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「ッ!?」


 異常を感じたレガシーは素早く魔法剣を収縮させつつ、ぐるりと首を巡らせる。


 するとバードゥが投げつけた全ての槍が立ち上がり、レガシーを取り囲んでいた。



 ――先程のがむしゃらな投擲はフェイク。


 本来の目的はレガシーの周囲に配置する事が目的だったのだ。


 槍の檻に監禁されたレガシーは今になってその事実に気付く。


「じゃ〜ん! 包囲完了やね」


 嬉しそうに話すバードゥは槍をバトンのように回転させながら、ゆったりとしたステップを踏む。


「だからどうした……。槍が立っただけじゃねえか」


 嫌な予感を感じつつもレガシーは虚勢を張り、反論する。



「本当にそう思うん? じゃあ、試してみよか。ほれッ!」


 レガシーの挑発を聞いたバードゥが軽い調子で持っていた槍を伸長させた。


「それがどうした! 何!?」


 レガシーはバードゥが放った槍での攻撃を魔法剣で弾く。


 が、攻撃を凌いだと思った次の瞬間、背に痛みが走る。



 振り向けば槍が刺さっていた。


 刺さった槍の元を視線で辿っていけば、はじめに弾いた槍が屹立する槍に触れているのが目に入る。屹立した槍は主も居ないのに伸長され、その刃がレガシーの背に到達していた。



「フフフ、ほれほれほれッ!」


 バードゥは槍を収縮させると、再度伸長。


 しかし、狙いはレガシーではなく、レガシーを囲む周囲の槍。



 伸ばした槍の刃が屹立した槍に触れると自動的に伸長。伸長した刃が別の槍へと接触。


 まるで玉突きでもするかのように槍の刃が別の槍を目指して移動していく。


 そして、レガシーが刃の行き先を見失う瞬間を見計らったかのように、伸長された槍が死角から襲い掛かってくる。


「ぐおッ!?」


 背を刺されて反転すれば、別方向から背を刺される。


 どこを向けば分からなくなったレガシーは自在な軌道で迫る槍の群れを前に膝を突いた。



「さっきまでの威勢はどうしたん? 息が上がってるで?」


 バードゥはそう問いながらも、槍を繰り出す手を止める気配が無い。


 屈み込んだレガシーへ向けてあらゆる方向から槍が迫り、貫く。


「うるせえ……」


 槍の攻撃を受けたレガシーは短く反論する事しか出来なかった。



 そんな中、バードゥが正面から放った槍の一撃が偶然レガシーの耳を掠めた。


 次の瞬間、バードゥは目を見開き、凍りついたかのように動きを止める。


「あああ!」


 そして、大声を上げながら慌てた様子で槍を引き戻すと、その刃を丹念に舐めはじめた。


「危ない危ない。もう少しで変なとこに傷が入ってまうところやったわ……。気ぃつけんとあかんわ……」


「わけの分からんことを……。ッ!?」


 バードゥの異常な行動にレガシーが呆気にとられていた次の瞬間、部屋全体を強烈な揺れが襲う。発生した縦揺れは凄まじく、姿勢を保つこともままならないほどだった。


「なんやの!?」


 バードゥがふらつきながら声を上げる。


 レガシーは跪いていたため、大きく姿勢を崩すことは無かったが、バードゥの方は別のことに気をとられていたせいか、完全にバランスを崩し、たたらを踏む。



「うおおおおおおおおおおおおお!」


 それを好機と判断したレガシーは力を解放する。


 途端、顔にある角の刺青が発光。半透明の立体映像となって表皮から離れ、天を突く。



「ふん! そんなこけおどしで形成逆転できるとでも思ったん?」


 バードゥはレガシーの変化に動じた様子もなく、槍を放ってきた。



 伸長した刃が屹立して待機する槍に触れる。すると、屹立した槍が伸長し、反射するかのようにして別の槍へ向けて刃が飛んでいく。


 林立する槍は何度かの反射を重ね、背後を取った刃がレガシーへと迫る。



「フゥゥレェエエイムッ! チェェェェエイィィィィン!」


 しかし、レガシーは槍を無視し、床に手を付いたまま魔法を発動。


 だが、魔法名を唱えるも炎の鎖は姿を表さず、一瞬の静寂が辺りを支配した。


「フフ、やっぱり見せかけだけやないの……。ちょっとびっくりしたから効果はあったけど、それだけじゃあ、そこから出ることはできひんよ?」


「……こけおどしでも、見せかけでもない。こういうことだッ!」


 レガシーの台詞が終わると同時に、包囲する全ての槍の下から、床を突き破って炎を纏った赤熱する鎖が顔を出す。姿を現した無数の鎖は全ての槍に絡みついた。


「オラアアアアアッ!」


 全ての槍を拘束したのを確認したレガシーは立ち上がると同時に炎の鎖を手繰り寄せる。


 すると、全ての槍が床の下へと引きずりこまれ、その姿を消した。


 鎖が空けた穴からは落下する槍が灰色の雲の中へと吸い込まれていくのが見えた。



 レガシーの魔法は思惑通りに成功し、槍の包囲は完全に消失した。


「何ッ!?」


 自身の足元からも炎の鎖が飛び出してきたことに気付いたバードゥは素早く飛び退く。


「がら空きだッッッ!!!」


 その瞬間を待っていたかのようにレガシーが魔法剣を伸長。


 射出した刃は回転し、螺旋の軌道を描く。


「クッ!」


 バードゥは苦し紛れに不自然な姿勢から槍を伸長させた。



 射出された刃は魔法剣の刃と衝突。


 しかし、万全の態勢で撃ち込んだレガシーの魔法剣の威力が勝り、槍を跳ね飛ばした。


 魔法剣は槍を跳ね飛ばしてもその勢いを失わず、バードゥ目がけて突き進む。


「ッ!?」


 そして、目を見開くバードゥの胸に魔法剣の刃が突き刺さった。


「……勝負ありだな」


 負傷して満身創痍のレガシーは突きを繰り出した姿勢のまま苦しげに呟く。


「ガフッ……!? ……やっぱり、ケンちゃんを……お守りにできなかったのが敗因やね」


 胸を貫かれたバードゥは着地と同時に大きく吐血。負けた理由にわけの分からないことを口走った。


「……お守り?」


「フフ、こっちの話よ。……でも、タダで死ぬわけにはいかんのよ……。上の連中に対しては何もないけど。うちの信念として……、一応、仕事やしね。気持ちよく勝たせんでごめんな?」


 そう言うとバードゥは取り落とした槍を足で蹴り上げてキャッチ。


 素早く刃を伸長させ、背後にあった巨大な装置のボタンを押した。



 ――しかし、何も起こらない。


 そのことに驚き、固まるバードゥ。


「なんで……? なんで発射されんの?」

「残念だったな。対策済みだ」


「あら……、そう。完敗やわ。残念………………」


「俺の名はレガシー。これでさよならだ」


 レガシーはそう短く名乗ると、柄に付いたボタンを押し、魔法剣に内蔵された仕掛けを起動。


 途端、バードゥの胸に刺さった刃の先端から無数の棘が飛び出した。


 手応えを感じたレガシーは仕掛けを解除し、魔法剣の刃を手元へ引き戻す。



 次の瞬間、剣を引き抜かれたバードゥはその場に崩れ落ちた。


 事切れて動かなくなった彼女の表情は、悔いが残っていないことを窺わせるほど晴れやかなものだった。


「チッ、随分とやられちまったな……」


 レガシーは槍で貫かれた己の体を見下ろし眉根を寄せる。


 自身の負傷度合いを確認していると力の解放の使用限界に到達し、角が体表に沈み、刺青へと戻った。



 次の瞬間、奥にある扉が突然開き、複数の兵士が室内になだれ込んで来た。


「今、発射ボタンが押されたよな? なぜ起動しない?」

「故障じゃないのか? いや、それよりなんで発射ボタンが押されたんだよ」

「何くっちゃべってんだ! SHBの誤作動だぞ! 早く確認しないとまずいだろうが!」


「……おいおい、全員脱出したんじゃなかったのかよ。熱心な奴がいたもんだな……」


 バードゥが最期に行った槍を使ったSHBの起動。


 それはレガシーが持ち込んだ装置により阻害できた。


 だが、発射装置全般を管理している者からすれば、ボタンを押したのに起動しなければ誤作動と認識するのは当然の成り行き。結果、原因を調べに来るのは自然な流れといえるだろう。


 といってもレガシーからすれば完全な誤算。そこまで予測して行動するのは不可能だった。


 予想外の結果を招いたことに苦渋の表情となったレガシーは確認作業に来た兵士たちを前に悪態をつく。


「ッ!? 誰かいるぞ!」

「バードゥさんが……ッ!」

「応援を呼んでくる!」


 兵士たちは眼前の惨状を前に機敏に行動を開始する。


 それを目にしたレガシーは負傷のせいで反応が遅れ、何も出来ないままに見送ってしまう。


「全く……、気持ちよく勝たせなくて悪いと先に謝られていたら、何も言えねえじゃねえか……」


 レガシーは倒れたバードゥの死体から槍を奪い取る。



 そして両手にそれぞれ魔法剣と魔法槍を持ち、手前にあったSHB目がけて刃を伸長。


 即座にSHBの破壊を試みる。



 凄まじい勢いでSHBへと到達した剣と槍は外壁を突き破り、内部へと到達する。が、物が大きすぎるせいか、致命的な損傷を負わせたという手応えがない。


 そうこうしているうちに応援に駆けつけた兵士が大量に現れ、完全包囲が形成されてしまう。


「全く……、少しは休ませろよ……。」


 魔法剣と魔法槍の刃を引き戻したレガシーは二刀流の構えを取り、包囲された兵士たちと対峙する。


 戦闘開始だ。



 ◆



「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ハイデラが放った全ての攻撃を捌き切った俺は全力で駆ける。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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