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 エルザが俺の意図を察して寸前のところでかわしてくれたお陰で、鉄杭は残念なことに偽エルザに命中。非常に惜し……、いや、完璧なコンビネーションだった。



「っと……。いやあ、悪い悪い」


 危うくエルザに当たってしまいそうになったことに謝罪する。


 だが、こちらもそれほど故意ではなかった。ちゃんと後ろにいる偽エルザに向けて投げつけたのだ。


 エルザの体が透過できるなら何の問題もなく命中していたわけだし、こちらに否はない。


 なにせ、こういった状況での誤射は日常茶飯事というのは、つい先ほど俺も理解させられたばかりだ。


「ッ! どういうつもりですか?」


「信じてたぜ。お前なら俺の意図を察してくれるって。ナイスコンビネーション!」


 エルザの抗議に笑顔でサムズアップする俺。


 だが、エルザは俺の言葉に頬を引きつらせ、眉を吊り上げる。


「何がコンビネーションですか……。明らかに狙いましたよね?」


 エルザはそう言いながら抜刀する。


 視線をこちらに向けたまま左右に刀を振り、迫ってきた偽エルザ達を難なく斬り伏せてしまう。


「そんなわけないだろ? でも、そう感じたのなら謝るよ。悪かったな。やっぱりお前の反応速度じゃあ、ちょっと難しいコンビネーションだったかもしれないな……。いやあ、悪い。今度はのろまなお前でも簡単に合わせられる攻撃にするから」


 俺は視線をエルザに向けたまま両手で鉄杭を左右に投擲。


 斬りかかろうとしていた偽エルザの額に鉄杭が命中。バタバタと倒れる偽エルザ。



 偽者たちの死体が折り重なる中、俺たちはしばし無言で睨み合う。


 するとエルザが先に視線を逸らし、ふっと苦笑した。


「全く貴方という人は、本当にどうしようもない人ですねぇ。仕方ないですからこれで許してあげますよ」


 と言うと同時に、エルザが義手を俺に向ける。


 義手の手のひらに空いた穴から大量の鉄杭がばら撒かれ、俺に殺到する。



 俺は【縮地】を発動。迫る鉄杭の雨を避け、お返しとばかりに鉄杭を投擲。


 更にドスを抜刀し【縮地】で移動する中、偽エルザ達を通り抜けざまに切り刻んでいく。



【縮地】が終了すると同時にドスを鞘へ収め、エルザの方へと振り向く。


 すると俺が投擲した鉄杭は見事にかわされ、エルザの背後にいた偽者の胸に突き刺さっているのが確認できた。



「おっと。さすがこの程度で許してくれるなんて、器がでかいな。俺なんて根に持って一生恨むわ」


「……やってくれますね」



「おいおい、器の大きさはどうしたんだよ?」


「さあ? 縮んだんじゃないですかねッ!」


 今度はエルザが【縮地】を発動。俺へ向けて一気に詰め寄ってくる。


 そして【縮地】とセットで発動されたのは【居合い術】。



 エルザが抜き放った蛇腹剣ならぬ蛇腹刀が、伸長しながら俺へと襲い掛かる。どうやら器は縮んだらしいが刃は伸びたようだ。


「ッ!?」


 俺は咄嗟に【剣檄】を発動。片手剣で迫る蛇腹刀を弾いた。


「おー、おー、小さい小さい。小者臭がプンプンするぜ」


 迫る刀を弾いてやり過ごした俺は体の動きに逆らわず、回転するようにして鉄杭を後方に投擲。鉄杭が偽エルザの額に突き刺さるのを確認しながら、かわした刃が引き戻されていくのを目で追う。刃は戻り際に、ついでと言わんばかりに側にいた偽エルザを斬っていた。


「誰が小者ですって? 鏡を見たほうがいいんじゃないですかね。フレイムアローッ!」


 納刀したエルザが、全方位へ向けて魔法を放つ。


 放射状に放たれた炎の矢が迫り来る偽者たちを焼き払う。当然、そのターゲットのひとつに俺も含まれており、転がるようにしてかわす。



 俺は何事も無かったかのように起き上がると同時に最適な標的を探す。


(くそっ、丁度いい配置の偽者はどこだ。誤射しても言い訳がたつ配置のやつは……)


 複数の鉄杭を両手に握りこみつつ、獲物を求めて周囲を見渡す。


 しかし、丁度いい個体が側にいない。止む無く普通に仕留めやすい個体へ鉄杭を投擲し、息の根を止める。


「アーーーッハッハッハッ! フレイムアローッ!!!」


 エルザは俺が手をこまねいている間も好き勝手に魔法をばら撒く。


 大量に射出された炎の矢は規則正しい配置と軌道を描き、ある種の模様のように見えてなんとも綺麗だ。だが、見とれていると、こちらまで黒焦げにされる恐れがある。



 こいつの魔力は無尽蔵なのかと思わせるほどに発射される魔法。


 一発撃つごとに全方位に展開されているので、本来ならば無駄撃ちも甚だしい。


 だが、今は向こうから的が寄って来る状況のため、全弾命中している。



 エルザの放った多量の炎の矢により、辺り一面が燃え盛る偽者で溢れかえる。


 周囲で人が燃えているせいで肉を焼く匂いが鼻をつき、なんとも嫌な気分になってくる。



(く、減ってきた……。これじゃあ、エルザを狙えない……)


 エルザが暴れ回ってくれたお陰で周囲に死体が増え、狙える獲物がいない。


 いや、いることはいるのだ。むしろまだまだ大量にいる。



 厳密に言えば、エルザを巻き込んで攻撃できる対象が減ってきた、となる。


 丁度いい塩梅のを探し出すのに一苦労する状態だ。こちらから余分に動いて相手を誘導したりと、妙な手間がかかりだしてきた。



 しかし、エルザの方は広範囲に対象を巻き込める攻撃手段が多数あるため、俺のような苦労は無い。非常に厄介極まりない状態になっていた。


「アッハ! これでとどめです! くたばりなさいっっ!」


 そう言いながらエルザが偽者を斬り伏せた俺の背を狙って蛇腹刀を伸ばす。


 俺は咄嗟に横跳びし、背後から迫った刃をかわした。


 そして起き上がりざまに叫ぶ。



「ッ!? さすがに今のは駄目だろうが!」


 俺が偽者を倒したあとの隙を狙って攻撃してきた。あの状況では偽エルザを狙って攻撃したという弁解は成立しない。審判がいたら完全にファールの場面である。


「おっと、失礼。敵と見間違えてしまいましたよ」


「……その言い訳を使っていいのか? なら俺も使うぞ? お前、何を相手に戦っているか分かってるのか?」


 本来、見間違えるかもしれないリスクがあるのは俺の方だ。


 なぜなら、敵も味方も同じ顔をしているのだ。いや、味方という言葉は当てはまらないか。せいぜい共闘者くらいの表現が妥当かもしれない。



 そんな共闘相手から出た言い訳。


 俺が使った方が違和感が無い。相手が先に使ったわけだし、ここからはその言い回しを解禁してもいいかもしれない。


「ククッ、貴方の様に目が悪く、判断能力に欠け、知能が低いのであれば有象無象と、本物の実力を兼ね備えた私を見間違えるのも止むを得ません。許しますよ。貴方の様にどうしようもなく弱い臆病者であれば、見間違えることもあるでしょう。ですが安心してください。なぜなら私は強者です。貴方がいくら攻撃しようとも、びくともしませんよ」


 などと言いながら刀を振り回し、偽者どもを蹴散らすエルザ。


「ああ? 先に見間違えたのはお前だろうが。完全にブーメランになってるぞ? 恥かしくないのか? 本当の弱者は一体誰なんだろうなぁ、えぇ?」


 俺は両手に握りこんだ鉄杭を続けさまに投擲。迫る偽エルザたちを次々仕留める。


 更に位置取りのために【縮地】で移動しつつ、ついでに【居合い術】で進行方向上にいる偽者たちを斬っていく。



 俺とエルザ、お互いの間にいた偽者を処理し視界が開ける。


 障害物が綺麗さっぱり無くなり、エルザと相対する。


 納刀したエルザが殺気を孕んだ視線で俺を射貫く。


「アッハ、それはもちろん貴方ですよ。今から証明してあげます……ッッ!!」


 鞘に収めた刀の柄を握り【縮地】を発動するエルザ。


 もはや俺たちの間に偽者は一体もおらず、誰に向けての行動なのか一目瞭然。



「臨むところだコラ! やってみろや!」


 俺もドスの柄に手をかけ、【縮地】を発動。


 狙うは接近するエルザ。



 と、言いたいところだが相手の武器の方がリーチがあるので、こちらの攻撃が届かない間合いから【居合い術】を放ってくるだろう。



 だから、狙うべきは――。



 ギインッ、と金属同士がぶつかり合う音が鳴る。


 そう、狙うべきは相手の刃。


 俺はエルザの抜刀した刃目がけて【居合い術】を放ち、攻撃を防ぐ。



 お互い何の遠慮も無い力のこもった一撃だったせいか、衝突した影響が大きく、一瞬両者共に硬直してしまう。



 そこで気づく――


「「……あ」」


 ――偽エルザ百体が全滅していることに。



 ◆



「後は突き当りを曲がって真っ直ぐ進むだけだな……」



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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