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(終わりだな……)


 決着を予感したレガシーは魔法剣の刃を引き戻しつつ、駆ける。



 相手の今の状態ならば、接近してもまともな反撃はできない。


 それならば間合いを詰め、剣が対象に届くまでの時間を短縮すべき。


 そうすれば相手はこちらの攻撃に対応することが難しくなる。



 レガシーは一気に間合いを狭め、剣を振りかぶった。


「はああああああっ!」


 そして、気合の一声と共に連続突きを行う。


 刃の伸長と収縮を繰り返し、槍で突きを繰り出すかのような連撃を男に見舞う。



「う、うわあああああああっ」


 レガシーの攻撃を前に、戦意を喪失していた男は構えも何もなく、ただ絶叫する。目を閉じていたせいで、まともにかわすこともできていない。


 男は両腕を顔の前で交差した状態で攻撃を受け、後退りながら転ぶようにして床に尻餅をついた。



(クソッ、まさかこけるとは……)


 相手の予想外の動作にレガシーの突きは命中するも、またもや急所を捉えそこねてしまう。


 体中を浅く突かれて怯えきった男は床に尻を付けたまま虫が這うように両手と両足を懸命に動かし、後ろへと下がり続けた。



 そんな移動方法をとれるということは、片手剣はすでに放り出していた、ということだ。


 無手となった男は怯えながらも必死に後方へ下がっていたが、一定距離を進んだところで背が壁に衝突。それ以上の移動が不可能となる。



 だが、男は壁に衝突したことに気付いていなかった。


 それ以上後方に下がれない理由が分からずパニックになりつつも、必死に手足を動かし後ろへ下がろうともがく。


「ひ、ひいぃぃぃいいいい!!!」


 男は、こちらが何かしているせいで後ろに下がれないに違いないという視線をレガシーへ向けながら、必死で謎の力に抗おうと壁を突き破る勢いで手足を動かしていた。


「勝負あったな。悪いがこれで終わりだ」


 レガシーはそう言いながら魔法剣を伸長させ、突きを放つ。


「ひぎゃああぁッ!?」


 が、その瞬間、男は何を思ったか前に倒れこむようにして立ち上がった。


 男からすれば混乱状態で訳も分からず動いただけだったのだろう。



 だが、レガシーからすれば意表を突く形での回避行動となってしまう。


 そのため、伸長させた魔法剣の刃が男の体側を通り過ぎてしまう。



 軌道を操作しようとするも、手前に刃を向ければ自傷の恐れがある。そんな迷いを感じたため、一瞬操作が遅れ、魔法剣が壁に突き刺さってしまった。


「クソッ!」


 レガシーが止む無く剣を引き戻そうとする中、男は通路の角を曲がり、格納庫の方へ向けて走り出した。



「う、うわあああああああああああああッッッ!!!」


 大声で悲鳴を上げながらの逃走。全力疾走であった。


「あ。おい……」


 あまりの展開に呆気にとられたレガシーはしばし呆然としてしまう。


 こんな敵地のど真ん中。



 兵が集う要塞内。向かう自分も迎え撃つ相手も覚悟を決めた者のみ。


 そんな状況で、まさかここまで怯えて逃げる相手と戦うとは思ってもみなかったのだ。



 あまりに予想外。ここまでの覚悟のない腰抜けが幹部とは。レガシーは呆れ返り、蔑みの視線を男の背中に送ってしまう。



「だ、誰かぁぁぁああああっ!!! 誰かいないのか! こっちだあああっ!」


 男は逃げながら声を張り、助けを呼ぶ。


 通路には向かい合うようにして扉があり、それが等間隔で突き当りまで続いていた。


 男が呼びかけながら扉の前を通過するたびに、扉が開き、兵士が次から次へと出てくる。



 閑散としていた巨大な通路はあっという間に兵士たちで溢れ返り、二本の乱れた行列が完成する。といっても通路が巨大なせいで列と列の間には空間があり、逃げる男の後ろ姿が見えなくなることは無かった。


 二本の行列の先に悲鳴を上げながら逃げる男。行列となった兵士たちの視線は自然と声を上げて全力疾走する男へと注がれていた。


 そんな眼前の光景がレガシーの目には観衆に見守られて走るランナーのように見えてしまう。


「おいおい……」


 レガシーは眼前で兵士が溢れていく状況を見て、ため息を漏らす。


 これではここまで頑張って見つからないようにしてきたのが水の泡だ。


 大して強くない相手だったが余計な事をやってくれたものだ、と眉間に皺を寄せる。


「僕だ、パーシーだ! 早く誰か来い! 来いって!」


 男は声を枯らして叫びながら通路を走り続ける。どうやら男の名前はパーシーというらしかった。


 パーシーは逃げることに専念しすぎて何も確認せずに扉の前を通り過ぎているせいで、兵士が駆けつけていることにも気づいていない。


 列を成した兵士たちはパーシーが走り去るのを目で追い、立ち止まっていた。


 兵士たちからすれば、出てきたはいいもののそれ以上の指示がないために何をすればいいのか分からないのだろう。だからパーシーの方を見て佇んでしまう。


 しかも兵士たちはパーシーの方を見ているため、レガシーの存在に気付いていない。何の説明も受けていないため、完全に状況を把握していない状態で棒立ちとなっていた。


 そんな中、パーシーはなんとか通路の突き当たりにある巨大な扉の前に辿り着く。



「し、侵入者を発見した! 迎え撃て! ぼ、僕はバードゥに知らせてくる!」


 パーシーは扉を開きながらレガシーの方へと振り返って指さすと、兵士たちに攻撃命令を下す。


 各々の扉から出た兵士たちはパーシーの指差す方向を視線で追い、レガシーの方へ向けて順に振りかえっていく。



「させるかよ。ハアアアアアアアアアアアアッ!」


 振り返る兵士たちを前に、レガシーは力を解放する。


 顔にある交差するように描かれた角の刺青が光を帯び実体化。それらは紐をほどくように浮き上がり、輝く二本の角となって天を突く。



 途端、全身に魔力が溢れ出すのを感じる。


「ッ!?」


 レガシーの変化に気づいたパーシーが手を止め、驚愕の表情のまま固まる。


 扉を開けようとしていた手が止まり、目を見開いてレガシーを凝視していた。


「フレイムゥゥゥゥアロォオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


 レガシーは眼前の大行列へ向けて手をかざし、魔法名を唱えた。


 途端、手のひらから一本の炎の矢が飛び出す。


 矢と呼ぶには巨大過ぎるそれは通路の全域を焼き尽くしながらパーシーへ向けて飛んでいく。真横に落ちる炎の滝と呼ぶに相応しいほど強烈な火炎は、凄まじい勢いで全てを焼き尽くす。


 当然、レガシーとパーシーの間にいたもの全てが消し炭となっていく。


「……ぁ?」


 パーシーの呆けた声が聞こえた次の瞬間、炎の矢が突き当りの扉に激突し、全てをかき消す爆音が轟く。



 レガシーの視界全域が朱色に輝き、何一つ見えなくなる。


 しばらくして炎がおさまると、真っ黒に焦げた通路が姿を現した。


「俺にローストは無理だな……」


 レガシーは力の解放を解除しながらひとり呟く。


 真っ黒な通路は今もなお白煙を燻らせ、朝靄に包まれた薄暗いトンネルを連想させた。



 ◆



 なぜかこちらへ飛んでくるエルザのフレンドリーファイヤを凌ぎ、偽エルザ達を退けた俺はホール最奥にある扉を開けた。



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