12
…………
俺の目の前には、先端にドラゴンの爪が取り付けられた飛空艇があった。
小型のそれは空気抵抗が少なそうなフォルムで非常に速そうである。
飛空艇は屋外に設置され、発射準備も完了している。
後は俺たちが乗り込み、お空を飛ぶだけの状態となっていた。
そんな飛空艇を俺、レガシーとミックの三人で眺めていると、背後から子供の声が聞こえてくる。
「まさか、こんなに早く再会できるとはね。でも、こちらも臨時収入が入って良かったよ」
振り向けば、白衣を着た男の子が立っていた。
名前はラクル。この船を作った張本人だ。
初対面のはずなのに、なんか顔に親近感を覚えるのは気のせいだろうか。
「早いな……。まさか一日かからないとは思わなかったぜ」
ラクルの言葉に、レガシーが呟く。
そう、今俺たちの眼前にある飛空艇は半日ほどで完成してしまったのだ。
この隠れ家を目指す道中にラクルという人物の凄さについてはレガシーから多少聞いたが、まさかここまで凄いとは思いもよらなかった。
「もともとあった小型高速艇の先端に、ドラゴンの爪を取り付けただけだからね。あっという間さ。ただ、早くできた分、ちょっと問題もあるんだけどね」
特に自慢げというわけでもなく、当たり前のことのように語って聞かせるラクル。
しかしその話した内容の最後の方に引っかかる部分があった。問題があるってどういうことだよ。
「おい、大丈夫なのか……」
不安になった俺がたまらずラクルに聞き返す。
「問題と言っても、事故に繋がるようなことじゃないから安心するといいよ。問題の原因はドラゴンの爪さ。ドラゴンの爪は凄まじい硬度だから加工出来ない。つまり、成形できないんだよね。そんなわけで飛ぶ時にちょっと抵抗が発生しちゃうんだよ。まあ、先端が尖ってるから、それほど問題じゃないかな? 激しく揺れると思うから、乗船前には食事を控えておくことをお勧めするよ。後は、爪を搭載した分、重量が重くなっちゃったから、あまり荷物は積載できないね」
「なるほど、そういうことか。それならまあ仕方ないよな。むしろ聞いた限りだと難しい作業を短時間で仕上げてくれたことに礼を言わなきゃいけないくらいだな……」
問題が発生したのはすべてドラゴンの爪を取り付けたためにおこるものだった。
無理を言って作ってもらったのに、こちらが文句を言える部分ではない。
「長距離を飛行すれば無理やり爪と接合した部分から空中分解してしまう恐れもあるけど、空中要塞までなら結構近いし何の問題もないよ」
と、ラクルから安全性についてのお墨付きをいただく。あと気になるところといえば、防壁に接触したときだろうか。
「防壁に接触した際の衝撃には耐えられるのか?」
「防壁と爪が接触したところを見たことがないから、どの程度の抵抗や衝撃が発生するか分からないな。正直、何とも言えないよ。それに、要塞には不時着する形になるだろうから、どうせ片道切符になると思うし、壊れてもいいんじゃないかな?」
「うおい!」
ラクルから雲行きの怪しい爆弾発言が飛び出し、思わず声をあげてしまう俺。
「大丈夫。パラシュートを積んであるから、向こうに着いたら取り出すといいよ」
そんなことを言いながらニッと笑みをこぼすラクル。一応、対策というか保険はあるらしい。
「まあ、なんとかなるか……」
ラクルの年相応に子供っぽい仕草を見ていると、まあいいかという気にさせられてしまう。少し不安が残るが、結果を見ればこの短い間で十分すぎる準備が整ったといえるだろう。
さすがにこれ以上の贅沢は許されない感じだ。
「これ以上は考えるだけ無駄だな」
「よし、腹も決まったし、行くか」
俺とラクルの会話を聞いていたミックとレガシーも覚悟が決まったらしく、早速飛空艇へ乗り込もうと意気込みはじめた。
そんな中、俺はあることを思い出し、ラクルの方を向く。
「あ、そうだ。これって作れる?」
そう言いながら取り出したのは、ショウイチ君ご謹製の爆弾である。
現在こいつのストックは残り一つ。
これから途轍もないところへ乗り込もうとするには少し心もとない数だ。
だが、転移の腕輪はまだ使用不可能な状態で、ショウイチ君の家へ行くことはできない。
それなら凄腕博士のラクル君なら、もしかして同じものが作れるかもと尋ねてみたのだ。
「むむ……。う〜ん、バラしていいなら二〜三日でなんとかできるかもしれないけど、はじめて見るものだから何とも言えないなぁ」
爆弾を見たラクルは異常な興味を示し、食い入るように見つめはじめた。
しかし、同じ物を作れるかどうかは不明。できても数日を要するとの事らしい。
(まあ、これ自体偶然の産物みたいな部分もあるし、再現しようとすると逆に難しいのかもしれないな)
爆弾はショウイチ君がハードディスクを作ろうとして偶然できた代物である。
そのため、別の人物が人為的に再現しようとすると、余りに不可解な構造(爆弾には不必要なものだらけ)で混乱してしまうのかもしれない。
「分かった。なら、いいよ」
諦めた俺はラクルから爆弾を取り上げると懐に仕舞った。
爆弾を再現できるかどうか分からないままに数日過ごすのはさすがにリスクが高すぎるし、ここは諦めて最後の一個を大切に使っていくしかないだろう。
「き、気になるなぁ。ねぇ、戻ってきたらちゃんと見せてくれない? すごく興味をそそられるんだけど」
俺から爆弾を取り上げられたラクルは名残惜しそうな目で俺の懐を凝視し続けながら言ってくる。
「悪い、これが最後の一個なんだ。多分向こうで使ってしまうから、持って帰って見せることはできない。もし新しく手に入ったら考えておくよ」
今回、爆弾は確実に使用するだろう。
どんな状況になるかは分からないが、使える場面は豊富にありそうだ。そのため、持ち帰ることはできない。そのことをラクルに謝りつつも、ショウイチ君から再調達できた時には見せると約束しておく。
「く、残念だよ」
ラクルは心底残念そうな声で呟いていた。
レガシーが言うにはすごい博士らしいし、未知の物には心惹かれるのかもしれない。
と、俺がラクルとの爆弾トークを終えた瞬間、ミックが前に出てきた。
「じゃあ、乗船する前にこいつを渡しておく、穴が開くまでじっくりと見ろよ?」
そう言いながらミックが俺たちに紙切れを渡してまわった。




