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 ミックにそう言われ、左手と右手をじっくりと見比べてみると確かに色が違う。


 左手の方が微妙に白っぽい。本来切断されてなくなっていた部分の皮膚の色が妙に青白いのだ。



「気づいたみたいだな。お前の左手はあとから移植されたものだ。移植……でもないかなぁ。まあ、違和感はないだろ?」


「他の人間の死体の手とかを移植したのか?」


 ちょっとしたフランケン状態なのだろうか。まあ、問題なく動くならそれでいいか。


「いや、寄生生物だ。そいつは義肢蟲と言って、お前の寿命をおおよそ二十年減らす代わりに無くなった部位に擬態し、一生を終える。便利な生き物だろ?」


「え、寄生生物? 義肢蟲? いや、そこはまあ……いい。いや、良くはないけど置いておこう。それより寿命がどうとかって、今言わなかった?」


 超大事なことをさらっと言った気がしたのだが、気のせいだったのだろうか。


 気になった俺はミックの方へ視線を向けるも、ミックは顔を反らしたままこちらを向こうとしない。


「新しい相棒に名前でも付けてやれよ。ジャガーとかどうだ? かっこいいじゃねえか」

「そう、そのジャガー君が俺の寿命を減らすとか減らさないって部分について詳しく頼む」


 ジャガーとかどうでもいいんだよ! という心の叫びは置いておき、少しでも現状を把握しようとする俺。とっても知りたい事ができると、人は案外冷静になるものだ。


「ジャガー君はお前と共生状態にあるから、お前の手の代わりをする代わりに報酬が欲しいわけなんだ。それがお前が生きていくうえでも結構大事なものってだけだ。ちょっとくらい分けてやれよ、な?」


 固いこと言うなって、とミックはヘラヘラと笑いかけてくる。


 なんだろう、キープしていたボトルをこっそり飲まれたくらいのテンションだが、その程度のことなのだろうか。


「二十年はちょっと……、なのか? それにこの世界にはすごい義手とかあるじゃん。あれで良かったんじゃないのか?」


 わざわざそんなヤバイ生き物を体内に住まわせるより、ロボロボしいアームを付けた方がいいんじゃないだろうか。現に俺が目撃した義手は手の部分から鉄杭を発射していたし、便利機能満載って感じだった。あれ……、ちょっとかっこよかったんだよな。


「義手は高いし、適正がないと動かないぞ? ちなみにお前は魔力があるのか? なかったら義手をつけても指一本動かんぞ」


「そうだったのか。……それでも、やるなら一応聞いて欲しかったぞ」


 残念ながら、義手は魔力がないと動かないらしい。だが、それならそれで寄生生物を入れると、ひと言くらい言ってくれても良かったんじゃないだろうか。無断でそんなものをポンポン入れられるこっちの身にもなってほしい。


「あんまり細かいことでグダグダ言うなよ。大体、左手無しのままだったら、お前死んでたんだぞ?」

「え、なんでそうなる?」


 問い返した俺にミックがやれやれと首を振りながら口を開く。


「俺たちがお前を見つけたときには、意識を失ってから相当時間が経過してたんだよ。お前、血の海に沈んでたんだぞ? 大体、腕以外も色んなところが切れてたの覚えてないのか? だからさっさと傷を塞ぐ必要があったんだよ。ポーションも使ったが、それでも五分五分だったんで義肢蟲を使ったんだ。俺が念のためにジャガー君を持って来ていたお陰で命拾いしたんだから感謝しろよ」


 ミックは一息で話すと、肩をすくめてみせる。


「そうだったのか。……すまん、そしてありがとう」


 事情を把握し、素直に謝罪とお礼を言う。



 よくよく考えれば、手当てのひとつもせずに気絶してしまったのだ。


 あのまま野ざらしで倒れていれば確実に死んでいたのは間違いないだろう。


 そんな俺を探し出して救ってくれたのだから、八つ当たりもいいところだ。



「おう、気にすんなって。これで俺とお揃いなんだし、な?」


 そう言ってミックは両手の指で両眼の下目蓋をくいっと下げて見せる。


 なぜここであっかんべーをする、と疑問に思うもその理由はすぐ分かった。


 ミックが指で目蓋を固定したため、眼球が大きく露出し、白目部分がよく見えた。その白目部分がわずかに青白い。俺の左手と同じような雰囲気を放っている。


「お前、その目……」

「おう、右がデビッド君で左がジョニー君な。今、名付けた」


 片目に一匹ずつで計二匹。ということはマイナス四十年。それは……さすがにヤバイんじゃないのだろうか。


「二匹も寄生させて大丈夫なのか?」

「まあ、な。日常生活を送るなら片目だけでも良かったんだが、今の仕事をするには両眼が必要だったからな」


「そ、そうか……。そういえばあれからどうなったんだ? 俺は意識を失う前にとんでもないものを見たんだが……」


 ミックの仕事に対する覚悟に驚きつつも、“仕事”という言葉でまた一つ記憶が甦る。


 俺は確かにSHBを停止させることに成功した。


 だが、意識を失う直前に見たのは、三つのキノコ雲。あの威力から察するに、あれは間違いなくSHBだ。意識を失ってから数日が経過しているというし、どうなったのだろうか。



「あー……、俺もここでお前につきっきりでいたわけだから詳しくは分からん。ただ、シュッラーノ国にSHBが落ちたのは確実だ」


「やっぱり。俺もそれは見たよ。その後どうなったんだ? 何か変化はあったのか?」


「まあな。とりあえず、後ろを見てみろよ」


「後ろ?」


 ミックの言葉に首を動かし、背後を見る。



 すると――。


「なに……、あれ……?」


 俺の背後、そこには入道雲かと見紛うばかりのデカさで何かが浮いていた。


 じっくりと目を凝らすと、それが人工物であることが分かる。


「空中要塞イゴス。分かり易く表現するなら古代兵器だ。といっても兵装の類いは劣化して使えないから現代のものが積まれているけどな」

「へ、へぇ〜……。結構遠くにあるはずなのに、やたらはっきり見えるな」


 はっきり、くっきり見える、のに細部がよく見えない。それだけ遠くにあるってことなんだろう。……しかし、デカい。


「まあ、あのデカさだからな。あれがサイヨウ国から現れて、今の位置に陣取ってしばらく経つな」

「あれって位置的に言うとミーニ国の上だよな?」


 自分の現在地、シュッラーノ国の方向などを照らし合わせると、空中要塞イゴスなるものが停留しているのはミーニ国の上空のような気がしてならない。


「そうそう、よく分かったな。あそこに居座って、魔法都市がある国に降伏勧告してた。大人しく従わないなら、次に出すのは宣戦布告かな?」

「もう……、何言ってるか分かんないんですけど」


 ミックが話す内容は寝起きの頭には理解し難い発言がてんこ盛りであり、百パーセントのパワーを発揮しても泥沼のごとき俺の脳みそには理解できそうにない。


 ここは頭をシャッキリさせるためにも糖分の摂取が必須と思われるが、ついさっきドーナツ食って吐いたばっかりだ。などと考えている間もミックの話は続く。


「魔法都市がある国はな、周囲の国と関わりが薄いんだわ」

「ん?」

「だから忘れがちなんだが、世界で一番強い国なわけよ。つまりそこに勝てば、そこからドンドン手を広げて世界を征服できるって考えてるんだろうな」


 ミックの話を俺の泥沼のフィルターでろ過したところ、どうやらあの空中要塞さんは、最強の国に喧嘩を売り、それに勝利するつもりでいるようだ。


 そして幸運にも喧嘩に勝てば、世界一の称号が魔法都市から空中要塞へと移行し、その後光で全ての国がひれ伏すなどという考えらしい。いや……、さすがにそれは無理だろう、と思う。


(…………あ、……SHBか)



 とここで、はたとSHBの存在を思い出す。



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