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7 設計図を手に入れろ 一



 ◆



 ――メイディアナとエルザが脱出を試みる数刻前――


 昔取った杵柄よろしくギャング時代のツテを頼りに情報屋を見つけたドンナは攫われたラクル達の追跡に成功していた。



 それでも行方を捜しながら追っていたこちらの出遅れは日数という形で着実に現れる。


 それは焦燥となってドンナの精神に負担をかけた。


 結局、追跡相手の移動中に追いつくことは叶わず、向こうの潜伏先まで移動を許す形となってしまった。


 しかし、そこが終着点であることに変わりなく、これ以上逃走に煩わされることもない。後は、行って取り返すだけ。ただただ、それだけのことである。


 複雑な事がなくなり、物事が単純化したことにドンナは喜び、全ての目的が待ち構えているであろう施設へと足を踏み入れた。


 だが、中はそんなドンナの行く手を遮るように大量の人で溢れかえっていたのだった。


 一歩進むことも困難なほどによく分からない連中に包囲され諦める。


 穏便に事を進めることを諦める。


 ――全部ぶっ壊す。


 目に付くもの片っ端からぶっ潰す。


 その方が自分らしいし、煩わしさとも無縁だ。


 そう切り替えてからの行動は早かった。さっさと錠剤をかみ砕き、力を振るう。


 三錠も飲めば命の危険に関わると聞いていたが関係ない。


 危険になろうがこの薬を作ったラクルに会えばなんとかなるだろうという打算もあった。


 力を振るい、視界に入る者を順に片付けていく。



 際限なく現れようがお構いなしにぶっ潰す。



 溢れる力に身を任せ、やりたいようにやりきる。


 それをやって通せる力が今はあるし、そんな力を存分に振るえることにも絶え間ない悦びを感じる。



 暴れに暴れまわる。たまらない気分だった。


「どうした! それで終わりか! もっと抵抗して見せろ!」


 誰彼構わず千切っては投げ千切っては投げと視界に入るもの全てを破壊していくドンナ。


 いくら兵士の増援が絶えること無く現れようとも物の数に入らず、虫を踏み潰すかのような蹂躙は終わる事がない。


 辺りに足の踏み場も無く死体が散乱し溢れ出る血液により鉄臭さが充満する中、ドンナの前に一人の男がどこからともなく現れた。



 今までの者とは明らかに違う、隙を感じさせない佇まいにドンナは一瞬身構える。


 しかし、身構えたのも束の間、男の姿をまじまじと見た後、構えを解く。


「なになに〜? どうしたの?」


 男は凄惨な現場には似つかわしくない程爽やかで間の抜けた声を出す。


 ドンナの眼前に現れたのは金髪と碧眼が良く似合う爽やかな雰囲気の青年だった。



 むくつけき男共しかいないこんな場には似つかわしくない、まるでお茶会の帰りと言った方がしっくりくるようなシンプルながらも高級感が漂う服を身にまとった青年である。


 腰には申し訳程度に片手剣を差していたが、そんな服装にはミスマッチとしか言いようが無い。



 場違いな空気を纏った青年が現れたせいか、その場の空気が一瞬弛緩し、一拍の間が空く。


「誰だ、テメエ」


 こちらへ向かってきた兵士の首を手刀で複数撥ね終えたドンナが青年を見据える。


「僕の名前はダーランガッタ。偉く暴れまわってくれたみたいだね?」


 青年の名はダーランガッタというらしかった。


 ダーランガッタはたった一人で大量殺戮を行うドンナを前にしても臆さず、穏やかな表情を崩さない。


「仕掛けてきたのはそっちが先だ。……だが、今はそんな事はどうだっていい。どうせ邪魔なんだ、全員潰してからゆっくりと捜させてもらうぜ」


「悪いけどそんな暴挙を許すわけにはいかないなぁ」


 ドンナの言葉にダーランガッタは見惚れるほど優雅な動作で剣を抜く。


 舞台俳優を思わせるほど端々にまで美を感じさせる動きは見る者の心を奪うこと請け合いだったが、残念な事にこの場には芸術に疎い者しかいなかった。



「許さなけりゃどうするっていうんだ? あ?」


 相手の男を品定めするような視線を送りながら挑発するドンナ。


「聞かなくても君ならよく分かってるだろ? まあ、女の人相手だし、手加減はするけどね」


「あん、手加減だぁ?」


 ドンナとダーランガッタが睨みあう中、新手の兵士が止め処なく駆けつけ、再び分厚い包囲が完成されていく。


 今までに積み上げた死体の二倍や三倍ではおさまらないほどの人数が一気に押し寄せ、ドンナの行く手を阻む防壁と化す。


「命までは取らないから安心して。でも、ここまでしたんだから、おしおきは受けてもらうよ?」


 ゆったりと自然な動作で剣を構えたダーランガッタはドンナを見据えて一歩踏み出す。


「舐めたことほざきやがってッ! ぶっ殺す!」


 どこまでも人を下に見たダーランガッタの態度に激高するドンナ。


 ここまで勿体つけた行動をとったわけだし見かけによらず実力はあるのか、といぶかしみの視線をダーランガッタに向けつつドンナは一歩踏み出す。


「セイッ!」

「ラアアアアッ!!」


 どちらからというわけではなく、ほぼ同時。


 ダーランガッタとドンナが地を蹴る。



 戦闘開始だ。



 ◆



「ここか」


 無事研究棟に辿り着いた俺たちの目の前にある扉には、第一研究室と書かれたプレートがついていた。ミックの説明ではこの部屋の中にSHBの設計図があるそうだ。



 ミックとの合流後、研究棟がある地下八階まではとてもスムーズに来ることができた。


 いけるだろと豪語するミックのお陰でエレベーターを利用するという暴挙に出たせいもあり、ものの数秒でのご到着である。


 小心者の俺の心情としては階段を利用して慎重に進みたいところだったが、現状ではエレベーターの方が逆に安全かもしれない。


 階段を使えばそれだけ移動に時間がかかるし、階層毎に人の目を気にする必要もある。だが、エレベーターは乗ってしまえばそれらの問題が一気に解消される。本来なら身動きが取れない状態が続くので忌避するべき選択だろうが、俺たち以外の侵入者に注意が向いている今なら短い時間で移動できる手段を選んだ方が見つかりにくいはずだ。


 そして、そう考えたであろうミックの思惑通りの結果となって無事研究棟に到着できた、というわけである。


 やはり俺たち以外に侵入者がいるせいか、警備が入口附近に集中し、深部が手薄になっている気がする。


 とにかくこの第一研究室で設計図がうまく手に入れば、SHBの誤爆を回避しつつ機能を停止させる方法が分かる。



 はやる気持ちに負けて研究棟をスルーし、SHBがある場所まで辿り着けても構造が分からないまま適当に解体して誤爆させたら意味が無い。


 そういうわけで、自分自身を含む辺り一帯を灰に変えたくない俺にとってここにある設計図は必須のアイテムなのである。



「やるぞ?」


 ドアノブに手をかけたミックがこちらを振り向きながら確認を取ってくる。


「ああ、いつでもいいぞ」


 複数の鉄杭を握りこんで準備を終えた俺は頷く。



 俺の首肯を確認したミックは勢いよく扉を開け、室内へと飛び込んだ。


 扉を思い切り開いたため激しい音が鳴り、室内の視線が一斉に入口の俺たちへと集中する。


 そんな視線の持ち主は四名。


 全員白衣を着用しており、戦闘が得意そうには見えない。


「よっ」


 こちらを驚いた様子で見つめる無防備な頭部目がけて俺は鉄杭を【手裏剣術】を発動して連続投擲。室内の一番奥にいた二人の頭部に鉄杭が突き刺さる。


「シュッ、シュッ!」


 室内へと飛び込んだミックが距離の近い者へ急接近し、鋭いブレスと共に拳を振るう。


 目にも留まらぬ速度で繰り出された拳は側にいた二人の男の胸部を破壊し、骨の砕ける鈍い音が鳴り響く。胸を砕かれた二人はミックの拳に押されるようにして仰向けに倒れて動かなくなる。



 俺とミックでそれぞれ二人ずつ倒し、あっという間に制圧完了となった。



「ふぅ。で、次は設計図探しだな……」


 部屋にいた者を始末し、俺は静かに扉を閉めながら呟く。


 この部屋に来た目的はSHBの設計図を入手する事であり、これからが本番。



 なんとか簡単に見つからないものかと周囲を見渡していると、ミックが部屋の奥にあった貴重品が入っていそうな棚を破壊し、中から何やら取り出すとこちらへ向けてくる。


「これだ」


 そう言って筒状の収納ケースを俺の方に見せてくれる。


「お、早いね。……ん、これって工程表か?」


 探すのに手間取るかと思ったが管理が行き届いているせいか、逆にとても容易く設計図の発見に成功してしまう。そして設計図を見つけたミックの側へ行こうと近づいていく途中で壁にデカデカと張り出された工程表のようなものが目に入る。ちょっと気になるが、今は設計図の方が先だろう。


「ちょっと調べるから待ってろ」


 ミックは手近にあった机に近づくと上にあった物を強引に床に押し落とし、収納ケースから取り出した設計図を机上に展開すると、じっくりと調べはじめた。


「……なんだこりゃ」


 ミックの背後から設計図を覗き見た俺はSHBの予想外の構造につい声が漏れてしまう。



 俺はまだSHBの実物を見たことがなかった。そのため、勝手にデッカいミサイルを想像していたのだ。事実、設計図に描かれた外形はミサイルそのものだった。


 だが、その内部構造は全然違っていたのだ。



 といっても俺はミサイルの構造など詳しく知っているわけではない。そんな俺が見ても異質と感じるほどにはSHBの内部はおかしなものとなっていた。設計図に描かれた内部構造は曲がりくねったパイプを無理やりミサイルの形状に押し込んだかのような印象を与える代物だったのだ。


 SHBの内部はまるで迷路のようになっており、とても効率などを考慮された構造には見えない。いや、魔法や魔力を介する場合はこんな迷路のような構造をしている方が効率が良いのかもしれないが……。全く未知の世界だ。


 などと俺がSHBの構造を不思議がっているとミックが口を開く。


「これだ。中央にある炉。こいつを直接剥離するか、中央表面に取り付けられた安全装置を起動させれば、どんな衝撃を受けても作動しなくなる。まあ、爆破を止められるってわけだな」


 ミックが指し示した部分には球体のメカが埋まっているようだった。


 安全装置というのは開閉可能な外壁部分に取り付けられている装置で、手順を踏んだ操作を行うことで炉と呼ばれているものの機能を停止させることができるらしい。


「やっぱり完全に使用できなくするなら、炉を抜き出すべきだよな」


 起動を阻止するだけなら炉そのものを取り出すより、安全装置を作動させた方が楽そうではある。だが、その状態では再度起動すれば発射可能になってしまうわけだし、完全に利用できないようにするためには炉を抜き出して破壊しないとまずそうだ。


「だな。が、問題もある」

「炉がデリケートで下手にいじると爆発するとかか?」



 爆発物の中枢だし、荒っぽく引き千切ったりしたらその場でドカンといきそうではある。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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