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16

 


 ◆



「行っちゃった。生きて帰って来るとは思えないけど、荷物はちゃんと預かっておくよ」



 ラクルが見上げた視線の先では、自作の小型飛空艇が空中要塞へ向けて飛んでいく姿があった。


「すごい速度ですね」


 ラクルの背後から静かな声音が聞こえてくる。


 振り返れば、まるではじめからその場にいたように微笑を浮かべるエルザが立っていた。


「あ、おかえり。中々の作品でしょ? あれは小型だけど、ああ見えて速度は……」


「いえ、大丈夫です。随分前に帰ってきていたので、会話は全て聞いていましたよ」


 帰ってきたエルザに自慢の作品の一つである飛空艇の性能について解説しようとするも、話は聞いていたとすげなく遮られてしまう。ラクルは解説できなかったことに不満を感じつつも、エルザの帰宅に笑顔を見せ、側まで駆け寄った。


「えぇ〜、なんだよ。それなら顔を出してくれれば彼らに紹介したのに」


「ふふ、その必要はありませんよ」


 ラクルとしては、これからお得意となる可能性がわずかに残された者たちを紹介したかったのだが、当のエルザは何かを隠すように浅く笑う。


「ふうん、まあいいや。そうだ、行方は分かったのかい?」


 ラクルはエルザの表情が一瞬気になるも、興味の対象はすぐに変わった。


 それはエルザの外出理由だ。


 確か、会いたい人の行方を捜して情報を集めていたはず。


 結果が気になったラクルはエルザに尋ねた。



「ええ、丁度今、通り道ができようとしているところです」


 そう言いながら口元を歪めるエルザの視線の先には空中要塞があった。



「ということは……」


 エルザの答えにラクルもつられて上空を見る。


 どうやらエルザの会いたい人というのは空中要塞にいるようだった。



 二人で空に浮かぶ島のような施設を眺めていると、目もくらむような激しい閃光が空一面を覆った。次に轟音が轟き、空中要塞の周りに光の雨が振り注ぐ。


 おそらく小型飛空艇に取り付けたドラゴンの爪と要塞の防壁が接触し、破壊に成功したのだろう。要塞から降り注ぐ光の雨。あれはきっと防壁の破片。破壊された防壁の破片は激しい光を放ちながら、地上に降り注ぐ前に消失していく。


 好奇心旺盛なラクルは視界一杯に広がる未知の現象に釘付けとなっていた。


 隣に立つエルザは光の雨に興味を失ったのか早々に視線を背け、次の行動に移る。


「さて、私もあちらへ向かうとします。試運転も終え、準備は万全ですしね」


「気をつけてね」


 ラクルが言葉をかける中、エルザは背を向けると準備のためか屋内へと向かいはじめた。



「何の心配も要りませんよ。なんせ、貴方が作ってくれたのですから」


 背を向けて表情は窺えなかったが、エルザが放つ言葉から確かな自信が伝わって来る。



「そう言ってもらえると嬉しいね。……そうだ、帰ってきたらどこかへ旅行にでも行こうよ」


 ラクルは自然とそんな事を口にしていた。


 旅行。かなり唐突な話題だ。自分でもなぜ、そんな話をしたのか考えがまとまらない。



 それでも、時間が経つごとにおぼろげに理解する。


 旅行である必要はなかったのだ。ただ、約束がしたかっただけ。


 帰ってこないかもしれないと思ったのだ。


 だが、どういう理由で帰ってこないと思ったのかまでは自分でもよく分からなかった。



 空中要塞へ向かったまま、ここへは二度と戻ってはこないと思ったのだろうか。


 それとも、空中要塞で命を落として帰ってこないかもしれないと思ったのだろうか。



 どちらともつかないが、ただ、帰ってこないと予感したのだ。


 それでも――。


 次の行動が決まっていれば。


 自分との約束があれば、きっと帰ってきてくれる気がしたのだ。


 そんなラクルの誘いを聞き、エルザが立ち止まる。



「……悪くありませんね。それでは行ってきます」


 エルザは短く返すと、軽く手を振って格納庫の方へと向かっていく。


 相変わらず背を向けたまま発せられたエルザの声音は、優しげな笑顔を連想させるほど柔らかかった。



 ◆



 俺の眼前には炎に彩られた小型飛空艇の姿があった。


 飛空艇はドラゴンの爪の力で見事防壁の破壊に成功した。


 しかし、その後が問題だった。完全に制御不能状態となって、半ば墜落するような形で空中要塞に着陸することになってしまったのだ。



 飛空艇は空中要塞の舗装された地面の上をガリガリと滑るうちに発火。


 俺たちは墜落時に受けた衝撃で変形し、開閉不能となったコクピットの窓を蹴り開け、滑り続ける飛空艇から飛び降りて下車。



 飛び降りた後、ゴロゴロと転がりながら、なんとか姿勢を立て直した眼前では燃え盛る飛空艇の姿があった、というわけである。




「あっつ! やべえ、もう少しで丸焼きになるところだったぜ」


 俺は燃え盛る飛空艇を見ながら立ち上がる。


 すると、同じように呆然とした表情のレガシーが隣に来た。


「間一髪だったな。飛び降りて正解だったぜ……。って、着いたはいいけど、どうやって帰るんだこれ?」



 飛空艇は完全に大破し、再利用はできない状態だ。


「なんだ、もう帰る心配か」


 俺とレガシーが炎上する飛空艇に目を奪われていると、ミックがやれやれといった表情で合流してくる。


「おい、これってやばくないか? 確かパラシュートが積んであるって話だったよな」


 俺は余裕ありげな表情のミックに事の重大さを伝える。


 そう、飛空艇は防壁の接触に耐えられるか不明であり、もともと片道しか利用できない可能性があった。


 そのため、ラクルがあらかじめパラシュートを用意しておいてくれたのだ。


 だがそのパラシュートは……。


「やばいぞ! このままだと燃えちまう!」


 慌てたレガシーが炎上する飛空艇へと駆け出す。


 俺とミックもそれに続いて走り出す。しかし、遠い。



 飛空艇が地面を滑っている最中に飛び降りたため、微妙に距離が離れてしまったのだ。


 このままではこちらが辿り着く前に炎が船全体を覆ってしまいそうである。



「急げ! 確か、後部座席の後ろ……だっ……た……はず」


 俺は飛空艇へと駆けながら、パラシュートが仕舞ってある場所を早口でまくしたてる。


 が、そんな俺たちを追い抜くようにして上空を何かが通り過ぎていった。


 その何かは、走る俺たちの視線の先にある飛空艇目がけて飛んでいく。


 見上げて目を凝らすと、それは金属の筒のようなものだった。


 金属の筒状のものが飛来し、飛空艇に接触する。


 途端――。


 ドオオンッという音と共に、飛空艇が爆発炎上した。


 まあ、平たく言えばミサイルが飛空艇に着弾したのだった。



「で、パラシュートはどこだって?」



 爆発を前に足を止めたレガシーが俺に聞き返してくる。




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