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「どう見てもあれはお前絡みだろ。間違いないな」


 はぁ、とため息をつきながら俺を見てくるミック。


 なんか、俺が厄介事を持ち込む常習犯扱いになっている不思議。



 異議を申し立てたいところだが、目の前の案件に関しては否定できない部分が多々ある。



「いや、そう言われると、そうなんだけど。ミックはアレと初対面だよな? なんで俺と関わりがあるとか思ったわけ? 普通はそんなこと考えないだろ……。だってアレだぞ?」


 ミックはなぜ、あんな不思議巨大兵器と俺がお知り合いだと勘ぐってくるのだろうか。


 普通はそんな結論には辿り着かないはず。こんな、どこにでもいる“ザ・普通”を絵に描いたような一般人の俺を捕まえて失礼なものである。



「そりゃあ……、なぁ?」


 と、言葉を濁らせつつもレガシーの方を向くミック。


「だよな」


 と、同意しミックと深く頷きあうレガシー。


 二人は何かを深く理解したかのように、がっしりと固い握手を交わした。



「なにその通じ合ってる感じ……。やめろよ、俺がおかしな奴みたいなところで同意するのは」


「ってことで、アレはお前担当だろ?」

「よろしく」


 すすっと、アレに向けて腕を広げ、道を作ってくれるミックとレガシー。


 息ぴったりである。


「無理に決まってるだろうが……」


 相手は二体、しかもデカい。一人でどうこうできる相手じゃない。


「三人で一体ずつ集中して片付ける、って感じか。ふぅ……、誰かさんのお陰で余計な仕事が増えたな」


 黒い革手袋をはめた拳を握りこみ、軽くステップを踏むミック。


「まあ、そう言うなって、ウォームアップには丁度いいだろ?」


 鞘から蛇腹剣を抜き、構えをとるレガシー。


「俺は関係ないからな……。確かに知ってるけど、それだけだ。俺が持ち込んだみたいな感じにしないでくれよ、まったく」


 俺は愚痴っぽく反論しながら、アイテムボックスから弓を取り出す。


 こちらが戦闘準備を整える中、眼前の巨大な物体は色々なものを動かしながら俺達の方へとゆっくり迫ってくる。


 戦闘開始だ。



 ◆



 ――時をさかのぼること数分前。


 イゴス上層にある操舵室では、あることに気づいた兵士たちが慌てた様子で入手した情報の確認作業を行っていた。


「どうしたの?」


 計器を見つめる部下の一人の表情の変化に気付いたダーランガッタは問いかける。



「こちらへ急速に接近する物体を感知しました!」


「もう少し詳しく分かるかい?」


 部下の報告によると、どうやらこちらへ向かってくるものがあるらしい。


 周囲を取り囲む大型の窓へ視線を向け、辺りを見回すも、まだ肉眼で捉えることは難しいようだった。


 しかし、ここは空の上。イゴスは現在、かなりの高度にある。


 そんなところへ接近する何か。ダーランガッタは兵器類による攻撃の可能性を考え、部下に詳細を尋ねた。


「どうやら小型の飛空艇が高速でこちらに突進してきた模様です」


「迎撃しようか」


 こちらに向かって来るものが飛空艇と分かり、次の指示を出す。



(まあ、何もしなくても防壁にぶつかって終わりだろうけどね)


 この空中要塞イゴスは堅牢な魔力防壁によって、完璧な防御を実現している。


 放っておいても防壁に衝突して終わりだろうと思ったが、黙って見ているわけにもいかない。



 敵対意識を持つと思われるものが接近したのに、何も手を打たなかったとなれば問題になる。


 そう考えたダーランガッタは無難な指示を出したつもりだった。



 だが――


「速すぎて不可能です! 来ます!」


 ――接近する飛空艇の速度が予想外のものだった。



 あまりに速すぎて搭載している武器では狙いを定めることが叶わなかったのだ。



(ふふ、バカだな。そんな勢いで突っ込んだら防壁に衝突してバラバラになってしまうのに)


 迎撃不可能と聞いてもダーランガッタは安心しきっていた。


 なぜならイゴスを守る防壁の強度は凄まじく、飛空艇が衝突したところで何の問題もないからだ。むしろ衝突した飛空艇がバラバラになって終わり。そう思っていた。


 しかし、実際は違った。



 前方を見つめるダーランガッタの視界に突如、飛空艇が現れた。


 小型のそれは凄まじい速度で接近してきたため、気づいた時には防壁へと衝突していた。



 衝突した瞬間、無色だった防壁が激しく発光し白く輝く。そして防壁に衝突した飛空艇がバラバラになる――のではなく、防壁に亀裂が入る。



 数秒と経たずに、亀裂は凄まじい勢いで防壁全体へと広がっていく。そして亀裂が全体をくまなく覆った頃、防壁は木っ端微塵に砕け散った。


「……なっ」


 あんぐりと口を開けて固まるダーランガッタの眼前で、防壁は粉々の破片となって地上へ向けて落下していく。


 破片は光り輝く結晶のように美しく、舞い散る姿はとても幻想的なものであった。しかし、そんな光景に見惚れている場合ではない。


「防壁が突破されました! 迎撃兵器起動、対象の破壊に向かいます!」


 部下が飛空艇への迎撃を開始したと報告してくるも、ダーランガッタの頭の中は別の思考で埋め尽くされていた。


「なぜ防壁が破壊されたんだ!? どうなっている!」


 そう、ダーランガッタが感じた疑問。それは防壁が破壊されたという事実。



 防壁は途轍もなく強固なものであり、通常の武器、兵器の類いで破壊できるものではない。


 強力な魔法、もしくは勇者や剣聖の剣技を用いなければ傷一つつけられないはずなのだ。



 ――それが破壊されてしまった。


 小規模な損傷ではなく、完全破壊という形で。


 しかも飛空艇の衝突という、イゴスの防壁の前ではたかがしれている物理的衝撃で、だ。


 そんなことはありえないはずなのだ。


「わ、わかりません……」


 ダーランガッタの問いに、答えを見出せていないであろう部下も言葉を詰まらせた。


「とにかく防壁を再展開しないと! 今すぐに!」


 防壁がなければ丸裸も同然の状態。


 この空中要塞イゴスは非常に巨大であり、それが相手に威圧感を与えるひとつの要因となっている。だがそれは防御手段を失ったとき、大きな的と化してしまうことを意味していた。もし、現状をサナダ国に察知されてしまえば、確実に攻撃されるだろう。そう判断したダーランガッタは直ちに防壁の再起動を命じた。


「機関室から連絡! 防壁破壊の衝撃が装置に逆流し、大破! 再展開は不可能との事です!」


「何だって!? 修復にどれくらいかかる!?」


 が、返ってきた報告は受け容れ難いものだった。防壁展開装置が故障してしまったという。


 それでも何としても防壁を展開したかったダーランガッタは再度部下に問いかけた。



 が、ダーランガッタの問いには重苦しい沈黙が返ってくるのみ。



 まるでダーランガッタの問いを誰も聞いていないかのような静寂。


 誰もいないかのような無音が一帯を支配する。



 誰も答えない。


 いや、答えたくないのだ。


 報告は上がって来ているが、それを言い出す勇気がない。


 言えば確実に大きな混乱が訪れる。皆分かっているから言い出せない。


 そんな沈黙がしばらく続いてしまう。



 ――そして沈黙に耐えかねた部下の一人が口を開いた。


「……少なくとも二日は必要とのことです」


「くそっ! なんで防壁を破壊できるんだ……。そんなことありえないはずなのに」


 未だ受け入れられない事実を前にダーランガッタは悪態をつく以外にできることがなかった。


 だが、そんなささやかな抗議も許されないといわんばかりに部下が新たな報告を上げてくる。


「ダーランガッタ様、司令から部門責任者全員に召集がかかっています」


「…………分かった。すぐ行く」


 ――上からの呼び出し。



 断る理由などない。しかし、行けば現状について詳細に説明することになる。


 侵入を許した過程を事細かに話さねばならないのだ。



 行くとは答えたダーランガッタであったが身体が全く動かず、その場にしばらく立ちつくしてしまう。


(遅れれば余計な小言が増えるだけだ……)


 限界まで表情を曇らせたダーランガッタは巨大な重りでも背負わされたかのような動きで足を前へと動かす。


「行ってくる。後は任せた」


 そう言い残し、ダーランガッタは司令室へと向かった。



 ◆



「フッ」


 俺は巨大金属昆虫のご機嫌を伺おうと、挨拶代わりに巨大サソリの方へ向けて矢を射る。




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