17 二次面接
とりあえず明日からは、店のある日は初心者用ダンジョンに潜り、休みの日はギルドでのパーティー募集を見て良さそうなのがあれば参加していこう。
…………
「本日は当パーティーの募集案内にご応募頂き誠にありがとうございました。厳正なる審査の結果、申し訳ありませんが、今回は採用を見合わせて頂くことになりました。ケンタさんの今後のご活躍をお祈りいたしております。ありがとうございました」
「はい、ありがとうございました」
パーティー募集の面談を終え、俺は代表であろう女性冒険者に丁寧に断られた。
これで断られたのは十件目だ。
何度も面談をしていると何言っても同じ結果だろうと諦め、段々適当なことを答えてしまっている気がする。
やはり以前考えていた通り、俺の需要はないようだ。
はじめはオークのダンジョンの募集を探して面談していたが駄目だった。
オークのダンジョンは大量の冒険者が探索しているはずなのに、募集は数が少なかったのだ。
後で気づいたが、オークは人気がある理由の一つとして討伐しやすいということがある。
そのため欠員が出にくいのだ。だから募集があっても倍率が高くなり、俺のような冒険者は面談で弾かれてしまうようだった。
パーティー参加を何度か断られてそのことに気づいた後は、人型のモンスターの募集を片っ端から面談しているがうまくいかず、今に至っている。
(次で駄目だったら人型モンスターの中でも人が少ないところをソロで行ってみるか)
俺はそんなことを考えながら、コボルトのダンジョンのパーティー募集をしているテーブルへ向かった。
「あの、こちらのパーティーに参加したいんですけど」
席に座っていたスキンヘッドに筋肉質な肉体を持つ男性冒険者に声をかける。
「よし、行くか」
参加希望に対する第一声がそれだった。
「え?」
「何してるんだ? 行くぞ」
「面談してないですけど、いいんですか?」
「ああ、これ以上ここでじっとしているのは時間が惜しいからな。契約期間は今日一日だ。それでいいなら着いてきな」
「大丈夫です。よろしくお願いします」
どうやら今日一日の臨時募集だったらしく、これ以上ギルドで人を選ぶのは時間の無駄と判断したようだ。
(なるほど、当日一日の募集なら、俺にもワンチャンあるってことだな)
一日の募集は即戦力が求められるだろうと思って避けていたが、どうやら逆だったらしい。とにかくなんでもいいから来いってのが一日の募集なのかもしれない。
俺はそんな事を考えながらマッチョな冒険者の後を着いていった。
……その後、無事にダンジョンの探索を終えると分配した報酬を貰い、解散することとなる。
「今日はありがとうございました」
「おう、また縁があったら頼むぜ」
簡単な挨拶を交わし、俺はその場を去った。
(ふぅ……、なんとか終わったな)
はじめてまともにパーティーを組んだが、意外となんとかなった。
最初の戦闘こそうろたえたが、数をこなすうちに最低限のことはできるようになった。
今回組んだパーティーは全員戦士だったため、単純な動きで済んだというのもある。
連携は基本的に誰かがモンスターの攻撃を引きつけている間に他のメンバーで攻撃するといったものだ。
多分、臨時メンバーの俺にあわせて簡単な連携にしてくれていたのだろう。
それからは当日募集のものをピンポイントで狙い、なんとかパーティーに参加していった。
…………
――数日後。
俺はその日の臨時パーティーでのダンジョン探索を終え、酒場での打ち上げに参加していた。
今日は何度か臨時パーティーを組ませてもらったメンバーだったため、飲みに誘われたのだ。
俺はほろ酔い気分を味わいながら定番ネタを披露していた。
「……それで酔った勢いでションベンしてたら後ろから声かけられてさ」
「ガハハッ! 何やってるんだお前は!」
「バカにすんなよ? すっげぇ開放感で気持ち良かったんだからな」
「まぁ、わからんでもないがな! それでどうしたんだ?」
「びっくりして、全裸で逃げたわ」
「ガハハハ!」
こういうとき依頼の失敗談などで盛り上がるのが定番なようで、みんな一つや二つネタを持っている。
俺の今までの失敗はネタとしては面白くない(物を盗られたり、囮にされたり)話しかできないので結局全裸で小便をした話になってしまう。
エルザに騙された話は、話し方によっては面白くできるが、この街で起きたことなので迂闊に話さない方がいいだろうと判断して話していない。
そのため俺の持ちネタは小便話しかなく、その話がドンドン磨き上げられ、妙に話すのが上手くなってしまった。
そして俺は色んな打ち上げに参加する度にこの話しかしないためイメージが定着してしまい、顔見知りにはションベン野郎として顔を覚えられるまでになっていた。
といっても、蔑まれたりしているわけではない。
打ち上げに参加するのは気のいい人だったときだけでパーティーの雰囲気が悪かったり、メンバーの性格が悪い場合はそういう場には行かないようにしていたので、どちらかというと好意的な印象として定着している感じだ。
パーティーを組んだメンバーからは十分実力もあると判断されているので、なめられていることもない。
さじ加減の難しいイメージだが、人によっては美味しいと感じられるほどで収まっている。
俺はあまり嬉しく感じていないが、円滑な関係のためにはやむなしといったところだ。
「そろそろお開きにするか!」
パーティーのリーダーがそう告げると、皆席を立ちはじめた。
「今回もありがとう。また募集があるときはよろしく頼む」
「おう、お前は面白いから歓迎だぜ! 次まで死ぬなよ?」
「ああ、またな」
リーダーや他のメンバーに礼を言って俺は店を出た。
色々あったが今回参加した臨時パーティーで人型モンスター制覇という目的は達成できた。
ちょっとアレなイメージが浸透してしまったが、それと引き換えにどうにか成功した。
戦ってみた人型モンスターは以下のような感じだった。
コボルトは犬人間といった感じのモンスターで、集団で行動していることが多い。
リザードマンは蛇人間といった感じのモンスターで、刃物での攻撃が少し効きにくい感じだった。
トロールは二メートルを超える巨人で肌が緑色だった。単独で行動することが多く、討伐数を稼ぎにくいのでパーティー募集では一番の不人気だった。
フラワーマンは人間サイズのマンドラコラに近い植物人間で、下半身が根っこで上半身が茨で覆われている。頭には花が咲き、両手は牙のある食虫植物のような手をしていた。
結局倍率の高いオークのダンジョンだけは探索することができなかったが、よく考えたらオークは以前ソロで倒したことがあるので狩る必要はなかった。
色々戦ってみた結果、トロール以外はどれもオークの次に同着の二番人気といった感じで、どのダンジョンも盛況だった。
逆にトロールだけは集団で行動せず単独の固体が多いので討伐数が稼げず、人型のモンスターでは一番不人気だった。
俺が参加した臨時パーティーがトロールのダンジョンに行ったのもパーティーメンバーの負傷で人が揃わなかったのが原因だったためだ。
しかし、これは俺にとって好都合だ。
中級者用ダンジョンをソロで探索するならトロールのダンジョン一択になりそうだ。
今後の方針としては一旦中級者用ダンジョンを離れ、ゴブリンのダンジョンメインに変更し、戦士のスキルレベルを4まで上げる。
もし、中級者用ダンジョンでスキルレベルを上げてレベルまで上がってしまうとステータスの能力上昇値が低くなる可能性があるので、スキルレベルが上がるまでは念のため初心者用ダンジョンにしか行かない。
その後職業を暗殺者に変更してトロールのダンジョンに突入し、レベル6を目指すつもりだ。
レベル6に到達したらいよいよオリン婆さんに声をかけてみる。
そう計画を立て行動に移していくことにする。
…………
それから数週間経過した。俺は起きると共にステータスをチェックする。
戦士スキル
LV1 【剣術】
LV2 【槍術】
LV3 【剛力】 (すばやさの能力値三割を一定時間力の能力値に変換する)
ゴブリンの乱獲はうまくいき、スキルレベルが3に到達した。
新しく修得したスキルは【剛力】というらしい。
すばやさを引き換えに力を上昇させるようだ。
一定時間というのが気になり早速使ってみたが、どうやら一時間有効なようだった。そして制限時間が過ぎると三十分再使用できなかった。
(これは俺にとっては死にスキルかもしれないな……)
一時間能力値を変更できないということは使う前に相当注意しないといけないし、すばやさの高さは俺の取りえの一つなのに、それを下げるのは自殺行為になりかねない。
再使用まで三十分かかるとなると気軽に使うことは不可能だし、ダンジョンでは連続で戦闘するので使用不可能時間がそれだけ長いと肝心な時に使えない気もする。
そう考えると今の段階では使う機会はなさそうだ。
レベル3のスキルは微妙だったが、次のレベル4に期待したいところだ。
今のやり方で支障もないので、このままスキル上げを続行していくことにする。
…………
――それからさらに数週間経過した。
休日の朝に日課のステータスチェックを行う。
戦士スキル
LV1 【剣術】
LV2 【槍術】
LV3 【剛力】
LV4 【???】




