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ミックの運転する装甲車は舗装されていない凹凸の激しい地面を物ともせず、森の中を軽快に走っていた。
助手席に座った俺はミックの隣でぼんやりと正面を見ていた。かなりの速度で走っているせいか、あっという間に景色が後ろへと過ぎていく。
運転はミックがやってくれるし、しばらくはのんびりできそうである。
(あー、そういやボロボロになっちまったんだよな……)
少しゆっくりと思考できる時間ができたせいか、前回の戦闘でドスの刃がボロボロになってしまったことを思い出す。鞘に納まったドスを手に取り、感慨にふける。
こいつには散々世話になってきたので愛着もあり、ちょっと悲しい。
俺は無残な姿となってしまった刀身を見ようと、鞘からドスを抜いた。
「あれ?」
しかし、刃は欠け一つなく、とても綺麗な状態だった。
(あ、そういえば)
と、ここで思い出す。
以前、武器を見てもらった際、このドスは魔力コーティングが施してあり、多少の傷なら自己修復するということを。
「おお〜、無事でよかった」
と、刃に頬ずりする。
俺の命綱のひとつでもある得物が無事で何よりである。
「おいおい、とうとうおかしくなったか?」
俺が刃に頬ずりしているところをタイミング悪くミックに見られてしまう。
運転に集中していればいいものを……。
「ち、違うんだ。つい嬉しくて」
「嬉しいと刃に頬ずりしてしまうんだな、そうかそうか」
その通りなのだが、うまく伝わっていない気がするのは気のせいだろうか。
俺とミックがそんな会話をしていると、車外に見える景色のずっと先に、気になるものを見つける。
が、車が走行中のため、このままだと追い抜いてしまいそうだ。
俺は運転中のミックに慌てて声をかけた。
「おい、ちょっと止まってくれ」
「どうした? あと少しで着くんだが。ションベンか?」
先ほどとは打って変わって、運転に集中しているミックがこちらも見ずに聞いてくる。
「ちげーよ。あれ、レガシーじゃないか?」
俺はミックの問いを否定しつつ、少し先に見える点のような人影を指さした。
さすがにちょっと距離が開きすぎていて自信がないが、多分そうじゃないだろうか。
今はミックたちが使っている隠れアジトへ向かっている最中。こんなところで一般人に出くわす可能性はゼロ。襲撃者なら、こんな視界が開けた場所をウロウロしているとは考えにくい。となると、同じ目的で同じ場所を目指す人間に遭遇したと考えた方が自然だ。
「おお、確かに。近づいて確認してみるか」
そう言うや否や、点のように見える人影目がけて車を加速させるミック。
おいおい轢いちゃうんじゃないだろうな、と心配するほどの速度が出ただけあって、小さく見えた人影が見る見るうちに大きくなり、見覚えのある懐かしい背中へと変化する。
(いつものジャケットだわ……)
近づくにつれ、銀色の髪と褐色の肌に見覚えのある服装がはっきりと見え、確信する。
どうやら俺の予想通りレガシーだったようだ。
そんなことを考えているうちにレガシーを少し追い抜いたところでミックが車を停めた。
「お嬢さん、どこ行くの? 俺が送っていくよ」
「俺がお嬢さんに見えるなら医者に行くことを勧める」
ミックの言葉に黒目部分が赤、白目部分が黒、顔に大きく角の刺青が入った顔が振り返って、ため息を吐く。悪魔顔で呆れ顔のレガシーは肩をすくめて見せた。
しかし、俺は全く別の視点でミックの言葉を聞き、驚愕していた。
「くっ……、淀みなくスラスラと言いやがった。言い慣れてやがる」
そう、サラッと言ったのだ。普段から日常的に言ってる感じで。
もし、俺が言うと“あ、あの……、も、もしよかったら送っていきましょうか。一緒の方向だし。あ、いえ、別に住所を知ってるとかそういうわけじゃないですけど、はい”とか無駄に挙動不審になって気持ち悪がられるだけだというのに。これが経験の差というやつなんだろう。
「歩いたら意外と時間がかかっちまったせいで追いつかれたみたいだな」
俺がどうでもいいことを考えている間に、レガシーが後部座席へと乗り込みながら呟く。
「え、歩いたの!?」
こっちは車でスイスイと来たが、ここまでかなりの距離があった。
徒歩で移動となると、かなり面倒だったはずだ。
何も移動手段がなかったのだろうか。
「まあ、後ろ姿を見たときからずっと歩いてたよな」
ミックが車を発進させながら、俺の言葉に反応して呟く。
そう言われるとその通りだった。
「追跡される可能性を考えて徒歩にしたんだが、お前たちが目立つのを気にせずに車を走らせているのを見るに、何か足を借りるべきだったと絶賛後悔中だ」
どうやらレガシーは細心の注意を払ってここまで来たようだ。
それに比べて俺たちは爆音を立てて爆走の状態。非常に恥ずかしい次第である。
「ま、まあ、そのお陰で合流できたし、いいじゃん」
結局レガシーが徒歩で移動してくれたお陰で目的地へ到着する前に会えたし、これはこれで良かったのではないだろうか。
「そうそう、物事はポジティブに考えるべきだ。お、着いたぞ」
ミックが到着を告げると同時に車を停める。
周囲は雑木林がなくなり、少し開けた場所になっていた。
そんな正面には崖があり、行き止まりだった。
崖に沿って視線を這わせると、洞窟らしきものが目に留まる。
どうやらあれがミックたちが使っていた拠点のひとつ。合流場所となっていた隠れアジトらしい。
俺たちは車から降りると、洞窟の入口目指して歩き出した。
「待て、気配を探る」
洞窟の前に到着すると、俺は二人を手で制し、中の気配を探ることにする。
言い方は悪いが、本来この場には誰も居ない方が自然だ。
なぜなら、ここに集うべき者たちは皆、奇襲を受けてここへ辿り着けていないはずだからだ。
いや、もしかしたらうまく逃げ延びてきている生存者がいるかもしれない。
しかし、俺自身としてはその可能性は低いと考えていた。
サイルミ発射場で敵から話を聞いた状況を思い出すと、相手は勝ち誇るように言っていた。それに比較して、話を聞いたミックは完全にしてやられたという感じだったのだ。
もしミックに仲間の生存を確信する何かがあれば話を聞いても動じない、もしくはいつものようにそれくらいなら大丈夫と笑い飛ばしていたはずだ。
だが、そうではなかった。客観的に見て、負けを悟ったかのような表情だったのだ。
きっとここへ来たのは無事を確認するというより、駄目だったことを認識するために来たという意味合いの方が濃厚。
誰かがそう言ったわけではないが、皆、多少はそう意識しているはずだ。
そうなってくると、この場に誰か居るとなった場合、それは難を逃れた味方より、待ち伏せする敵だった方がより説得力がある。
といった理由での【気配察知】の使用であった。
意識を集中し、気配を探る。
すると、洞窟のかなり奥深いところから、人の気配をひとつ感じ取ることができた。
「多分、ひとりしかいない。待ち伏せじゃないか?」
俺は後ろにいる二人に振り向きつつ、気配を探った結果を報告する。




