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 俺が身勝手な行動をした結果、レガシーやミックに影響が出たり、地上のミーニ国に何かしらの被害が出ては意味がないのだ。


 ならば言うことはひとつしかないだろう。



「……俺も悪かったよ、いつもの調子で言い過ぎた。お前の提案を受け入れ、一時休戦だ」



「では、行きましょうか」


 こくりと頷いたエルザが扉に手をかける。


「ああ、いつでもいいぜ」


 武器を手に取り、臨戦態勢を整えた俺は頷き返す。



 それを確認したエルザが大きく扉を開けた。


 俺とエルザの二人は勢いよく中へ飛び込む。



 すると――


『アーーーーーーーーハッハッハ!!!!』


 ――大音声の笑い声が迎えてくれた。



「……なぁ」


 眼前の光景を前に、たまらず横にいるエルザに声をかける。


「何ですか」


「もう一度聞くけど、姉妹はいないんだよな?」

「あれが全部私の姉妹だとでも言うのですか? 何人いると思っているんです」


 俺の問いかけに数も数えることもできないのか、と目で訴えかけてくるエルザ。


「え、ざっと見、百人くらい?」


 俺たちの眼前には軍服を着たエルザが横一列十人、縦一列十人の綺麗に整列した状態で立っていた。十×十で百だよね? と確認を取る。こう見えて十の段の掛け算は得意です。



「私の母はそんな多産に耐えられるほど、巨体の持ち主ではありません」


「ってことはやっぱりアレと同類なのか」


 一言で言うなら偽物。


 隣にいる本物のエルザが無関係だと言うのだから間違いないだろう。



 眼前のエルザの群れは全員眼帯をしていない。両眼がぱっちりしている。


 後、動きがどこかぎこちなく、カクカクしていた。全員、よく首を痙攣させている。


 そんな奴らが全員薄ら笑いを浮かべてこちらを見ている。



 きっとこれらは戦力増強という目的で量産された物体なのだろう。


 その素体になぜエルザが選ばれたのかは知る由もないが、選んだ奴の趣味が悪いのは確かだ。




 なんというか、綺麗に整列している分、機械仕掛けのおもちゃのように見えてしまう。


「明言は避けていますが、段々アレが何なのか私にも察しがついてきましたよ」


 エルザが嫌そうな声で呟きつつ、ため息を吐く。


「そう? まあ、その話はまた今度たっぷりとしてやるよ」

「御免被りますね。それにしても、なんですかあれは……不快な」


「おいおい、自分とそっくりなものを見て不快とか言っちゃうのはどうかと思うよ」

「貴方は眼前に自分の生き写しが百人いる光景を不快と感じないのですか?」


 エルザに言われ、自分の生き写しが眼前に百人いる絵面を想像してみる。


 それらが全員こっちを凝視しながら笑っている図である。


 ……悪夢そのものだった。


「なるほど。それはちょっとあれだな」

「分かればいいんです。分かれば」


 俺は満足げに頷くエルザから、正面の敵に視線を移す。



 今のところ向こうからこちらへ向かって来る様子はないが、そろそろ何か仕掛けてきてもおかしくない。そうなる前にこちらから攻撃したいところだ。


 俺は再度エルザの方を向き、問いかける。


「で、どう行くんだ?」

「私にチームワークを期待しているんですか?」


 そんなものは端から期待していなかった。聞きたいことはそういうことじゃない。


「まさか。右か左、どっちかって聞いてるんだよ」

「では、右を。死にたくなったら右方に近づくことをお勧めしますよ」


「うっせえ。お前こそ左に来て流れ弾に当たっても文句言うんじゃねえぞ」


 どちらがどちらを担当するかが決まる頃、向こうの団体さんにも動きが見える。


 それぞれが武器を抜き、こちらへとゆっくり歩きはじめたのだ。


 どこか定まらない視線を彷徨わせながら口許を歪める偽エルザ達。



 が、偽エルザ達は一定距離を進むと急に立ち止まった。


 一体一体の動きはバラバラでぎこちないのに、綺麗に列は整ったままでの静止。


 なんとも不気味なものである。


『アーーーーーーーーハッハッハ!!!!』


 途端、大音声の笑い声が室内に木霊する。ちょっとした立体音響である。


 一人があの笑い方をするだけでも結構不気味なのに、今回は百倍での大サービス。


 十歳のバースデーケーキにサービスで蝋燭を百倍の千本をセットされても、それはもはや松明というにふさわしい代物であり、ケーキではなく蝋燭の灯を束ねた大炎が本体になってしまうのと同じようなこの状況。


 迷惑極まりない最悪の状況なのである。


 後、耳が痛い。


「最悪だ……。これならオールドファッションおじさんを二百人相手にする方がまだ増しな気がする」


 だが、オールドファッションおじさんは見た目に似合わず異常に素早いので案外強敵の可能性も捨てられない。中々に難しい選択だ。


「貴方が私に分からない表現で私を侮辱しようとも、分かります。なぜなら私と貴方はそれほど深く繋がっているからです。前の百と隣の一に挟撃されたいのですか?」


 俺の台詞の何かがエルザの怒りの琴線に触れたらしく、じりじりと距離を詰めてくる。


 そういう親密になったから言外に伝わりますよ、的なことを言われると非常に心外である。濡れ衣も甚だしい。


「しょうがないだろ……。お前が側に居るとつい言葉に出ちゃうんだよ。深く繋がっているっていうなら、その辺りも理解をしめせよ」

「確かに……。貴方を罵りたいという衝動、非常によく理解できます。……仕方のないことなのかもしれませんね」


 妙に納得の表情を見せるエルザ。俺たちがどうでもいいことで揉めている間に偽エルザの団体がじわじわとこちらへと迫ってきていた。完全に出遅れた感がある。


 本当に最悪のコンビネーションである。



 このままでは、よく分からないままに乱戦になってしまう。


 慌てた俺は装備の再点検をしながら間合いを調節していると、同じことをしていたエルザと背がぶつかり、動きが制限されてしまう。


「チッ、来るぞ!」

「いちいち言わなくても分かっています!」


 俺たちは憎まれ口と同時に、互いの背を使って反動で飛び出す。


 戦闘開始だ。



 ◆



「……ふぅ」


 ひと息ついたミックは曲り角の壁に背を預け、通路の先を覗き込む。



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