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15

 

「それならこれを使うといいよ」


 と、ここまでのやりとりを隅の方で静かに聞いていたラクルがこちらへ寄って来る。



 その手には煉瓦ブロックほどの大きさの機械があった。


 その機械をレガシーへと手渡す。


「これは?」


「簡単に言うと妨害装置かな。それをSHBの側で起動させれば、爆発しなくなるよ。その間に破壊するなり、解体すればいいんじゃない? 効果範囲は結構広いし、持続時間も一時間くらいは持つから何とかなるでしょ」


「おお、助かる! でもなんでこんなもの持ってるんだ? 今作ったわけじゃないよな?」


 突然振って湧いて出た便利アイテムに驚くレガシー。


 確かにそんな物が急に都合良く出てくる理由が分からない。


「SHBは僕の作品だからさ。といっても図面を引いただけで、製作には関わってないけどね。時期が遅かったら対策されてたかもしれないけど、試作して間もない今なら中身もいじってないだろうし、うまく機能すると思うよ」


「はあ〜、ほんとに何でもできるんだな」


 ラクルの回答に感心しきりといった様子のレガシー。


 後ろで話を聞いていた俺も驚きを隠せない。このラクルという少年は一体何者なんだろうか。


「おいおい、SHBはお前が設計したのかよ。まったく、厄介なもんを作ってくれたぜ」


 話を聞いていたミックが苦い顔でぼやく。


 SHB、本当に厄介な代物だ。だがそれだけでしかない。


 要は使う者次第。ラクルが悪人生成装置なんかを作ったのなら話は別だが。そういうわけじゃない。


 それこそ、SHBも持つ国が持てば世界の均衡を保つ道具としてうまく機能していたかもしれないのだ。まあ、人の手に余るものには違いないし、どこの誰が手にしようと、色々とはた迷惑なことが起きそうな気がする。やっぱり厄介なものに違いないか……。


「支払いが良かったんで、つい頑張っちゃったよ。君達も何か欲しければ遠慮なく言ってね。何でも作れる自信があるよ」


 ふふ、と微笑しながら胸を張るラクル。その表情から垣間見える自信は様々な実績によって実力が伴った確かなものだとはっきり分かる。難度の高い依頼もそつなくこなしそうだ。


 できれば戦闘で使える装備のひとつでも発注したいところだが、今回は時間がなくてそれが叶わないことが悔やまれる。


 だがそれは空中要塞での戦闘で使用するという前提での話。


 今回使用しないものなら、別に何の問題もないはず……。


 今、作成を依頼して、後日受け取るようなものならいけるわけだ。


 それなら是非とも頼んでみたいものがある。


 俺は意を決するとラクルの方を向いて思いの丈を打ち明けた。



「お、俺をイケメンにする装置を……」


「無理かな」


 俺の迫真の懇願はラクルに即答によってあっさり却下されてしまう。


 しかも結構食い気味の返答だった。



 どうやら俺をイケメンにすることは天才博士であるラクルにも不可能らしい。


 こいつ案外大したことないのかもしれない……。


「食い気味に即否定されたよ……」


 悔しさからか、自然と独り言のように言葉が吐き出されてしまう。


「大丈夫だって、元気出せよ。お前にもきっといい出会いがあるさ。さしあたっては、あの空中要塞とかで運命の出会いがあるかもしれんぞ?」


 俺の肩に腕を回したミックがぽんぽんと叩きながら励ましてくれる。



「そいつは胸躍るな!」


 運命の出会い――。



 俺に夢中の女性が百人くらい現れて、取り囲まれたりしてしまうのだろうか。


 黄色い悲鳴に包まれながら、まんざらでもない表情で皆をたしなめる俺。


 妄想が肥大した結果、ワクワクが止まらない。



 ――まあ、冷静に考えるまでもなく、あり得ない話だ。


 むしろむくつけき男ども百人に包囲されて、絶体絶命になる未来が透けて見えるくらいだ。



 だが、ここは勢いにまかせて乗っておこうと思う。



「よし、準備も整ったし、乗り込むか!」


 ニカッと笑い、乗船を促すミック。



 確かにこれ以上ここで時間を潰すのはあまりよろしくない。


 事前に情報も把握したし、準備も終わった。もう出発しても大丈夫だろう。


「さらばイケメンマシーンよ」


 俺は出会いが果たされなかったスーパーマシンに別れを告げると、小型飛空艇の方へと向かう。目の前では荷物を積み込み終えたミックが早速一番前の座席に搭乗していた。


「俺が一番前にいくぞ」


「じゃあ、二番目っと。レガシーも来いよ」


 俺はミックの後に続いて、二番目の座席へと腰掛けると、レガシーに呼びかけた。


「ああ、今行く」


 と、最後にレガシーが小型飛空艇へと乗り込む。


 今回、発射などの操作はラクルが外部からやってくれる。俺たちはただ乗り込んで小型飛空艇に命を預けるだけでいい。



 発射を待つのみとなった俺たちは、操作をしてくれているラクルの方へと視線を向けた。


 すると計器類と睨めっこをしていたラクルが顔をしかめる。



「む、ちょっと重過ぎるみたいだね。持ち込む荷物を減らしてくれないかな」


 ラクルが言うには重量オーバーらしい。この船は後からドラゴンの爪を付け足した。


 さらに小型の船に三人がぎゅう詰めで乗り込んでいる。そのせいで重量制限がシビアになっているのかもしれない。


「仕方ないな……、戦闘に必要な物以外は全部ここに置いて行くぞ」



 ラクルの言葉を聞いたミックが早速荷物を降ろしはじめる。


 元々、今回の仕事が済めば再度ラクルの隠れ家には行く予定ではあった。



 それは装甲車を置かせてもらっているからだ。


 が、いつ訪ねることになるかは分からない。



 空中要塞はミーニ国の上空にあるため、ここからはかなり離れている。


 そのため、移動に数日を要することを考え、各々が移動時に必要な荷物も積み込んでいたのだ。



 それらを諦め、戦闘に必要な武器類を残して、全て降ろすことになってしまう。


 重量オーバーという理由なので仕方ないが、少し心もとない状態となってしまった。



 そして、いち早く荷を降ろしたミックが続けて俺たちに告げる。


「念のため、ポーションを一つずつ渡しておく。変なところで飲んで、行動不能になって死んでも俺は責任取らないからな」


 そう言ったミックは降ろした荷の中からポーションの瓶を取り出して、俺たちへと手渡してくる。


 ポーションを受け取った俺は少し考え、二人に問う。


「この際、俺が荷を全部預かろうか? 俺なら重量気にしなくても大丈夫だし」


 俺のアイテムボックスなら全部入るし、重量は気にしなくていい。


 それなら全員分俺が預かってしまうのも、ひとつの手ではある。


 アイテムボックスのことはぼやかしたままにしてあるが、俺が不思議収納を持っていることは今更話さなくても伝わるだろう。


「それだとお前と合流できなかった場合、荷物の受け渡しができなくなるからだめだ」

「そうそう、死んだら荷物がなくなっちまうしな」


「おいっ! 俺が死ぬのが確定みたいな言い方は縁起が悪いからやめろ!」


 アイテムボックスを使うか、と問えば、ミックとレガシーから不要と返事が帰って来る。


 しかし、その内容に不穏なものを感じた俺は突っ込まざるを得なかった。



 これから敵の本拠地に乗り込むって時に、この二人は何と不吉なことを言ってくれるのだろうか……。


 いや、まあ、三人でカチコミかますわけだから、死ぬ可能性が高いのは確かだ。


 だけどそこは空気を読んで“行ける行ける、楽勝だって”などと緊張を和らげるべきである。計算や計画でどうこうなるレベルの事じゃないなら、そこまで生々しい計算はやめてほしいところだ。


「惜しい人をなくしたな」

「そうでもないだろ?」


 と、ミックとレガシーが更に追い打ちをかけてくる。


「おいっ! そこは嘘でも良い人だったって言っとけよ!」


 俺に対する扱いが雑だ。


 ここに来ての言いたい放題。これは訴訟を考えるべきだろうか。


「まあ、ここに置いていくのが無難だろうな。迷惑か?」


 と、ミックがまとめに入る。


 そして荷物を放置する事に対してラクルに確認を取っていた。



「ん、そのくらいなら大丈夫だよ。大体、重量を減らさないといけないんだからしょうがないよ。事が済んだら取りに来ればいいさ」


 荷物を置いて行くことにラクルから了承を得る。


 とはいっても、ラクルの言うとおり、荷を降ろさないと飛空艇が飛ばないのだからどうしようもない話ではある。



「……よし、今度こそ準備は整ったな」


 荷を降ろし、全員が席に着いたことを確認するように呟く俺。


 いよいよ発射となると、ちょっと緊張してくる。


「行くか。後はあんたに任せたらいいんだよな?」


 ミックがラクルへ最後の確認を取る。


 すると装置の前に立つラクルがこくりと頷いた。


「うん、僕がこのボタンを押せば発射されるよ」


 ラクルが指さす先には特大のボタンが見えた。なんとも分かり易い仕様である。


「そう言われると妙に緊張してくるな」


 準備が整ったと聞き、レガシーがちょっとそわそわしはじめる。


 でもその気持ちは分かる。これから高速飛行状態で空中要塞へ向かうと考えると、どうにも落ち着かない。


「ああ、なんか色々思い出してくるな。ここまで色々あった……」


 俺は気を紛らわせようと、ここに至るまでの道のりを思い出す。


 ――本当に色々あった……。


 この異世界へ降り立ったときには、よもや高速飛空艇で巨大空中要塞へ特攻するはめになろうとは想像もしなかった。



「発射!」


 と、いきなりラクルが発射ボタンをグーパンで勢いよく押し込む。



「おい! もうちょっと浸ろうよ! 今、そういう雰囲気出したじゃ――」


 俺が抗議の声を上げるも時既に遅し。


 ラクルの声が聞こえた途端、全身を軽い衝撃が襲い、飛空艇が轟音を上げながら一瞬で地上から離れる。



 カウントダウンとかしようよ……、などと思う頃には、ラクルは蟻んこより小さくなっていた。



 ◆



「行っちゃった。生きて帰って来るとは思えないけど、荷物はちゃんと預かっておくよ」




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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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