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「……いくぞ」


 覚悟を決めたことを自分に言い聞かせるように、自身へ合図を送るために呟く。



「はぁああああああああああ! フレイムゥゥウウウウウウウウウ、アクスッッッ!!!」


 レガシーは両手を上方へ掲げると、魔法名を唱えた。


 魔法が発動すると同時に、巨船の横帆を思わせる片刃の大斧が出現。レガシーの両手に収まる。大斧はその全てが真っ赤に燃えたぎり、赤熱していた。



「オラアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 レガシーは気合の一声と共に火炎大斧を水平にスイング。完全に斧を振り切り、体を回転させる。勢いよく振られた巨大な大斧は周囲にあったSHBをバターでも切るかのように熔かし斬った。


「もういっちょおおおおおおおおおお!」


 横への回転が終わると、次は肩に担いで縦に回転。巨木でも叩き切るかのように複数のSHBを真っ二つに切断する。振り下ろした大斧の勢いは強く、SHBを裂いてもその威力は収まらない。大斧はSHBを完全に分断し、勢いもそのままに床も切り裂いていく。



 レガシーは床を斬り進む大斧を操って一回転させ、反対側にあったSHBも切断。


 一週回って担ぎ直すと、狙いを別のSHBへ定め、再度縦方向に回転する。


 火炎大斧を操るレガシーは巨大な風車を連想させるような動きで全てのSHBの分断に成功する。



(よしっ! 全て破壊成功だ!)


 全てのSHBを叩き割り、回転させた大斧を肩に担ぎ直す。


 レガシーがSHBの全破壊を確認するのと同時に、赤熱する大斧は役目を終えたかのように消えてなくなった。



 ――そしてここで気付く。


 斧を縦方向に振り回し、床を切り裂いた影響で自分が立つ場所が無くなっていることに。


「あ」


 足を置く場所を失ったレガシーはそのまま下方へ落下するはめになってしまう。



「ぐおおおおおおおおおおおおお!?」


 格納庫は空中要塞の最下層にあった。


 そのため、床を切り裂いて落ちれば、その下には何もない。



 床を抜け、落下するレガシーの周囲は青い空。眼下には青い海が広がっており、その全域が青一色で統一されていた。


(自爆で投身自殺とか笑えねえ!)


 レガシーは自ら床を切り裂いて落ちるはめになったことを後悔する。しかし、時間を巻き戻すことは出来ない。


 落下中、恐怖から気を失いそうになるも必死で堪える


 そして、なんとか無事に地上へ降りる術を探す。


(あれは……)


 何かないかと空中で全方位に首を巡らせ、あるものを発見する。


 それは大量に地上へ向けて落ちていく棺桶のようなもの。


 棺桶はたんぽぽの綿毛を思わせるほどゆったりとした速度で降下していた。


 落下速度から考えて、地上を焼き払う兵器ではないだろう。


(脱出艇か!)


 と、ここで棺桶の正体に思い至る。


 あれが、ミックから説明を受けていた脱出艇だと。



 思い出せば、避難放送が流れていたし、空中要塞から逃げ出す者がいても何らおかしくない。


 むしろ、SHBの格納庫に居残っていた者たちの方が希少な存在なのだろう。


「届け!」


 レガシーは魔法剣を抜き放つと、一番近くの脱出艇目がけて刃を伸長。


 脱出艇の側面に刃をめり込ませ、一気に収縮させる。


 途端、脱出艇へ向けて自身の体が引き寄せられる。


 そして衝突するかのようにして脱出艇の側面へとへばりつく。


 脱出艇へとしがみ付いたレガシーはへりを掴んで上部へとよじ登ると、体を投げ出すようにして座り、一息ついた。



「……間一髪だったな。さて……」


 改めて周囲を見渡すと大量の脱出艇が地上へ向けて降下していくのが確認できた。


(降下速度が遅いし、このまま無事に帰すには惜しいくらいに、いい的なんだよな……)


 脱出艇の降下速度は非常に遅く、かつ操縦が不可能なのか軌道が一定に保たれていた。


 まさしく狙ってくださいといわんばかりの状態であった。


(いないな……)


 あることを思い出したレガシーは再度周囲を降下する脱出艇に視線を巡らせた。


 確認したのは剣など武器の類が刺さった脱出艇があるかどうか。


 空中要塞へ乗り込む前、自分達が脱出艇を利用する際は外部に剣を刺すことを決めていた。



 しかし、確認した結果、剣の刺さった脱出艇などひとつもなかった。


 つまり、レガシーの周囲にある脱出艇にケンタとミックは乗り込んでいない。



 全て敵兵が乗り込んでいる物だ。



「盛大に暴れさせてもらうか……」


 そう言うとレガシーは脱出艇の上で立ち上がり、両腕を左右に広げた。


「フレェエエエイイム! チェエエィイイイイイン!」


 レガシーが魔法名を叫ぶと同時に、かざした両手から赤熱した無数の鎖が射出される。


 放たれた鎖は周囲を浮遊する脱出艇目がけて凄まじい勢いで飛んでいく。


 炎を纏った赤熱する鎖は周囲に浮かぶ数多の脱出艇を貫通し、空を駆ける無数の大蛇のような軌道で全域を蹂躙。



 辺り一面の脱出艇を全て破壊しつくす。



 空で大量の鎖がうねる中、破壊された脱出艇が次々と墜落していく。


 そして時間差で宙を舞う鎖が消失する。


 鎖が消えた頃、レガシーの周囲に浮く脱出艇は、自身が立っている一つのみとなっていた。



「これで最後だ……」


 レガシーは己の足元目がけて魔法剣を振り下ろし、突き刺す。


 刃が装甲を貫通し、脱出艇に乗り込んでいた兵士の命を奪う。



「これだけサービスすれば文句ないだろ……」


 息も絶え絶えにそう呟いたレガシーは懐からポーションを取り出すと、その蓋を開け、一気に飲み干した。それと同時に力の解放の使用限界が訪れたのか、角が刺青の形へと戻っていく。


「下で待ってるぜ」


 レガシーはその場に居ない者たちへ向けて小さく呟くと、ゆるりと降下を続ける脱出艇の上で大の字に寝転んだ。



 ◆



「いつまでじっとしているつもりですか? 相手が私でなければ死んでいたところですよ?」


 オーハイの死体の傍から動かないプルウブルーを前に、エルザは問いかける。




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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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