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8 設計図を手に入れろ 二

 

「だな。が、問題もある」

「炉がデリケートで下手にいじると爆発するとかか?」


 爆発物の中枢だし、荒っぽく引き千切ったりしたら、その場でドカンといきそうではある。




「いや、それは大丈夫だ。誤爆しないようにかなり強固な作りになっている。問題は発射時期なわけよ」

「時期? 確か数日後にはミーニ国に撃たれるとか言ってたよな。そういや丁度そこに工程表が貼ってあったような……。って、あれ? 今日じゃね?」


 ふと思い出し、さっき目に入った工程表を確認すると、どう見ても発射の日付が今日になっている。


 ここへ来る前にルルカテの街で受けたフォグの説明によると、任務失敗すれば数日後にはミーニ国が灰になると言っていた。


 しかしその数日後というのがどの程度か分からなかったが、ここにきてその正確な日付が判明してしまう。ルルカテの街からここに到着するまでに結構日数が経っていたが、まさか今日が発射当日とは……。


「ギリギリ間に合ったって感じだな。この場所を捜索するのに時間がかかって発射の日時まで調べるに至らなかったが、今日ならまだ阻止できるぜ。だが、今日発射するって事はSHBはもう最終調整を残して万全の状態ってことだろうな」


「もう全部準備が終わってるってことか……、なら炉は……」

「そういうこった、多分炉はもう完成されたSHB内部。強固な外壁の中にある。しかも、組み立てが終了している段階だから、微妙に高いところにあるだろうな」


「そんな場所へ乗り込んで停止を狙うわけか。ってか、こんな悠長にしてて大丈夫か? この行程表には発射時刻は載ってないけど、どうするんだ?」


 工程表には発射に関する詳しい時間までは記載されていなかった。


 ミック曰く、SHBの組み立ても完了しているというし、急いだ方が良いのではないだろうか。



「発射時刻は大まかには決まっていても本決まりは天気が絡むからギリギリまで分からんはずだ。それに丁度都合良く俺ら以外にも侵入者が来てるみたいだし、それが一段落するまでは発射はしないだろうな」


「それもそうか、こんなバタバタした状況ではさすがに発射しないよな。ということは今の内に一気に進まないとまずいってことだよな」


 俺はミックの言葉にそれもそうだなと頷く。


 いくらなんでも侵入者がいる状態で発射するとは考えにくい。


 やはりそれが片付いて落ち着いてから発射となるのではないだろうか。


 希望的観測を言えば、取りやめになってくれるともっとありがたいのだが。



 どちらにせよ、今の状況を最大限に生かしてSHBの停止を急ぐべきだろう。


「ああ、もうここに用はない。さっさと行くとしようぜ」


「ん、じゃあ次はSHBへ行けばいいのか?」


 構造も把握し、停止させるポイントも分かった。


 残すところは本体であるSHBのみ。


 というわけで、いよいよ本番なのかとミックに問いかける。



「待て……。SHBがある発射場より先に管制室に行く必要がある」


「まだ何かやっておくことがあるのか?」


 てっきり後はSHBを目指すだけかと思ったら違うらしい。


 次の目的地は管制室とのこと。



「今日が発射と分かったなら行っておかないとまずいな」

「重要なものでもあるのか?」


「その通り、発射装置だ。今日が発射当日というのなら、先にそっちを機能しないようにしておかないとまずい」


 ミックの言葉を聞いて意識が足りていなかったことに気付いた俺は自然とはっとなる。



 今日SHBが発射されるというのなら、まだ大掛かりな作業をやっているとは考えにくい。


 むしろほぼ準備は終わっていて、後はボタンなりをポチッと押せば即発射される状態になっていると考えた方がいいくらいだ。



 となると、発射スイッチ的な物を破壊しておかないと、何かの拍子にポンと押されてしまったらそこで試合終了となってしまう。


 盲点というわけではないが、本体の破壊に気を取られてそこまで意識できていなかった。


「あ、そうか。ってことは発射装置を破壊するんだな」


「いや、破壊した拍子に誤作動を起こして発射したら目も当てられん。装置の起動には専用の鍵を使う。そいつを奪っておけば装置はただのガラクタだ。あと、その鍵はさっき見せた設計図にあった安全装置の起動にも使う代物だから奪うしかないってわけなんだな、これが」


「その鍵、結構重要だな」



 ミックの話によると発射装置は壊さず、起動に使う鍵を奪うとのこと。


 そしてその鍵がSHBの発射だけでなく、安全装置の起動にも使う物らしい。



「そういうこった。それが管制室にいるこの施設の責任者が持っているというわけだ」


「つまり管制室で鍵を奪って、SHBへ行き、一時停止か炉の破壊を狙うってことでいいんだな?」



「物分かりが早くて助かるぜ。じゃあ管制室へ行くとしますかね」

「なんか警備が厳重そうな印象だな」


 これから向かう目的地とその後の行動も把握した。


 しかし、その管制室という部屋。責任者がいて、発射装置があるとなると、警備が厳重そうである。そううまく鍵を入手できるのだろうか。



「んん〜、それな〜」


 俺の言葉を聞いたミックの顔がどんよりと曇る。


 その顔を見ていると、何か知っていて言いよどんでいるかのような雰囲気を感じ取ってしまう。


「なんだよ! なにか知ってる風な言い回しやめて!?」


 実はミックだけフォグから凄い大変ですよ的なことでもあらかじめ説明されていたのだろうか。


「多分警備の数は少ない。その代わりに強いのが三人、もしくは四人いる可能性がある」


 何かを思い出したかのような仕草をしたミックは凄く嫌そうな顔で強敵が待ち受ける可能性を吐露した。


「え……、お前が強いって言うなら相当だよな?」


 俺の目から見て、ミックは強い。


 そのミックが苦々しい表情で強いって言うことは洒落になっていないのではないだろうか。


「ルルカテの街で俺とフォグが話してたのを聞いたろ? 主要戦力がこっちに偏ってるって。その主要戦力って奴だな」


「じゃあ、そいつらに気づかれないように侵入するのがベストか……」


 こちらとしてはそんな面倒な奴らとやりあうのは御免だ。


 そいつらを倒すことが目的でもないし、出来ることならスルーしたい。



 ならばバレないように侵入して鍵を盗みだすのが最善。


 丁度俺はそういう事に適したスキルを多数使用できるし、もしかしたら上手くやれるかもしれない。


「まあ、大丈夫だって。可能性って言ったろ? あいつらは勤務態度が滅茶苦茶悪いから、多分責任者のボディガードとか速攻辞めて遊び歩いてるはずだ。だから大丈夫だって。丁度都合良く俺たち以外の侵入者が出たし、絶対そっちが気になって動いているはずだ」


 ミックはいつもの調子に戻ると、少しおどけながら説明を付け足す。


 それによると、主要戦力と言われるほど強い責任者のボディガードはその場にいない可能性が高いらしい。それが本当なら俺が無理してそいつらから隠れつつ鍵を奪わなくて済むし、助かる話ではある。


 そしてその説明を聞いてなんとなくだが分かる部分もある。



 多分、そいつらがこの施設で一番強いのは間違いない。


 当然責任者より強い。



 となると自分達より弱い責任者の言葉を聞かない、指示に従わない。


 責任者の方も相手が強いと分かっているから、あまり強く言えない。


 そういう歪な力関係が本来の求められる関係である一番強い者が責任者を守るという状態から遠ざかっていってしまっているのだろう。


「やけに詳しいな? まあ、いないって言うならそれにこしたことはないけど」


 どちらにせよ、いないならありがたいし、こちらも動き易い。


 が、ミックがその四人について結構知った風な事を言うのも気にはなる。


 一戦交えたことでもあるのだろうか。



「まあ、どうして詳しいかはこれが終わって気が向いたら話すわ」


「あ、それ話さないって言う遠まわしな表現だよね、ケンタ知ってる」



 知ってる知ってる〜とつい声を作って言ってしまう。


 回答をそれだけ後回しにするってことは話す気なんてサラサラないってことだ。


 “また今度”とか“機会があれば”とかってやつと同じで、二度とないって意味ですよね。


 ケンタ知ってるよ。なぜならちょいちょい言われた事があるから。



「……ちょっとその作り気味の声、……キモいな」


「笑いどころだろうが!」


 頑張って声まで作ったというのにこの辛辣さ。許せん。


「はいはい。じゃあ管制室に行くぞ?」


「ぞんざい! 扱いが雑! もっとケアして!?」


「うちのエースであるお前ならこの位平気だろ? 管制室でも頼りにしてるぞ」


「まだエースネタ引っ張るのかよ……。てか、その主要戦力がいないことを祈るぜ」


 ぶっちゃけ、こんな施設の奥深くまで入り込んで、今更強い奴がいるからやらないとか逃げるって話になるはずもない。となると残されたことは祈ることくらいだ。好き勝手やってるらしいし、その四人には是非とも別の場所でサボっていてほしいものである。


「まあ、ここまで順調だったわけだし、ここからもうまくいくって」


 俺の肩を叩きながらミックが爽やかに笑う。


 しかし、そのポジティブさが楽観的思考と紙一重なのはここ最近何度も思い知らされたので、なんともいえない気分だ。


 ――侵入者発生! 侵入者発生! 関係各位は直ちに正面入口へ集合して下さい! 繰り返します……。


 と、ここで突然警報が鳴り出す。。


「警報? 俺たちの行動がバレたか?」



「いや、お前はまだあの部屋に拘束されてると思われるし、俺はまだ見つかってない。それに放送は正面入口に集合って言ってるぞ」


「つまり、さっき聞いた“お客さん”か。誰だか知らんが、いい感じで引きつけてくれてるな」



 警報は俺たちの侵入を知らせるものではなく、別の侵入者に対するものだった。


 どうやら俺たちがここまで到達した事はその侵入者のお陰で未だバレていないようである。



 それにしても、はじめに侵入者の話を聞いてからしばらく経つが、まだ解決していないのだろうか。



 しかも、警報の内容が増援要請っぽい。


 これは俺たちが進む先で警備が手薄になる可能性があって非常にありがたい。



「何にせよ上層に増員がかかるのはありがたい。下層の警備が手薄なうちに一気に進むぞ」


 ミックは研究室の扉を開け、外の様子を窺おうと左右を確認する。


 そして問題ないことを確認すると通路へと出て行く。



「ああ、次は十四階だったな」


 俺は軽く相づちを打ちながらミックの後に続いて研究室を出る。


「増援がかかっているせいで多少走っても目立たん。ここからは急ぐぞ」

「了解だ」


 頷きあったミックと俺は一路地下十四階にある管制室を目指して駆け出した。



 ◆



 睨み合いを続けたドンナとダーランガッタだったが、ついに張り詰めた空気が弾け、二人同時に攻撃を仕掛けようと飛び出す。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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