆側から鉄杭を投げつけてやるのだ。



 しかし、待てど暮らせど、一向に次の鉄杭が放たれない。


 と思ったらワンテンポ遅れて鉄杭が柱に突き刺さった。だが、一発のみ。


 次弾が来るかもと身構えながら柱の影から相手の様子を窺うと、そのまま突進して来るエルザの姿があった。



 こちらは鉄杭を引き抜いて振りかぶるモーションが必要だが、向こうは好き放題に連射できる仕様なのに一発限りの発射。


 休戦して共闘(?)していたときは鉄杭を好き放題にばら撒いていたのに、どうしたのだろうか。


「どうした? 弾切れか?」

「弾切れではありませんが、残数を気にしなければならない状況ではあります。ですが、貴方を殺しきるには十分な量ですよ」


 どうやら残弾が厳しいらしく、弾数を絞っているようだ。


 まあ、そう見せかけて後で連射してくる可能性も否定できない。現状では相手の言葉の真意を判断する材料が少なすぎる。



 が、これまで好き放題撃っていた印象があるので、残数が厳しいと言われれば頷けるのも事実。


 俺の方も鉄杭の残数は数えるほどしかないし、向こうも数が少ないのであれば願ったりだ。


(……どの道、ここでじっとしてるわけにはいかないよな)


 意を決した俺は柱の陰から飛び出す。


 こちらの動きを察したエルザの追走から逃れるようにして、柱が立ち並ぶエリアを駆け抜ける。そして中央の開けた場所に到着すると急停止した。



「そうかよ! それは有益な情報ゲットだ!」

「フフッ!」


 俺が停止するのに合わせるようにエルザも急停止する。


 俺はドス、エルザは刀に手を触れ、ピタリと止まる。


 転瞬、二人同時に【縮地】を発動。


 お互い真正面から【居合い術】でぶつかろうと加速する。


「はあああああああああっ!」

「ククッ! 行きますよぉおおおおおおおお!」


 俺はドスを使った四連斬。エルザは四本の腕で二本の刀を使い、それぞれが二連斬。


【縮地】と【居合い術】で加速した刃が高速で衝突する。


 お互いがお互いの刃を弾き、火花が乱れ飛ぶ。


(一瞬過ぎる……)


 両者共に【縮地】を発動していたため、接触できる時間がかなり短い。


 そのせいで【居合い術】で斬りつけられる回数が意外に伸ばせない。


 それに加えて、エルザは今、黒甲冑を纏っているためにサイズが微妙にデカい。


 変身したハイデラよりは小さく、人間よりは大きい。なんとも絶妙に紛らわしい大きさで間合いが把握しにくい。そのせいで上手く攻撃を合わせられずにいた。こればかりは慣れるまでもう少し時間が掛かりそうだ。


 そんな事を考えている間に【縮地】が終了し、交差した地点から間合いを離した状態での停止。


「こっちの方が手数が多いのに、腕の多さで均衡してるのは不公平だと思うんだ」

「長所で短所を補って何が悪いのです? そういう狭量なところが恥かしいのですよ」



 俺はクレームを入れつつ振り返り、鉄杭を投擲。


 どうやらエルザも考えていたことは同じようで、鉄杭がこちらへ向けて飛来するのが見えた。


 両者が放った鉄杭は二人を結ぶ中心点で衝突。ギンと音が鳴り、火花が散る。



 それを合図に再度【縮地】で飛び出す俺とエルザ。


「狭量とか、お前にだけは言われたくないわ!」

「ククッ! 威勢が良いですねぇええええええええ!」


(今度は五回以上斬るしかねえ)


 と、【縮地】でエルザへ向かいながら考える。


 相手は二本の刀を使って【居合い術】中に斬撃を計四回放った。


 つまり一刀で二回しか斬っていない。


 もし俺のように一刀で四回繰り出せていれば八回。三回でも十分に俺の上を行くことができる。だが、二回しか繰り出さなかった。いや、繰り出せなかったと見るべき。あの状況でわざわざ二回に止める意味がないのだ。


 単純に、今のエルザの放てる【居合い術】の限界が二回ということなんだろう。


 だが、俺はベストの状況を作り出すことが出来れば十三回までいける。


 とは言っても、縮地同士の擦れ違いざまだと接触できる時間が短いため、さすがに十三回は無理だ。だが、五回に増やすことなら、なんとか出来そうな気がする。難易度は高いがやるしかない。


 俺は集中力を高め、接触する瞬間に【居合い術】を発動。


(いける)



 ドスを振るった手応えから五回に届くことを確信する。


 逆にエルザの方は前回と同じで計四回に留まりそうな気配だ。


 動作や速度を見ていると二回以上に回数を増やすのは難しい様子。



 これなら相手の【居合い術】をしのいだ後に一撃入れられる。


 俺はエルザの二刀流居合いを弾ききり、五回目の斬撃を入れようとする。


 が、次の瞬間エルザの刀が分断。刃が湾曲し、俺の五撃目を防いだ。


「何!?」


 ――忘れていた。



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