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俺は進行を妨害してきたオーハイとブルウブルーを振り切り、扉を開けて中へと飛び込む。
すると、扉の側に立っていた兵士と目があった。
「誰だ!?」
扉を開けて入ってきた男がお友達でないことに気づいた兵士が声を上げる。
俺は通行証代わりに鉄杭を投擲。投げつけた鉄杭がスコンと小気味良い音を立てて兵士の額へと突き刺さる。バタリと兵士が倒れる音が響くと同時に、通路上を巡回していた他の兵士たちが一斉にこちらを向いた。
その数、三人。
(扉を開ければすぐ到着というわけにはいかないか……)
こちらへと駆けて来る兵士を見ながらドスを握る俺。
しかし、たった三人。
ホールに居た男女のような妙な圧も感じないし、これなら楽に対処できそうだ。
「侵入者だ! 殺せ!」
一番先頭にいた兵士が後方へ呼びかけながら突進してくる。
「ハッ」
俺は【縮地】で通り過ぎ様に【居合い術】を発動し、先頭を走る兵士を斬る。
「ぁ……」
腹を斬られ、盛大に血を撒き散らしながら地面へ倒れる兵士。
「え」
「あ?」
先頭の兵士が倒れ、驚愕の表情で棒立ちとなる残りの二人。
どうやらこちらの居合いが見えなかったせいで驚いているようだ。
そんな隙を見逃す手はないわけで。
「よっ」
すかさず両手を使って鉄杭を左右に投擲
「ウグッ」
「グアッ!」
首と額に鉄杭が突き刺さり、もんどりうって倒れる兵士二人。
終了だ。
「よし、んじゃ行くか」
敵を退け、通路の終着点へと到着する。
そこには一際豪華で大きな扉があった。
「お、終点っぽいな」
見取り図と現在地の位置関係。そして眼前の大きな扉を見る限り、この先がボスのハイデラさんがいる司令室だろうと当たりをつける。
(ここは変装しとくか)
わざわざ真っ向勝負をする必要も無いと判断した俺は、ついさっき見かけた幹部っぽい男であるオーハイへ【変装】することにする。
俺はオーハイの姿を思い浮かべ、【変装】スキルを発動。するとボフンという音と共に俺の体を白煙が包む。白煙が晴れる頃にはちょっと高そうな服に身を包んだオーハイの出来上がりだ。
この格好で行けば相手も油断するだろうし、隙も見つけ易いはず。
「さて、行きますかね」
俺は軽く咳払いをして声の調子を整えると、思い切りよく扉を開いた。
そして内部も確認せずに声を張る。
「やられました! 侵入者です! すぐに避難してくださいッ!」
と、適当なことを言いつつ、周囲を見回す。
中は程よい広さの何もない空間となっていた。
奥に目をやれば、壁際近くに会議に使いそうな巨大な机が見える。
そして、その机の後ろには豪華な椅子があり、その奥には何やら紋章が描かれた旗が飾ってある。
当然、豪華な椅子にはそれに見合う貫禄を備えた爺が腰掛けていた。
その外見を確認すると、事前に見せられた似顔絵と一致する。
眼前の男がターゲットのハイデラで間違いない。
「外傷を負っているようには見えないが、どこか傷めたのか?」
ハイデラがオーハイに変装した俺を見て、怪訝な表情をする。
実際、見た目はそっくりになっているとは思うが、傷などの偽装はしていないので元気そうに見えるのも仕方がないだろう。と、いうわけで適当なことをでっち上げ、あいつに背を向けて頂くか、背後に近づきたいところである。
「はい、肋骨を……、多分折れていると思います。それより避難を!」
胸を押さえて苦しそうな声と表情を作り、ハイデラに移動を促す。
これくらいやっておけば、多少怪しまれても動きをみせるはず、という俺の予想通りハイデラが椅子から立ち上がって、こちらの様子を窺いはじめる。
「オーハイは、戦争で妻子を失ってから片言しか話さん。例外はプルウブルーが側にいるときだけだ。残念ながらこの私が相手のときですら、一人だとボソボソと小声で話すのがやっとだ。変装するならば相手のことはしっかりと調べておくべきだったな」
ハイデラは俺の方を睨むと、不敵な笑みを浮かべてみせた。
(くそっ、バレたか……)
残念ながらこちらの下調べが不足していたせいで、あっさりと変装を見破られてしまう。
しかし、いくら変装を見破られようとも一対一という条件下なら、こちらが優勢なのは変わりない。相手は爺一人。倒せないわけがないのだ。
「なら、こいつでどうだ!」
俺はそう叫びつつ【火遁の術】を発動。途端、俺を中心に大量の白煙が噴き出し、周囲を包む。室内は一気に白一色に染まり、濃霧が発生したかのような状態になった。
といってもスキル使用者の俺は白煙の影響を受けず、相手の位置は丸見えの状態。
ここで一気に勝負をつける。俺は鉄杭を抜き出し、投擲しようと腕を振りかぶった。
「無駄だ!」
が、ここでハイデラが声を張りつつ、片手を突き出す。
すると辺りに突風が吹き荒れ、俺が作り出した煙幕を吹き飛ばした。
しかも、突風のせいでこちらの態勢が崩れ、投擲に失敗してしまう。
「……さすが魔法使いといったところか」
まさか、煙幕まで防がれてしまうとは、という驚きもあったが相手は魔法使い。
そう考えれば、対処されても不思議ではないのかもしれない。
これ以上はオーハイに変装していても無駄だと判断した俺は【変装】スキルを途中で解除し、元の姿へと戻る。
「フッ、それはいつの情報だ? 残念ながら私は魔法使いではない。錬金術師だ」
「おいおい、グレードが上がってるんですけど……」
突然のハイデラの告白にうろたえる俺。




