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11 連携


(明日も何もできなかったら、パーティー組んだ意味がないよな)


 俺はオリン婆さんの後姿を見送りながら明日からどうするべきか考えていた。



「……弓を買いに行くか」



 走っている間に倒されてしまうなら、その場から攻撃できる弓ならなんとかなるだろう。


 オリン婆さんでも距離の離れた二体を倒す時は多少時間がかかっていた。


 今日はそういう時に走って接近していたら間に合わなかったが、弓なら間に合うはず。


 一応使ったこともあるし、なんとかなりそうな気がする。


「うし、買うついでに剣にも触って職業を戦士にしておくか!」


 狩人もスキルレベルが上限に到達したので別の職業に変えないとスキル経験値が無駄になる。



 スーラムの街での兄貴達の会話や新人講習で受けた内容を参考にすると、パーティを組むと止めを刺した人だけに経験値が入るのではなく、パーティメンバー全員に恩恵があるようなので新しい職業になっておいた方がお得だ。


 特に今日のような討伐数を保持できるならかなり美味しい。


 スキルレベルはレベル2までは比較的早く上がるので、三日目には余裕で上がりそうだ。


 俺は弓で活躍する自分の姿を想像しながら武器屋へ向かった。


 戦士スキル

 LV1 剣術(剣の扱いが上手くなる)


 武器屋で剣に触れ、早速戦士になってみる。



 戦士スキルのLV1はやはり【剣術】だった。


 今回は弓を使う予定なのでしばらく活躍することはなさそうだが、剣は武器としては標準的なものなので、いつかは使う機会も来るだろう。



 次に弓を購入する。


 色々な弓を手にとって見比べてみると不思議なことに気づく。


 スキル【弓術】の影響なのか、弓の良し悪しがある程度わかるようになっていたのだ。



 色々見て周り、俺でも手を出せる品の中で一番品質の良さそうな物を選んで購入した。


 これを使って明日は討伐に貢献したいところだ。


 今まで石しか使ってこなかったので武器らしい武器を持つことでテンションが上がってしまい、軽い興奮状態になった俺は鼻息荒く宿に戻った。



 翌朝、弓を背負い集合場所へ向かう。


 昨日話し合った結果、今日からはダンジョン前に直接集合する形になった。


 ダンジョンへ到着すると、入り口で腕組みして待っているオリン婆さんが見えた。


 待たせてしまったことに慌てた俺はオリン婆さんの側へ小走りで近づく。


「アンタ、職業はないだい?」


 開口一番オリン婆さんに職質を受ける。


「………………戦士だ」


 そんなオリン婆さんの質問に、汚れてもいいボロボロの服を着て、弓を背負った俺は堂々と目をそらして答えた。


「そうかい? 最近の戦士は弓を剣代わりにするのかねぇ」


「大丈夫だから!」


「弓は素人がそう簡単に使えるもんじゃないよ」


 オリン婆さんに疑いの眼差しを向けられるが仕方ない。


 実際には問題なく使えるので、射るところを見せれば納得してくれるだろう。



「そういう婆さんこそ蛇に刀で大丈夫か? あいつら地面すれすれを動き回るから近接武器は当て辛いぞ」


 俺は石で勝負を挑んだときのことを思い出しながら話す。


 あのときはキラースネークを抱き枕のように抱えて地面をゴロゴロしまくった無様な戦い方だった。



「確かに足元に刀を振り続けるのは面倒だから飛び掛ってきたところを狙うことにするよ」


(あ、できそう。しかも綺麗にスライスしそう)


 ゴブリンの捌き具合を見ていたら、飛び掛ってくる蛇など難なく二等分にするところが容易に想像できてしまう。


「じゃあ、行きますか」


「あいよ。その弓、アタシに当てたらただじゃおかないからね」


 オリン婆さんに釘を刺されてしまう。多分、振りではないと思う。


 二人でダンジョンに入ると、俺が【気配察知】でモンスターの気配を探りながら先を進む。


 オリン婆さんに怪しまれないため【気配遮断】と【忍び足】のコンボは使用しないようにしている。


 足音がしないこととかあっさり気づかれそうだし、余計な言い訳を増やしてしまうだけだ。



 しばらく探索を続けるとキラースネークを一匹発見した。


 距離は十分にあるため向こうはまだこちらに気づいていない様子。


「本当に当たるかやってみな」


 オリン婆さんは顎をしゃくってキラースネークを指す。


「おう」


 俺は頷くと弓を構え、矢を番える。


 スキル【弓術】の影響で矢の軌道が赤いラインとなって構えた矢の先からスッと出る。


 しっかり構えて赤いラインを蛇の眉間に合わせ、矢を射る。


 矢はライン上を辿り、キラースネークの額にスコンと小気味いい音を立てて刺さった。


 一撃で仕留めることに成功し、振り向く。


「大丈夫って言ったろ?」


 ちょっと自分でも嬉しかったので、胸を張りドヤ気味に言ってしまう。


「まぐれにしてはいい当たり方だったねぇ。その調子で頼むよ」


 言い方は相変わらずだが、無事問題なしと判断されたようだ。



 そんなことを話している内にキラースネークがダンジョンに喰われ、魔石が残っていた。


 それと同時に刺さっていた矢も床に転がっている。


 俺は屈んで魔石と矢を拾う。


 これなら刺さった矢も抜かずに回収できるのでダンジョン内で使う分には矢も傷みにくいだろう。懐の寂しい俺にはありがたい。


 自分でも手応えを感じたので今日は弓での援護を主軸に動くことにして探索を続けた。


 …………


「……また、オリン無双だった」


 ダンジョン探索を終えると自然とそんな言葉が出た。


「まあ、頑張ったんじゃないかい?」


 初日に比べれば格段にやれることが増えたが、それでもオリン婆さんの活躍は圧倒的だった。


 オリン婆さんから距離が離れたキラースネークを射ることがうまくいけばいくほど、無駄な動きが減り、討伐スピードが上がっていく。


 俺の【気配察知】で次の獲物をすぐ見つけることができるのでタイムロスも少ない。


 それは好循環に繋がり、異常な数のキラースネークを倒すことに成功した…………。



 オリン婆さんが。


 俺はアシストしたに過ぎないので倒した数は気が引けるほどに少ない。


 だが、これも活躍の仕方の一つだと思う。


「俺は頑張った!」


「まぁ、確かにアタシ一人じゃこうはいかないだろうね」


「だろ?」


「特にアンタはモンスターを見つけるのがうまいね」


「ふふん」


「でも倒したのはアタシさ」


「その通り!」


「アタシは敵を狩る、アンタは怯えて後ろで震える。適材適所ってやつだね」


「震えてねぇから! ちゃんと援護してただろ!」


「はいはい。援護々々」


 口では言い合っているが、顔は二人とも笑顔だ。報酬も十分得たし顔も緩む。



「これなら問題ないし、明日もキラースネークのダンジョンでいいか?」


「ああ。いい調子だし、このままで問題ないよ」


「じゃあ、明日だな。今日はありがとう」


「ふふ、明日も戦士の弓使いに期待してるよ」


 お互い別れを告げ、上機嫌で帰った。


 …………


 そして翌日の狩りも問題なく終わった。


「これで契約期間の三日も終了か」


 思い返すと中々うまくいった三日間だった。


 当初考えていた護衛から一転し、護衛対象が前衛で活躍し、護衛する側が後ろで援護するという思いもしない結果になったが、とてもうまく連携できたと思う。


 それは俺の感覚だけではなく、きっちり報酬という形で現れていた。


 俺としてはこのまま再契約したいところだが、オリン婆さんにとってそれはあまりうまい話ではない。


 初日から比べると俺が見てもわかるほどオリン婆さんの動きが格段に変わっていた。


 勘が鈍っているというのは虚勢ではなく本当だったのだろう。



 はじめて敵を狩る動きを見たときから思っていたが、オリン婆さんなら中級者用ダンジョンも無理をしなければ一人で探索できるのではないだろうか。


 動きに鋭さが増している今ならなおさらだ。


 そうなってくると、俺と初心者用ダンジョンに潜る意味はない。



「三日間ありがとうございました。俺としては再契約してほしいところだけど、これからどうする? 初心者用ダンジョンなら俺と行った方が数がこなせる分稼げると思うけど、婆さんなら中級者用ダンジョンでも一人で行ける気がする」


「そうだねぇ……」


 オリン婆さんは腕組みをして考え込んでいる。



 いくら問題ないとはいえダンジョン内を一人で行動するのはリスクが伴う。


 報酬と危険度を天秤にかけ迷っているのだろう。



「アンタにゃ悪いけど、中級者用ダンジョンに行ってみることにするよ。三日間世話になったね」


「世話になったのはこっちだよ。俺もそのうち中級者用ダンジョンに行けるようになるから、そのときはまたパーティーを組んでもらえると助かる」


「アンタなら歓迎さ。さっさと上がってきな」


「ありがとう。すぐ追いついてみせるさ」


「中級に上がるまでに、せめて剣ぐらいは使えるようになりな」


「俺は戦士だぜ? もう使えるに決まってるだろ」


 二日前までは使えなかったが今なら大丈夫だと思うので胸を張って応える。



「そいつは頼もしいことだね」


 全く信用されていないのか、ジト目で睨まれた。


「そ、そうだ、俺が奢るから打ち上げに行かないか?」


 俺は居心地の悪い視線から逃れるために思いつきでそんな提案してしまう。



「アタシの行き着けでいいなら構わないよ」


「へぇ〜、そんな所があるんだ。じゃあ案内頼んでいいかな」


「着いてきな。アタシャどうもここの料理が舌に合わなくてねぇ。その店はうちの郷土料理を出してる店さ」


 そんな会話をしながらオリン婆さんの後に着いて行く。


 オリン婆さんは軽い足取りで俺が近寄らなかったちょっと怪しげな店が建ち並ぶエリアに入っていく。


 道行く人にもチラホラ堅気じゃないオーラが出ている人を見かける。


 スーラムにいた頃を思い出し、ちょっと不安になってくる。


 ほどなくすると人だかりが見えてきた。


「おお、こんなに人が並んでるなんて有名な店なんだな」


「何言ってるんだい、ありゃ死体に野次馬が群がってるだけだ」


「……え?」


「この辺じゃたまにあるのさ。ほら、覗いてみな」


 俺は言われるがままにごった返す人ごみの小さな隙間から頭だけをねじ込んで人だかりの中心を見た。


 そこには三人の死体があった。どうやら服装からして全員冒険者のようだ。


 そして、三人の内一人には見覚えがあった。


(あ……)


 それは新人狩りの一件で会った男性冒険者だった。


 ということは残りの二人は賭場でギャングと揉めた仲間ではないだろうか。



「ここら辺はギャングが我が物顔で闊歩してるからねぇ。目をつけられるとあの様さ」


 三人の状態を見る限り、ダンジョンでも色々誤魔化そうとしていたが結局駄目だったようだ。


 オリン婆さんも言っている通り一度目をつけられると執拗に絡まれるのだろう。


(俺も気をつけないとな……)


 俺は心の中で三人に手を合わせる。


「いつまで見てるんだい、こっちだよ」


 人だかりから離れ、オリン婆さんの案内でメインの通りから少し離れたところに入って行く。


 そこは小さな飲食店が長屋のように連なっているところだった。


「ここだよ。入りな」


 そう言って一つの店の前に立ち、のれんをくぐって中に入っていく。


 俺も慌てて後を追った。


「……らっしゃい」


 中はカウンターのみのシンプルな店で従業員も店主一人だけだった。


「いつもの日替わりを頼むよ。後、酒も適当なのをお願いするよ」


「あ、同じ物でよろしく」


 メニューも何もない店だったのでオリン婆さんと同じものを頼む。



 ……一体何が出てくるのか不安だ。


 店主一人の店だし料理ができるまでしばらくかかりそうなので前からどうしても気になっていたことをオリン婆さんに切り出してみる。


「婆さん、一つお願いがあるんだけど」


「何だい改まって、気持ち悪いね」


「その刀、見せてもらえませんか?」


 どう見ても高価そうだし、自分の武器をおいそれと手放すとは思えなかったので今までは我慢していたのだが、今日でしばらく会えないだろうし駄目もとで聞いてみる。


「刃に触るんじゃないよ」


 オリン婆さんは腰から一本の刀を外し、俺に渡してくれる。意外にもあっさり見せてくれた。


「ありがとう。この辺じゃ見たことなかったから気になってたんだ」


 ……そう、ずっと気になっていた。


 そして刀を持ち、刃を見るフリをしながら気になっていたことを試す。


 サムライスキル


 LV1 居合い術(刀を装備したときのみ使える剣術)


(うおっっしゃー!)


 刀を握ると職業の欄にサムライが追加されていたので迷わず選択した。


【居合い術】は刀を手に入れない限り使用できないみたいだが、スキルレベルが上がれば面白いスキルが手に入るかもしれない。


「ありがとうございました」


 喜びで我を忘れそうになるも、用が済んだので刀をオリン婆さんに返す。



「確かに、この辺りじゃ高級店でしか売ってないだろうからね」


「おお、売ってはいるんだ」


 これならお金を貯めれば俺も【居合い術】を使えるかもしれない。



 それにしてもそんな高級品を持ってるオリン婆さんって何者なのだろうか。


 そもそもあれだけ強ければ冒険者の間で顔や名前を知られていてもおかしくないと思うのだが……。


「まあ、ここでは高級でも、アタシの活動していた街ではほどほどの値段だったしねぇ」


「ん、オリン婆さんって、この街に最近来たのか?」


「そうさ。地元で冒険者やってたら息子夫婦にバレるからちょっと距離を離したのさ」


 これは多分……、地元ではブイブイ言わせてた有名冒険者なのかもしれないけどこの辺りでは活動していなかったから顔も名前も知られてないため、ただのお婆さん扱いになってしまっていたんだな、と一人納得する。


「……お待ち」


 オリン婆さんのなぞが一つ解明されたころ、注文の品が来た。


 そして目の前に出された料理を見て俺は目を見開いた。



「こ、これは!」


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