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 ◆



(これ、絶対強いやつですやん……)


 俺は大変身を遂げたハイデラを見上げ、ため息をつく。



 大理石のように白く輝き、十二本の腕を持つ巨人。見るからに強そうである。


「こうなってしまってはここでは手狭だ。これで死んでくれても一向に構わんがな! ハアアアッ!」


 そう言ったハイデラは十二本の腕を正面に伸ばす。



 するとそれぞれの手から光が発生し、集束。


 光が巨大な玉を形成すると同時に腕を下方へ向ける。


 多数の手が保持した巨大な光の玉からは極太のビームが照射され、床を直撃した。


「え」


 俺が呆気にとられている間にハイデラはビームを操作し、床全体をまんべんなく焼き払う。



 当然、辺りは爆炎に包まれ、俺自身もビームの被害を受けそうになる。


 こちらへとビームが接近した瞬間、俺は慌てて【跳躍】して上方に回避する。


(あ……)


 ビームを回避する事には成功するも、下を向けば着地する床が消失していることに気付く。



 俺が見下ろした先は床が抜け、一階層下の部屋が見えていた。


 一つ下にある部屋が普通のサイズであれば、それ程の高度から落下するわけでもなく、スキルを使えば大した怪我にはならなかったのかもしれない。



 だが、残念ながらこの司令室の下は、天井の高い巨大なホールだったらしい。



 その広さは手下を全員集めて演説するときなんかに重宝しそうな広大具合。つまり、落下距離がかなり長い。落ちるままに任せて床に着地すれば死んでもおかしくない高さだった。


「うっそだろ!? うおおおおおおお!」


【跳躍】が頂点へと到達し、強制落下へと移行する俺。



 前を見れば、ハイデラがフハハと高笑いを上げながら楽しそうに降下する姿があった。


 あのお爺ちゃん、アグレッシブを通り越してちょっと壊れてるんじゃないだろうか……。



 俺は落下の最中に【縮地】を発動。壁へ移動すると同時に【張り付く】を使い、事なきを得る。


 その後は、滑るようにして壁を下り、適当なところで停止。辺りの様子を窺う。


 床が抜けて一階層下に下りたそこは広大なホールとなっていた。


 素早く周囲を見渡すも、正面に大理石色の十二本腕の巨大お爺ちゃんがいる以外は無人だった。


「ふん、やはりこの程度では死なんか……。壁を這う虫のようだな……。そのまま染みになるがいい!」


 ハイデラは先程と同じように全ての腕を前にし、その姿が隠れる程巨大な光の玉を形成。


 極太ビームをこちらへ向けて放とうとしてくる。


「壁ごと吹き飛ばしたら染みはどこにできるんだよ!」


 極太ビームの予備動作を見た俺は素早く壁から離脱。なるべく距離を開けようと必至に走る。


 ホールには障害物になるような物がひとつもない。だから何も気にせず、がむしゃらに走れる。それはありがたかった。だが、相手がおかしい。



 あんな腕が一杯の人とか勘弁して欲しい。


 そんな事を考えながら俺を追ってくるビームからひたすら逃げる。


「うおおおおおおおおおお!」


 叫ぶ俺は逃げ回りながらハイデラの胴体へ向けて鉄杭を投げつけた。だが、キンという硬質な音と共に跳ね返されてしまう。


 見るからに硬そうな色味だったが、見た目通りに相当な防御力を誇る様子。参った……。


「相変わらず口だけは減らんな。だが、これを見てもまだそんな軽口が叩けるかな」

「口ぐらいしか手出しできないだけなんだよ! これ以上何するって言うんだよ!?」


 極太ビームを放ち終えたハイデラは今度は全ての腕を大きく広げてみせる。


 その様はまるで一人千手観音ダンス状態。こういう踊りってあったよな、などと思ってしまうも、十二本の手が光り出したところで現実に引き戻される。


「ククッ、貴様も良く知っているやつだ」


「は……? 嘘だろ……、おい」


 ハイデラが広げた全ての手のひらから、バスケットボールサイズの光球が発生する。


 十二個の光球が膨れ上がる様を見届けた俺は、絶望の余り顔から冷や汗が流れ出るのが止まらなくなっていた。


 三個でギリギリかわせたのだ。十二個とか無理に決まっている。



「自分の目を疑うのか? まあ、節穴と代わりないその眼に信頼が置けないのは理解できるがな」


 ハイデラは余裕の表情を垣間見せつつ、全ての手から光球を解き放つ。


 十二個の光球は四方八方、好き放題に分散し俺の周囲にまとわりつきはじめた。



 前回のハイデラが放った光球は全ての速度がゆっくりとしたものだった。


 だが今回は違う。全ての球が高速移動する始末。



 高速移動する球からは、それぞれの隙を補い合うかのようにエネルギー弾が発射された。


 しかも今回の球は一度に十五発のエネルギー弾を上下の二段構成で合計三十発。



 それを扇状に展開して発射してきやがった。


 完全包囲した状態で上下左右、全ての方向から俺へ向けてエネルギー弾の雨が降り注ぐ。



「こんなもん、どうしろっていうんだよ!?」


 俺は悪態をつきながら【気配察知】を発動。


 全てのエネルギー弾の気配を掌握し、回避しようと試みる。



 さっきの三球のときは余裕を持ってかわせるだけの隙間があった。


 だが、光球が十二個に増え、一球の発射弾数が三十発に増えた今回は……。



 ――隙間がほとんど無い。


 果たして全弾回避できるだろうか……。


「答えは明快だ。全てその身で受ければよい。楽になれ」


 ハイデラはそう言いながら巨体に備わった十二本の腕をこちらへ向ける。


 手の先が輝いたと思った次の瞬間、例の如く無数のエネルギー弾が発射される。


(……いや、ちょっと待ってくれ。待て待て待て!?)


 俺がパニックになる中、十二個の光球と十二本の腕から発射された無数のエネルギー弾が視界全域を覆い尽くす。



 パッと見、どこを探しても体を通す隙間が無い。


 だがそれも当然だ、俺に当てるために撃たれた弾なのだから。



 だからといって、馬鹿正直当たってやる義理はない。こっちはついさっきスキルの真の力に目覚めたばかり。ここは根性でかわすしかない……。


「……うるせえ。いいようにやられてたまるか……。お前の言葉に従うのはどうにも腹が立つ」


 俺はハイデラに言い返しつつ、曲芸じみた動きでエネルギー弾をかわす。



 と、言いたいところだが、どうしても完全に回避できない。


 肩、上腕、腿、などをエネルギー弾が掠めていく。


 絶え間なく掠り傷が増え続け、辺りに赤い霧が立ち込める。



 それでも気合でかわす。当たれば痛いで済まないだけに必死だ。


 俺は【無痛】を発動し、集中の妨げになる痛みをカットする。



 なんとかダメージを最小限に抑えるように、体に当たる面積を減らし、急所に接触しないよう、体を動かしていく。


 スパイ映画なんかで赤いレーザーが出てる警報装置をヨガみたいな動きで避けるシーンがあったが、気分はまさしくそれだ。


 だが、俺には問題があった。どうしようもなく体が固いのだ。学生時代の頃から背を押されても全く体が動かない滝川君として有名だったのに、ここで急にしなやかに動けと言われても無理なのだ。


 俺の心の中の美化されたイメージでは流れるようなヨガでスイスイかわしているのだが、実際の映像だとぎこちない素人臭丸出しのロボットダンスでかわしていることだろう。



「ならばどうする? どうするというのだ? 貴様に何が出来るというのだ」


 俺の必死な様に自身の優位を確信したであろうハイデラが手から発射するエネルギー弾の勢いを強めていく。



「避けるんだよ! 全部避けてやるよ!」



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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