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 ほぼ同時。


 お互いが発動した魔法が両者の中間で衝突する。



 二つの魔法は衝撃波を発生させながら炸裂。



 魔法が衝突した影響で周囲に薄靄がかかる。


 残念ながらレガシーの放った絶妙な一撃は相殺されてしまった。しかも、視界が霞み一瞬相手を見失ってしまう。



 そして靄が晴れると、檻へ向けて走るバードゥの姿が見えた。


「逃がすか! フレイムアロー!」


 魔法剣では届かないと判断したレガシーは走るバードゥへ向けてすかさず魔法を放つ。


 しかし、レガシーの放った炎の矢はバードゥが逃げ込んだ檻に接触。相手に命中させることができなかった。


「フフ、ちょーっと遅かったねぇ」


 レガシーの魔法を凌いだバードゥは、楽しげに笑いながら両手で鉄格子のように配置された金属の棒を二本握る。そしておもむろに引き抜てみせた。


 すると、床に刺さっていた刃が姿を現す。



 この格納庫に訪れたときから気になっていた檻状に配置された金属の棒。


 それは全て、床に突き立てた槍だったのだ。


「行くでぇ……」


 両手に二本の槍を持ったバードゥは、レガシーに狙いを定めると再び走り出す。


「チッ、フレイムアロー!」


 レガシーはこちらへ駆けて来るバードゥ目がけて魔法を放つ。



「無駄ァッ!」


 バードゥは片方の槍で炎の矢を弾いてみせると、もう片方の槍で突きを放った。


 突き出された槍は分断されて伸長。間合いが拡張された槍はレガシーへと襲い掛かる。


「くっ」


 レガシーは魔法剣で迫る槍を弾く。


 しかし、その頃にはバードゥが接近。次の攻撃が迫る。


「ほれほれほれ!」


 バードゥのリズミカルな掛け声と共に二本の槍を使った連撃が繰り出される。


 二本の槍による攻撃は分断伸長での変則攻撃と槍形態での刺突をあわせた変幻自在のもの。


 まるで大蛇と槍使いを同時に相手にしているかのような攻撃だった。


「くそっ」


 バードゥの繰り出す二本槍での攻撃は魔法剣一本で凌ぐのは難しく、刃が腕や腹を掠める。


 なんとか致命傷を避けることには成功していたが、決して楽観できる状況ではなかった。


(一旦引き離して、槍を一本だけでも破壊する……)


 レガシーは槍の射程圏外へと脱出しようと、相手の攻撃の合間を縫って少しずつ後退。


 間合いを開くことによってできた隙を利用し、更に後方へ跳躍する。



 そして着地した瞬間、魔法剣を構えた姿勢で待機。


 力を溜めてバードゥを待ち構える。


「立ち止まってどうしたん? もう諦めたんかなッ!」


 レガシーの後退を見て勢いを強めたバードゥが距離を詰めようと、一気に跳躍する。


「オラアッ!」


 レガシーは相手の跳躍に合わせて魔法剣で刺突を放った。


 突き出した刃を伸長、回転させ、螺旋を描く軌道をとらせる。繰り出すは魔法剣で出せる最大の一撃。



 レガシーの目論見としては、この一撃で片方の槍を弾き飛ばし、そこに出来た隙に魔法を撃ち込むつもりだった。


 しかし……。


「ざんね〜ん」


 バードゥは二本の槍を地面に刺し、反転。両方の槍を伸長させ、棒高跳びでもするかのように空中で踊る。当然、レガシーの放った渾身の一撃は空を斬ってしまう。


 逆にバードゥはレガシーが放った最大の一撃をかわしたことにより、攻撃のチャンスを得た状態となってしまった。


「頭がお留守やでッ!」


 バードゥは空中で槍を引き抜いて収縮させると、眼下のレガシーへ向けて槍を伸長させる。


 こちらが魔法剣を収縮させたころには、相手が放った槍が回避不可能な距離まで接近しつつあった。しかし、今から魔法剣を伸ばしても間に合わない。


 が、レガシーは慌てない。


「そいつはどうかな……」


 そう小さく呟いたレガシーは迫る槍へ向けて片手を掲げる。


「フレイムチェーン!」


 魔法名を唱えると共にかざした手のひらから炎の鎖が射出。


 レガシーは朱色に輝く鎖を操り、こちらへ向かって飛んでくる二本の槍へ絡みつかせた。


「なッ!?」


 予想外の展開だったのか、バードゥが驚きの声を上げる。


「落ちろぉおおおおおッ!!!」


 レガシーは鎖で巻き取った槍を引き寄せ、背負い投げのようにしてバードゥを脳天から落下させようとする。


「やるねぇッ! でも、こうすれば済むことやねんで?」


 しかし、バードゥは体を叩きつけられる寸前に槍を手放し、両手で着地。


 バク転をしながら反転し、再び檻の方へ向けて走り出した。


「逃がすか! フレイムアロー!」


 レガシーは武器の調達を妨害しようとバードゥへ向けて手をかざし、魔法名を唱えた。


 今回は威力と命中精度を抑える代わりに、連射できるタイプの魔法を選択。


 かざした手のひらから無数の炎の矢が撃ち出され、走る対象目がけて飛んでいく。



「フフ……、鬼さんこちら、手の鳴る方へ」


 バードゥは迫る炎の矢を舞うように側転でかわし、ひた走る。


「くそっ、ちょこまかと……」


 レガシーは魔法をコントロールし、命中させようと試みる。


 しかし、相手の疾走速度は凄まじく、一度外れた魔法の狙いを修正している間に完全に逃げきられてしまう。


「フフ、ゴール到着っと。魔法で応援してくれたお兄さんには槍をプレゼントや!」


 バードゥは走る勢いそのままに床に刺さった槍を抜くと、レガシーへ向けてそのまま投げつけてきた。



「チッ、当たるかよ!」


 レガシーは発動中の魔法を素早く解除。投擲された槍をかわす。


「あら残念。ならこれでどうや!」


 バードゥは槍をかわされたことなど気にも留めない様子で、二本の槍を抜いて再度投擲。


 投げた瞬間に次の槍を抜き、それも投擲してくる。



「おらあっ!」


 レガシーはこちらへ投げられた二本の槍を剣で左右に弾き、時間差で来た三本目をかわす。いくら連続で投げつけられたとはいえ、正面から軌道も変わらずに飛んでくる物など容易く処理が可能だった。


「ほらほらほらぁあッ!」


 だが、バードゥはレガシーに投擲が対応されたことなど気にせず、気合の叫びと共に檻状に配置していた槍を全て引き抜いて投げつけてきた。


 しかし、全力疾走のあとに槍を連続で投げ続けたせいか、途中から投擲軌道が怪しくなり、こちらに届かないものや、明後日の方向に飛んでいくものまで出てくる始末。


 ――完全な失策。


 いくらなんでも破れかぶれ過ぎる戦法だった。


「どこ狙ってんだ! ノーコン!」


「うちのか弱い細腕では槍を投げるのも一苦労なんよ」


 自身の腕に持つ一本を残し、全ての槍を投げ終えたバードゥが軽く息を乱しながら呟く。


「嘘付け! 目一杯全力投擲してたじゃねえか!」


「まあね。でも結局当たらんかったわ」


 バードゥはレガシーの言葉に肩をすくめてみせると、最期の一本となった槍を器用に回転させながら舞ってみせた。


「折角そこまで辿り着いて、投げた頼みの綱も品切れか。……覚悟はできたか?」


 こちらの攻撃を凌いで檻まで辿り着いたにも関わらず、反撃として行った槍の投擲はお粗末な結果に終わった。今、相手が持っている槍は一本のみ。


 この状況なら勝てると判断したレガシーは剣を構えると、バードゥへ向けて駆け出した。


「ふふ、何の覚悟? 覚悟ならお兄さんがした方がええんとちゃう?」


「負け惜しみだな! くらえッ!」


 間合いへと到達したレガシーは魔法剣を伸長。


 分断された刃がバードゥへ向けて射出される。


「フフ、それはどうやろ?」


 余裕の表情を崩さないバードゥは持っていた槍の石突きを床へ向けて叩きつけた。


 それを合図に、先程バードゥが投げつけて床に転がっていた槍が屹立。



 バードゥ目がけて伸長させていた刃が立ち上がった槍によって阻害され、弾かれてしまう。


「ッ!?」


 異常を感じたレガシーは素早く魔法剣を収縮させつつ、ぐるりと首を巡らせる。



 するとバードゥが投げつけた全ての槍が立ち上がり、レガシーを取り囲んでいた。



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