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 ◆



「ちょこまかと……」


 プルウブルーは凄まじい速度で動き回る黒甲冑を前に、呟くように愚痴る。



「アッハ! どうしたのですか?」


 黒甲冑を駆り、高速機動で翻弄するエルザ。


 常に動き回り、挑発と一緒に鉄杭をばら撒いてくる。


「乗せられるな。相手の調子に合わせる必要は無い」

「分かってるから!」


 オーハイにたしなめられるも、感情を逆撫でされた気分になってしまう。


 相手は一人。こちらは二人なのだから、冷静に対処すれば問題なく倒せるはず。


 プルウブルーは自分にそう言い聞かせ、大きく息を吐く。


 気持ちを切り替え、オーハイへ視線を送る。


「合わせて!」

「分かった」


 プルウブルーが駆けるのと同時に、オーハイが併走する。


 剣を構えた二人は、氷の上を滑るかのように舞うエルザを追う。


「さあ、こちらですよ。分かりにくいでしょうから手を鳴らしましょう。ほら、ほら――」


 エルザはそう言うと、黒甲冑の四本腕で手拍子を打つ。


 打ち鳴らすその手は生身ではなく金属。外れた調子で金属同士がぶつかり合う奇妙な音が二人を誘うようにホールに響く。


「ふざけるなぁあああッ!」


 その小馬鹿にしたかのような行動に、プルウブルーは激高する。


 プルウブルーは怒りに身を任せ、オーハイを置き去りにして加速。


 一気にエルザへ肉薄し、剣を振るう。



 しかし、エルザは黒甲冑の機動性を活かし、その一撃をひらりとかわしてみせた。


「アッハ、危ない危ない」


 エルザは黒甲冑で滑るように後退し、鉄杭をばら撒いてくる。


「……うっとうしい!」


 剣を振り上げたプルウブルーはわずらわしそうに鉄杭の雨を捌く。


 その場にオーハイが加わり、射出された全ての鉄杭が叩き落とされる。



「落ち着け、プルウブルー!」


 プルウブルーの肩に手を置いたオーハイがなだめる。



「……分かってるから。挟み撃ちでいくよ!」

「了解だ」


 プルウブルーは同方向からの連携を止め、挟撃を行う事を決める。


 オーハイとの連携はプルウブルーが最も得意とし、一番自信のある攻撃手段だ。



 だが、今回の相手は自分達より機動性が高い。しかも、エルザは黒甲冑に搭乗しており、自身の足で走っていない。そのせいで人間では実現不可能な機動とスタミナを発揮していた。


 現状、相手が逃げに徹すれば追いつくのが精一杯で、攻撃にバリエーションを持たせられる余裕が無いのだ。そういったこともあり、いつもの攻撃方法では相性が悪かった。



 ならば個々で行動し、相手の行動範囲を狭めるしかない。


 まずは相手の機動性を無力化していくのが先決。その後、普段の攻撃に戻ればいい。



 そう判断したプルウブルーのアイコンタクトを合図に、二人は左右に分離する。


「いいんですか、二手に分かれて?」


 エルザが氷上を滑るかのように独特な動きで後方へと退きながら尋ねてくる。


 もちろん、挑発的問いかけに加えて、鉄杭を連射してくるのも忘れていなかった。


「いちいちうるさいのよ!」


 プルウブルーはばら撒かれる鉄杭と挑発を弾き返しながら、エルザの元へ向かう。


 と、ここで鉄杭攻撃を受けていなかったオーハイが一足早くエルザへ斬り掛かった。


(行け、オーハイ!)


 オーハイは四人の勇者の中で一番力が強い。


 総合的な戦闘能力ならダーランガッタ、素早さならプルウブルーに分があるが、力比べならオーハイが圧勝する。



 元々勇者の剣技は非常に鋭利で、何でも切り裂くほど。そんな一撃を力が強いオーハイが放てば、甲冑など一溜りもない。絶対切り裂けるのだ。


 そんな強力な一撃がエルザへ向けて繰り出された。


「くらえッ!」


 ほぼ背後。死角といえる角度からエルザへ向けて袈裟斬りに剣が振るわれる。


「アア!?」


 エルザは振るわれた剣をかわそうとするも、間に合わない。


 オーハイの剣はエルザの黒甲冑の肩へと命中。四本ある内の一本を斬り落とした。剣は黒甲冑を斬っても威力が収まらず、床へ激突。巨大なクレーターを作り出す。


「よし、今だ!」


 成り行きを見守っていたプルウブルーがオーハイの声を合図に加速。


 一気にエルザに肉薄し、突きを繰り出す。



 エルザは突きを素早く回避。黒甲冑を駆り、大きく後退する。


「お、おのれぇえええ!」


 斬れた腕の部分を押さえてエルザが吠える。



「あら、さっきまでの余裕はどうしたの?」


 こちらの狙い通りの展開になり、エルザへ挑発し返すプルウブルー。


 普段の戦闘であればオーハイが作り出したクレーターにより、相手が体勢を崩し、そこへ次撃が決まって終結する展開だった。だが黒甲冑が浮いているために、追撃が叶わなかった。



 そこだけは惜しかったが、もう一度同じ状況に持ち込めば今度こそとどめをさせる。


 プルウブルーはそう確信する。


「油断するなプルウブルー。もう一度挟撃だ」

「分かってるわよ」


 プルウブルーはオーハイの言葉に短く返すと、再度分離。エルザを挟み撃ちにしようと左右から迫る。


「アアアアア!」


 叫び声を上げるエルザはまたもやプルウブルーへ向けて鉄杭を連射する。


(フフ、そうせざるを得ないわよね)


 プルウブルーは煩わしそうに鉄杭を弾くも、予想通りの展開に口端を吊り上げる。



 オーハイをけん制しながら足の早い自分の相手をするのは難易度が高い。


 相手からすれば足の早い自分をけん制し、オーハイと接近戦をするしかないのだ。



 しかも、今は腕を一本失っている状況。前回と同じ行動になるのは仕方のないことと言えるだろう。



 このままエルザのけん制を引きつけ、オーハイが接近に成功すれば今度こそ蹴りがつく。


 プルウブルーがそう考えていたその時、急に後頭部に激痛が走った。


「あぐっ!?」


 鉄杭を弾く手が緩み、数本を捌き損ねてしまう。


「ぐっ」


 弾き損ねた鉄杭が腕や肩に突き刺さる。


 慌てて、体勢を立て直し、殺到する鉄杭を何とか弾く。



 プルウブルーが剣を振るう中、後頭部に激痛を見舞わせた原因がエルザの元へと飛んでいくのが視界に入った。



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