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 ◆



「……ふう。だから言ったろ? 俺の方が強いって」


 衝撃波を纏った連撃を撃ち終え、腕を突き出したままミックが呟く。



 その視線の先には崩壊した壁と、原形を留めていない肉塊が混ざり合っていた。


 ミックは体を固定するために壁に打ち込んでいた片腕を抜き、燃え盛る炎の中、片足で立つ。


 服が燃え、ところどころ素肌が露わとなっていたミックの体は顔を含めた全身が赤黒く染まっていた。



 ミックが爆発に巻き込まれても、炎に飲み込まれても無事だった理由。


 それは、バク転中に飲んでいた薬の効果にある。


 サイルミ発射場でたまたま拾った薬。


 薬効は聞いたわけではないが、見て知っていた。


 飲めば肌が赤黒く染まって頑丈になり、打ち出す打撃に衝撃波を纏わせる。


 どう考えても規格外の効果であり、危険な薬物であるのは想像に難くない。


 複数所持していれば色々と実験もできたが、手に入ったのは一錠のみ。


 だからこそ今まで使ってこなかったし、使うつもりもなかったのだ。


 しかし、使わざるを得ない状態まで追い詰められてしまった。


 結果、覚悟を決めての服用であったが、効果は絶大だった。



 薬は問題なく作用し、ダーランガッタを欺いて動力炉を破壊後、爆発と同時に期待通りの効果を発揮してくれた。


 だが、爆発の威力は凄まじく、片足しかないミックは逃げる事叶わず、その場で耐えるしかなかった。


 爆発が収まった後は、壁に片腕を突き刺して体を固定。


 後は機会を窺い、じっと待った。


 正直、ダーランガッタが扉を開けて中を確認するかどうかは賭けだった。


 それでも薬が切れるギリギリまでは粘るつもりでいた。


 もしダーランガッタが来なくても、炎の中で身を潜めていればその間に兵士達も避難するだろうし、こちらも逃げ切る可能性を高めることが出来ると計算してのことだった。



 そして狙い通りにダーランガッタが扉を開けて、室内の様子を窺ってきた。


 一か八かの賭けに勝利したのだ。



 炎の幕に身を潜め、ダーランガッタへ【渾身突き】を放った後はひたすら連射。


 避けきれないよう、隙間を埋めるように衝撃波を撃ち込んだ、というわけだった。



「ゴホッゴホッ、いくら燃えなくなっても、息苦しいのは改善できなかったな……。もう少し入ってくるのが遅かったら呼吸困難でポックリ逝くところだったぜ」


 ミックは煙にむせながらバク転を繰り返し、一気に出入口まで移動する。



 扉があった場所を通り抜けると、通路へと出た。


 通路へと出ると同時に錠剤の効果が切れたのか、肌の色が元通りとなる。



 ミックは壁の破片と混ざり合っているダーランガッタだった物に一瞥をくれると、懐から義肢蟲が入った自動注入器を取り出し、失った脚の側に打ち込んた。


「煮えてないといいんだがな……」


 ――義肢蟲。


 失った部位へと擬態し、宿主の寿命を餌に共生関係を構築する寄生生物だ。



 今回失ったのは膝から下の足一本。さすがに瞬時に足が生えてくる事は無いが、止血代わりにはなる。


 荒い治療を済ませたミックは周囲を見渡す。



 通路には爆発に巻き込まれて死んだ兵士が何人か倒れていた。


「お、いいもん着てるな。ちょっと借りるぜ」


 ミックは死亡している兵士の一人に近づくと、おもむろに服をはぎとった。


 そして自身の焦げた服を脱ぎ捨て、奪った服を着て兵士へと変装する。



 次にダーランガッタの愛剣を拾うと、杖代わりにする。



「さあて……、お次は操舵室だったな……。急ぐか……」


 ミックは視界が霞むのを頭を振って阻止し、背筋を伸ばす。


 剣をコツリコツリと地面へ打ち付けつつ、前へと進む。


 ボロボロになったミックが見つめる視線の先は、次の目的地である操舵室。


 その行き先はどこまでも遠く。


 その足取りはどこまでも重い。



 ◆



 何の前触れもなく、突然激しい揺れが室内を襲う。


「うお!?」

「なっ!?」



 俺もハイデラも戦いどころではなくなり、姿勢を保つことに注力する。


 ここで姿勢を崩して倒れてしまえば、完全な隙を相手に晒すことになってしまう。そういうわけもあって二人とも必死で踏ん張る。



 しかし、必死に耐える俺たちを嘲笑うかのように縦揺れの激しさが増していく。


 誰かが空中要塞をコップのように握って縦に揺すっているかのような凄まじい振動。



 こんな、壊れて反復運動を繰り返すフリーホール系絶叫マシンのような状況が起きる理由に心当たりがな……いこともない。


 凄まじい縦揺れが起こる理由。それはレガシーかミックが何かしらの破壊に成功したのではないだろうか。そんな俺の予想を裏付けるように、焦った声の艦内放送が室内に響く。



『……く、繰り返す! 機関室大破! 機関室大破! 動力炉、ならびにコアが破壊された模様! クソッ、計器類が軒並み異常値を示してやがる!』


「なんだとぉおおおおおッ!?」


「やったぜ」


 驚き叫ぶハイデラを横目に、ガッツポーズを取る俺。



 放送の内容を聞く限り、ミックがコアの破壊に成功したのだろう。


 しめしめ、と俺が喜んでいる間も放送は続いていた。


『現在イゴスは一時的に操縦不能状態に陥っている! いずれ制御は取り戻すだろうが、問題は他にある! 魔力の供給がストップした現状では要塞の滞空状態を維持できないんだ! こ、これを聞いてる奴がいたらすぐに逃げろ……!』


 放送の声は切羽詰ったもので、一刻の猶予もないといった感じが伝わってくる。


「……こいつは何を言っている。逃げる……だと? 何を言っているんだ! そんなことをこの私が許すとでも思っているのか!?」


 ハイデラは動力炉が破壊された事実を受け入れられないのか、返事を返すことができない放送相手に激高する。そして、感情が高ぶった副作用かハイデラはまた血を吐いていた。


 だが、その目はギラつき、隙は微塵も見せない。なんとも勇ましい限りである。


「おいおい、放送相手に怒鳴ってもしょうがないぞ?」


 と、俺がハイデラをたしなめている間に、放送の方はどんどんと切迫したものへと変化していく。



『聞こえるか! すぐに逃げるんだ! 「――おい、いつまでマイクに話してるんだ、さっさと避難するぞ!! 早く来いって!――」わ、わかった! とにかく死にたくなかったら、さっさと逃げろ! 皆、幸運を祈ってる!』


 放送は突然プツッという切断音と共に無音になる。なんか、放送中に別の声が割って入っていたし、相当切羽詰ってる感が半端ない。


 これは……、もしかしなくてもかなりやばそうだ。



 俺も喜んで浮かれている場合ではないかもしれない。


 ここはさっさと用事を済ませた方が得策のような気がする。



「逃げている暇があったらSHBの一発でも発射しろ! お前たちの命の代わりなぞ幾らでもいるんだ! だが、イゴスとSHBは別だ! そんなことも分からんのか!? なぜ逃げようとする! 逃げる前にやる事があるだろうがぁああああああっ!!!」


 と、俺の済ませたい用事に欠かせない人物であるハイデラが絶叫する。


 そのまま頭の血管がプッツリいってくれれば、こっちは楽に事が進むのだが案外脳の方は丈夫なようで、そういった気配は無い。


 その代わりと言ってはなんだが、相変わらず血を吐いていた。特に動き回っているわけでもないのに血を吐いているところを見ると、能力向上の副作用より、病の方を疑った方がいいのかもしれない。



「多分、あんたの人望が予想以上に無かったんだと思うよ?」


 放送を聞いている限り、皆、我先にと逃げ出している感じだった。


 残念ながら最期の一人になるまで、残って使命をやり遂げるといった雰囲気ではなかった。



 まあ、それもこれもハイデラの人望が無かったせいだろう、と思った親切な俺は本人へそう伝えた。



「なんだとぉおおおおおおおおッッ!? 大体、機関室を破壊したのは貴様の仲間だろうが!」


「ごもっとも」


 逆切れ、とまではいかないが、ハイデラの怒りの矛先がこちらへと向けられる。


「絶対に! 絶対に許さんぞぉおおおッッッ!!!」


 身を震わせ、激しく咆哮するハイデラ。


「お、落ち着けよ」


 ハイデラの迫力に気圧された俺は軽くびびって短い言葉を発することしか出来なかった。


 口元が血で濡れた状態の切れた爺、まじ恐い。



 ◆



「ちょこまかと……」


 プルウブルーは凄まじい速度で動き回る黒甲冑を前に、呟くように愚痴る。




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