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 ◆



 ハイデラに司令室から追い出された四人の間には口を開くには重過ぎる空気が充満していた。


 本来ならその場には彼らより前に追い出された者たちがいるはずだったが、とうに持ち場へと戻ったようだった。


 廊下に立つ四人は、お互いに腹を探るような視線を交わしながら何もしないままに数秒が経過する。いつまで続くか分からない根比べのような無言の状態に、たまらずといった体でプルウブルーが切り出す。



「ハイデラさんは仕留めに行けって言ったけど、どうする?」


 と、プルウブルーはオーハイに視線を向ける。


「ここは広い。そして相手は三人だけだ。広大な要塞内で動き回る三人を探し出すとなると、そう簡単にはいかんぞ」


 オーハイは腕組みしながら顔をしかめた。


 相手も馬鹿ではない。見つからないように行動しているだろう。そうなってくると侵入者が三人というのは逆に発見し辛いのだ。


「発見の報告はないのかな?」


 二人の言葉を聞いたダーランガッタが尋ねる。


「絶賛捜索中。見つけて包囲してくれてれば、私たちも駆けつけ易いんだけどね」


 と、プルウブルーが肩をすくめてみせる。


「ここまで少数で乗り込んできた奴らだ、そう簡単にはいくまい」

「じゃあ、相手が行きそうな場所で待ち伏せする?」


 捜索での発見は難しいだろうと言うオーハイの言葉に、ダーランガッタが待ち伏せを提案する。



 相手も観光目的でわざわざイゴスにやってきたわけではないだろう。


 ならば明確に目指す場所があるはず。そこに当たりを付けて相手を待つのは有効な方法に思えた。



「それがいいかも。狙いはなんだろ?」


 と、呟くプルウブルー。



 だが、今、この時期にイゴスへ侵入する意味など限られていた。


 さして考えずとも、相手の狙いは必然的に絞られてくる。


「それはやはりハイデラさんの命か、この要塞の破壊だろう。……もしくはSHBか」


 プルウブルーの問いにオーハイが候補を三つあげる。


 その三つ全てがこの空中要塞には欠かせないものであり、一つでも欠けると今後の活動に支障をきたすものばかりだった。



「もしかしたらその三つを同時に達成しようと三手に分かれている可能性も考えられるね」


 二人の話を聞いていたダーランガッタが突然思いついたかのような表情で発言する。


「……確かにありえるわね。まあ、向こうがどう動いているかは分からないけど、相手が狙う可能性が高い場所が三つなら、こっちは別れて行動した方がよさそうね」

「俺はお前といる。残りはダーランガッタとパーシーに任せればいいだろう」


「え、ぼ、僕ですか……?」


 プルウブルーとオーハイの言葉にパーシーがびくりと身を震わせる。


 パーシーはまるで今までの会話を聞いていなかったかのような反応を見せ、うろたえた。



 どうやら今まで黙っていたのは、ハイデラに叱責されて放心していたためのようだった。


「何他人事みたいに言ってるのよ。あんたも叱られてたくせに、何もしないつもりなわけ?」


「そうですよね……。が、頑張ります」


「そう緊張しなくても大丈夫だよ。相手は少数なんだし、対人の実戦経験を積む丁度いい機会だと思えばいいさ」


 プルウブルーの言葉に自信なさげな表情で了承するパーシー。


 それを見ていたダーランガッタがパーシーの肩を叩きながら励ました。


「あんたも勇者なんだから、しっかりしなさいよね」

「ここでの失敗は後がないと思え。気を引き締めろ」

「す、すいません」


 プルウブルーとオーハイの言葉にパーシーはびくびくとした表情で頭を下げた。


「じゃあ、決まりだね。誰がどこを担当するかはどうやって決める?」


 ダーランガッタが三人に視線を巡らせながら尋ねた。


「ん。私たちは二人なんだし、ハイデラさんを守るわ」

「そうだな。ダーランガッタは機関室を守って欲しい。SHBには元々大量の人員を回しているから、そう簡単に近づけんはずだ」

「分かったよ。確かに船を落とされちゃあ、元も子もないもんね。じゃあSHBにはパーシーに行ってもらおうか」


 プルウブルーとオーハイが司令室の警護を担当すると言い、ダーランガッタが機関室の警備を引き受ける。


 残されたSHBへはパーシーが向かうこととなる。


「……分かりました」


 相変わらずの緊張した面持ちでパーシーが呟く。


 そんなパーシーの様子を見ていた三人は顔を寄せ合い、声をひそめて話す。


「あの子、SHBを誤爆させないでしょうね」

「少し不安が残るな」

「いくらなんでも心配しすぎでしょ。じゃあ、バードゥも行かせる?」


 三人は不安の残るパーシーについて意見を交わす。


 するとダーランガッタがバードゥを増援に向かわせればいいと言い出した。


「なんでバードゥが出てくるのよ! 余計に危ないじゃない!」

「お前の提案の意図が分からん。より危険にしてどうする?」

「なんで? バードゥって結構しっかりしてると思うけどな。二人ならきっとうまくやってくれるよ」


 バードゥという名前にプルウブルーとオーハイが拒絶反応を示すも、提案者のダーランガッタはどこか自信ありげに語ってみせた。


「はぁ……、ならそれでいいわ。SHBに何かあったら、あんたが責任取りなさいよね」

「そうだな。そこまで自信があるなら問題あるまい?」

「うん、いいよ。それじゃあ、行こうか」


 ダーランガッタの言葉に、皆が頷く。


「私たちは手前のホールで待機するわ」

「何かあったら連絡をくれ」

「うん、僕はコアの側で待機することにするよ。移動中にバードゥには僕から話しておく。もし、そっちに何かあれば知らせてね」


 三人はそれぞれの持ち場を確認する。


 そしてダーランガッタがバードゥに話を通しておくことを何でもないことのように軽く引き受けた。


「分かってるわよ。こんな面倒なことさっさと終わらせるわ」

「ああ。信頼回復のためにも確実に仕留めるぞ」


 プルウブルーとオーハイは互いに見つめ合うと深く頷きあった。


「ぜ、全力を尽くします」

「僕はいつだって全力なんだけどな」


 どこかぎこちない様子のパーシーとは対照的に無駄な力が入っていない様子のダーランガッタ。



 決意を固めた四人はそれぞれの持ち場へ向けて移動を開始した。



 ◆



(一応狙い通りにはなったな……)


 目的地へと向かいながらミックは思い返す。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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