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 ◆



「後は突き当りを曲がって真っ直ぐ進むだけだな……」


 魔法剣を使って外壁を進むという荒技を利用し、目的地までのショートカットに成功したレガシーの眼前には巨大な通路があった。



 SHB格納庫は空中要塞の最下層にあり、これ以上下には何も無い。


 後は道なりに進むだけで、目的地に到着する。



 視界一杯に収まった巨大な通路は数メートル進んだ先で直角に曲がっており、先は見えない。だが、見取り図の通りなら、その先にはSHBの格納庫へ通じる扉があるはずだった。



(ここからは慎重にいかないとな……)


 意を決し一歩踏み出そうとした瞬間、曲り角の先から一人の男が現れた。


「……あ」


 男はレガシーに気づいたようで、小さく驚きの声を上げながら立ち止まる。



 こちらを見て立ち止まった男の服装は一般の兵とは違う高級な物に見えたが、その全身からは隠し切れないほどの頼りなさが溢れ出していた。


 どう見ても戦士として備わっている気迫は一般の兵より弱々しいものだった。



 外見から幹部と判断したレガシーは相手の出方を窺おうと様子を見る。


「お、お前が侵入者か」


 怯える様に言葉を詰まらせながらに出た男の第一声。



 分かりきった質問だった。


 見覚えのない人間がいれば、それは侵入者と見て間違いない。


 全員の顔を把握していない可能性もあるが、レガシーのような特徴的な外見の人物を前に言う台詞ではないだろう。


「そうだとしたら?」


 相手の余裕のなさを見て優位を感じたせいか、レガシーの心から余分な緊張が消えていく。


 適当に返事を返しつつ男の装備へ視線を向け、どういった戦闘をするタイプなのか予測を立てていく。



 見たところ、防具は最低限、腰には片手剣が一本。


 限界まで重量を落としているように見えることから、速度を重視して戦うタイプだと断定する。



 ということは重量のある武器を扱うスキルが主軸の戦士系ではない。


 速度を重視する職業といえばサムライだが、相手の装備は片手剣であり刀ではないため、それもあり得ない。狩人も素早さが高いといえるが、得意武器は短刀や弓だ。



 となると魔法戦士の可能性が濃厚。と、事前情報がなければ判断していただろう。


 しかし、ミックから聞いた話から考えると、相手の職業は勇者と見るべき。


 男の頼りない姿からは勇者という言葉から連想される人物像とは程遠い雰囲気しか感じられない。


 だが、そんな貧弱に見える男が単独行動を許されているという事実が、男を勇者だと裏付けているとも言える。



 勇者の能力については噂しか聞いたことが無かったが、ミックによれば剣によって何でも切り裂く力に特化しているらしい。


 残念ながらじっくりと詳細を聞く時間はなかったが、かなり厄介な能力だ。


 レガシーが思考に耽っていると、眼前の男が口を開く。


「ここで死んでもらう。か、覚悟しろ」


 男は言葉を詰まらせながら剣を引き抜こうとするも、焦っているせいか、つっかえて中々鞘から抜けない。


 多分、腕の動きがぎこちないせいで真っ直ぐ引けていないのだろう。そのため、鞘に引っかかってうまく抜けないのだ。



 レガシーがそんな分析を終える頃、男はやっとのことで剣を抜いてみせる。


 だが、今度は勢い余って取り落としそうになり、あっと声を上げる。


「お前にできるのか?」


 相手のあまりにお粗末な行動を見て、つい問い返してしまう。



 どうにも戦いに慣れていない雰囲気が漂ってくる。


 が、相手は勇者。油断は禁物だろう。



「なめるなよ……、僕だってやれるんだ。あんな奴に頼らなくたって僕一人で何とかなるんだ……」


「こっちも急いでるんだ。早速いかせてもらうぞ!」


 レガシーはうわ言のように呟いて動かない男へ向けて飛び出す。


 一気に距離を詰め、相手の剣の間合いの外から魔法剣を伸ばして突きを放つ。



「う、うわっ」


 男はレガシーの攻撃に気づくのが遅れ、慌てて身をひねった。


 突きをかわすことにはなんとか成功していたが、完全に体勢が崩れ、隙だらけの状態となる。



 そんな隙を見逃す手はない。


「はあっ!」


 レガシーは魔法剣を伸長させたまま軌道を変更。


 相手の胴体目がけて伸ばした刃を曲げる。



「く、くそっ」



 男は焦った様子で剣を振って迫る魔法剣を防御。


 刃を弾きつつ、前転。何とか距離を開いて仕切りなおそうとした。



 だが、そんな状況を見逃すレガシーではない。


「ふん!」


 弾かれた魔法剣を更に操り、転がる男目がけて刃の先端を落とす。


「う、うわああ!?」


 かわしたと思った魔法剣が再度迫り、驚く男。


 驚いた分、回避が遅れ攻撃するのに丁度良い隙が発生する。


 魔法剣の刃が鋭い勢いのままに男の腹を掠めた。


 唸る刃が男の服と体表を裂き、鮮血が小さく飛び散る。


「ぎゃっ!?」


 小さく悲鳴を上げた男は、腹を押さえながら転げ回る様にして立ち上がる。


 その顔は恐怖に染まり、膝が震え、足元がおぼつかない様子。


 だが、レガシーの放った一撃は当たりが弱く、足に来る程の一撃ではなかった。

 相手に軽傷を負わせた程度のはずだ。


 それなのに男の顔はまるで命に関わる重傷でも負ったかのように真っ青に変色していた。


 ひと目で分かるほど明らかな戦意の喪失。完全に心が折れているのが手に取るように分かる。


(終わりだな……)


 決着を予感したレガシーは魔法剣の刃を引き戻しつつ、駆ける。



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