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 ◆



 なぜかこちらへ飛んでくるエルザのフレンドリーファイヤを凌ぎ、偽エルザ達を退けた俺はホール最奥にある扉を開けた。



 すると今度は通路もなく、中規模サイズのホールにそのまま直結していた。


 現在地から見ての最奥、ホールの突き当たりには扉があった。その前に二人の男女が立っているのが見える。


(あの先が怪しいな……)


 見取り図から逆算すると、そろそろ俺の目指す場所が近づいてきているはずなのだ。


「どうやら俺の目的地はあの扉の向こうみたいだな」


 扉を守る男女は見た目だけなら強そうな雰囲気だが、実際の実力は分からない。



 服装が高級そうな感じから察するに多分幹部っぽい。


 幹部っぽい男女が門番をしていることから考えても、扉を抜けた先がボスの部屋の可能性が高そうだ。


「そうですか、私の目的地は少し手前のようです。具体的には目の前に見える人物がそうですね……」


 エルザは探し求めたおもちゃを目の前にした子供のように目を爛々と輝かせていた。



 そんな表情を見ていると、見つめられる門番の男女に少し同情してしまう。


 一体何をやったらこんなにエルザに執着されるのだろうか。



「相手は二人だぞ? ひとりで大丈夫か?」


 などと、つい質問してしまったが俺はこの戦闘に参加するつもりはない。


 エルザの目的があの二人なら手出しをするなと言われそうだし、共闘の約束は後ろの部屋で終了したばかりだ。つまり俺が何かしてやる必然性はない。



 だが、エルザが負けると先に進んだ俺が背後から襲われる可能性が出てくる。


 いや…………、よくよく考えるとエルザが勝っても先に進んだ俺が背後から襲われる可能性がある。そうなってくると相討ちになってくれるのが、一番ベストかもしれない……。



 幹部っぽいのを相手に二対一での戦闘。エルザは善戦できるのだろうか。


 まあ、勝とうが負けようが知ったことではないが、ここで戦う連中が戦闘で身動きが取れない間に俺もターゲットを倒してしまうのが理想だろう。



「心配してくれるのですか? この私を?」


 門番の男女に視線をロックオンしたままエルザが聞いてくる。


「いや、会話の流れで聞いただけだ。で、俺が移動する間、あいつらを引きつけてくれるのか?」

「なぜそこまでする必要があるのです? 行きたければ自分で何とかしてください」


 俺の問いかけに、至極当然な回答をエルザから頂く。



 だが、エルザは今から眼前の二人と戦うはず。そうなれば自動的に引きつけ役になってくれるだろう。


 その間に俺は横をすり抜けて奥の扉を目指せばいい。


「厳しいねえ。まあ、休戦はここまでってことか」

「そうなりますね。貴方の無事を祈っていますよ」


 エルザの言葉を聞き、また心にもないことを言うもんだ、と思ってしまう。


「お前が? 俺の無事を?」

「当然です。なぜなら貴方を殺すのは私でなくてはなりませんから」


「ああ、そういう感じね」


 こいつが俺の無事を祈る理由が判明し、妙に納得する。


「命乞いをしても無駄ですよ? 私が心を込めて無残に切り刻んであげますからね」


 口端が目尻につきそうな程歪めた笑顔で俺の無事を祈ってくれるエルザ。


 これほど嬉しいこともない、のだろうか?



 と、俺たちが扉の側で話し込んでいると、ホールの奥から男女が歩み寄って来るのが見えた。



 どうやら、ブツブツと愚痴りながらこちらへ近づいている様子。


 あまり戦意ややる気があるようには見えない。


 特に女の方は非常にだるそうな顔でこちらへ面倒臭そうに歩いてきている。



「ちょっとオーハイ、なんで侵入者が無傷で来てるのよ。警備は何やってるわけ」

「……出来損ないが百匹やられたということだろう。プルウブルー、もう少しやる気を出せ。そのような態度では、また叱られるぞ」


 女の愚痴に男が端的に答える。


 どうやら赤髪の男の方がオーハイ、青髪の女の方がプルウブルーというらしい。


「だから、嫌だったのよ。量産できるならダーランガッタとかを素体に使えばいいのに、なんであんな気味の悪い笑い方する女を大量に作るわけ?」

「……適正があった素体があれだけだからだ。残念な話だ」


 二人の愚痴トークからエルザの複製が作られた理由がなんとなく判明する。


 そりゃあ、他に適正のある人間がいれば、わざわざエルザで作るはずないよね、と心の底から納得する俺。


「ぷっ、気味の悪い女って言われてるぞ?」


 とても親切な俺は、隣に立つエルザに聞こえた内容を報告する。


「また、先に死にたくなってしまう症状が出ましたか? 仕方ないので袈裟斬りという特効薬を処方するしかありませんね」


 定番ネタのように俺への威嚇をしてくるエルザ。


 このやりとりもこの数分で何度したか分からない。さすがにちょっと慣れてきた感がある。しかし、こんなことをしていていいのだろうか。


 こいつの目標は目の前にいるというのに俺に構っていていいのか、と視線で問いかけると、ぐぬぬという表情で逡巡するエルザ。ちょっと面白い。でもこれ以上余計な事を言うとややこしいことになりそうなので、ここは黙っておこうと思う。



「はぁ……、ここに立ってるのも飽きたんだけど。ねぇ、あいつら殺したら終わりでしょ? さっさと片付けよ?」

「……仕事は素早く片付けるべきだな」


 プルウブルーとオーハイは結論を出したらしく、こちらへ進む速度を少し上げた。


 それに合わせて、俺はエルザに声をかける。


「よし、行くんだ、気味の悪い女! 奴らを刀の錆にしてしまえ!」

「その辺にしておかないと、本当にどうなっても知りませんよ」


 気合が入るようにと発破をかけたら、敵意がこちらに向く不思議。



「面倒ね。さっさとやるよ」

「……分かった」


 プルウブルーとオーハイの顔に真剣味が増し、剣を抜く。飽和していた空気が一気に引き締まり、鋭い殺気がこちらへと注がれた。


 どうやら向こうは気持ちを切り替え、殺る気を出したようだ。


「じゃあ、俺はこれで。あばよ」


 状況を察した俺はエルザに別れを告げると、走り出す。


「覚えておいて下さい。次に私と再会した時が、貴方に終焉が訪れる時です」


 俺が走るのに合わせて、エルザも眼前の男女へ向けて走り出す。


「まあ、そういうわけで俺はこれで失礼するわ。あんたらの相手はあいつがするそうだ。悪いね」


 俺はプルウブルーとオーハイの手前に差し掛かった辺りで二人に声をかけ、横を抜けようと【疾駆】を発動し、走る速度を上げた。



「バカなの? 通すわけないでしょ」

「フッ!」


 二人が俺へ一気に詰め寄り、剣を振るう。


 繰り出された二人の剣は一見無造作にも見える振り方だったが、二つの攻撃がそれぞれを補い合うかのような軌道を描き、こちらへ襲い掛かる。


「ととっ、やべぇ……」


 俺は二人の攻撃を紙一重のところでかわすことに成功する。しかし、バランスを崩し、つまずきそうになる。なんとかこらえて立ち直り、再度走り出そうとした瞬間、プルウブルーの次撃が迫りつつあった。


 と、そこにプルウブルー目掛けて鉄杭が大量に飛来する。彼女は慌てて標的を変え、鉄杭を叩き落す。


 そこにオーハイも加わる形となる。



 鉄杭の雨を降らせる先には義手を構えたエルザの姿があった。


 プルウブルーとオーハイが鉄杭の雨を捌ききる頃には俺は体勢を立て直し、離脱に成功。


 二人から距離を離し、目的の扉へと迫っていた。


「アッハ! 手出ししないでもらいたいですねぇ。それは私の獲物なんですから!」

「攻撃して来るんだからしょうがないだろ? しっかり引きつけろよ」


 俺は逃げながら、大声でエルザに抗議する。


 抗議しながら、プルウブルーたちへ向けて鉄杭を投げるのも忘れない。


「言ってくれますねぇッ!」


 俺が鉄杭を投擲するのにあわせて、エルザも再び鉄杭を連射する。


 鉄杭の挟撃がプルウブルーとオーハイを襲う。


「チッ、こざかしい真似してっ!」


 苛立ちの声をあげながらも正確に鉄杭を落とし続けるプルウブルー。


「……いかん、抜けられたぞ」


 そんな中、俺の方を目で追っていたオーハイの声が響く。


「あばよ」


 その頃俺はホールの最奥へと到着し、扉を開けて中へと進むところだった。



 ◆



 侵入者の男がホールを抜け、司令室へと続く通路へと進んでしまう。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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