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 ◆



「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ハイデラが放った全ての攻撃を捌き切った俺は全力で駆ける。


「無駄だ!」


 ハイデラは叫ぶと同時に、十二本の腕を大きく開いた。


 仁王立ちのまま、距離を離さず俺を待ち構えるハイデラ。


 十二本、その全ての手が光る。前にかざせば極太ビームの予備動作だろうが今回は腕を開いたままだ。


 一体何をするのかと疑問に思っていると手に宿った光が伸び、剣のようになって留まる。


「切り刻んでくれるわッ!!」


 十二本の光剣を携えたハイデラが俺を迎え撃とうと地を蹴る。


 全身が輝いていると錯覚してしまうほどハイデラが十二本の光剣を振り乱し、こちらへと迫る。


「無駄なのはお前の方だ!」


 十二本の剣による乱れ斬り。


 本来なら脅威の対象となっただろう。


 だが、あの剣は魔力で出来ている。つまり、【気配察知】を発動すれば――。


(かわせる!)


 凶悪な速度で振るわれる光剣での連続攻撃。


 一つの対象に向けてあらゆる方向から繰り出される乱れ斬り。


 多数の光剣が織り成す軌道は虫も通さぬような網の目状の軌跡となって輝く。


 どこをどう見ても、常人には抗うことが許されない強力無比な攻撃だ。


 しかし、今の俺の敵ではない。


 スキルの恩恵で軽やかに光剣をかわしてみせる。


 ただかわすだけではなく、こちらが攻撃し易い位置取りを意識するのも忘れない。


 いくら十二本の腕で剣を振るおうとも。


 十二本の剣で苛烈な攻撃を繰り出そうとも。


 攻撃を行えない死角は存在する。


 相手の後方側面から背後にかけての位置がそれに当たる。死角へ移動できれば相手の攻撃範囲外。そこまで移動できればこっちのものだ。



 俺はミキサーの刃のように回転してくる連撃を回避しながら【跳躍】を発動。さらにそこから【縮地】で空中移動。相手の背後へと着地する。


 ドスを握りつつ【かまいたち】を発動し、素早く振り向く。


 そこには前のめりに攻撃し、背を晒すハイデラの姿があった。


「ゴフッ……、こんなときに……ッ!」


 ハイデラは焦って振り向こうとするも、そこで吐血。


(……もらった!)


 俺は【縮地】からの【居合い術】を発動しようと腰を落とす。


 が、次の瞬間、またもや激しい縦揺れがホール内を襲う。


「うそだろ……!?」


 凶悪な縦揺れは立っているのがやっとの状態なほど激しいものだった。


 俺は止む無くスキルの発動を中止し、床へ向けて【張り付く】を使用。


 揺れに負けて転倒しないよう、必死でこらえる。


 眼前で背を見せるハイデラはその巨体でバランスを保つのが難しかったのか、揺れに負けて体を傾けた。


 しかし、問題はそこからだった。


 ハイデラはその手に持つ光剣を床に刺し、転倒を防いでみせたのだ。


 といっても倒れかけで固定したため、不自然な姿勢なのはかわりない


 これなら揺れが収まるまでこう着状態を維持できるか、と思いきや、ハイデラは背から生えた十本の腕を蜘蛛の足のように使い、体をしっかりと床に固定。


 十本の光剣を器用に使いこなし、こちらへとゆっくり方向転換すると、姿勢を保持するのに必要な光剣だけを床に刺し、残りの全てを振り上げた。



「残念だったな! 運は私に味方したようだ! ガフッ」


 勝利宣言と共に複数の光剣を俺へ向けて振り下ろしながら吐血するハイデラ。


「うるせえ! お前こそ死に掛けてるじゃねえか!」


 俺は【張り付く】を急遽解除、光剣をかわそうと飛び退く。


 が、揺れでしっかりと踏み込めなかったせいで飛距離が伸びず、光剣をかわすのに失敗しそうになる。



 俺は空中で【縮地】を発動。体側を光剣が掠め、ジュッと何かが焦げる音が鳴る。足りない距離をスキルで補い、光剣でのかち割りを最小限のタメージでなんとかかわしきる。


 しかし、その後がまずかった。


(くそっ、タイミングを外した……!)


 なんとか光剣の攻撃はかわせたが、無理矢理動いたために着地に失敗。



 たたらを踏み、そのまま膝をつく形になってしまう。


 しかもまだ揺れが続いているため、立ち上がるのにも手間取る始末。



 再度、床へ向けて【張り付く】を発動し、転げまわらないようにはするも、完全に体勢を崩してしまう。


 攻撃してくれといわんばかりに大きな隙の披露。


 当然、そんな隙をハイデラが見逃すはずも無かった。


「終わりだァアアアアアアアアアアアッ!!!」


 ハイデラが床から離脱し、大きく跳躍。こちらへ落下するようにしながら、十二本の光剣を掲げた。その口からは大量の血が零れ落ち、顔面は真っ青となっていた。


(明らかに衰弱している……)


 ハイデラの様子がおかしい。


 今のところ戦闘能力に変化は無いが、目に見えて弱ってきている。


 吐血の頻度。顔色。時間が経つにつれ、そのどれもが深刻なものへと変化しているのが分かる。


 ――できれば逃げ回りたい。


 時間を稼いで相手の容態が悪化するのを待ちたい。


 が、それは激しい縦揺れが許してくれない。


 この状況下で、回避行動に重点をおくのは難しい。


 だが、ここは考え方を変えればチャンスでもある。


 相手の挙動を見れば、今が決して悪い状況ではないということが分かる。


 逃げ回る必要など無いのだ。


 ハイデラは明らかに勝機を焦って状況を見誤っている。


 これだけ揺れが激しく、行動が制限される状況ならば接近戦に持ち込まずに、もう一度光球を発射すればいいのだ。俺がハイデラならそうしていただろう。


 現状で光球を撃たれれば、揺れのせいで機動性が発揮できない俺には致命打になったはず。


 そこに気付かない、気付けないほどに短時間で決着をつけようと躍起になり、事を急いている。間違いなく焦っているのだ。



「ゴホッゴホッ……! こ、これでとどめだぁああああああッ!」


 吐血しながらも勇ましさを見せるハイデラが、十二本の腕を使って連続突きを放とうとする。



 ――ここは迎え撃つべき。



 遠距離戦に持ち込まれる前に蹴りを着ける。


 接近はこちらにとっても最大のチャンス。


 本来ならば、向こうから飛び込んで来るなんてことはあり得ないのだ。


 その部分だけ見ても、今が好機だと言える。


 ここまで近づくためにかなりの犠牲を払った。


 それなのにまだ一撃も入れていない。


 かなり行動が制限される状況だが、相手の十二連撃を凌いで攻撃するしかない。


 対抗するには連続で十二回以上攻撃する必要がある。


 となると、俺に出来る対抗手段はひとつしかない。


 つまり、サイルミ発射場でやった居合い十三連斬をここで決めるしかないのだ。



「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 腹を決めた俺は雄叫びを上げ、ドスを握りこむ。


 じっと相手を見据え、タイミングを見計らう。


「死ぬがいいィィィィイイイイイイイイイイイッ!!!」


 一本目の腕から光剣での突きが繰り出されるのと同時に、俺は【張り付く】を解除。


 そして、その場で軽くジャンプした後、【縮地】を発動。ハイデラへ向けて特攻する。


 俺が飛び出すのと同時に、ホール内の揺れが収まり、一瞬の静寂が訪れた。



「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


 突き出されてくる光剣を避けながら【居合い術】を放ち、腕を斬り飛ばす。


 まずは一本。


 大理石のような色をした巨腕はかなりの硬度であったが、スキルを重ねたドスの前には大した抵抗にはならなかった。


 上から下、下から上、右から左と縦横無尽に繰り出される太刀筋がこちらへ届く前に、全て斬り飛ばしていく。


 一瞬。その全てを、縮地で駆ける一瞬の間にやり遂げる。



 十二本の腕を斬り飛ばし、残る一斬をハイデラの首目がけて放つ。


 ザンッ! と大きな音と共に巨人の首を跳ね飛ばす。


 そして着地。


 ドスを鞘に収めるチンという音が静かに響いた後、背後で巨人が崩れ落ちる音が鳴る。


 ――終わりだ。


 振り返れば、絶命した影響で魔力がつき、その姿を保持できなくなった巨人の姿が消えていくのが見えた。巨人が消えた場所には首を飛ばしたハイデラの死体だけが残っていた。



「勝った……、のか?」



 ハイデラの死体を目の前にしてもピンとこない。


 終盤まで苦戦し、追い詰められたイメージしかなかったため、どうにも勝った実感が湧かなかった。


「く……」


 軽く目眩を覚え、自分の体に目を落とせば全身血塗れ。


 血の滝に打たれていたのかと思うほどに真っ赤に染まっていた。


 俺は立っていられず、ふらふらと数歩歩くと壁にもたれかかり、ズルズルと床へ座り込んでしまう。


 途端、全身に痛みが走る。どうやら【無痛】の効果が切れたようだ。


 さすがに少し休憩しないと動けそうにない。


 疲労感を覚えた俺は壁に体を預け、目を閉じた。



 ◆



 妙な違和感を覚えた俺はハッとまぶたを開き、辺りを見回す。


「え」



 辺り一面、白一色だった。




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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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