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本作品は残酷なシーンが含まれます。そういった描写に不快感を感じられる方は読むのをお控えくださいますようお願いします。
あらすじにも書いてありますが本作品は残酷なシーン、登場人物の死亡、主人公が殺人を犯す描写が出てきます。なろう内の投稿作品を見ていると該当話の前書きに注意書きをするのをよく見受けますが、本作は該当シーンがネタバレになる部分もあるため前書きでの注意喚起は行わない予定です。また、そのシーンを読み飛ばして読んでも意味が分からなくなってしまうというのもあります。そのため冒頭に当たる第一話での注意喚起とさせていただきます。ご了承ください。
■本章を読んで頂くにあたって■
・更新をお待ちいただいていた方には長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。
・本章はタイトルからのネタバレを防ぐため、話数のみの表示とさせていただきます。
・元々、前後編として執筆していたため、二章分の分量があります。
・本章でこの作品は完結します。そのため、いつもの○章を終えてのオマケ補完コーナーはありません。
・ケンタ視点→蛇腹剣、それ以外→魔法剣となっております。
・毎日11時更新でいきます。
「参ったね……」
ファミレスの固めのソファに腰掛けた俺は、しんみりとため息を吐いた。
俺がぼんやりと見つめる視線の先には、安っぽいティーカップあった。
カップの中ではティーバックがゆらゆらと揺れている。ティーバックからはじんわりと薄茶色の濁りが滲み出し、透明だった白湯に色をつけていく。
(最悪だな)
俺が深夜のファミレスで後悔している理由。それは少し時間をさかのぼることになる。
数日前、なぜか元の世界に帰って来れた俺は異世界転生前と変わらない生活を送りはじめた。色々あった割には以前と何も変わらない歯車ライフを繰り返す中、事件は起こってしまった。
その日も仕事が遅くまで終わらず、ネカフェで仮眠を取るか帰宅するかを選択する事になった。結果、睡眠時間を少しでも多く取ろうと考えた俺は駅前のネカフェへと行くことを選んだ。
これが失敗の原因だった。
大体ネカフェというものは駅の側にあったとしても、ちょっと入り組んだところや微妙に不便な立地にあるものだ。俺が目指したネカフェもそういった場所にあった。
深夜だから人気なんて全くない上に目的地に近づくにつれ、明かりも少なくなっていき駅前とは思えないほど静かで暗くなっていった。
異世界へいく前の俺なら、そういった状況に陥ると少なからず気味悪がるし、ビクビクしたものだ。だが、異世界で色々経験しちゃった結果、変なところで肝が据わってしまい、何も感じなかった。だからズンズン進んで目的地を目指す。
そして事件に遭遇してしまった。
ケンカである。
実力の拮抗した者同士のケンカというわけではなく、一方的な暴行だった。
ひたすらに肉を蹴る音が鳴り続ける路地裏。さすが俺の仕事場が近くにあるだけあって治安が悪い。
ここで俺はまたミスを犯してしまう。
以前の俺なら通報、もしくは人を呼びに行っただろう。
だが、この時の俺はどちらの行動も選択しなかった。何をとち狂ったのか、ケンカを止めに入ってしまったのだ。
一人で充分だ。なんとかなる。そう思っていたし、本当にそうなった。
暴力を振るっていた相手を諭している間に、振るわれていた方は逃げ出した。
だが、暴力を振るっていた男はそれでおさまらず、こちらにつっかかってきた。
だから、相手を転倒させた。
簡単だった。相手の行動が止まって見えた。相手を倒し、懐にあったボールペンをのどに突き刺そうとした。そこではっとなり、我に返った。
自分は何をしようとしていたのか、と。
しかも最悪なのはボールペンを突きたてる際に考えていたことだ。
その時俺は、ボールペンだと頭蓋は貫けないから首だな、などと普通に考えていたのだ。
本当に恥ずかしい思考だ。中二病全開である。
しかし、そんな自分を擁護することはできる。
それが自然な発想として想起されるほどに人を殺してしまっているのだ。
(何人だ……?)
五十は絶対に越えている。下手したら百を超えているかもしれない。
百人斬りのケンタ。超カッコイイ。人を百人ほど殺めてしまってね……、とか普通に言えちゃうわけだ。
しかし、実際にそんな経歴を得てしまうと、厄介以外なにものでもない。
しかも元の世界に戻った後は、そんな経験を活かすこともできない。それはそれで喜ばしいことなのだが……。今回のように荒事に遭遇すると、条件反射で普通に殺そうとしてしまうわけなのである。
つっかかってきた男を殺そうとして我に返った俺は、慌ててその場から逃げ出した。
しかし、その出来事はその場だけで終わらなかった。
なんと職場に警察が来る事態へと発展してしまったのだ。
どうやら暴力を振るっていた男が警察へ駆け込んで騒いだらしい。
はじめに襲われていた男は見つからず、逆に詳細が判明したのが現場の近所にあるネカフェをよく利用していた俺だけという始末。
だが、全ての行動が防犯カメラに映っていたらしい。
当然、ケンカを止めようとしていたところも映っていたので、それ以上大事になることはなかったが、日常に楔を打ち込まれるには充分な結果となってしまった。
残ったのは暴力を止めるために暴力を振るった男が俺という事実だけだった。
おかげでどこにいても居心地が悪い。
情報の伝達が限界まで発達したこの世界での失敗は、ワンアウトどころかワンストライクでも致命的。
当然、デッドボールを出した俺の処遇は、ネット上で磔の刑になって石を投げられるといういたって平凡なものだった。
そんな俺に残された数少ない安息の地がこのファミレスだ。
と、いうわけで少しでも心を休めたい俺は深夜のファミレスで茶色く濁った白湯を眺めるはめになってしまっているのである。
「やっぱり炭酸系にするか」
ここはシュワッとするものでも飲んで、爽快な気分を味わおう。モヤモヤした気分を吹き飛ばすにはそっちの方がいい。そう考えた俺は茶ばんだ白湯には一切口をつけずに席を立ち、ドリンクバーを目指そうとした。だが、眼前に男が立ちふさがり、前に進めない。
(なんだ?)
深夜のファミレス。
がら空き状態なのに、なぜ俺の前に人が居る? と、いぶかしみつつ立ちはだかる人物へと視線を向ける。
するとそこには、ビキニを着た中年太りのおっさんが仁王立ちになって笑顔を振りまいていた。
おっさんはちょっと日焼け気味の茶色い肌に、髪は多めの油でオールバックにしていた。後はビキニしか穿いてないので、外見で説明できる部分が何もない。
笑顔のおっさんはプラスチック製のおもちゃのバケツを持っていた。
もうどこから突っ込んだらいいのか分からない。
深夜のファミレス……、どうやら俺が異世界に転生している間に魔境になってしまったようだ。
「あの、すいません……、通ります」
俺はそう言って軽く頭を下げると、おっさんの横を抜けようとした。
しかし、おっさんは軽やかなフットワークで俺の正面に移動してくる。
――このおっさん、素早い。
かなり素早いおっさんだ。
そして、通れない。店員を呼ぶべきだろうか。
「オールドファッションおじさんだよ!」
おっさんはそう言った。立ち退いてはくれなかったし、言っている意味も分からなかった。
「あの……」
関わりたくなかったので離れようとするも、おっさんのマークが的確で抜くことができない。ナイスディフェンスだった。
「あ、オールドファッションなのにチョコがないと思ってるんだね! 大丈夫だよ!」
おっさんはそう言うと、持っていたおもちゃのバケツを掲げてみせる。
そこで俺は戦慄した。バケツの中身はチョコだった。しかも溶けている液状のチョコレートだったのだ。それがバケツ一杯に詰まっていた。
凶悪に嫌な予感がする。
今すぐこの場を離れないと、まずい気がしてならない。
「ほぅらっ! オールドファッションおじさんだよ!」
おっさんはそう言うと、バケツを頭上で引っくり返し、溶けたチョコを全身に浴びた。そしてバケツを投げ捨てると、俺の方を凝視しながらジリジリとにじり寄りはじめた。
「く、来るなっ!」
俺は怯えながら叫んだ。なんとかおっさんから離れようとする。
しかし、おっさんが席の前に立っているため、逃げ道がない。
やむなくソファの上へ乗り上げ、後退する。
「オールドファッションはドーナツなんだよ!」
おっさんはディフェンスを崩さず、笑顔で俺の方へとじりじりと迫ってくる。
「知ってる、知ってるから! 店員さーーんッ! 店員さーーーーんッッ! うおおおおおおおおおおおおお! 誰でもいいから助けてくれぇえええええええっ!」
俺は叫んだ。
必死に店員さんを呼び、最終的に誰でもいいから助けてくれてと叫んだ。
しかし、誰も来ない。深夜のファミレスは一切人の気配がなく、途轍もなく静かだった。
「ぼくを食べて元気になるんだ!」
カバディを彷彿とさせる動作で素早く寄って来るおっさんが、我を食せと言ってくる。
「店員さああああああああああんんッッッ! 寄るんじゃねぇえええええっ!」
ほぼ全裸のおっさんが液体化したチョコを全身に浴び、迫ってくる恐怖。
おっさんの髪から発せられる油の臭いと、チョコの匂いが混ざり合って俺の鼻をつく。
(殺るか……?)
一刻の猶予もない。非常に危険な状態だ。
しかし、接近すれば油とチョコがつく。それはいやだ。だが、何もしないでいると大惨事を招きかねない事態ではある。
(でも……、これ以上暴力沙汰は起こしたくない……)
ファミレスで事件を起こせば、もう回避不能。全てが終わる。
「ぐおおおおおおおッ、どうすりゃいいんだぁああああッ!?」
苦悩の末、叫ぶ。大体なんでこのおっさんはこんなに素早いんだ。
俺が逃げ切れないなんてありえない。一体このおっさんは何者なんだ。
「オールドファッションおじさんだよ!」
「それは知ってる!」
そういうことじゃない。そういうことが知りたいんじゃないんだ。
「さあ、ぼくを食べて!」
おっさんは体を振り乱しながら高速で接近してくる。一気に距離を詰め、鼻先にまで近づいてきた。油とチョコの臭いが強烈になる。絶体絶命だ。
「さあ、さあさあさあっ!」
おっさんが全身を使って不思議な踊りを披露する。飛び散る汗とチョコが俺に襲い掛かる。
正に地獄。どうして俺はこんな目に……。
「悪夢だ……」
そう呟くのと、おっさんが俺へ向けてダイブするのが同時となる。
――終わった。
「はっ!?」
と、そこで目が覚めた。




